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第4章〜転生王子は国外へ

船に乗って

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  学校のあるステア王国へ行くにはだいたい2週間弱かかる。
 まずグラント大陸へ船で3日。そこから馬車で約10日。天候によりそれも延びることになる。
 
 俺は甲板の船尾から、小さくなっていくグレスハート城を見つめていた。
 昨日壮行会開いてくれて嬉しかったなぁ。父さんの計らいで身分問わずのパーティーだったから、メイドや兵の皆まで集まってくれた。
 賑やかだったことを思い出して自然と笑顔になる。だがふいに、にじんでくる涙を感じて慌てて拭った。

 何歳であっても別れは寂しい。特に自分を大事に思ってくれてる人々との別れだとなおさらだ。
 選択したのは自分で、それは後悔してないけど。今だけは別れを惜しみたかった。
 
 「フィル様。海風は冷えますよ。」
 城も見えなくなってきた頃、カイルがストールを差し出した。
 「ありがと。」
 暖かな風なのだが、ずっと当たっていたせいか何だか冷えてきた。
 俺は受け取ったそれを首元に巻きつける。それからカイルを見上げた。
 「これからは同級生になるんだし、敬語やめない?」
 「嫌です。」
 すぐさま却下された。
 
 俺は困ったように眉を下げる。
 「だってこれから俺平民として生活するんだよ?おかしいじゃない。年上に敬語使われてたら。」
 「フィル様がどんな身分でも関係ないです。フィル様は命の恩人なので。」
 真っ直ぐ見つめてくる瞳に曇りは一切なかった。

 そうですか……。頑固者め。

 【フィルーっ。】
 声をかけられて上を見上げると、帆桁ほげたにヒスイが座っていた。 
 なーっ!誰かに見られたらどうするんだ。
 消えて消えてとジェスチャーする。
 ヒスイはスッと姿を消すと、すぐ俺の近くで声が聞こえた。
 【そろそろ帆に風を送りましょうか?】
 「怪しまれない程度にお願い。」
 小さな声でつぶやく。
 すると風がだんだんと強くなってきた。帆が風をはらむと、船は緩やかにスピードを上げていく。
 これならグラント大陸の到着も早いだろう。
 
 「一度部屋に戻られたらいかがですか?行程はまだ長いですから。」
 「そうだね。」
 風が強くなったからか、いっそう肌寒く感じる。ストールだけじゃ心もとないかもな。一度戻るか。
 「俺は船長に行程を確認してから参ります。」
 「わかった。よろしくね。」

 カイルと別れて甲板の階段を降りていく。そこは薄暗い、狭くて長い廊下になっていた。廊下の両隣が客室で、全部で40室ある。
 扉を開けるとスペースは2畳程。ベッドが二段になってる2人部屋だ。
 今は子供だからいいけど、大人になったらかなり窮屈そうだな。まぁ、荷物置きのスペースあるだけましか。
 
 部屋の小さな窓には外を見ているコクヨウがいた。デュアラント大陸から出たことがないと言っていたから、船旅が珍しいんだろう。ふさふさのしっぽを機嫌良さそうに振っている。

 【おかえりなさいです。】
 ホタルが上のベッドから転がりながら俺に飛びついて来た。慌ててホタルをキャッチすると、ひと撫でして床に置いた。
 「ただいま。部屋の中はいいけど、船の甲板では転がったらダメだからね。周りは海だから落ちたら大変だよ。」
 【はいです!】

 元気に返事するホタルに、下のベッドに座ってたテンガが立ち上がった。
 【大丈夫っすよ。ホタル先輩が海に落ちたら、自分が空間移動で出すっす!】
 胸を張って言うと、ホタルは嬉しそうにナウと鳴いた。
 【よろしくです!】
 【お任せあれっす!】
 2匹は顔を見合わせて名案とばかりに喜んでいるが……。
 いや、普通考えて無理だろう。

 【その袋からホタルが出るか?】
 チラッと振り返ったコクヨウに指摘されて、2匹の動きが止まる。そしてそのまま俺の顔を見上げてきたので、コックリと頷いてみせた。
 うん、その小さな袋の入口じゃ無理だわな。

 【確かに無理っす!困ったっす!!】
 テンガは頭を抱え、ホタルはアワアワと震える。
 【僕溺れ死んじゃうですっ!】
 「あのね、だから落ちないように気をつけるんだってば。」
 呆れたように言ってホタルを捕まえる。
 【あ、そっかです。】
 【なーんだビックリしたっす。】
 テンガとホタルはホッと息を吐く。
 
 勝手に大騒ぎしたのは2匹だろう。

 そんな時、突然扉が開いた。
 あまりに突然だったので、思わずビクッとなってしまう。
 ホタルを抱きしめたまま振り返えると、カイルが仁王立ちしていた。
 「フィル様。」
 「カイルか…びっくりした……。」
 カイルを確認して息を吐くと、何だか様子がいつもと違う。見るとカイルの手に茶色の布が掴まれていた。

 「はなっ、放してっ!」
 声に合わせて布が動く。俺がおそるおそる廊下を覗き込むと、ロングコートを着た少年が床でジタバタしていた。
 カイルにコートの裾を掴まれ、逃げようにも逃げられないようだ。

 「どうしたの?」
 俺がポカンとして少年とカイルを交互に見る。
 カイルはチラリと少年を見て言った。
 「くせ者です。」
 「くせ者ぉっ?!」
 ビックリして声がひっくり返る。驚いて少年を見ると、ジタバタし疲れたようだ。床に這いつくばったまま荒い息を繰り返している。

 「この者が部屋を覗いていたのです。声をかけたら逃げようとしたので捕らえました。」
 カイルの言葉に、少年は起き上がってこちらを振り返った。
 歳は俺と同じか、少し幼いだろうか?俺よりも小柄だ。
 少年はジタバタでずれた大きめの丸メガネをかけ直す。それからメガネにかかった赤毛の前髪を横にはらった。

 「ぼ、僕は、くせ者ではないです……。」
 それだけは訂正したいと、しっかりとした口調で言った。
 「黒い獣が廊下にいて、そしたらこの部屋に入っていって……。貴方も入って行ったけど、伝承の獣なのかどうか確認したくて……。」
 俺とカイルを上目遣いで伺いながら話す。
 
 「えっ!廊下で見かけたっ?」
 バッと部屋の中を振り返ると、コクヨウはフイっと顔を背けた。
 ……勝手に外に出たな。
 俺が半眼でコクヨウを見ていると、テンガが慌ててやって来る。
 【兄貴は部屋から出てないっす!】
 「本当に?」
 俺が聞くと、テンガは頷いて胸をはった。
 【本当っす!扉が開いてたら、廊下も部屋の一部なんす!】

 廊下出てんじゃん……。
 コクヨウにそう言って言いくるめられたのか、テンガは自信満々だ。
 
 チラリと少年を見て唸る。
 見られてしまったなら、今更隠してもしょうがないか。
 「狭いけど部屋にどうぞ。」
 少年に微笑んで、部屋に入るよう促す。少年はおずおずと部屋に足を踏み入れた。

 カイルが後手で扉を閉めると、少年は ゴクリと喉を鳴らす。さっきのことがあったからか、カイルのこと怖がってるなぁ。思わず苦笑する。
 「大丈夫だから、名前教えてよ。」
 「な、名前はトーマ・ボリス。家はクーベル国で金物職やってます。」
 緊張を取るためか、メガネの柄を少し持ち上げる。
 確かに丸メガネのふちはとても細く、シンプルなのにどこかセンスが良かった。
 さすがクーベル国の職人だな。

 「歳は7歳で、ステア王立学校に向かうとこです。」
 「同じ学校っ!?あれ、クーベル国からもグラント大陸直接行けるよね?」
 山を越えてこっち来るなんて、遠回りになるのに何でわざわざ?
 
 「ここには伝承の獣が封印されている伝説の土地なので。観光してから向かおうと思いまして。」
 そう言うと窓辺にいるコクヨウを見る。少年のブラウンの瞳は、キラキラと輝いていた。
 「ディアロスに会えるなんて感動です。」




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楽しみに思っていただけて光栄です。
ノリよく早く出来上がる時と、全く出来なくて遅れる時があります。
召喚獣の会話の部分多いと……早いです。
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