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第4章〜転生王子は国外へ

トーマ少年

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 「本当に信じられない。まさか本当に存在するなんて。感動ですっ!」
 体を上下左右動かしながら、あらゆる方向からコクヨウを見る。コクヨウは居心地悪そうに立ち上がると、ベッドに座っている俺の膝に飛び乗ってきた。

 まいったなぁ。
 俺はコクヨウを抱っこしながら、うーんと唸る。
 まさか同じ学校の子にコクヨウを見られると思わなかった。
 頼んだら黙っていてくれないかなぁ?

 そんな俺の気持ちを知らず、トーマは興奮気味に顔を紅潮させる。
 「親に見せたら驚くだろうなぁ。親には何百年も前の話だから、大げさに言っているだけで実際にはいないって言われて。でもグレスハート王国では根強く信じられているでしょ?絶対存在すると信じてたんだぁ。」
 そんなトーマに俺は手を小さく挙げた。
 「あのぉ。皆には言わないで欲しいんだけど。騒ぎになると困ると言うか……。」
 「 えー、何で?」
 トーマは心底わからないと言うように首を傾げる。
 何でって騒がれたら俺の学校生活が、初っ端からポシャるからだよ。ディアロス闇の王を召喚獣にしてる子供に友達出来ると思うか?

 「それは……。」
 扉に寄りかかっていたカイルが、急にボソリとつぶやいた。そしてスッと俺の脇に立つ。どうしたのだろうと見上げると…。
 「これはディアロスではないからだ。」
 きっぱりと言いきった。そして真顔でコクヨウを指さす。
 「ディアロスみたいにしたらカッコイイと思って、色を染めただけだ。だから本物と勘違いされて騒がれたら困る。」

 えぇぇっ!まさかそらっとぼける気か?
 驚いてカイルをよく見ると、額にじんわりと汗がにじんでいた。コクヨウをさす指も、微妙にプルプル震えている。

 む……無理してるーっ!明らかに無理してるっ!!カイル嘘つきなれていないからっ。あぁぁ、ごめん!ごめんよ嘘つかせて。

 その言葉を聞いてトーマは眉を下げる。
 「えぇぇ。嘘でしょう?染料で染めてこんなに綺麗な黒に染まるの?何で染めたら、こんなに綺麗に染まるの?」
 トーマの矢継ぎ早の質問にカイルの顔がピクピクと引きつった。
 「秘密だ。とある所からとあるツテによって入手したとある染料だ。人に話すと信用を失って手に入らなくなってしまうから出どころは言えない。」

 …………無茶苦茶だ。とあるとあるって……。いくら嘘にしたって、もうちょい信憑性のある嘘つけないもんか。
 いや、率先して嘘をついてくれと言うわけじゃないんだけど。これで信じてくれって言うのは無理があるだろう。
 むしろもう無理しないでと、リングにタオルを投げて試合終わらせてあげたい。
 だが、そうなると俺を庇ってくれたカイルの気持ちが無駄になるし……。

 俺はチラリとトーマの反応を見る。彼は落胆の表情で口を尖らした。
 「そうかぁ。やっぱりディアロスじゃないのか。」
 そう言ってしょぼんと肩を落とす。
 え!信じたの?あの嘘で信じたの?信じてくれて助かったけど、そんなに容易く信じちゃうの?
 カイルは青ざめながら、トーマに悟られないようにホッと息を吐く。
 
 「じゃあ、灰色狼の子供かなぁ?でもしっぽが二本だからオーウルフかなぁ?でもそれにしてはしっぽ長いなぁ。」
 ディアロスではないと言われ、トーマは腕を組んでううーんと唸る。
 「ディアロスだと思ったんだけどなぁ。」
 残念そうに大きなため息を吐いた。
 純粋なトーマ少年にズキズキと良心が痛む。
 
 「それにしても、このコクヨウをよくディアロスだと思ったね?伝承の獣に見えないと思うんだけど。」
 子狼のコクヨウは確かに黒い毛並みだが、手足の短いもふもふボディ。先ほどプリンを食べたせいか、お腹がぽんぽんになっている可愛い子狼姿だ。
 ステラにもバラす前に気付かれたし、そんなわかるものなのかな?俺には可愛い子狼なんだけど。

 「その子、コクヨウって言うんだ?もしかして君の召喚獣?」
 トーマは首を傾げてにこにことほほ笑む。
 「僕も小さいのは引っかかったんだ。小さくなるなんて伝承にはなかったから。だから確認しようと思って部屋覗いてたんだけど。まさか染めてるなんてなぁ。騙されちゃったよ。」
 頭に手をやると、参ったと苦笑する。
 ごめんっ!継続中です。

 「動物に詳しいんだね。」
 「僕、動物好きなんだ。だからその流れでディアロスの伝承とかも調べてて。それでずっとグレスハート王国にも来たいと思ってたんだけど……。」
 肩をすくめて口を尖らす。 
 「クーベルからだと山越えがあるから、子供はダメだって言われて来たことがなかったんだ。」
 「それで今回学校行くルートを変えて、こちら側から行く事にしたの?」
 俺が首を傾げると、嬉しそうに頷いた。
 「うん。お父さんに学校に受かったらいいって言われてね。学校向かうついでに観光がてら連れてきて貰ったんだ。」
 あぁ、それでこの船にクーベル国の同じ学校の生徒が乗っていたのか。
 
 グレスハート王国からステア王立学校に行く生徒は高等部に何人かいるが、その子たちはひとつ前の船で出てしまった。だから同じ学校の子はいないと思ってたんだけど……。
 まさか観光のために遠回りしてくると思わなかったな。

 「7歳ってことは、君は初等部?」
 俺の問いにトーマは首を振った。
 「中等部。さっきのお父さんとの約束が中等部だったから。無理だと思ったのかもしれないけど、動物調べるので本はたくさん読んでるからね。初級くらいは楽勝だよ。」
 メガネをクイッとあげて、胸を張る。
 「そうなんだ?僕もカイルも中等部なんだ。よろしくね。」
 「本当?嬉しいな。よろしく!」
 ブンブンと握手を交わす。
 
 すると、ふいにその握手の手が止まった。一点を見つめて固まっている。
 「どうしたの?」
 トーマの見ている先を振り返ると、テンガが俺の背後から張り込みの刑事の様に見ていた。
 「……何してんのテンガ。」
 【初めて会う奴は観察が基本っす!さっき兄貴をあんなに観察してたっすからから。コイツ怪しいっす。】
 疑わしいとばかりに隠れてトーマを見ている。

 もともと警戒心が強い動物だからなぁ。
 袋鼠は他の動物と違って、捕らえてから召喚獣の契約をすることが多い。警戒心が強く逃げ足が速いからだ。捕らえたからと言って、心を許して召喚獣になるとは限らないんだけど。
 特殊能力ゆえか躍起になって契約したがる者も多く、それが元で減少の一途をたどっている。

 「ディアロスに気を取られてて気づかなかったけど……それ袋鼠?」
 「うん、テンガっていうんだ。」
 「袋鼠を召喚獣にしてるのっ?!」
 トーマは驚愕するや、後ろによろめいた。
 「デュアラント大陸の固有種で希少種の袋鼠、僕初めて見たっ!!しかも召喚獣にしてるなんてっ!すごいよ!」
 先ほどまでコクヨウを見て目をキラキラさせていたのに、今度はテンガを見てキラキラしている。
 それを見てコクヨウはムッとしたような声を出した。
 【この者は我の信者だったのではなかったのか。】
 そんなコクヨウを生暖かく見つめる。
 仕方ないよ。コクヨウは今や黒く染めた子狼だからね……。

 【兄貴、申し訳ないっす!】
 テンガは俺の脇辺りからぴょこりと顔を出してコクヨウに頭を下げた。
 【こうなれば新たな地で、我の脅威を見せつけてやる。】
 コクヨウはチラリとテンガを見ると、ボソリと物騒なことをつぶやいている。  
 ……聞こえてますよ。

 「あー!そっちの毛玉猫も目の色が違う突然変異じゃないかっ!何十万匹に1匹いるかいないかなんだよ?」
 トーマに突然指をさされてホタルはビクッとなる。
 ビックリして怖かったのか、ホタルは俺の後ろに隠れた。俺の後ろはぎゅうぎゅう詰めだ。
 「そうなんだ?」
 「知らないの?瞳の色が違うと能力を2つ持ってたりするんだよ。」
 あー確か前、冷やすことも出来るとホタルが言ってたっけ。まだ湯たんぽしか使ったことなかったなぁ。
 
 「君、何者なの?」
 トーマは興奮気味に俺に詰め寄る。顔がますます紅潮していた。
 「とりあえず落ち着け。」
 カイルはトーマのコートの襟首を掴んで俺と引き離した。それからトーマに水を差し出す。
 トーマはお礼を言うと、それをコッコッコッと音を立てて飲み干した。
 「学校生活楽しみになってきたなぁ。」
 トーマは俺の召喚獣を眺めながらウキウキと嬉しそうにほほ笑んだ。


 俺は……ちょっとだけ不安になってきました。



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 ご指摘がありました箇所発見して訂正しました。間違え探しみたいだなぁと思いました。
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