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第4章〜転生王子は国外へ

港町ハレス

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 船を降りた瞬間、叩きつけるような強い風が吹きつけてきた。寒さにグッと身を縮める。
 「寒っ!!」
 グラント大陸はデュアラント大陸から見て北の位置にある。年中温暖なグレスハート王国と違って、春夏秋冬の四季がある大陸だ。ちなみに今は秋の半ばだと言う。
 転生してからずっとグレスハート王国にいたせいか、寒さが身にこたえる。
 船を降りて移動するからと、召喚獣たちを控えさせてしまったのが悔やまれた。

 ホタル出しちゃダメかなぁ。
 そう思ったところで、すぐ考えを改める。
 いや、ダメだ。この強風じゃホタルが飛んで転がってっちゃうよ。 
 風で飛んでいくボールほど、追いつけないものはない。
 仕方なく鞄を風除けにして、ロングコートをかき抱く。
 
 グラント大陸の入り口で有名な港町ハレスは、カレニア国にある。
 デュアラント大陸やルワインド大陸の生徒は、だいたいここからステア王国に馬車で向かうことが多かった。
 船で2日くらいか……。ヒスイのおかげで1日早く着いたな。

 「フィル様、あちらの広場に馬車が停まっているようですよ。」
 カイルが先にある広場を指さした。
 「それともお疲れでしたら宿をとりますが。」
 生徒の中にはハレスで1泊して、体調整えてから馬車に乗る子もいるそうだ。
 でも船で充分寝たからなぁ。
 「ん〜このまま馬車移動しようかな。」
 広場に視線をやりながらそう言った時だった。

 「フィルーっ!」
 振り向くとトーマが手を振っていた。隣にいるのはトーマの父親だろうか。メガネはかけていなかったが、赤毛の髪と雰囲気はなんだかよく似ていた。俺が会釈すると、にこやかに笑って会釈を返してくれる。
 トーマが鞄を半ば引きずるようにしてこちらにやって来た。自分の体が入ってしまいそうな大きな革の鞄2つだ。相当重いのか、俺の前に来た頃にはハフハフと息があがっていた。
 「フィルはハレスに泊まってからステア王国に行くの?」
 「いや、まだ明るいしこのまま向かおうかなと思ってるよ。」
 するとトーマはホッと息を吐いて笑った。
 「良かった。僕もそうしようと思ってたんだ。じゃあ、一緒の乗り合い馬車で行かない?どうせなら知ってる人とがいいなと思って。」

 貴族たちは個人で雇った馬車があり、1人でそれに乗っていくようだが、平民は乗り合い馬車が殆どだ。乗った人数分で割り勘になる為、皆活用していた。
 確かにこれから馬車で10日も一緒なんだから、なるべく知り合いの方がいいよな。
 俺は頷いて微笑んだ。
 「いいよ。」

 「じゃあ、まずは広場に行こうか。最低でも2〜3日分の食料は買わなきゃ。」
 トーマは鞄を引きずりながら歩き出す。
 「あれ、お父さんはいいの?」
 もしこのまま馬車で行くなら、お別れになってしまう。
 トーマの父親を振り返ると、今は船長や船員と話し合っていた。
 「お父さんは仕事でいろいろ回るからここでお別れなんだ。さっき挨拶したから平気。」
 そう言って再び鞄を引きずり出す。7歳で親元と離れるなんて寂しいかと思うのだが、トーマはケロリとしていた。
 職人の家は自立も早いのだろうか?俺なんか国を出てすぐ寂しくなっちゃってたよ……。知らずと甘えたになってたのかな?

 俺はそんな気持ちを消すように、大きめの声でトーマを呼び止めた。
 「トーマ、ちょっと待って。」
 トーマの荷物を俺の鞄の近くまで持ってくる。
 重っっ!何が入ってんだこの鞄。こんなの引きずってたら底が破けるぞ。
 カイルに手伝ってもらって、自分とカイルの鞄の上にトーマの荷物を乗っけた。
 
 その行動にトーマは驚きで目を丸くする。
 「鞄乗っけたら持てないよ?」
 「大丈夫。持たないから。」
 俺は笑って鞄を押し始めた。俺とカイルの鞄は特注品である。下にタイヤが付いるキャリーケースなのだ。
 「何これっ!すごいね!!どこで手に入れたの?」
 「グレスハート王国で売り出したばかりの旅行鞄だ。旅行者に人気で品薄状態だがな。」
 カイルの説明に俺はそっとため息を吐く。

 まさかここまでバカ売れすると思わなかったよ。しかも生産が間に合わないほどに。
 こちらの世界には耐久性の高いゴムがないので、弾力性のあるノビトカゲの皮をタイヤに使用している。しかも脱皮した皮が薄さ的にちょうどいい。そのせいか量産できないのが難点だった。今はノビトカゲの脱皮待ちだ。
 もともと売り出すつもりがなかったのになぁ。旅行の予定もないのにレイラが欲しいと言い出したのだ。その上、無駄に街中を歩くものだから人気になってしまった。
 「やっぱり外国には便利なものがあるんだね。」 
 俺の心中を知らず、トーマはひとしきり感心する。

 広場には馬車が何十台も停まっていた。奥の方では馬が休める馬小屋もある。
 そして広場の一角で小さな屋台や行商のお店が並んでいた。覗いてみると比較的長距離移動に持っていきやすい食品が多いようだ。
 テンガの空間移動があるとは言え、あまり大きいものは出せないもんな。ただでさえコクヨウのプリンを毎日出させちゃっているから、その上人数分の食事を出せというのもちょっと酷だ。
 途中宿泊等で町にも寄ると言うが、何があるかはわからないから何日分かは用意が必要だろう。
 水や日持ちしやすそうなパンを買いながらキョロキョロと屋台や出店を見る。

 グレスハート王国の干物が結構輸入されてるな。干し魚、干し肉、干し芋、ドライフルーツ、干しキノコ。ありとあらゆるものを干したおかげで遠くの国にも輸入出来るようになった。
 だが、値段を見て思わず声が出る。
 「たっっ!!」
 自分でも予想以上の大きい声が出て慌てて口をつぐむ。
 高い。めっちゃ値段が高い。グレスハート王国の3倍価格だ。ぼったくってる感じには思えないけど、それにしても高い。

 良かった〜鞄に干し肉とか干し芋とかドライフルーツ持ってきといて。
 移動費も含まれてなのだろうが、港町ハレスでこの値段じゃ奥地だとどんだけの値段するんだよ。

 すると、俺があんまりに見るので興味あると思ったのか、おばさんがにこやかに話しかけてきた。
 「いらっしゃい。グレスハート王国から仕入れたばかりだよ。」
 「わぁ、美味しそう。有名なんだよね。」
 おばさんの声にトーマもやってきて覗き込むように商品を眺める。
 確かに美味しいが値段を見ちゃうと買う気になれない。トーマには俺の干し肉を分けてあげよう。
 そう思って店を後にしようと決めた時だった。
 「おススメは『日干し王子のお気に入りスペシャル』だよ。」
 にこにこと話しかけてくるおばさんに、断りかけた手が止まる。
 「今…なんて言いました?」
 「日干し王子のお気に入りスペシャルのことかい?」
 「日干し王子?!」
 驚愕のあまりおばさんに詰め寄る。
 「日干し王子って誰のことですかっ?」
 何その変な名前っ!もしかして俺のことじゃないよね?
 おばさんは何でそんなこと聞くのかと首をちょっと傾げる。
 「グレスハート王国の末の王子様のことだよ。」

 俺のことだったぁーっっ!!!
 いつの間にそんな名前で呼ばれてたのっ?
 
 「王子の考える干物は出すもの出すもの大人気でね。グレスハート王国で干物屋開いた町の皆は、いい生活できるのは王子様様だって言うんだよ。それで干物屋の皆は親しみを込めて『日干し王子』って呼んでるんだってさ。」
 マジか…。愛称を付けられるのは好かれている証拠だけど…日干し王子って。
 俺ががっくり肩を落とすと、カイルがそっとその肩に手を置いた。
 
 「えっと…、干物王子よりいいじゃないですか。」
 
 カイル…それは慰めているつもりなの?
 


※感想・お気に入り登録ありがとうございます!
 少しでも楽しんでいただけたらなと思います。
 今回は召喚獣の出番がありませんで…申し訳ないです。
 次回は出番があると思います。お楽しみに。

 
 
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