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第4章〜転生王子は国外へ

馬車探し

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 「とりあえず必要なものはだいたい買えたから、馬車を探そうか。」
 俺たちは鞄の上に買ったものを積み重ね、崩れないようにゆっくり押し歩く。
 衝撃の事実を知ってかなりショックだけど、すでにあだ名付けられた後じゃ今更どうしようもない。
 しかも俺のあだ名がブランドみたいになって売り上げに貢献してるんじゃ、余計に差し止めにくい。
 ああ、日干し王子以外のあだ名ってどうやったらつくものかな?
 遠い目をしながら考える。

 馬車の停車場はとても賑やかだった。多分俺だけ相当に。人の声と馬たちの声が入り混じっているからだ。
 御者は馬と召喚獣の契約を交わしているのだろう。大抵はすぐ出られるよう馬の手入れをしながら客を待ったりしているが、控えさせているのか客車しかない馬車もあった。

 「こんなに馬車があると、どの馬車を選んでいいのか迷うね。」
 トーマは困ったように並んでいる馬車を見る。
 数にして50台くらい。馬が1頭のものもあれば2頭もいる。客車に天蓋付きもあれば、天蓋のないものもあった。

 「ステア王国は距離が遠いですし荷物もありますから、天蓋付きの4人乗りくらいの客車で、2頭の馬車がちょうどいいと思います。」
 カイルの説明に俺とトーマが頷き、該当するような馬車を探し始めた。
  
 馬車選びは慎重にしなければいけない。中には怪しい馬車もあると聞く。
 だけど、これだけあるとそれを見極めるのも時間がかかりそうだ。
 貴族たちが専用の馬車を使うのも、その辺りの手間を省いてのことだろう。
 王族や貴族はその辺りが慎重だし、自分の価値をよくわかっている。
 ぼったくられたり荷物を盗まれるだけならいいが、誘拐されたりしたら洒落にならない。
 
 俺たちが馬車を見ていると、近くにいた御者が声をかけてきた。
 「荷物から察するに、遠乗りの馬車をお探しかい?お安くしときますよ。どこまで行くんです?」
 「ステア王国まで。」
 「じゃあ、うちはお得ですよ。ステア王国までの相場が5000ダイルのところ、うちは3500ダイルだからね。」
 おじさんがにこやかに笑う。

 日本円で5万円が3万5千円?安すぎやしないか。めっちゃ怪しい。
 俺とカイルの眉が訝しげに寄せられた。しかし反対にトーマは顔をぱぁっと明るくさせる。
 「3500ダイル?安いね!」
 あぁぁ、やっぱ騙されやすいっ!騙されやすいよこの子っ!訪問販売の布団とか買っちゃうタイプだよ。この世界クーリングオフないんだからな!

 「それに俺の馬車は早いですよ〜。あっという間に着きます!」
 ペシペシと馬を叩いてカッカッカと笑う。
 すると叩かれた馬は「いてっ!」と呟いて主人を睨む。
 
 【坊ちゃん方この馬車はやめといた方がいいぜ。】
 睨んでいた馬がブルルと鳴いてこちらに話しかけてきた。そのペアになっている馬が「そうそう」と頭を大きく振って頷く。
 【料金安いのはいいんだけどさ。その分短期間で行こうとするから、すっげー運転荒いんだ。乗り物酔いどころか痣出来るの間違いないぜ。】
 【俺たちもこのご主人の召喚獣になって失敗したよな。すげー働かされて。】
 【まさに馬車馬のようにってな。】
 馬車の馬たちにとっては鉄板ジョークなのか、2頭はヒヒンといななくように笑い出した。……全然笑えないジョークだ。

 「ありがとう。他も見て検討してみます!」
 おじさんに愛想笑いで誤魔化して、納得できないようなトーマをそのまま押し出しながら移動する。
 危なかった、入学前に打ち身で動けなくなるところだ。
 「安かったのにダメなの?」
 トーマが不満げに首を傾げるので、馬の会話を聞いていた俺たちはため息を吐く。
 「あの馬車は運転が荒いみたいだ。馬もずいぶん疲れているようだった。安いし早いかもしれないが、着いたことには俺たちもボロボロになるぞ。」  
 カイルの言葉にトーマは感嘆の声を漏らす。
 「よく観察してたね。動物好きと言いながら全然気づかなかったよ。馬車選び難しいなぁ。」
 そう言ってため息を吐いた。

 「失礼。馬車をお探しですか?」
 ふと隣から声がした。何の気なしにそちらを見ると、身なりのいい少年が立っている。着ているコートも靴も、シンプルだが上質でデザイン性がありとてもお洒落な少年だ。どこかの貴族のお坊ちゃんなのかもしれない。茶色の髪に緑の瞳。目鼻立ちがくっきりしている美少年だった。
 馬車の客の呼び込みをしている子とは思えない。鞄は持っていないが旅行者だろうか?
 
 少年は優しそうにほほ笑んで、気取った口調で言った。
 「お嬢さんはどちらまで行こうと思ってるんです?」
 ……お嬢さん?
 キョロキョロを見渡すが、彼の前には俺たちしかいない。カイルとトーマの顔を見るが、二人ともブンブンと頭を振った。
 もう一度少年を見る。少年が真っ直ぐ見てるのは……俺だった。
 
 「僕は男です。」
 残念な人を見るような目で少年を見る。すると少年は目を大きく見開き、口をポカンと開けた。
 「えぇぇぇぇ!可愛い子いると思って声かけたのにぃぃっ!」
 盛大にがっかりして天を見上げる。さっきの気取った口調が途端にくだけたものに変わった。先ほどのように口数が少なければかっこいいだろうに。

 確かに俺は今ロングコートを着て、寒いから首元にストールを巻いている。髪の毛の長さも、ズボン履いてることも隠れていてわからないだろう。だがロングコートの色は紺色だし、ストールだって青だ。目立たなさを重視してシンプルで地味な格好である。小さな女の子がこんなチョイスしないだろう。

 「誤解が解けたなら僕たちはこれで。」
 俺がそそくさと移動しようとすると、少年は「待った待った」と俺たちの行く手を阻んだ。
 「確かに可愛い子がいると思って声かけたけどさ。馬車に乗るのに困ってたんだろ?俺この国の人間だから詳しいんだ。お詫びに教えてやるよ。どこまで行くの?」
 口調は軽いが、人懐っこい笑顔には裏がなさそうだ。息をひとつついて口を開く。
 「ステア王国に行くつもり。」
 「もしかして王立学校の入学者?」
 俺たちが頷くと、嬉しそうに笑った。
 「奇遇だ!俺もそうなんだ。馬車はもう確保してあるからさ。俺と一緒に行かない?」
 
 やはりどこかナンパ口調である。だが、馬車が確保されてるなら大変助かる。4人であれば割り勘の金額も安くなるし。
 さてどうしようかと思っていると、カイルが割って入るように口を開いた。
 「とりあえず馬車を確認して決めさせてもらう。」
 その言葉に少年は肩をすくめる。
 「ああ、それでいいよ。じゃあ馬車まで案内するよ。」
 「僕はフィル、隣にいるのがトーマで背の高いのがカイルだよ。」
 「俺はレイ。」
 お互い握手を交わして挨拶をする。

 レイを先頭にして移動を始めた。どんどんと奥に入って行ったかと思うと、広場の停車場を抜けてしまった。
 「広場に停まってる馬車じゃないのか?」
 カイルが訝しげに質問すると、レイはチッチッチと舌打ちした。
 「広場にいるのは外国人用さ。この国の人間は街中まちなかにある馬車を使うんだ。段ちで安いんだよ。」
 「じゃあ、何であそこにいたの?」
 トーマが不思議そうに首を傾げる。純粋なトーマの瞳に一瞬詰まって、レイは笑ってごまかした。

 ナンパ目的か。察した俺とカイルが半眼でジッと見ていると、観念したようにため息を吐く。
 「だってさ、一緒に行くなら可愛い女の子とがいいじゃないか。だけどなかなかいなくてさぁ。やっと見つけたと思ったのに。」
 がっくりと肩を落として恨めしげな視線をこちらに向ける。
 いやいや、こっち見るな。 
 「だけどいつまでも行かないわけにはいかないからな。もう諦めて学校で探すことにするよ。」
 決意を新たにしたのか、グッとこぶしを握り締める。
 その年齢で女の子好き…将来が心配だ。
 
 路地を抜けると馬車が一台停まっていた。おじいさんが馬にブラッシングしている。あの人が御者だろうか。
 「ゼンじい!おまたせ!」
 レイが手を上げて声をかけた。おじいさんはやれやれとため息を吐く。
 「本当にお待たせでしたよ。坊ちゃま。」
 「ちょっ!坊ちゃまって言うのやめろって!」
 レイは慌ててゼンじいの所に走って行くと、何やらごにょごにょと話し合っている。
 
 「やっぱりいいとこのお坊ちゃんなんだね。」
 トーマが俺に小声で言った。トーマも気づいてたんだな。
 「だってさ、あれ見てよ。」
 顎を少し上げて示したのは、馬車の上に乗った荷物だ。客車の上が荷台になっているのだが、いくつもの鞄が紐で縛られて乗っかっていた。レイが手ぶらだったので、荷物は馬車に置いてあるとは思っていたが……。
 その多さに呆気にとられていると、カイルが俺だけに聞こえるようにそっと耳打ちする。
 「フィル様。あれが貴族や王族の『普通』です。」
 ごめん。カイルが言う都市伝説なのかと思ってたよ。

 【こんにちわ〜。坊ちゃまの友達?】
 【はじめまして。】
 馬車に近寄ると馬たちが、顔を近付けて挨拶してくれた。
 「こんにちわ。綺麗な毛並みだね。」
 2頭の鼻のあたりを撫でると嬉しそうに顔を寄せてくる。
 「こりゃ驚いたな。わしの馬たちがこんなに懐くなんて。」
 内緒話が終わったらしいおじいさんが、驚いたような顔でこちらにやってきた。

 馬たちの毛並はとても美しかった。日々丁寧にブラッシングされているようだ。蹄も馬蹄の付け方も、丁寧に処理されている。
 この馬たちの穏やかな顔つきを見れば、おじいさんが可愛がっているのがとてもわかる。そんな御者であれば旅も安心だろう。
 カイルやトーマを見ると、同じ気持ちだったのかすぐに頷いた。

 「どう?ゼンじいは年は取ってるけど、御者としてはこの国で一番だよ?」
 聞きながらも自信ありげに話すレイに、俺はにこっと笑って頷いた。
 「レイ、ゼンさん。ステア王国までよろしくお願いします!」
 



※感想・お気に入り登録ありがとうございます!読んでくれている方がいるんだと思うと頑張らなきゃいけないな思います。
今回召喚獣を出す予定でしたが馬だけで終わってしまいました…。
次回こそ召喚獣が登場しますので。


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