トップ>小説>転生王子はダラけたい
33 / 125
第4章〜転生王子は国外へ

自己紹介

しおりを挟む
 馬車は一路ステア王国へと向かっていた。
 スピードを出しているのに振動が少ないのは、ゼンじいの腕の良さだろう。
 客車の中は綺麗で清潔感があり、椅子にはふかふかのクッションがついていた。
 おかげでたまに体が浮くことはあっても、着地でおしりを痛めることはない。

 ひとつ言うことがあるとすれば、少しだけ隙間風が入って寒いことだろうか。でもそれもホタルを膝に置いて暖をとることで解消されていた。
 レイは「これでさえ寒いって?」と信じられない顔付きをしたが、寒いものは寒いのだ。それとも学生生活の中で寒さにも慣れるようになるだろうか?

 馬車の中では俺が持ってきたドライフルーツをおやつに、正式な自己紹介が始まっていた。
 レイの名前はレイ・クライス8歳。彼もまた中等部入学者なのだという。
 本人はカレニア国の商人の息子だと言っているが、どう考えても違うだろう。口調はくだけているが、身のこなしやら何やらが上流階級の人間のそれなのだ。
 まぁ、身分を偽っているのは、俺も同じなんだけど。
 ちなみに俺は鉱石屋の息子のフィル・テイラとして生活しようと思っている。テイラは鉱石屋の親方さんの苗字だ。
 カイルは俺に対して敬語を使うので、学校を卒業したらその鉱石屋に弟子入り予定なのだと言うことにした。

 「じゃあ、レイは去年初等部に行ってたの?」
 トーマの質問にレイは頷いた。
 「そう。どんなもんか知りたかったからさ。1学期は1年にいて、2学期で2年に移り、3学期は3年に移動した。」
 1・2・3と指を立てながら説明する。
 普通飛び級って言っても最低1年はいるだろう。すごい飛び越え方だな。
 「だって簡単すぎて内容がかったるくって。フィル達も行ってみたら、きっと俺の気持ちわかるよ。」
 そう言ってカルシュのドライフルーツを口に放り込み「うまっ!」と驚愕する。
 
 なるほど…トーマも頭がいいようだが、レイも相当頭がいいみたいだ。
 中等部は10歳からの生徒がほとんどという話だったが、今年は年少が多いのかもしれない。目立たなくてありがたいお話だ。
 「じゃあ、場合によっては中等部も1学期ごとに上行っちゃうんだ?」
 俺が首を傾げると、レイは首を振った。
 「いや、中等部は専門科目あるだろ?俺鉱石関係とか全くだもん。剣術や体術なんか俺たち絶対不利だろ。」
 それを想像してなのか顔をしかめる。
 あー、まぁなぁ。子供は年齢で体格違っちゃうもんな。
 俺はスケさんとかに鍛えてもらったりしたけど。やはり年上のカイルの素早さや体力には敵わないし。

 レイの言葉にトーマもガックリと頭を垂れる。
 「僕も武道自信ない。鉱石もなぁ…。近所に住んでる中等部の先輩が言ってたんだよね。鉱石の授業は地獄を見るかもって。すっごく気難しい先生らしいんだ。」
 「シエナ・マイルズ先生だろう?初等部でも噂流れてたな。」
 2人は顔を見合わせため息を吐く。

 鉱石の先生か……。
 ここ2年グレスハート王国で鉱石集めをしていたのだが、珍しい鉱石はなかなか見つからなかった。
 だからグラント大陸にくれば、また違った鉱石があるんじゃないかと楽しみにしている。
 鉱石に関してはまだ研究段階でもあるし。いろいろ知りたいことがある。先生と言うくらいだから詳しいかな?
 「会いたいなぁ。鉱石のこと聞いてみたいなぁ」
 俺がウキウキとしていると、トーマは苦笑する。
 「そうか。フィル鉱石屋の子だもんねぇ。」
 
 「フィルには悪いが、鉱石より召喚獣の方が断然役に立つと思う。」
 レイは大きくため息を吐く。その言葉に動物好きで召喚獣マニアのトーマが反応した。
 「そうだ!レイやカイルは召喚獣持ってるの?」
 「俺は持っていない。持つ気もないし。」
 カイルが首を振ると、トーマは「ええ!」と驚きの声をあげる。
 「持つ気ないのっ?」
 獣人であるカイルは獣人の教えによって召喚獣は持たない。カイルを獣人だと知らないトーマは信じられないのだろう。

 「その代りカイルは妖精と仲がいいんだよ。」
 俺がにこにことほほ笑んで言うと、二人は驚いたようにカイルを見つめる。
 カイルは小さく息を吐いてパチンと指を鳴らした。客車はトンネルに入ったように一気に暗くなる。おそらく光が入る窓を闇の妖精が覆ったのだろう。またパチンと指を鳴らす音がして、一気に元の明るさに戻った。
 二人が「おおー!すごいっ!」と拍手をすると、カイルは小さく苦笑した。

 「で、レイは召喚獣持っているのか?」
 カイルは話を切り替えるようにレイに話を振る。問われて、レイは片側の口角を上げるように笑った。
 どうやらご自慢の召喚獣がいるらしい。

 「ロイ!」
 レイの目の前に空間のゆがみが現れ、そこから黄色っぽい茶の毛に覆われた小さな猿が現れた。首には赤いスカーフが巻かれている。
 手乗りサイズの猿は、すぐさまレイの肩に乗る。そして様子を伺うように、クリクリとした大きな目で俺たちを見つめた。
 【はじめまして……の人?】
 キキ?っと首を傾げてくる姿が愛らしい。俺はにこにこして指を差し出した。
 「はじめましてー。」
 ロイは小さな手で俺の指を掴んで握手してくれる。
 手ちっちゃ!めっちゃ可愛いーっ!

 「スナザルか……久々に見た。」
 カイルが少し驚いたように呟いた。トーマもうんうんと同意する。
 「ルワインド大陸の獣だよね?土の攻撃系能力のあるやつだ。」
 ああ、そうだ。ルワインド大陸の砂漠に住んでるスナザルだ。砂漠はナハル国にも近い。だからカイルも見たことあったんだな。

 「群れで暮らすのを好むから、数は多いが召喚獣にはしにくかったはずだ。」
 カイルの言葉にレイはその通りと言うようにこっくりと頷く。
 「親父に旅行連れて行ってもらった時、親とはぐれてる赤ちゃん猿見つけてさ。育てて慣らして召喚獣にしたんだ。」
 「だから慣れてるんだね。」
 ロイを見てトーマは目をキラキラさせる。あまりにジッと観察するので、ロイも居心地悪そうだ。
 トーマ……動物好きなら、ちょっと観察の仕方を変えた方がいいんじゃなかろうか?
 トーマが顔を近付けすぎたのか、逃げるように俺の肩に乗ってくる。
 首筋がもぞもぞとくすぐったいので、笑いながらロイを捕まえて抱っこした。

 「土つぶてとか、砂による目潰しとか出来るぜ。」
 土つぶてと目潰しか。1匹じゃ大したことないかもしれないが、集団なら結構な攻撃だ。
 こんな可愛い集団がいて、喜んで近付いたら土つぶてやら砂やらガンガンに投げられるんだろ…?猿に対してトラウマ出来そうだな。

 「攻撃系か。こんな可愛いのになぁ。」
 頭を撫でると褒められて嬉しいのかキキと鳴く。 
 【これもできる。】 
 そう言うとロイは小さな手で、土を生成してさらに成形しホタルのフィギュアを作った。
 「おお〜ホタルだ!」
 【僕です!そっくりです!】
 ホタルは短い尻尾を振って喜ぶ。
 【プレゼント。】
 ロイは10センチないくらいのホタルを俺の手に乗せてくれる。
 ざらついた陶器のような肌触りで、意外に硬い。表情もホタルらしさが出ている良い作品だ。

 「ありがとう。大事にするね。」
 【ありがとです!】
 二人でお礼を言うと、照れたように頭を掻く。
 するとロイをむんずと捕まえたレイが、ロイの顔に自分の顔を近付け拗ねたように口を尖らせる。
 「ロイ!何だよそれ、俺には作ってくれたことないじゃないか。」
 ロイはうーんと困ったような顔になった。
 【レイ様は女の子にあげちゃうから。】

 ……なるほど。と俺とカイルは大きく頷く。
 その様子にレイは訝しげに眉根を寄せた。
 「なんだよ二人とも。」
 「多分、女の子とか声かけるのに使うって解るんじゃないか?」
 カイルの言葉に俺も残念そうな目を向ける。レイは何かを言いかけたが、すぐにしょんぼりと肩を落とす。否定出来なかったようだ。

 そんなレイを笑っているトーマを見て、ふと気が付いた。
 「そう言えばトーマこそ召喚獣持っているの?」
 動物好きなトーマの召喚獣って、とても興味がある。召喚獣持っているとしたら何の動物なんだろうか。

 俺が聞くとトーマはとても嬉しそうに頷いた。
 「いるよ。すんごい可愛いの!エリザベス!」
 空間が歪みトーマの目の前に耳の長いウサギが飛び出した。
 そして地面に着く前に、を描いてトーマの顔に蹴りを入れる。
 「くはっ!」
 トーマは蹴られた勢いで背もたれに頭をぶつけた。

 えぇぇっ!?いったい何が起きたっ!
 トーマ以外の3人が突然の出来事に呆然とする。
 【アンタ今頃何呼び出してんのよっ!】
 トーマの膝に降り立ったエリザベスは、体をスクッと立たせ苛立ったように足を鳴らす。
 ロップイヤーのように耳が垂れていて、立った状態で3分の2くらい耳の長さがある。耳の付け根にレースのリボンがついて大変可愛らしかった。
 可愛いのだが…初っ端からバイオレンスを見せられて、頭がついて行かない。
 このウサギ、初めて読んだ召喚獣の本に書いてあったウサギだ。見た目そのままナガミミウサギ。風をおこせると書いてあった。

 「召喚獣って主人のこと好きなんじゃなかったっけ?」
 レイが口に手をあてて俺に小声で話しかけてくる。俺は戸惑いながらも頷いた。
 そのはずなんだけど……エリザベスは明らかにトーマにイラついている。
 何かトーマに怒ってるのかな?
 
 「エリザベス今日も元気だね。」
 トーマは蹴られたにも関わらず、目尻を下げてにこにこしている。
 今日も?いつもこうなわけ?初っ端の蹴りは通常仕様なの?
 【気分は最悪よ!】
 そう言うのだが、トーマにはエリザベスの言葉は解らない。蹴られながらも何とかエリザベスの捕獲に成功した。しかしまだエリザベスのイライラは収まらないようだ。
 
 【昨日呼び出さなかったことまだ怒ってるんだからね!約束してたのに!今更呼び出しても遅いって言うのよ!】
 トーマが約束を破ったことについて怒ってるのか。いや、それにしたってすごい暴れようだな。
 「ね、僕のエリザベスすんごい可愛いでしょ?」
 エリザベスの長い耳でぺちぺちと頬をはたかれながらトーマが笑う。

 「……うん。」
 俺たちは頷くことしかできなかった。
 


※お気に入り登録・感想ありがとうございます。
今回は新しい召喚獣を出してみました。
エリザベスはトーマが嫌いなわけではありません。
しおりを挟む