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第4章〜転生王子は国外へ

温泉にいこう!

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 ドルガド国には火山がある。山頂は火山岩だらけで植物もほぼない赤い山だが、その山裾は樹海のようにうっそうとした森になっていた。
 コクヨウの背に乗りながらそんな森を進んでいくと、突如開けた空間に出た。
 乳白色の水に満たされた湖だ。霧のように煙っているので正確な大きさは解らないが、野球場のグラウンドくらいには大きい。
 コクヨウから降りて湖に近付く。湖の周りが白の玉砂利で囲まれている為、歩く度にジャリジャリと音を立てた。

 おそるおそる手で水に触れると、手にじんわりと熱が伝わってくる。
 「おおぉぉ。」
 思わず感嘆の声が漏れた。
 【何だ?これは。湯か?】
 大きな姿から変化して子狼になったコクヨウが、湖にパチャパチャと足を入れながら首を傾げる。
 「温泉だっ!」
 俺はお風呂セットを抱きしめて歓喜に震えた。


 何故俺が単独で温泉に来ているかというと、それは今朝の出来事である。
 カレニア国からドルガド国に入って4日目。ステア王国との国境に一番近い町ダレスに俺たちはいた。
 馬車の旅で8日目にして、ようやくここまでやってきた。しかし学校はステア王国の中心地にあるから、目的地まであと2日はかかる。
 飛行機か新幹線があればあっと言う間なのに……。ゼンじいの手綱捌たづなさばきでも、こう毎日毎日馬車移動じゃ体力持たない。

 「ほらフィル様、起きてください。ゼンさんが待ってますから。」
 カイルに揺すられて、俺は唸りながらむくりと起き上がる。
 マジか…もう朝なのか。宿屋について舟をこぎながらご飯食べて、今さっき寝たような気がするのに。
 だが確かに、寝た時と違って窓からは眩しいほどの光がさしていた。
 起きてふらふらと歩き出したが、足がうまく動かない。そのまま近くにあった椅子に腰かけた。

 「瞬間移動とかできる召喚獣いないものかな?」
 現実逃避で椅子になつきながら呟く。
 「そんな便利なのあったら皆奪い合いだと思う。」
 壁に寄りかかってうつらうつらしているトーマが言う。
 「これくらいで弱音を吐くな!まだ先があるんだぞ。」
 レイは叫んだ。
 「レイ、その言葉はせめてベッドから出て言え。」
 ベッドにうつ伏せたまま動けないレイを見下ろし、カイルが呆れたように言う。

 「まだあと2日もか……。」
 「去年も思ったが長い……。」
 「体がバキバキしてる。」
 7歳の体は悲鳴をあげていた。
 国にいた時はこんな長距離移動したことなかったもんな。
 カイルはため息を吐くと、椅子に座っていた俺の寝癖を撫でつける。
 「フィル様、ここで少し休息を取られたらいかがですか?もともと船で1日早く到着されているのですし。それでなくてもまだ日にちに余裕があるのですから。」

 その言葉に3人はハッとして顔を見合わせた。
 「その手があった!」
 「そうだ!休めばいいんだ!」
 「簡単なことじゃないか!」
 さっき動けなかったのは何だったのか、レイがベッドから飛び出す。俺たちが浮かれてハイタッチし合っていると、カイルが不思議そうな目でジッとこっちを見ていた。

 何ですかカイルさんその目は。
 「3人とも…頭いいんですよね?」
 首を傾げられて、俺たちはタッチで合わせた手をそっと下ろした。 
 前世でも似たようなことを言われた気がする。頭いいのにうっかりが多い天然だねって。記憶力は…そこそこあると思うんだけどねぇ。

 「まあ、とりあえず今日はゼンじいにも休んでもらって。俺たちも休息日にしよう。」
 レイが気を取り直すようにほほ笑む。トーマもコクコクと頷いた。
 「今日は休息するとして、どうしよう?」
 「ん〜一日中寝るとか?」
 ダラダラするのいいよねぇ。ごろごろ惰眠むさぼるの。馬車はなかなか寝るに寝れないし。

 俺がにまにまと笑っていると、カイルがそう言えばと話しかけてきた。
 「ゼンさんが言ってたんですが、このダレスにはお湯が湧く湖があると言ってました。傷を癒し、疲れをとるそうですよ。」
 カイルの言葉に俺はバッと反応した。
 そ、そそ、それはもしやO・N・SE・N!
 この世界ではいまだに温泉の話を聞いたことがなかったが、温泉あったのかっ!
 いや、確かドルガド国は火山も多いと聞くし、このダレスにはドルガド国でも一番大きい火山がある。温泉があっても不思議ではない。

 俺はこの世界に来てからでっかいお風呂に飢えていた。王子なんだから城にでっかい風呂くらいあるでしょと思ったら大間違い。グレスハート王国ではどっぷり湯船につかる文化はないらしく。沐浴みたいな形が主流だった。お湯か水かけて体を清めるみたいな。だけど元日本人の俺には、あれじゃ入った気がしないんだよな。
 耐えられなくて酒樽を再利用した一人用湯船を作ってしまったくらいだ。
 鉱石は実に便利です。水入れて、お湯を沸かして、乾燥させて。前世で鉱石使えたらどんなに良かったことか。
 まぁ、それであっても所詮酒樽。大きい風呂ではない。
 
 温泉かぁ。湖と言うくらいだから、日本の露天風呂と同じに考えたらダメだよな。
 前世は旅行に行くような余裕もなく、銭湯で温泉に行った気分を味わっていたが、その湯船より大きいと考えるとワクワクする。温泉は俺にとってあこがれの場所!
 
 「そこ行こう!」
 俺は目をキラキラとさせたが、3人は渋るような表情で唸った。
 あれ?皆乗り気じゃない?
 カイルがお風呂嫌いなのは知ってるんだ。お湯に入ると背中の羽がふやけるとかで、水が冷たかろうが寒かろうが水浴び一筋。お風呂と言うより修行みたいなのを行っている。
 だが他の二人は何でだ?他の国も沐浴派?
 俺が首を傾げると、レイは渋そうな表情のまま俺を見た。
 「あー…俺もゼンじいに聞いたことあるけど。その湖は山裾も山裾、森の深い場所にあるらしいぜ。あんまりにも遠くて人が行くことはないらしい。」
 「それじゃ尚更だなぁ。僕も出来れば動きたくない。」
 ぐったりと2人は首を振る。疲れを取る温泉に疲れてまで行きたくないと言うことか。俺はひとつ息をついて言った。
 「じゃあ、しょうがない。一人で行ってくるよ。」
 
 そんなわけで一人で温泉に来たのだった。
 だが、むしろ一人だったのは良かったのかもしれない。人がいないからコクヨウで移動できるし。コクヨウだったらあっという間だ。
 カイルは一緒に来ようとしていたが、行きたくない人を連れて行くのは気が引ける。ほんの数時間コクヨウで行って帰ってくるだけだから何も問題ないと思っていた。

 「あー…温泉最高だなぁ。」
 少しぬるめだから温水プールのようでもあるけど、おかげで長く入っていられる。立湯のような感じで入れるのもいい。
 【ああ。温泉と言うものなかなか良いな。】
 満足げに言うコクヨウを見ると、ホタルに乗っかってぷかぷか浮いていた。
 温泉に入ってないじゃん。楽してからに。
 そんなコクヨウを乗せているホタルは嬉しそうにしっぽを動かし、器用に進む方向を調節していた。
 【温泉楽しいです。】
 付属品コクヨウはついているが、ホタルは随分満喫しているようだ。
 しかしコクヨウを乗せても沈まないとは……、ホタルの浮力ハンパねーな。

 【フィル様〜お届けっす!】
 木桶を船代わりにしてテンガがやってきた。木桶の中から氷亀であるザクロも顔を出す。
 【ご主人っ!キンキンに冷やしときやしたぜぃ!】
 へへんと自慢げに取り出したのはキンキンに冷えたカルシュのジュース瓶だ。
 「うわぁ気が利くなぁ。」
 ゴクゴクと飲むと渇いていた喉がキューッと冷えた。だがふと瓶を傾ける手が止まる。
 「こんなの持ってきてたっけ?」
 木桶とタオルと着替えくらいしか持ってきてなかったはずだが。

 すると、テンガはハイっと元気よく手をあげた。
 【あったっす!フィル様の部屋にある荷物から空間移動で持ってきたっす!】
 「えっ!」
 俺の部屋と言っても、4人部屋なのだ。俺だけのものがあるわけではない。
 瓶を見ると小さい傷でカイルの名前がつけられていた。
 ……帰りにジュース買って謝ろう。
 
 「テンガ。これカイルのだよ。勝手に持ってきちゃダメだろう?」
 めっとしかると、テンガは自分の頭をコツンと叩いた。
 【あー…ごめんなさいっす。またやっちゃったっす。】
 それを見て何故かザクロも自分の頭をコツンと叩く。
 【オイラが気づいていたらっ!キンキンに冷やさなかったものをっ!!】
 いや、キンキンかキンキンじゃないかを問題にしてるわけじゃないんだけどね……。
 「でも、ジュースありがとう。あとでカイルに一緒に謝ろうね。」
 持ってきていいものと悪いものをよくよく教えなきゃいけないなぁ。まだ特殊能力身に着けたばかりだからよくわかっていないのだ。 
 テンガとザクロの頭を撫でていると、俺たちと別の所でパシャリと水の跳ねる音がした。
 見ればコクヨウがホタルの上で立ち上がり、一点を見つめている。

 何かいるのか?



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