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第4章〜転生王子は国外へ

再会

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 「うわぁ。」
 トーマは建物を見上げパッカリと口を開けた。
 目の前には石造りの巨大な建物がそびえている。大きさは違うが、似たような造りの建物が周りにいくつかあるようだ。
 トーマの驚く気持ちはとてもよくわかる。城で育った俺でさえ、ステア王立学校がこんなに規模が大きいと思わなかった。グレスハートの町くらいはすっぽり入っちゃうんじゃないか?

 「迷子になりそうだなぁ。」
 トーマは不安そうに呟いた。その横をレイが鞄をいくつも積んだリアカーで通り過ぎる。それから休憩とばかりに一度止まると、汗をぬぐって振り返った。  
 「その一番でかいのは大聖堂。集会がある時に使うんだ。学校の敷地の真ん中にある。ここを中心として、右側にあるのが初等部の学生棟。奥にあるのが高等部の学生棟。左は俺たち中等部の学生棟。」
 「なるほど。迷ったらこれ目印にすれば良いのか。」
 トーマは希望を感じてか表情を明るくする。だがレイは肩をすくめた。
 「安心はまだ早い。学生棟自体がでかいからな。初等部じゃよく行方不明になる奴いたぜ。」
 その言葉にトーマは顔を青くし、決心したように言った。
 「僕……慣れるまで単独で動かない。」
 俺も自信ないからカイルと行動しようかな……。

 「とりあえず、学生寮に荷物置いちゃおうぜ。各学生寮はそれぞれの学生棟側の奥にあるから。」
 そう言って大聖堂の左側にのびる道を歩き出す。
 荷物が重いのかリアカー押すのも大変そうだ。あまりにあわれに思ったのか、カイルがリアカーの後ろを押し始めた。
 そんなに何詰まってるんだろうか。宿でも全部開けてなかったからな。気になる。だが、今は置いて行かれないように頑張って運ばなきゃな。

 大聖堂から10分くらい歩いていくと、学生寮と思われる建物が2つ見えてきた。
 こちらも大聖堂のような石造りだが、緑の蔦が建物全体を覆っている。
 建物正面には木造だが大きな両扉がついていた。扉の真ん中に校章である鳥の紋が掲げられている。頭が3つに分かれている鳥だ。盾の形をしたその紋章は、右の建物には紺で、左がえんじ色で描かれていた。

 「書類によると、右が男子寮で、左が女子寮だそうです。」
 入学の説明書類を確認しながらカイルが言う。俺とトーマはなるほどと頷いた。
 確かに俺達以外の生徒は、男子と女子で右と左に別れて建物に入って行く。
 色分けされてるわけか。わかりやすい。 

 しかしそんな中、レイが残念そうに言った。
 「なんで分けるのかなぁ。立ち入りも禁止らしいんだぜ。」
 男女別の寮であることが不満のようだ。禁止されなきゃ立ち入る気満々ぽい。
 それは…レイみたいなののせいではないだろうか。
 「とりあえず寮に入ろうよ。僕疲れちゃった。」
 それは同感だ。学校が始まるまではまだ何日か余裕がある。しばらくのんびり休みたい。

 寮に入るべく再度歩き出した時だった。目の前にいたレイが急に止まる。
 リアカーにぶつかりそうになって、慌てて俺も止まった。
 あっぶな!何だ?どうしたんだ?
 レイを見ると、女子寮の方を見て固まっていた。
 「天使いたーーーーーーっ!!!」
 そう叫んで女子寮を指差す。
 は?天使っ?!
 皆がレイの指差す女子寮の方を見た。そこには少女が何人かいた。

 その中の一人がレイの声でこちらを見る。そして俺に目を止めると、嬉しそうに手を振った。
 「え?あれって…。」
 知り合いに似ている。だが、思い当る人物のはずがない。
 動揺する俺に、少女は黒髪をなびかせて軽やかな足取りでやってくる。その様子は可愛らしい小鹿のようだ。
 「天使が俺の所にやってくるっ!」
 レイが顔を紅潮させながら、神に祈るように手を組んだ。
 いや、残念ながら君の所ではない。
 
 俺とカイルは荷物を置いて、少女の元へ駆け寄った。
 少女は俺の前に立つとスカートをちょっとつまんで頭を下げる。
 それから俺を見ていたずらっぽく笑った。
 「びっくりしました?」
 俺は目を瞬かせて頷く。
 「びっくりしたよ。アリス、何でこんなところにいるの?」
 「私もこの学校に通うことになったんです。だから今日からフィルさ…あ、フィルとカイルの同級生よ。」
 口を押さえ、友達口調に照れたように微笑む。
 
 「フィル、天使と知り合いなのか?」
 振り返ると追いかけてきたらしいレイとトーマがいた。
 「あー…うん。僕達の幼馴染…かな。」
 俺がチラリとアリスを見ると、アリスは少し頬を染めて頷いた。

 「はじめまして。僕トーマ・ボリスで……。」
 「はじめまして!僕はレイ・クライスと申します。中等部1年です。どうぞよろしく。」
 トーマを押しのけ、レイは爽やかに笑うとアリスに握手を求める。
 「はじめまして。アリス・カルターニです。」
 アリスはにっこりほほ笑んでトーマとレイに握手する。レイは握手をしたまま、アリスの笑顔にうっとりと呟く。
 「アリス……何て素敵な名前なんだ。」
 レイが手を握ったまま離さないので、アリスは戸惑ったようにレイを見る。
 「え…えっと……。」
 「僕のことはレイと呼んで下さい。」
 にこにこと微笑みながらも、まだ手を離さない。
 「はぁ……。あの……。」
 アリスは困ったように手を引き抜こうとするが、まだ手を離さない。
 
 「てぇーいっ!いい加減に手を離せぃっ!」
 俺はレイの手首にチョップした。
 「いってぇーっ!」
 レイが手首を押さえて呻くが自業自得である。
 「アリス、大丈夫?レイに近付く時は僕かカイルがいる時にしなね。」
 にーっこり笑って言うと、アリスはこくこくと頷いた。
 「ずるいぞっ!可愛い幼馴染俺も欲しいっ!」
 涙目でレイが叫ぶ。

 「レイはその前に荷物を運べ。でなきゃ運ぶの手伝わないぞ。」
 リアカーを指差しカイルがレイを睨む。カイルが手伝ってくれなければ、荷物を運ぶのは大変だろう。
 レイはくっと悔しそうに唇を噛むと「またお会いしましょう!」と捨て台詞残しリアカーの元に戻っていった。
 「じゃあ、レイを手伝ってきます。」
 カイルの言葉に俺は頷いた。
 「じゃあ、またあとでね。」
 手を振ってトーマも荷物運びに戻る。
 
 「しかし驚いたなぁ。」
 改めてアリスを見た。
 「ビックリさせたくて城の皆に協力してもらったの。」
 大成功だと言って鈴のように笑う。
 そういや荷造りはおろか送別会にも、体調が悪いからと顔を出してくれなかった。長く離れるのに少しも顔を見せてくれないなんてと寂しく思っていたのだが……。つまりは先にこっち来てたってこと?

 「フィルが学校に行くって決まった時、フィルのお父さまが私にも勧めて下さったの。」
 アリスはメイドである母親アリアの補助として城にいる。何もなければそのままメイドとして働くことになるだろう。それが悪いと言うわけではない。城のメイドは平民にとっては給料も高いし安泰だしでとてもいい働き口だ。

 だが、アリスは頭も良く機転が利く。その上可愛いのだから、いろいろな教養を身につけたら将来的に選択肢の幅が増えるだろう。
 父さんの考えを嬉しく思いながら、でも……と眉を下げる。
 「お母さんと一緒に暮らせるようになったのに。」
 アリスはまだ8歳。中等部入学は通常10歳なのだから、まだ2年一緒に暮らしていても良かったのではないだろうか。
 「ええ、でも母も将来のことを考えたら勉強するべきだって言ってくれたの。フィルだって私より年下なのに親元を離れるでしょう。私だけ寂しいなんて言えないわ。」
 「そ…そんなこと…。」
 アリスの言葉に口元が引きつった。
 俺こそ言えない。大学生で亡くなって、転生して7年。精神的にはもうアラサ―なのに、出航する時泣きそうだったなんてこと…。

 「それに…置いて行かれるの嫌だし。」
 アリスはポツリと呟いた。
 「ん?何に?」
 俺が首を傾げると、アリスは慌てて首を振った。
 「ううん。フィルのお父様からフィルが規格外のことをしたら報告してって言われてるの。だからどこに行くにも置いてかれないようにしなきゃなって。」
 ガッツポーズで張り切ってみせるアリスに、俺はショックでよろめいた。
 父さんステラだけでなくアリスにまで手を回してるなんて……。信用どこまでもゼロか……。

 そんな俺にアリスは慌てたように付け足す。
 「あ、ごめん。違うの。フィルの嫌がること報告するつもりはなくて。」
 自分の失言にアリスはあわあわとしている。
 そんな慌てっぷり城の中じゃ見たことなかったなぁ。
 思わず噴き出した俺に、アリスはキョトンとする。

 「とりあえず学校生活楽しもうね。アリス。」
 俺がほほ笑むと、アリスは安心したようにほほ笑んで頷いた。



※感想・お気に入り登録ありがとうございます!
 面白いと言っていただけて本当に嬉しいです。小説を書いたことがなかったので。感想で表現や比喩が面白いとか、もふもふとかのお言葉をいただけて初めて気付くことが多いです。そうか、自分もふもふ好きかっ!と。


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