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第5章〜転生王子は学寮で

マクベアー先輩

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 「さあ!我こそはと思う者は前に出ろっ!」
 マクベアー先輩はそう言うが、ざわめくばかりで前に出る者などいなかった。
 そりゃそうだろう。がたいのいい15歳なんて殆ど大人じゃないか。しかも去年痛い目にあった初等部の子達なら、なおさら嫌に決まっている。

 「召喚獣使っても何でも良いぞ。何人でもかかってこい。」
 にっこり微笑むマクベアー先輩は余裕しゃくしゃくだ。
 無茶言うな。初等部の剣術の先生を骨折にさせた相手を前に『召喚獣もオッケーなのかラッキー!』なんて安易に考えられない。
 俺たちの年代はようやく召喚獣持ち始めたくらいが多いんだぞ。しかもそれこそ戦闘系召喚獣なんて少ないはずだ。
 何故なら獣は自分より弱い者に仕えることは殆どない。未熟な子供にとって戦闘系の獣は召喚獣にしにくいのだ。
 そう考えると、コクヨウが何で俺に仕える事にしたのか謎だけど。

 レイの召喚獣のロイだってなぁ……戦闘系とはいえあれは集団だから大きな効果があるタイプだ。ロイ1匹じゃ、目潰しや石つぶてで遠距離サポートが関の山だろう。それもはたして効果があるかどうか…。俺の頭にグリズリーに小石投げてる小猿が浮かんだ。あ、ダメだ…攻撃力が弱い。

 誰も手を上げずこのまま膠着状態になるかと思ったその時、1年生の誰かが手を上げて言った。
 「あのっ!レイ・クライスが良いと思いますっ!」
 その言葉に同調する様に何人かが「そうだ。そうだ。」と声を出す。
 「はあああぁ?!」
 レイは顔を歪めて素っ頓狂な声をあげる。推薦した子らを見ると、幾分かニヤリと笑っていた。

 レイもその様子が見えたのか、忌々しげに呟く。
 「ターブの奴まだあいつの姉ちゃんと付き合ったの根に持ってるのかよ。シスコンめ。」 
 「年上と付き合ってたの?!」
 俺とトーマが驚いて口を開ける。
 ターブだってレイより年上に見える。それの姉と言ったらレイより2〜3歳は上だろう。
 「うん。可愛い子だったんだけど、他の子と仲良くしてたら怒っちゃってさ。フラれたの俺なのに、ターブが逆恨みしてんだよ。」
 それは…ターブの気持ちもわからんでもない。大事なお姉さんいるのに浮気みたいなことしてたら恨みたくもなるだろう。つか、他に同調している少年たちがいたところから、他にも恨みかってるんじゃないのか?

 女の子好き好き言ってるだけかと思ったら、レイませてるなぁ。
 いや、俺の幼稚園や小学校時代も、誰と誰が付き合っただの三角関係だのはあったか。
 俺は昔から地味だったのでそういったものは全くだったが、すみれ組の拓真くんはモテモテだった。最低5人は取り巻き連れて、さながらどっかの富豪のようだったもんな。
 ある時拓真くんを取り合って、女の子が取っ組み合いの喧嘩を始めた。あんまりにもすごくて拓真くんドン引く勢いだったね。あん時は蚊帳の外だった俺も、トラウマで女性不信になった拓真くんに同情したもんだ。
 せめてレイが拓真くんみたいになりませんように。

 俺が昔を思い出して祈りを捧げていると、マクベアー先輩は俺たちを見回すように叫んだ。
「そうか。レイ・クライス出てこい。」
 呼ばれたのにレイは微動だにせずジッとしている。何とか逃げられないもんかと考えている様子だ。
 だが前にいた同級生たちがザッと左右に割れ、必然的に動かなかった俺たち4人はポツンと残される。これでは隠れることも出来ない。

 「いや、俺は去年マクベアー先輩にあっという間に飛ばされました。無理です。」
 レイは顔を青くし慌てて首を振る。
 「振り払った生徒の中にお前もいたのか……それはすまなかった」
 マクベアー先輩は眉を下げ、しかしすぐにっこりと笑顔になった。
 「だが正式に剣を交えるのは初めてだろう?少しは強くなっているのじゃないか?」
 強くなれるのは努力している人だけですよ、マクベアー先輩。ただ歳をとっただけで、強くなれるものではない。
 マクベアー先輩は日々努力しているんだろうなぁ。
 
 さてどうしたものかと俺が考えていると、カイルが俺に話しかけてきた。
 「俺が行きます。」
 「本当か!カイル!」
 それを聞いたレイが涙を浮かべてカイルの手を握る。
 「1人で行く気?」
 「はい。この中じゃ俺が一番年上ですし。適切かと。」
 確かにカイルが一番適切かもしれないが…。
 カイルは剣術と体術でスケさんのお墨付きをもらっている。獣人だから身体能力も高いし、元刺客特有なのかトリッキーな動きで相手を翻弄する。正々堂々の騎士道の剣術をやっている人ならとても戦いにくい相手だろう。

 うーん、俺はマクベアー先輩のレベルを知らないからなぁ。多くの剣術大会で優勝しているということは、それだけ場慣れしていると思うが。
 せめてどのくらいの力量かわかれば、背中押して行ってこいと言えるのに…。

 「どうした!いつまでマクベアー先輩を待たせる気だ!」
 先輩方が苛立ったように怒鳴る。虎の威を借る狐ほど、うるさいものだ。
 「何人でもいいんですよねー?」
 俺が叫ぶと、マクベアー先輩はにっこり笑って頷いた。
 「いいぞ。何なら全員でもいい。」

 「じゃあ、僕フィル・テイラとカイル・グラバーがお相手しまーす!」
 俺はカイルの手を掴むとそのまま元気に手を上げた。一瞬間があいて先輩方が爆笑する。

 「ふぃ、フィルはやめておけよ!」
 「そうだよ!フィルが吹き飛ばされたら死んじゃうよ!」
 レイとトーマが慌てて俺の上げた手を下ろさせる。カイルも焦ったように言う。
 「そうです。フィル様は見ているだけでいいですから。俺一人で行きます。」
 周りで見ていた同級生も「そうそう」という様に頷いている。レイには恨みはあるが、小さな同級生を差し出すほど良心を持っていないわけではないようだ。
 
 「いや、カイルを信用してないわけじゃないんだよ。だけど1人より2人の方が勝率上がるじゃない?」
 首を傾げると、笑っていたマクベアー先輩がさらに大笑いする。ひとしきり笑った後、ニヤリと口角を上げた。
 「2人ならば俺に勝てると思っているのか?面白い。じゃあ、試合をしようじゃないか。」
 そう言って運動場の中央に移動した。武将のように仁王立ちしてこちらを見ている。その様子に同級生たちから絶望めいたため息がもれた。

 「フィル様本当にやるんですか?」
 カイルが心配げに見るので、俺はにこっと笑って頷いた。
 「うん。直接攻撃は無理だけど、サポートくらいはするからさ!」
 ガッツポーズを作って見せる。
 すると同級生たちの方から「可愛らしいこぶし…。」「頼りない細腕…。」と声が聞こえてきた。
 おい、誰だ!人が気にしていることを言うのは!これでも筋肉ついてきたんだぞ!

 「よしわかった。俺もやる。フィルが出るのに俺が出ないんじゃ、いくらなんでもダサすぎる。」
 「ぼぼぼぼぼぼ、僕も出るっ!」
 「え、本当に?」
 俺が聞くと、レイが唾を飲みこんで大きく頷く。トーマも真っ青になりながら頷いた。恐怖の為かもう気絶寸前だ。
 有難いけど大丈夫か2人とも。

 俺たち4人はマクベアー先輩の前に立った。
 改めて近くで見るとでっかいなぁ。170センチは超えてるか?筋肉で体が大きく見える。
 「試合のルールは?」
 カイルがマクベアー先輩を睨むように見上げる。
 「剣でも召喚獣でも何を使ってもいいこととする。俺を倒したら勝ちだ。」
 マクベアー先輩はニヤリと笑うと、腕組みをして鼻息を吐いた。



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  一気読みしてくださってる方もいらっしゃるようで嬉しいです。それだけ続きが気になるってことですよね。次はついにマクベアー先輩と…。
 
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