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第5章〜転生王子は学寮で

サポートします!(改稿)

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 マクベアー先輩は木刀を肩ならしとばかりに振り回した。
 振るたびにブンッブンッと風がうなる。その低い音で剣の威力がどれほどか分かり、俺はコクリと喉を鳴らした。
 カイルはその様子をじっと見据えている。どう戦うべきか冷静に考えているようだ。
 カイルの腕は信用しているのだが、大丈夫だろうか。
 カイルだって12歳にしては160センチと大きい方だ。しかしひょろりと細いので、マクベアー先輩のムキムキと並ぶと心許なく感じてしまう。

 「俺が剣術で攻撃するんで、フィル様たちはとりあえず下がっていて下さい」
 「うん。サポートできるようだったらするから」
 俺たちはとりあえず邪魔にならないようにと2、3メートル下がった。
 さて、サポートで使える召喚獣って何だろう。コクヨウやヒスイは大事おおごとになりそうだからやめとくか。

 「コハク」
 呼ぶと黄色い綿毛が手に収まった。召喚獣にしてから2年経つが未だヒヨコの大きさのままだ。光鶏コウケイとは言っても鶏になるのは時間がかかるらしい。ただ昔は豆電球くらいの明るさだったのが、今はLEDライト並みの明るさにまで光れるようになった。おかげで夜は助かる。
 残念なのはコハクが寝ると、自動的に光が消えることか。ヒヨコだからすぐ寝ちゃうんだよなぁ。
 だが今は昼、光で目くらましくらいにはなるだろう。
 「何かあったら光るんだよ?」
 【りょーかいっ!】
 コハクはピッと羽で敬礼する。そしてジャンプすると俺の胸ポケットに収まった。
 【ポッケで待ーつ!】
 フンスと鼻息で意気込みを見せる。
 ……本当に大丈夫か?ちょっと不安を覚えつつ、俺は息を吐く。

 横を見るとトーマとレイもすでに召喚獣を出しているようだ。
 「レイはロイで遠距離攻撃やってくれる?間違ってもカイルにぶつけないように」
 「お、おう!頼むぞロイ!」
 【頑張る!】
 ロイはキキッと返事をした。

 トーマのエリザベスは風をおこすんだっけ?攻撃としては弱いんだよな。
 どうしようかとトーマたちを見ると、何だかエリザベスと言い合いをしていた。
 【弱っちいあんたが何でこんなことになってんのよ!】
 エリザベスはペチペチと耳でトーマの頬を叩いている。
 「エリザベス今は大人しくしててよぅ」
 情けない声を出すが、ペチペチが終わってもエリザベスの気持ちはおさまらないようだ。
 【あんた怪我でもしたらどうすんのよっ!傷でも作ったら承知しないからね!】
 そう言ってプンとそっぽを向く。相変わらずのツンデレっぷりだ。
 だが、言ってる意味がわからないトーマは、エリザベスが怒ったと思ったのか慌ててエリザベスをなだめる。
 「ごめんね?怒った?」
 【怒ってないわよっ!】
 何だか…恋人同士の会話みたいだな。
 「……とりあえずトーマたちは合図出るまで待機して」
 脱力しながら声をかける。

  「さあ、かかってこい!」
 マクベアー先輩の楽しげな言葉を開始の合図として、カイルが動き出した。
 態勢を低くしてなぎ払うように足元を狙う。しかしその攻撃はジャンプとともに避けられ、その勢いのまま剣が振り下ろされた。カイルは転がってそれを避ける。

 体は大きいがフットワークは軽いんだな。目がいいのかカイルの動きにも対応してるみたいだし。
 カイルはしゃがんだり飛んだりしながら素早い動きで技を繰り出すタイプだ。そして隙があれば、急所を狙って一撃を出す。力で倒すというより、短時間で敵を仕留める技を使っている。

 それに比べてマクベアー先輩は力技が多い。騎士の家系だけあって繰り出す技は形通りだ。しかし形通りだからこそ力がストレートに伝わる。
 動きは予想できるのだが、受けると剣が重いのだろう。流したりして何とか凌いでいるようがカイルも辛そうだった。

 「はぁ……はぁ……」
 カイルが距離をとって息を整える。俺は唇を引き結んだ。
 カイルの消耗が激しいな。もともと短時間で勝つ戦い方をしているからな。まずいかもしれない。
 疲れてくれば手数も減ってくる。減れば一撃必殺も出せず、試合をより長引かせる。悪循環だ。
 当たらないように避け続けることで、疲労が蓄積されてるのか。

 ロイも石つぶてを投げているが、攻撃力がいまいち足りないし……。
 って、ん?さっきよりさらに威力なくないか?マクベアー先輩に当たっているのだが、そんな痛くないのか防ぐことすらしてないぞ。
 
 見るとさっきまで隣にいたレイが、ロイを抱きながらいつの間にか3メートル後ろに下がっていた。
 「ちょっとレイ!何下がってるのっ!」
 呼ぶとハッとして慌てて戻ってくる。
 「ごめん条件反射でっ!」
 どんな条件反射だ。もし今度下がるならロイを置いてって欲しい。

 「トーマ!ロイの石つぶてにエリザベスの風を当てて!」
 「わわ、わかった!エリザベスお願い致します!」
 トーマがエリザベスに拝むように頼む。
 【聞こえてるわよ!】
 そう言うと、エリザベスは耳をうちわのように広げてバサバサと風を送り始めた。
 風によって石つぶては威力を増す。先ほどよりパチパチと音を立てて当たりだした。威力は微々たるものだろうが、マクベアー先輩の集中を途切れさせることには成功したようだ。一瞬だけ出来た隙に、カイルが攻撃を仕掛ける。

 マクベアー先輩の右に回り込む仕草を見せ、それに対応しようと体が開いたところに、瞬時に左に飛んで懐に入っていく。コンパクトに構えた木刀で切り込みの一撃を狙った。

 いけたかっ?!
 そう思った瞬間。
 マクベアー先輩は内側に入り込んだカイルの攻撃をすんででかわし、反対に肩を押し返した。
 「くっ!」
 カイルは押されて後ろにバランスを崩す。
 倒れる!
 そう思ったが、カイルは反対にそれを利用しバク天で後ろに下がった。
 「カイルっ!」
 「平気ですっ!」

 なんてこった。懐に入ったからいけると思ったのに、あっさり押し返されてしまった。
 俺もカイルも刷り込みに惑わされてしまっていたんだ。今まで騎士流の剣さばきだったから、まさかカイルのトリッキーな動きに柔軟に対応できると思わなかったのだ。

 「いやぁ、たいしたもんだ。驚いた」
 ニヤリと笑いながら間髪入れずに間合いを詰めてくる。その動きにカイルの反応が遅れた。 
 あれはやばい!仕留めにかかる気だ。

 俺はとっさに紫の鉱石を掲げて呟いた。
 「幻惑!」
 間に合うか?
 心臓をドキドキとさせながら、中央にいるカイルと先輩を見つめる。
 マクベアー先輩の剣がブゥンッ!と音とともに空を切った。幻惑によって目測を誤ったようだ。
 見物していた生徒は、まさかの空振りにざわめく。
 あ、あー……ヤバい。とっさに鉱石使っちゃった……。

 「どういったことだこれは。目がおかしくなったのか。」
 幻惑に驚き、戸惑いながらも、カイルを捉えようと目をこらす。その間にカイルはマクベアー先輩と一定距離をあけた。
 カイルがチラリとこちらを見て少し頭を下げると、すみませんと口元でつぶやく。

 何が?と一瞬思ったが、すぐ何のことかわかった。
 あぁ、確かに幻惑されてる今なら、マクベアー先輩を倒すチャンスだよね。
 だが、カイルがそれをしないと決めたのはとても嬉しかった。前のカイルと違うのだと知れて。
 にっこり笑って頷いてみせる。

 つか、俺が鉱石使っちゃったせいで、むしろすみません。

 幻惑の効果が無くなるのを待っていると、突然マクベアー先輩の肩が揺れ始めた。そして急に笑い出す。
 どうしたことだと呆気にとられていると、ピタリと笑いを止めたマクベアー先輩の顔は静かな怒りに満ちていた。
 え、何で怒ってるの?

 「何でもいいとは言ったが……。まさか薬を使ってくるとは思わなかった」
 低く唸るようにつぶやかれて、俺はビックリした。
 「はぁっ?!」
 薬?鉱石で幻惑したのを、薬使ったと思ったの?
 「ち、違いますっ!薬なんか使ってません!!」
 俺は必死でブルブルと頭を振る。だが、それは一蹴された。
 「そんなはずはないっ!」

 あるんですよーっ!
 鉱石のこと説明するべきか?
 その逡巡と焦りが、ますますマクベアー先輩に疑心を植え付けていくようだった。
 ヤバい疑ってる……。
 俺は血の気が引いていくのを感じた。



 ※感想・お気に入り登録ありがとうございます!
 今回は蜘蛛以来の戦闘です。でも主人公はサポート役ですね。

 ※7.26すこし改稿しました。
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