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第5章〜転生王子は学寮で

寮長〜ルーク・ジャイロ視点(改稿)

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 「ジャイロ寮長、急いでくれっ!早歩きでもいいから!」
 「これでも急いでんですよっ!」
 こっちは文系なんだ運動系と一緒にするな。    
 息を切らせながら室内運動場に向かう。
 所用で出かけていたのだが、帰って早々に言われたのが『新入生歓迎会』だ。
 「何なんです?歓迎会って!」
 知らせに来た3年生のスコット・ベイルをイライラと睨みつける。体の割に小心者なのか、俺が睨んだだけでビクッと体を震わせた。
 「お、俺だって知らないよ。あいつらが尊厳回復だって、運動場で1年集めてるから知らせに来たんだ」
 まだそんなこと言ってるのか。まったく何で後先考えないで行動するのだろうか。

 現3年生は凡庸な生徒が多い。彼らが他の学年に埋没し、肩身の狭い思いをしていたのは知っていた。
 それは初等部からのことなので、彼らの卑屈な気持ちが蓄積されていたことにまるで気付かなかった。
 それがわかったのは去年マクベアー先輩が留年すると決まってからだ。
 マクベアー先輩が自分たちの学年に下りてくることになって、大きな気持ちになったらしい。

 「まったく愚かな」
 俺は大きく舌打ちをした。それを聞いてベイル先輩が再びビクッと体を震わせる。疲れも相まって、イライラも頂点にきていた。 
 年齢がバラバラのこの学校において、先輩とは優れた先人のみをいう。ただ一学年上だとか言うのは、何の尊敬対象にもならない。むしろ素晴らしければ年下だろうが勝手に頭は下がるものだ。俺はそう考えている。

 ちなみに今の2年は皆俺と同様の考えだ。
 「つまりそれで1年生を呼び集めたわけですか?まったくこんな時に騒ぎ起こして」
 新たな1年なら、先輩との差を見せつければ敬ってもらえると思ったのだろうか。
 鼻で笑うとベイル先輩は情けない顔をした。
 「俺だってあいつらだけなら何も言わなかったよ。言うだけで何もできないんだからさ。でもマクベアー先輩もいるらしいんだ」
 「はぁぁぁ?!また問題ごとに巻き込まれてんのかあの人っ!」
 俺が掴み掛らん勢いで怒鳴るので、ベイル先輩は涙目になった。
 「俺去年の先輩に裏話聞いてるから、退学になって欲しくないんだよ」
 あぁぁ、どうしたらいいんだとベイル先輩は顔を覆う。

 去年マクベアー先輩は初等部の剣術授業にて怪我人を出し、それが原因で留年になってしまった…と言う話が広まっているが、詳細はだいぶ違う。
 同級生の弟が陰で剣術教師に不当な扱いを受けていた。マクベアー先輩はそれを確認しにいったらしい。
 それを指摘したところ、その教師に20対1の試合をいきなり開始させられたのだ。

 「学校に確認してもらったら良かったんですよ。頼まれたらなんでも引き受けちゃって。」
 俺はため息を吐いた。
 あの時だって急に攻撃してきた先生避けたら勝手に骨折っちゃうわ、事情知らない生徒たちがまとわりつくので体を振ったら吹っ飛ばして怪我させちゃうわ。大事になってしまったのだ。
 「あの教師だって去年いっぱいは勤められたんですよね。処分甘すぎるって言うか」
 「そのくせ1年を怪我させたのは事実だからって、マクベアー先輩留年を受け入れちゃって」
 ベイル先輩は悔しそうに唇を噛む。
  
 「だけど、3年に泣きつかれたにしろ、今回大事になれば処分は免れませんよ」
 俺が真面目な顔で見つめると、ベイル先輩は頼りなさげな顔をした。
 「やっぱりかなぁ。俺もっと早く止めてればよかったかなぁ」
 うぅ〜んこの先輩に止められたかはわからないけど…。とにかく大事になっていないでくれよ。
 祈る気持ちで運動場のドアを開けた。

 自分の目を疑った。
 精霊が少年を胸に抱き、空中に浮かんでいたのだ。
 神々しいまでの美しい風景に息をするのも忘れてしまう。
 あの髪……あの少年はもしかしてフィル・テイラか?
 本当に精霊なのか……?そんなはずは……。いや、でも肌のうちからほんのり光るような、あの神聖なまでの存在感。まさしく精霊だと感じる。ゆっくりと精霊が地面に降り立つと、彼の友人だろうか3人の少年たちが駆け寄っていた。
 その様子にすっかり観入り、ざわめく生徒の声がどこか別の世界のように思えた。
 
 「これは夢か?」
 ベイル先輩の声でハッと現実に戻される。そこで自分が何をしに来たのか思い出した。
 俺は3年生の一団にツカツカと歩いていく。
 「先輩たち、歓迎会とは一体どういうことです。状況を説明して下さい」
 イラつきながら睨み上げた。
 「寮長。これは……そんなつもりじゃなくて」
 「そうなんだ。1年に軽く力を見せるつもりで……ここまでになるとは……」
 顔を青くした先輩方は、涙目で言い訳を始めた。
 動揺して話せるような状態に見えない。すると1年の方から声が上がる。
 「マクベアー先輩と1年が試合することになったんです」
 「はぁぁ?」
 試合?!嘘だろう……。

 「何やってんですかあんたら!退学ものですよ!」
 思わず先輩を怒鳴りつける。ビクッと肩をすくめて、顔が青を通り越して白くなった。
 俺は先輩方を睨むと、焦りながら1年に質問する。
 「それでその1年は?どこにいる?無事なのか?」
 すると1年がわらわらと俺に集まりだした。
 「無事なんてもんじゃないです!すごかったんです!もうダメだと思ったら、光がパァーッ!って」
 「あの木刀で戦ってた奴もすごかったぜ!マクベアー先輩の攻撃が全然当たらないんだ」
 「確かに最後の一撃すっごいカッコ良かったよな!」
 「だけどあっちのがすげーよ!精霊だぜ!精霊出せる奴見たことあるか?俺物語の中だけかと思ったよ」
 皆一様に興奮したように話し出す。

 運動場を見れば蔦に絡まり倒れた三日月熊と、蹲るマクベアー先輩がいる。
 土がめくれた運動場と、三日月熊を見た時には最悪の事態を想定した。しかし倒されたのはどうやら先輩の方らしい。
 1年が?そんなことがあり得るのか……。

 「ベイル先輩!とりあえず先輩と1年は部屋に戻して下さい。後で連絡しますので!」
 「わわわ、わかった!」
 俺は先輩方や1年の波をかき分けながら、運動場にいる4人の1年生の元へ向かった。先程の精霊がいないところから、やはりこの中の誰かに仕えているのか?

 「君たちが試合したのか?」
 近付いて改めて確認する。7歳のフィル・テイラとトーマ・ボリス、8歳のレイ・クライスと、12歳のカイル・グラバーのグループだ。
 殆どが歳の幼いこともあって、俺が案内したからよく覚えている。
 フィル・テイラは1年の中でも一番目立つ少年だ。珍しいこの髪色と印象的な瞳。愛くるしさが残る整った顔立ちで、女子たちの間で騒ぎになっていた。
 トーマ・ボリスは今年の1年の入学首席だし、レイ・クライスは顔も頭も出来が良いのに女の子問題である種の有名人。
 身長が高く細身なカイル・グラバーの情報は少ないが……。案内してる時、動作の無駄が少なく音を立てないのは驚いた。何処か訓練を受けた兵のような雰囲気を感じさせる子だ。フィル・テイラの家の住み込みをしているらしく彼に敬語をつかっているようなのだが、それだけとも思えなかった。
 よりにもよってこの目立つ年少組を相手にするとは。
 血の気が引いていくような気がした。

 「怪我はしていないか?」
 俺が慎重に聞くと、フィルは自分のや友人たちの身を確認しながら振り返る。
 「あ、トーマとレイは避難してたので大丈夫です。僕は……まぁ三日月熊にシャツのボタン取れたくらいで」
 「三日月熊にっ?!」
 俺がガバリと肩を掴むと、フィルは頭を振る。
 「爪引っかかっただけで、大丈夫です。……ただカイルが」
 心配げな顔をする。
 三日月熊の爪が引っかかる状況も気になるが、そんな彼がさらに心配するとは……。
 見ればカイルの手には木刀を持っている。
 マクベアー先輩と戦ったのは彼か。
 ただならぬ子だと感じてはいたが、よく戦えたものだ……。

 「怪我したのかっ」
 俺はカイルに近寄り、服をめくって怪我を確認しようとする。だが、カイルはバッと後ろに下がって首を振る。
 「怪我してませんっ!」
 「何強がってるの。マクベアー先輩の木刀お腹に当たってたじゃないか」
 フィルは口を尖らして、カイルの上着をペランとめくりお腹を出させた。
 だが、腹部には少し赤みがあるだけで傷と言ったものはなかった。
 「あれ?」
 「ないねー」
 カイルのお腹をペタペタ触りながら、フィルとトーマが小首を傾げる。
 「もういいでしょう」
 カイルはくすぐったかったのか、お腹をかばいながら服を下ろした。
 
 レイは自分のことのように胸をはる。
 「俺は見てたぜ。マクベアー先輩の木刀をヒラヒラかわすの!カイルが直で貰ったのって、最後の一撃くらいだよな?すげーよ!」
 その言葉にカイルうつむいて考え込むように唸る。
 「やはり当たったのか……?」
 「はぁ?何言ってんだ当たってたろ」
 「確かに俺も剣がかすったと思った。衝撃はきたんだが、剣が当たった衝撃じゃなくて。…………多分、先輩のは木刀じゃない」
 「木刀じゃない?」
 俺は眉根を寄せた。カイルの木刀を受けとる。これは木刀のようだが…。

 「どういうこと?」
 フィルは可愛らしく小首を傾げた。
 「打ち合ってる時は確かに硬いんです。でも木刀同士で打ち合ってる時の音とは違うって言うか……。最後の一撃も思った程の衝撃なかったですし……。」
 「音ぉ?そんなのわかるのか?」
 疑わしいといった感じてレイが腕を組む。だが、フィルはあっさり信じたようだ。
 「カイル耳がいいんだよ。じゃあ特殊な木刀なのかな?」
 フィルがうーむと唸った。

 「俺だって学習してんだよ。前に怪我人出しちまったからな。」
 ヨロリとよろめきながらマクベアー先輩が現れる。
 「木刀の柄は本物だが後は偽物だ。」
 「偽物ぉっ?!」
 フィルが差し出された木刀を確認する。峯の所を触ろうとするとサラリとすり抜けた。
 「何っだこれっ!!」
 レイが興味津々で何度も手を行ったり来たりさせる。俺も触ってみると、砂のような感触がした。
 「土属性の三日月熊に木刀作ってもらったんですかっ?!」
 トーマがマクベアー先輩に詰め寄る。
 「そうだ。温度の低い物には硬く当たり、温度のある物には砂になる。つまり人間や獣相手に切ろうと思っても、当たった瞬間に形状を崩して霧散するんだ。俺の素振り用でな。早く振りぬけば衝撃はあるが、当たっても赤くなる程度だな」

 フィルはすり抜ける木刀を確認して、カイルのお腹あたりも確認する。
 「本当だ。砂の粉がついてる」
 そう呟いてため息を吐くと、情けない顔をした。
 「めっちゃビビって損した」
 「わかったら本気でこないだろう?当たってくれたらすぐわかったんだがなぁ」
 マクベアー先輩も頭をかいてため息をつく。 
 それ程このカイルという少年は俊敏だと言うことか。
 「上手く騙せたと思ったんだが、気付かれるとは……」
 マクベアー先輩が悪い顔でニヤリと笑うと、カイルは恐縮して頭を下げる。
 「しかし、最後の一撃の鳩尾は効いたな。息が止まるかと思った」
 「すみません……なんか……完全に倒さないと起き上がる気がして」
 「俺は屍人か」
 からかうように顔をしかめる。
 
 「木刀はわかったんですけど。召喚獣呼ぶのやり過ぎではないですか?」
 俺は厳しい顔付きてマクベアー先輩を睨む。マクベアー先輩はそれを受けてバツが悪そうな顔をした。
 「確かにそうだが、あれは薬を使ったコイツらも悪い。何でもいいとは言ったが、薬は騎士道に反する。だからちょっとお仕置きをな」
 以前の剣術の大会で相手に薬盛られたことがあったんだっけか……。大会には辛うじて勝てたが、時々痺れが出ると聞いたことがある。

 「今からそんなものに頼ってはダメだ」
 腕を組んでそう言うと、カイルとフィルは頭をブンブンと降った。
 「誤解です!使ってません!」
 「本当です!その証拠にマクベアー先輩が目をおかしくしていた時、カイル打ち込まなかったじゃないですか」
 すがりつくように言うと、マクベアー先輩は考えるように唸った。
 「……確かに。薬を自ら使ったのだったら好機だったはずだ」
 フィルがにっこりとほほ笑む。
 「でしょう?薬は使ってないです」
 「では勘違いなのか?俺が目をおかしくしたのだろうか……いやしかしあの幻覚は……確かに」
 唸りながらブツブツと呟く。

 フィルはパチンと両手を鳴らした。
 「そう!勘違いです!僕は何にもやってません!いやー勘違いで死にかけましたよ」
 うんうんと頷くフィルに、マクベアー先輩は笑う。
 「殺すことなどありえん。カルロスに命令してあっただろう?少しお仕置きをしてやれと。召喚獣が主人の命令をたがえられないことくらいは知っているはずだ」
 そう言われてフィルはハッとした。

 一呼吸間が空いて、フィルは笑った。
 「もちろん知ってますよ!知ってますけど、どの程度のお仕置きかわからなかったんですよ」
 「いや、お前すっかり忘れてただろう」
 レイに突っ込まれて、ウッと口をつぐむ。
 「カルロスのお仕置きって……。砂のやつですか?」
 俺がもしやと聞いてみると、マクベアー先輩は軽く頷いた。
 あれは過去にも何人かやられたことあるんだよなぁ。
 「砂?岩の拳の間違いでは?」
 フィルが眉を潜めて首を傾げる。
 「そんなことしたら死んでしまうじゃないか」
 マクベアー先輩がキョトンとするとフィルが脱力して言う。
 「いや、完全死んだと思ったんですけど」

 「グガァ」
 振り返れば蔦に巻かれた三日月熊が、悲しそうな声をあげている。
 「あ、ごめんごめん。ヒスイ、蔦解いてあげて」
 フィルがそう言うと、先程の精霊が再び現れ手を上げて蔦を解いて見せた。
 この精霊はフィルが出したのか……。近くで見ると尚美しく可憐だ。あのマクベアー先輩でさえ、口を開けて魅入っている。
 
 「ヒスイ…我が身に控えよ」
 脱力したようなフィルの声とともに、精霊が姿を消す。
 「あぁぁぁ、何で消すんだよ。綺麗なお姉さん」
 レイが盛大に不満をもらした。だが、それは俺自身も思っていたことだったのでギクリとする。
 「話にならないからだろう」
 カイルのレイへの言葉が胸に刺さる。

 「カルロスだっけ?大丈夫?」
 フィルはマクベアー先輩の元へやってきた三日月熊の頭を撫でる。
 怖い目にあっただろうに、何て物怖じしない子なんだ。
 三日月熊は「グアグア」鳴いて伏せをする。何だ?と皆が不思議に思っていると、フィルは嬉しそうに背に乗った。
 三日月熊はそのまま4足で立つと、首だけでフィルを振り返る。まるで「どう?」と聞いているようだ。

 えぇぇっ!!
 獣が自ら背に人を乗せると言うことは、敬意を表している。マクベアー先輩は大きいから乗ることはしないが、普通は主人以外行わない行為だ。
 「お詫びなんていいのに。でもありがとう!」
 フィルは嬉しそうに笑って三日月熊の背になつく。
 「えへへ、キンタローになった気分だなぁ」
 キンタロー?誰だろう。すごい幸せそうだ。マクベアー先輩も三日月熊の様子に頭をかいている。

 「フィル様、三日月熊の説明途中ですけど」
 カイルが苦笑してフィルを三日月熊から下ろす。フィルはハッとしたような顔になった。
 「そうだ!三日月熊のお仕置きの説明がまだだった。お仕置きが砂ってどういうことです?」

 マクベアー先輩は苦笑して、三日月熊の頭を撫でた。
 「カルロス、見せてやれ」
 三日月熊の右の拳が砂で覆われ、それが固まって岩のようになった。
 しかし再び砂のように変化すると、ザラザラと地面に落ちる。地面には小袋ひとつ分の砂が落ちた。

 「え……どういうこと?」
 砂を見つめ目を瞬かせるフィルに、トーマは目をキラキラさせて説明を始めた。
 「岩の拳は土をまとわせるって言ったでしょ?あれは拳に能力で砂を吸い寄せて岩を形成してるんだ。能力を切れば砂になって落ちる」
 身振り手振りで表現する。何となくオモチャのような動きだった。
 「へー原理としてはジシャクのサテツみたいな感じか……。」
 フィルがポツリと呟く。
 「ジシャク?サテツ?」
 俺が聞き返すと、慌てて首を振る。
 「いえ!何でも!つまりカルロスのお仕置きって……」
 「頭から砂かぶせることだ」
 至極当然とばかりにマクベアー先輩が頷く。
 フィルは砂だらけの自分を想像したのか、マクベアー先輩に叫ぶ。
 「それはひどいっ!頭から砂だらけじゃないですか!誤解だって言ったのにっ!」
 
 その様子が可愛らしくて思わず吹き出してしまったが、1つ咳払いをしてマクベアー先輩を見上げた。
 「とにかく、いくら何でも今回のことはやり過ぎです。3年生を含めて処分は覚悟しておいて下さい」
 いくら手加減をしたと言っても、大事になりすぎた。
 「俺だけの処分にならんかなぁ?」
 マクベアー先輩はため息と共に肩を落とす。
 気持ちもわからないでもないが、それは無理だろう。

 するとその様子を見ていたフィルが、スッと手を挙げた。
 「あのー、処分なんかよりお願いがあるんですけど」
 
 
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