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第5章〜転生王子は学寮で

お茶を飲みながら

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 「うまっ!これマクリナ茶か!」
 白いカップに映える緑茶色を見つめ、レイがため息をつく。
 マクリナはここ2年の間に、安定した供給体制をつくることに成功した。薬でもあり、美味しい薬用茶でもあるマクリナは国内外に大人気の商品となっている。
 いくら栽培しても間に合わない為、マクリナ茶畑を増やした程だ。

 「なかなか手に入らないんだよなぁ。」
 レイはカップを見つめながら残念そうに呟く。
 増やしたと言っても数に限りはあるからな。大事な薬でもあるので、優先順位を付けざるを得なかった。他の大陸にとっては希少なお茶なのだろう。
 「空間移動で取り寄せられるぞ。」
 カイルがテンガを見やりながらそう言うと、レイは嬉しそうに指を鳴らした。
 「そうか!その手があったのか!」
 そんな喜んでくれるなら嬉しいな。俺はカイルと目配せして微笑む。
 確かにテンガいなかったら国外生活辛かったかも。テンガに感謝だな。あとで存分に撫でてやろう。

 俺はマクリナ茶を一口飲んで息を吐いた。
 「そう言えば2人とも遅かったね。俺寝そうになってたよ。」
 からかうように言うと、レイは頭を掻いた。
 「あー…悪い。でもフィルやカイルのせいだったんだぞ。」
 そう言って口を尖らせる。
 「僕たちのせい?」
 キョトンとしてカイルと顔を見合わせた。トーマはそんな俺達の様子に苦笑する。
 「今フィル達は寮内で有名なんだよ。僕もいろいろ聞かれちゃって困っちゃった。」
 
 「い、色々聞かれたって何を?」
 俺はカップを置いて、身を乗り出す。カイルも神妙な顔つきで2人の顔を見つめた。
 レイとトーマは「えーと」と呟いて、聞かれた質問を思い出す仕草をした。
 「フィルやカイルの出身地とか、家とか、年齢とか…。」
 「精霊とはどういう経緯で契約したのかとか、カイルの剣の師匠は誰かとか…。」
 やはり身辺調査かぁ…。あんまり身辺を探られると俺もカイルも大変まずい。
 悪目立ちしちゃったからなぁ。冷や汗がにじむ。

 「あと、将来何を目指しているのかってことでしょ。」
 「どのクラブに入るのか決まってるのかとも聞かれたな。」
 ……ん?何か俺の思ってる方向と話ずれてきたな。
 「あと好きな女の子のタイプとか?」
 「あ〜!聞かれた聞かれた!彼女いるのかとかな!」
 何だそれ。
 「何で男子寮の生徒にそんなこと聞かれるんだ。」
 カイルも拍子抜けしたのか、戸惑ったように首を傾げた。レイは面白くないと言うように頬を膨らませる。
 「女子寮に姉妹がいる男子生徒に聞かれたんだよ。」
 「え、歓迎会のこと女子寮にまで広がってるの?」
 俺は思わず眉を潜ませた。

 今回の件はオフレコということになっている。
 先輩方はばれたら大半が処分対象になるし、何よりマクベアー先輩が退学になるのは避けたい。
 3年はもちろん快諾だった。1年も怪我人は出ていないし、当事者の俺たちが望むならと承諾してくれた。
 まぁ、喋ったとしても運動場はすでにヒスイが整地して元に戻している。今更確認しようにも証拠がないのだけど。
 それでも広がるのはあんまり良いことだとは思えなかった。

 俺の表情で懸念を感じ取ったのだろう。レイが軽く笑う。
 「大丈夫、これは今回の事には関係ないから。」
 トーマもそれに同意して頷いた。
 「フィルもカイルも美形だからね。もともと女子寮の方じゃ話題になってたみたい。」
 美形か……前世じゃ考えられない騒がれ方だな。可愛らしい顔で産んでもらって、グレスハート王国の両親に感謝しよう。
 すると、レイは先ほどの笑顔から一変して悔しそうな顔になった。
 「俺だって顔はいいのに。何でだ。おかしい。」
 お茶を仰ぐようにして飲み干すと、カイルに向かってカップを差し出す。
 「もう一杯っ!」
 まるでヤケ酒のおっさんのようだ。カイルが呆れながらポットでお茶を注ぎいれる。
 変に何もしないで素を見せた方が、レイは面白いと思うんだけどなぁ。

 「ところで、寮長とマクベアー先輩に昨日の答え聞いてきたんだろう?どうだったんだ?」
 カイルはポットを置くと、話を切り替えるように2人を見た。その問いに2人は笑顔を見せる。
 「沐浴場もくよくばの件だろう?マクベアー先輩も先輩方も協力するって。フィル達の寛大な処置に感謝するってさ。」
 「寮長も学校側に申請書出したけど、もともと老朽化していて改修する予定だったから大丈夫だろうって言ってたよ。」
 2人の言葉に俺は椅子から立ち上がり、万歳するように手を上げた。
 「いやったーーーーーっ!!!」
 
 【やったっすね!】
 【フィル様良かったです〜。】
 テンガとホタルが足元にやってきて、一緒に喜ぶようにぶんぶんとしっぽを振る。
 俺は嬉しさをこらえきれず2匹をむぎゅっと抱きしめた。
 「嬉しいよっ!ありがとう!!」
 しかしふとテーブルを見ると、俺の喜びように驚いたレイたちが目を瞬かせている。俺は無言で椅子に腰かけると、お茶を飲んで息を吐いた。
 「いやいや、何事もなかったみたいにお茶を飲むな。」
 レイのツッコミに俺は小さく舌打ちをする。
 
 「そんなに嬉しいものなのか?オフロって言うのは。」
 さっぱりわからないというように息を吐くので、俺はコックリと頷いた。
 「嬉しいよ。身を清めるだけじゃ疲れは取れないんだよ。湯船につかって体全体を暖めると、いい睡眠がとれるしね。」
 寮に来て唯一ガッカリしたことがある。お風呂だ。やはりこの世界は沐浴が主流らしい。
 仕方ないからここでも樽風呂作るか〜と諦めていたのだが、昨日マクベアー先輩の種明かしを聞いて思いついた。マクベアー先輩の召喚獣である三日月熊の能力を活用すれば、お風呂くらい簡単に造れるんじゃね?って。

 三日月熊が磁石のように引き寄せた土には、酸化鉄が多く含まれている。それを石灰と粘土と混ぜればセメントが出来る。さらに砂利や水を混ぜればコンクリート。
 岩を積んで間をコンクリで埋めてもらえば、水を通さない岩風呂の出来上がりだ。

 いけるっ俺の岩風呂計画っ!

 俺は小さくガッツポーズを作る。にまにまする顔を抑える事が出来そうになかった。そんな俺をレイが気味悪そうに見ている。
 いいじゃないか喜んだって。
 「そう言えば、フィル様はお風呂にいろいろ入れてましたよね。」
 ふと思い出したようにカイルが言うと、トーマは興味ありげに俺を見た。
 「いろいろって?」
 「いろいろだよ。薬草や鉱石。木や花や果物なんかも入れることあるよ。それぞれ効能があって、温まったり、癒されたりするんだ。」
 「へー。」
 俺はお茶で喉を潤して、感心するトーマにほほ笑む。
 「このマクリナ茶と一緒。これはマクリナの成分をお湯に溶かしてそれを飲む。でも成分って言うのは肌からも吸収するんだ。温泉ほどの効能はないかもしれないけど、とてもいいんだよ。」

 すると、突然レイが叫んだ。
 「あーーーーー!温泉で思い出した。ラミア様のこと!あれどういうことだよ。他の人いたから聞けなかったんだけど、聞きたかったんだよ。」
 急に詰め寄られて俺は目をパチクリさせた。何のことかわからない様子の俺に、苛立ったように眉を寄せる。
 「昨日寮長とマクベアー先輩にラミア様のこと言ってただろう?」
 言われて昨日のことを思い出す。

 あぁ…確かお風呂の必要性と効果について話をしていた時のことか。『聖教会の神子も温泉で体を癒す』『やり方によっては温泉と同様の効果が得られる』という話をしたっけ。
 聖教会の名前出したら寮長たちもお風呂造りに乗り気になってくれたんだよな。さすが聖教会、信用がある。
 
 「確かに言ったけど……。何でラミアのこと知ってるの?」
 神子とは言ったが名前は出してないはずだ。
 「な、なな、名前呼びっっ!!」
 レイはよろめくように、オーバーリアクションで顔を覆う。
 何だ?何なんだいったい。

 「僕たち宿に残ったでしょ?宿の人が癒しの湖にラミア様が滞在してるって言ってね。その時すでに夕方だったのに、レイが行くって大変だったんだよ。」
 トーマのへらりと笑う様子に大変さは窺えないが、そう言うならばそうなのだろう。
 そういや帰ってきた時、ちょうどカイルがレイを羽交い絞めにしてたとこだったな。何の遊びかと思ったが、あれはそういうことか。

 「それにしてもラミアのことだってよくわかったね。」
 俺の言葉に、レイは探偵の様におでこに手をあてた。
 「フィルは癒しの湖の存在をこの間まで知らなかった。と言うことは、フィルの言う温泉の神子はラミア様しかいない。俺はそう推察した。」
 なるほど。それは素晴らしい推察だ。
 俺たちはパチパチと拍手する。
 「ありがとう…って拍手なんかいらないよ!何で話してくれなかったんだよ!ラミア様に会ったって。」
 不満げに口を尖らした。

 俺は戸惑うように眉を下げる。
 「いや、むしろみんな知ってると思わなくて。」
 レイは悲しそうな顔をすると、ガックリと頭を落とした。
 「神様は不公平だ。俺こそラミア様に会いたくてたまらないのに。」
 「そんなに有名な神子なの?」
 俺はキョトンとして首を傾げる。

 カイルは呆れたようにため息を吐いた。
 「フィル様…さすがに俺でも知ってますよ。神子姫ラミアと言えば、クリティア聖教会の大司教ですから。」
 「大司教!?」
 大司教と言う役職は、何万と言う教会関係者の中で、百人余りしかいない人達じゃないか。
 「えー、あんな小さな女の子が?」
 もっとこう…大司教と言うと、おじいさんとか想像してたんだけど。

 「ラミア様は見た目は少女だけど、中身は20歳超えてるよ。」
 「えっ!!!」
 トーマの言葉に驚愕する。レイはそんな俺を恨めしげに見つめた。
 「20歳でも充分最年少だけどな。妖精を身に宿す能力を持つ人は成長が遅くなるんだ。それだけ妖精との結びつきが深く、力も強いってこと。そんな稀有な存在だから大司教になれるんだよ。」
 なるほど。だからラミアが来たときコクヨウが人以外の何かを感じたのか。

 「ラミア様綺麗だった?可愛かった?美しかった?」
 だんだん近付くレイの顔を押さえコックリと頷く。
 「確かに綺麗だったよ。神秘的な感じ。」
 大人びた雰囲気だったけど20歳超えてると聞いて納得した。何だか人なのに神々しい雰囲気まであったもんな。

 「行けばよかった…湖。」
 しょんぼりとするレイに、俺はぽんと肩を叩く。
 「僕の時は大目に見てもらったけど、別の人に見つかったら捕まっちゃうよ。もういるとは限らないし。」
 俺が去った後で結界張りなおしただろうから、入れはしないと思うが…。止めないと今からでも馬車飛ばして行っちゃいそうな気がする。

 「やっぱり駄目かぁ…。」
 レイはため息を吐くと、再びお茶を仰ぐように飲みほした。
 可能ならやる気だったのか……。


※感想・お気に入り登録ありがとうございます!
投稿確認で日参していただいている方、投稿ではない日だったらすみません。
紹介希望のご意見ありがとうございます。ズラッと長いと読むのも大変でしょうから、簡単なものを作成しております。

アプリとパソコン半々で作ってるんですが。パソコンでこのお話書いて出来上がったと保存しようとしたら、不手際により後半全部消えました。ショックで埴輪のように口開けたまま固まりました。こまめに保存しようと思います。




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