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第6章〜転生王子は学校で

入学式

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 「おかしいところないかなぁ。」 
 トーマはくるりと回り、不安そうに聞く。回った拍子にローブのセーラーカラーがひらりと動いた。
 トーマは今、白いシャツにワインレッドのネクタイを締め、チャコールグレーのベストに、紺色の膝丈ズボンと同色のローブを着ている。足元は紺のハイソックスに革靴だ。
 
 「大丈夫だよ。」
 俺はその服装をチェックすると、にっこりと微笑む。すると、ホッとしたように笑った。
 「良かった。制服なんて着たことないし、皆に見られると思ったら不安になっちゃって。」
 トーマが心配するのも無理はない。彼はこれから始まる入学式の、新入生代表として大講堂の壇上に上がるのだから。

 ステア王立学校には指定の制服がある。今着ているのがそれだ。
 前世でも中高制服だったけど、さすがにローブは初めてだな。
 ローブの着丈は膝より少し長い。男子のズボンは長いものと膝丈を選べて、女子はプリーツスカート。
 ローブの襟の縁と袖口、ズボンとスカートの縁にそれぞれ金糸の二重ラインが入っていた。
 
 学校の紋章である3つ頭の鳥はエンブレムにして、ベストの胸ポケットとローブの胸元に刺繍されている。
 男子のネクタイと女子のリボンは、学年によって色が異なる。1年はワインレッド。2年はシルバーグレー。3年は濃いグリーンだ。

 やっぱりこういうの着ると学生感が増すよなぁ。
 嬉しくてにやついてると、ふと列の並びで離れてしまったカイルに目が留まった。ネクタイが少し曲がっている。
 じっと見てると目が合ったので、ジェスチャーで指摘した。
 通じるか不安だったが、それで意味がわかったようだ。カイルが慌ててネクタイを直す。
 『すみません。』と口をパクパクさせると、少し恥ずかしそうに頭を下げた。

 し慣れないんだろうなぁ。カイルのネクタイ姿は見たことがない。それどころか城では黒の私服ばかりだったので、制服のような色のついた恰好自体新鮮だ。 
 カイルは長ズボンをはいていた。1年は膝丈を選ぶ者が多かったが、やはり年齢が上なほど膝丈は避けたがるものらしい。2、3年生になるほど長ズボンの割合は多かった。
 確かになぁ。マクベアー先輩の膝丈……似合わないもんなぁ。
 浮かんだ想像を慌ててかき消す。

 それにしてもカイルは制服が似合う。ローブによってひょろりとした体つきが隠れるので、背の高さが引き立てられてとてもカッコイイ。
 背が高いといいなぁ。カイルと比べちゃうと、俺とトーマはローブに着られちゃってる感が抜けない。

 そうしょんぼりしていると、他の1年生たちのざわめきを感じて顔をあげた。1年の入場は一番後と言うことで大講堂の前で待たせられていたのだが、何か動きがあったようだ。
 「1年は列を乱さぬよう、静かに講堂に入るように!」
 大講堂の扉の前で先輩が叫ぶ。シルバーグレーのネクタイだから2年生だ。
 今年の1年生は男子50、女子40の90人。列は背の順で並んでいた。トーマと俺とレイは悲しいかな男子の中で小さいトップスリーだ。
 年下だから仕方ないんだけどさ。早く成長期来ないものか。

 大きな両扉が重い音を立ててゆっくりと開かれる。相当重いのか、開けるのも大人2人がかりだ。
 大講堂の中は外見の予想通りとても広かった。
 高い天井の効果か、迎える先輩方や先生たちの拍手が何倍にも響いて耳を振動させる。緊張の為か、頬が紅潮していくのを感じた。

 「わぁ。」
 思わず感嘆の声が漏れる。
 外装は大きな石を積み上げた作りだったが、内装は漆喰の様なもので全面覆われていた。
 側面の上部には窓が幾つもあって、ステンドグラスになっている。自然をモチーフにしたステンドグラスは外からの光を受け、真っ白な壁や天井に色を付けていた。
 講堂の中はとても神聖で幻想的だ。
 外部からの1年生は、圧倒されてみんな口をポカンと開けている。

 2年3年はすでに席についていた。ネクタイから見ると、並びとしては3年が講堂の1番後ろ。その前が2年で、壇上近くに用意されている無人の席が1年のものだろう。
 先ほど号令をかけた先輩に促され、その席に腰掛ける。
 壇上には演説台を真ん中に右側が教師らしき一団、左側に生徒らしき一団が座っていた。
 壇上にいるのだから生徒会とかそういう人たちかな?
 号令をかけた先輩も、壇上の席に座る。あの人も生徒会の人か。

 俺が興味津々で見つめていると、演説台に1匹の黄色い鳥が止まった。オウムくらいの大きさの鳥だ。白い口ばしがラッパのように広がっている。
 何だろうあの鳥。
 そう思っていると、鳥がファンファーレを奏で始めた。
 予想外すぎて思わずビクっとなる。
 式の開始なんだろうが、まさかファンファーレが流れると思わなかった。

 「拡声鳥カクセイチョウだぁ。」
 隣にいたトーマが小声ではあるが興奮したように言った。
 「拡声鳥?」
 「あの鳥を触りながら話すと、その人の声だけ大きくなる鳥。もともとは山岳地域とかで召喚獣に重宝されてる鳥なんだけど。多分壇上の先生か誰かが召喚獣にしてるんじゃないかなぁ。」
 楽しそうに話すトーマの解説にふむふむと頷く。
 なるほど、マイク代わりってことか。

 人のざわめきがおさまってきた頃。壇上にいた生徒の一人が立ち上がった。
 演説台の前に立ったのは、クールな顔付きの2年生だ。年齢はカイルと同じくらいだろうか。ダークブラウンの長い髪を後ろで一つに束ね、スクエア型の銀縁メガネを付けていた。
 青白いまでの肌はどこかはかなげだが、涼やかなまなざしが講堂に向けられると講堂内の空気が変わった。生徒の緊張感と言うのだろうか?恐怖とはまた違ったピリッとした空気を感じる。
 「1年生諸君。中等部入学おめでとう。私は中等部生徒総長ライオネル・デュラントだ。2、3年の生徒を代表して君たちを歓迎しよう。」
 拡声鳥によって講堂に響く声は、とても知的で威厳のある声だった。

 デュラント先輩が話す中、レイがそっと耳打ちする。
 「体が弱くて今14歳らしいんだけど、相当のキレ者だよ。ステア王国の第3王子でもある。気を付けろよ。」
 ステア王国の第3王子?!この学校創った王国の王子ってこと?
 俺は目を大きくしてレイを見る。
 「気をつけろって?」
 まさか気に入らない奴を退学にしちゃうとか?
 俺の不安そうな顔付きを見て考えていることがわかったのか、レイは小さく笑う。
 「違う違う。賢明で思慮深い人だから、不平等な決断する人じゃない。でも下手したら校長より力あるってこと。」
 あーそういうことか。
 「ステア王国は昔から身分による蔑視が少ないんだ。学問重視の国だからかな。『知恵は権力とは無縁である。何者にも脅かされることはない。』って学校説明書にあったろ。そんくらい賢人が多い王族なんだよ。」
 俺は頷く。確かにそれでここ選んだもんな。
 「そうか。なんだ脅かさないでよ。」
 俺が安心したように笑うと、レイはチロリと俺を見た。
 「でもだからこそデュラント先輩を崇拝している生徒は多い。俺、お前が何かやらかさないか心配。」
 ひどい……。俺だって平和に暮らしたいよっ!
 俺は口を尖らせレイを睨む。

 するとトーマが俺のローブの袖を引いて、小声で話しかけてきた。
 「デュラント先輩こっち見てない?」
 ハッとして俺たちが見ると、歓迎の言葉を終えたデュラント先輩がこちらを見ていた。涼やかな眼差しと目が合う。思わず固まった。

 しまったっ!話聞かないでおしゃべりしてんの見つかった!!
 時にして2〜3秒。気分は蛇に睨まれた蛙。
 ゴクリと喉を鳴らすと、デュラント先輩は口角をあげフッと笑った。そうして身を翻し、席に戻って行く。
 い、今…笑った?
 「焦った。入学早々目をつけられたかと思った。」
 レイがホッと息を吐く。
 いや、あんなに見てるんじゃ、確実に認識はされただろう。
 不真面目と思われたかなぁ。初っ端から悪印象がつくとは。
 ため息をついて前を見る。せめて残りは真面目にしよう…。

 しばらくすると校長先生らしき人が演説台の前に立った。
 足も見えないくらい長いローブを身にまとい、白髪に白いあごひげを蓄えている。
 残念だ。杖ととんがり帽かぶっていたら完璧に魔法使いのおじいさんなのに。
 「中等部学校長のシーバル・ゼイノスじゃ。1年生入学おめでとう。2年生3年生も再び顔を合わせる事が出来て嬉しい限りじゃ。」
 校長は優しそうにほほ笑むと、顔のしわが一層深くなった。

 「1年生は初等部から上がって来た者も、新たにこの学校の門を叩いた者も、中等部に入った今時点では皆同じじゃ。一般科目のみであった初等部と、中等部ではまるで違う。専門科目は選択授業が大半であるが、中には必須科目もあり、必要数の単位が足りなければ留年もありうる。その計算を間違えないようにのぅ。」
 1年がざわめくと、校長はひげを触りながらウィンクする。何だかお茶目なおじいさんだ。

 「では…新入生代表トーマ・ボリス。壇上へ。」
 校長の声にトーマが音を立てて立ち上がる。
 「ひゃいっ!」
 …………噛んだ。
 隣のレイが吹き出すのをこらえている。
 やめてあげなよ。緊張してんだから。俺だって上がっちゃうよ。
 新入生代表は入学試験の首席が務めると決まっている。だがディアロス観光行きたさに中等部の入試を受けたトーマにとって、これは予定外の任務だった。
 
 トーマが壇上に上がり、校長の前に立つ。お辞儀をすると、校長から小さな箱のような物を渡された。
 あれが学章か。箱の中には1年全員分の学章が入っているらしい。ここの生徒である証なので、シャツやべストなどにつけるのだと言う。
 「ありがとうございまひゅ。」
 …………また噛んだ。
 レイが声のない笑い方をしながら、お腹を押さえている。俺は呆れたように息を吐くと、レイの膝をぺちんと叩いた。
 「レイが失敗した時、僕爆笑するよ。」
 俺の言葉にレイは慌てて身を正す。
 もーしょうがないな。これからトーマが新一年生の代表として一言喋るところなのに。

 トーマはゆっくり深呼吸する。まだ緊張がとれないのだろう。
 だが拡声鳥を触った途端、後姿なのにあきらかに喜んでいるのが解った。
 トーマらしいな。思わず小さく笑う。
 「僕たち1年生はこのステア王立学校で、これからたくさんのことを経験すると思います。いろいろ困難もあるでしょう。その時こそ積極的に努力し、学び、良き仲間とともに乗り越えて行くことをお約束します。」
 そう言ってぺこりと頭を下げる。校長は頷きながら微笑んだ。
 「この学び舎で、素晴らしき学びを得られることを先輩、教師一同望んでおる。」
 校長の言葉が述べられると、大講堂に拍手が響き渡った。



※感想・お気に入り登録ありがとうございます!
 ようやく学校が始まりました。授業とかクラブ活動とかいろいろやらせてあげたいことあって迷います。
 ブレイクタイムのキャラ紹介はこれから人物紹介なども足していきたいと思います。
 誤字脱字あったらすみません。気付いたら直したいと思います。 
 
 
 
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