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第6章〜転生王子は学校で

選択しよう2

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 アリス達は一段上の席に腰を下ろし、俺たちは話しやすいように体をそちらへ向けた。もう一人の女の子は俺と目が合うと、にっこりと笑って手をひらひらと振る。
 「はじめまして!私はライラ・トリスタンよ。」
 彼女はライトブラウンの髪を三つ編みにして上にまとめあげ、髪にアラビア風の細工が入った髪留めをしていた。

 「僕達は……。」
 俺たちも自己紹介をしようと思ったが、ライラはそれを止めた。
 「あなた達有名だから知ってるわ。可愛いフィル君に、主席のトーマ君に、かっこいいカイル君。あといろいろ残念なレイ・クライス。」
 大きなグリーンの瞳で俺たちを見つめ、1人ずつ指差しながら話す。
 女子に可愛いって思われてるのかと俺が思っていたら、最後のレイに対する表現に思わず吹いた。
 ハンサムだし頭良いし身のこなしに品がある。モテる要素たくさんあるのに、言動で損してるよなと思っていたのがレイだった。女子の認識もそれかと思ったら、思わず笑ってしまったのだ。
 レイに睨まれて、俺はサッと目をそらす。

 話し方からしてサバサバした感じの女の子のようだ。柔和な印象のアリスと並ぶと、静と動というくらいタイプが違って見える。
 目元の彫が深く、少しエキゾチックな雰囲気の綺麗な子だった。将来美人になるのは容易に想像できる。
 チクリとやられはしたが、可愛い女の子が好きなレイとしては見逃せないだろう。そう思ってチラッとレイを見た。だが、彼は意外にもライラそっちのけでアリスばかりを見つめていた。
 あれぇ、好みじゃないのかな?性格キツメだから?

 そんなことを思っていると、アリスが少し身を乗り出すように聞いてきた。
 「さっきの話なんだけど、フィルは選択科目もう決めたの?」
 問われて俺は資料をぺらぺらとめくる。
 「えっと決めたのは召喚学と鉱石学、加工。あと……そうだな、商学と薬学はとっとこうかなって思ってる。」
 あともう2つくらいは欲しいんだよなぁ。
 「それから剣術と……。」
 言いながら唸ると、アリスとカイル以外の3人が目を見開いた。

 「剣術?!その小さい体は不利だろう!死んじゃうぞ!」
 「そうよ。いくらなんだって体格が違うんだから。」
 「無理はしない方がいいよ。フィル。」
 マクベアー先輩との試合前みたいにすごい心配されてるな。
 いや、確かにあの時は三日月熊の爪に引っかかっていただけだった。いいとこがまるで無かったのは自覚している。
 皆が心配する気持ちもわかるけどさぁ。俺だってスケさんに習ってそこそこ出来るんだぞ。
 俺はちょっと拗ねるように口を尖らせた。

 「大丈夫。フィルはとても強いのよ。ね、カイル。」
 アリスはフォローするようにカイルに同意を求める。未だ疑わしいという顔の3人に、カイルはしっかりと頷いた。
 「フィル様は持久力はあまりないが、体格差を感じさせない動きを見せる。俺だって時々ひやっとする時があるし。」
 「こんなに小さくて可愛いのに?」
 小さい言うな。気にしてるんだから。年相応の身長です。むしろトーマより少し大きいからね。
 だがライラは今にも頭を撫でそうな瞳で見てくる。
 ねぇ、そんなに俺って愛玩系なの?

 「カイルはフィル至上主義的な感じあるからなぁ。それもかなり盲目的な。」
 カイルの言葉は疑わしいと息をつくレイに、トーマはうんうんと頷いた。
 トーマまでひどい……。
 「わかった。意地でも剣術受ける。」
 俺は半眼で皆を見ると、資料と一緒に渡された選択希望書を出し、剣術と書き込んだ。
 「あぁぁぁ。」とレイたちの落胆の声が漏れる。
 大丈夫だって言ってるのに。

 俺はついでに召喚学、鉱石学、加工、商学、薬学を追加して希望を埋める。
 あともう1つ何にするかな。
 トーマの希望書を覗き込むと大幅同じだったが、剣術のかわりに史学と自然学が書かれていた。
 史学には国々の歴史だけじゃなくて、地方の伝承も調べるらしいし、自然学も動物の生態に通じるところがある。動物好きトーマらしい選択だ。全くブレなくて清々しい。

 じゃあカイルは…と見ると、召喚学が入ってないだけで俺と全く同じだった。
 「…………いいの?それで。」
 そんなに不安か?俺から目を離すことが。
 俺が口元を引きつらせてると、カイルは質問の意味がわからないと言う顔をした。
 ……無自覚なの?
 「いや、他にやりたい選択授業ないのかなって。」
 「ないです。」
 見事なまでの即答だ。ある意味カイルもブレないな。
 
 上の席では、自分の希望書を眺めながらライラがため息を吐いていた。
 「私はほぼアリスと一緒なんだけど、自然学の代わりに剣術選択する予定なんだよねぇ。フィルと試合することがあったらどうしよう。」
 心底悩んでいるような顔に、俺は微妙な気持ちになる。
 やはり小動物かなんかと勘違いされてないか?女の子にそんな心配される俺っていったい……。

 レイが小さく鼻で笑った。
 「女の子が剣術なんて随分勇ましいな。」
 ライラは少しカチンときたようだ。しかし、すぐさまにっこりと笑ってみせる。
 「そうね。最近女子寮の前で可愛い女の子見つけちゃ片っ端から声かけてる変質者も多いし。護身術は必要だと思ってるのよ。」
 暗にレイのことを含めているような物言いに、レイが「なっ!」と声をあげてわなわなしている。
 レイ……時々姿見えないと思ったらそんなことしてたのか。本当に通報されるからやめたほうがいいぞ。

 だが……やはりレイの彼女に対する言動が、他の女の子と違う気がする。ライラもレイにだけ特にキツイし。この2人、知り合いなんじゃないだろうか…。
 だが、だったら何でそのこと言わないんだろう。

 「それで、アリスちゃんは選択どれをとろうと思ってるの?まさか剣術なんて取らないでしょ?」
 嫌味を含んだレイの言葉に、アリスは困ったように眉を下げた。 
 「私はライラと違って武術苦手だから…。今考えてるのは自然学と召喚学と天文学、美術に調理、薬学と鉱石学かな。」
 「え!アリスちゃんも鉱石学とるの?!」
 ショックを受けたようによろめく。

 「フィルと一緒にいたら鉱石にとても興味出てきたの。フィルに比べたら全然なんだけど。」
 アリスはふふふと照れたように笑った。
 俺の知る限りアリスはとても漢字のマスターが早い。
 ここ数年で漢字と言葉のイメージを合わせ、鉱石を使いこなせるようになってきていた。
 スケさんカクさんやカイルにも教えたが、だんとつの安定性だった。

 もちろん教えたのは漢字の一部だし、危険の少なそうな漢字に限定しているのだが。その限定したのが、覚えるのにかえって良かったようだ。
 「鉱石のことでわからないことあったら聞いてもいい?」
 「うん。俺も改めて学ぶことあるから、一緒に勉強しようね。」
 俺が言うとアリスは嬉しそうに頷いた。

 「地獄を見るよっ!」
 レイが上の段の机にしがみつきながらアリスに訴える。
 なんだよ、怖いな。
 2時間サスペンスに出てくる『祟りじゃ!』って驚かしてくるお婆さんじゃないんだから。
 「え、ええ?」
 アリスは訳が分からなくて戸惑っている。
 そりゃそうだろう。いきなりそんなこと言われたら。
 「気にしなくていいよ。アリス。」
 俺が苦笑まじりに言った。

 「地獄ぅ?」
 ライラはレイを訝しげに見た。
 「鉱石学は先生が気難しいんだって。」
 トーマの言葉に、あぁ…と納得する。
 「それは私たちだって先輩の話聞いて知ってるわよ。ね、アリス。」
 ライラの言葉にアリスが頷く。
 「うん。だから多めに取ろうと思ってるの。」
 「フィルと同じ考えかぁ。うーん、皆が取るなら僕も鉱石学とってみようかなぁ。」
 「えええっ!」
 レイは情けない顔でトーマを見た。
 まさかトーマまでそう言い出すとは思わなかったらしい。

 レイは渋そうな顔で逡巡していたが、やがて肩を落とすと小さく呟いた。
 「じゃあ、俺も鉱石学とる……。」
 「選択して大丈夫か。地獄見るんだろ?」
 カイルが意外そうな顔で言う。
 「だって……アリスちゃんとなるべく一緒に授業受けたい……。」
 「は?」
 もごもごと言うレイに、聞き間違いかと聞き返す。するとレイは開き直ったように口を尖らせて言った。
 「一緒の選択授業って大事なんだぞ。課題やったり課外授業行ったり。テスト前に勉強会したり。」
 「はぁ…。まぁ、そうだね。」
 勢いに気圧されるように頷く。

 「召喚学や薬学なんて選択する生徒多いから一般科目とそう変わらないし、天文学なんてさっぱりわからない。少数の選択授業で俺が出来そうなのなんて、自然学と鉱石学しかないんだよ。だから俺はそれを取る!」
 グッと拳を握るレイを、アリスは困ったように見ている。そんなことで選択して良いのかと言う様子だ。

 「調理と美術もあるよ。それはいいの?」
 トーマは首を傾げて聞いた。
 あーそうだ。それこそ女の子が多そうな授業。レイにとってパラダイスではないか。
 「あー………どっちも壊滅的で。」
 レイはしょんぼりと目を伏せた。そしてサラサラと資料の裏に絵を書く。
 それを見た途端、レイ以外の5人がざわめいた。

 そこには歪んだダルマにもじゃもじゃの毛が生え、大きな牙がついていた。首らしき所に三角定規が刺さっている。
 その本体から謎のコードも出ていた。
 
 「何この三角。首っぽいとこに刺さってて怖いんだけど。」
 「何か飛び出してるんじゃないか?武器みたいな。」
 「このヒモみたいなのなんだろう。」
 「魔獣が繋がれてるんじゃない?ヒモで。」
 「そっか、魔獣だから牙ついてるのね。」

 俺たちが絵を見ながら話し合っていると、レイがポツリと呟いた。
 「それ……ロイ……砂猿なんだけど。」
 ざわめいていた全員が一斉に彼を見る。

 ロイ?あの可愛いロイがこんなモンスターに?
 あぁ!この三角もしやスカーフ?このコードしっぽかいっ!

 ツッコミまくって笑いたかったが、あんまりにもレイが沈んでるので、冗談にもできなかった。
 いなかったら……腹を抱えて死ぬほど笑うのに。
 申し訳ないが、たしかにこれは壊滅的だ。

 「選択しないのは正解だわ。」
 ライラは同情的な瞳でレイを見つめた。
 「この絵見たら恋してても冷めるわよ。それに女子にとって、調理場に足手まといな男子いたらイラつくだけだし。」
 「そこまで言うことないだろう。」
 ムッとして席を立ったレイを、ライラは頬杖をつきながら見る。
 「じゃあ、調理と美術選択してみる?まぁ、女の子に囲まれて留年するならあんたも本望でしょうけど。」

 「お、男なんだから調理なんか出来ないの当たり前だろ!なぁ、フィル!」
 レイは悔しそうに俺に同意を求めるが、俺は申し訳なさそうに手を上げた。
 「ごめん…調理できる。」
 「えっ!」
 「むしろ得意。あ、そうか選択授業調理でもいいな。」
 俺はうんうんと頷きながら希望書に調理と記入した。
 「え!嘘だろ!」  
 驚愕するレイに、カイルも手を上げる。 
 「フィル様に教えてもらってそこそこには。」
 「カイルまでっ?!お前男の中の男みたいなのにっ!」
 「料理と男は関係ないだろう。」
 呆れたように言うと、希望書に調理と記入した。レイは信じられないと頭を抱える。
 「フィルとカイルが入ってくれたら調理の授業も楽しそう。教えてもらいたい料理あるし。」
 アリスは期待の眼差しで俺達を見て、ライラは驚きながらも楽しそうに口元を上げた。
 「さすが今時の美形は料理までこなしちゃうのね。トーマ君は?」
 トーマは困ったように笑った。
 「あー…、母さんも職人だから僕も簡単なのだったら。だ、だけど僕は授業はとらないよ。」

 1人立っていたレイは、力なく椅子に腰かけた。
 「レイ?」
 トーマの問いかけにレイが呟く。
 「幸せの国へ行くがいい……。」
 「と、とらないってば!」
 眉を下げて、ぶんぶんと首を振る。しかし、レイにはその声が届いてないみたいだった。

 ライラがその様子を見下ろし、ボソっと呟く。
 「こういうとこだわ……。」
 言わないであげてっ。残念に思わないであげてっ。
 

※感想・お気に入り登録ありがとうございます。
 楽しみにしていただけて嬉しい限りです。
 ようやく選択授業決まりました。登場人物も増えたので、合間合間にキャラ紹介を増やしていこうと思います!
   
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