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第6章〜転生王子は学校で

ライラ

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 学校の敷地内にはカフェが何箇所かある。今来ているのは初等部寄りにあるガーデン風のカフェだ。
 初等部を意識してなのだろうか?
 そこかしこに小動物の置物が置いてあって、メルヘンでファンシーな雰囲気を醸し出している。
 「ここのカフェは個室が多いから、女の子たちはよく使うの。」
 入口で買った飲み物を片手に、アリスが振り返る。食べ物や追加の場合は運んでもらうそうだが、初めの飲み物は自分で持っていくシステムらしい。

 「フィル君やカイル君、ここ来たことないでしょ?」
 ライラの問いかけに俺たちは頷く。
 カフェどころか、寮と学校と大講堂しか行ってない。ライラとアリスに案内されなきゃ、なかなかこちらまで足を運ぶこともなかった。
 
 しかし、どうりで場違い感ハンパないと思ったよ。先ほどからすれ違う人の大半が女の子だったのはそう言うことか。個室に向かうまでの道のり、チラチラと見られてカイルは特に居心地悪そうだった。
 このメルヘンな背景にカイル合わないもんなぁ。レイやトーマの方がよほど馴染むんじゃないだろうか。だが残念なことにレイは寮長に呼び出され、トーマは先生の用事で来ることができなかった。
 来てたら喜んだろうなぁ……レイが。

 「この個室、カフェの中で1番の特等席なのよ。」
 「そうなんだ?」
 さて、いったいどんなおとぎの国が現れるのか。
 おそるおそる部屋の扉を開けて、中を覗き込んだ。思わず「おぉ。」と声が漏れる。

 俺の予想はいい意味で裏切られた。
 3畳ほどのその部屋は、小さなガーデンのようだった。壁や床に本物の緑や花が植えられていて、生花のいい香りがする。大きな窓があって日の光がたっぷり入ってくるので、明るくてとても気持ちよかった。
 窓の外は寒いからか花がないのに、室内には花が咲き乱れてるなんて…おかしな感じだ。

 個室って言うから窮屈なイメージあったけど、思ったより広いんだな。
 真ん中に四角いテーブルと、壁につけるようにL字型のベンチが置いてある。 
 入った順に腰を下ろし、持ってきた飲み物に口をつけた。
 ハーブティーに、柑橘系の果物を浸した冷たい飲み物だ。飲むと爽やかな甘みと冷たさが体に浸透していくようだった。温かいのにするか迷ったが、部屋の中は暖かいからちょうど良い。

 注目さてれて緊張していたようだ。解放された安心からか、俺とカイルは「は〜」と深く息をついた。
 その様子を見てアリスがくすくすと笑う。
 「ごめんね。フィルとカイルにライラを改めて紹介したかったの。」
 俺は大丈夫と言うように、こっくり頷く。
 「寮で知り合ったの?」
 「ううん、ライラとはカレニアの港で馬車が一緒になって、それで仲良くなったの。」
 じゃあ、俺たちがレイと知り合ったのと一緒か。
 「アリス私よりも2つ下なのにすごく落ち着いてるでしょう。話してみたらとても話が合ったんだよね。」
 ライラがアリスに同意を求め、アリスも嬉しそうに頷く。
 
 アリスの初めての友達かぁ。
 グレスハート王国じゃ、町でも城でも大人に囲まれることが多かったから同世代の友達いないようだった。
 俺だってアリスにとって幼馴染ではあるけど、中身が20代じゃあなぁ。カイルだって生い立ちからか、年齢の割に大人びてるし。第一俺たちは男だ。
 良かったなぁと、俺も自然と顔がほころぶ。

 「そう言えばフィル君たちもグレスハート王国出身なんだよね?」
 ライラの質問に、グラスを傾けながら頷く。
 「アリスとカレニアで会ったってことは、ライラも他の大陸出身?」
 何の気なしに聞くと、ライラは首を振った。
 「今はカレニア国よ。その前はルワインド大陸のバルサ国にいたけど。」
 思わずグラスを持った手が止まる。
 「ルワインド…。」
 隣にいたカイルがかすかに呟いた。
 努めて冷静を装っているようだが、口元がかすかに震えていた。反射的に過去を思い出したのだろう。

 学校生活でルワインド大陸の子と知り合うだろうことはわかっていた。いずれは仲良くなってくれたらと思っていたが、初っ端からはきついんじゃないだろうか。
 カイルの事情はアリスもよく知っているはずなのだが……。
 俺がチラリとアリスを見ると、わかっていると言うように一度目を伏せる。
 わかっていてライラを会わせた?どういうことだろうか?
 
 「何故…今カレニア国に?」
 緊張のためかカイルが少しかすれた声で聞いた。
 その微妙な差には気付かなかったようだ。ライラはお茶を一口飲んで息を吐く。
 「ん〜アブド家って知ってる?」
 「確か…爵位としては男爵だが、バルサ国ではかなりの私財があると言われてる家だ。」
 カイルが思い出すように言うと、ライラは意外だと言うように目を大きくした。
 「へぇ、知ってる人もいるのね。うちも捨てたもんじゃないわ。」

 「え、ライラってアブド男爵家なの?あれ、だってトリスタンって…。」
 俺が首を傾げていると、アリスは俺たちに顔を向け説明する。
 「トリスタンはライラのお母様のお家の名前。カレニア国で商売をやっているらしいの。」

 ライラはこっくりと大きく頷いた。
 「バルサ国に貴族の地位突っ返してきたから、もうアブド男爵ではないわ。今うちはカレニアの商人ね。」
 その衝撃的な内容に、俺とカイルは「ええっ!?」と大きめの声を出してしまった。
 ここが個室で良かった。

 貴族の地位を突っ返す?そんなこと聞いたことない。貴族という肩書はその家にとってとても大事なものだ。命より大事だと言ってもいい。
 国から土地が与えられたりお給料を貰えたりと、爵位があるだけでいいこと尽くし…。
 金を出しても貴族になりたい人がいるのに突っ返しただって?しかも商人ってどういうことだ。
 
 ライラはふぅと息を吐いた。
 「やっぱり驚くかぁ。うちはご先祖様がもともと商人だったし。爵位もらった後もずっと商売はやってたから、うちの家族的には商人だってことに違和感はないんだけど……。」
 頬杖をついて驚く俺たちを見つめる。
 「だって返すなんてよっぽどだよ。どうして爵位返すことになったの?」
 身を乗り出すようにして聞く俺に、ライラは「ん〜」と少しだけ逡巡した。

 「返さざるを得なかったっていうか……。おじい様や父様が、数年前に獣人を擁護し始めたのよ。」
 え……。
 俺とカイルはライラの言葉に目を見開く。
 「獣人の作る商品って、素晴らしくてね。うちの家はそれを独占的に仕入れて売ることで、大きくなったようなものなのよ。表立っては言えなかったけど、訪れる獣人とは仲良くしてたわ。」
 そんな貴族がいたのか…。カイルをチラッと見ると、かすかに首を振る。カイルも知らなかったようだ。

 「まぁ、擁護した結果ルワインド大陸の反対派が圧力かけてきて。貴族として国に従属するのが難しくなったのだけど……。」
 そうか……それで爵位を捨て、カレニアで商売を……。
 「貴族から商人なんて大変じゃない?」
 俺が神妙な面持ちで聞くと、ライラは手をひらひらと振って笑う。
 「全然。やっぱりご先祖様の商人の血かしら?おじい様も父様も、かた苦しいパーティーより生き生きしてるわ。外の大陸からの方が擁護しやすいってわかったしね。」
 茶目っ気たっぷりに言ったその言葉に、影は見当たらなかった。

 「どうして……。」
 カイルが呟いてライラを見据える。
 「どうして擁護し始めたんだ?そんなことしたらルワインド大陸じゃ異端視されると知ってたはずだ。」
 カイルは幾分か揺れる声で聞いた。
 確かに、ルワインド大陸の住民にとって、それはタブーとされてきたはずだ。実質大陸にいられなくなってしまっている。

 だが、ライラはキョトンとしてカイルを見た。
 「えー、グレスハート王国の人がそれ言う?」
 ライラはからからと笑った。
 んん?どういうこと?
 「私おじい様から、グレスハート王国の王子が、獣人を公の従者にしたって聞いてたんだけど……違うの?」
 首を傾げられて、俺は目をパチクリさせる。

 急に自分たちの話になって、とっさに言葉が出なくなってしまった。隣でカイルがかろうじて呟く
 「違わないが……。」
 「じゃあ本当なんだ?おじい様と父様がその話に感動してね。擁護宣言したのよ。他の国の王子が立ち上がったのに、恩恵預かってる自分たちが黙ってていいのかって。」
 「そんな……渡り聞いた話で、そう決めたと?本当じゃなかったら……いや、本当でも国を離れて後悔していないのか?」
 カイルは信じられないと言う様子で、ライラを見つめた。ライラは少し考えるように唸る。
 「確かに国を離れて寂しい気もするけど。うちの家族はスッキリしてるからそれでいいと思うわ。」
 そう言ってカイルに微笑んで見せた。

 アリスへと視線を移す。彼女は俺たちに向かって微笑んでいた。
 あぁ、そうか。ライラを俺たちに紹介したいって、こういうことか。
 他にも仲間はいると……。あの判断は間違っていなかったと。

 ヤバい…何だか堪えなければ泣いてしまいそうだった。
 カイルもきっとそうだよね……。
 チラリと隣を見る。そして驚愕した。
 泣きそうなのを堪えているのか、カイルは顔を真っ赤にして震えていたのだ。

 「っ!!」
 「ちょっ、カイル?」
 小声でカイルの背中をさする。
 いっそのこと泣きなよっ!無理しないでさ!
 だが、カイルは目をガッと見開き震えるばかりだ。
 ねぇ、息吸ってる?堪えるために息止めてるんじゃないの?瞼くらい閉じたら?

 「え、何、怒ってるの?」
 ライラに訝しげに見られて、俺は慌ててブンブンと頭を振る。
 「違う違う!ライラの家の話に感動してるんだよ。ね?カイル。」
 俺の問いかけにカイルは息を詰めたまま頷いた。ますます顔が赤くなっている。
 ねぇっ!死ぬよっ?!
 
 「変わった感動の仕方するのね……。」
 ライラは呆気にとられたようにポカンとしていた。
 うん。ポカンとするよね。
 俺も気持ち分かち合おうと思ったんだけど……ビックリしてたら置いていかれた。
 
 でも、カイルの喜びだけは1番わかった。
 


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 面白いと言っていただけて本当にありがたいです。好きなキャラいると言っていただけると嬉しいです。
 ホタルとカイルとフィル人気でしょうかね?
 
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