トップ>小説>転生王子はダラけたい
50 / 125
第6章〜転生王子は学校で

調理

しおりを挟む
 本日は選択授業である調理の初授業だ。
 学年の女子が大半受けると言う受講人数の多さからか、調理室はとても広い。6人用の大きな机が10台並んでも悠々の広さだ。
 さらに隣の部屋にはかまど用の部屋があり、そこには10個のかまどが設置されていた。
 城の厨房も大小様々なかまどがあったけど、こんなにはなかったなぁ。
 学校の授業では一度に使用することになるから、これだけの数が必要になるのだろう。

 今回の受講人数は女子35人と、男子12人で47人。おおよそ6人ずつのグループに分かれることになった。
 グループの組む人は自由でいいらしく、俺とカイルとアリスとライラの他に、近くにいたオルガと言う女子とターブと言う男子に入ってもらった。

 「こんなに男子少ないとは思いませんでした。」
 カイルは不安そうに教室を見回す。俺はそれに頷いた。
 「うん。そうだね。」
 「やはり男子は調理苦手だからでしょうか?」
 首を傾げるカイルにアリスが笑う。
 「これでも多いほうよ。多分。」
 そうなのか。作るのは面倒だけど、美味しいもの食べられるんだから男子だって嬉しいと思うんだが。

 すると調理の先生がパンパンと手を叩いて注目を促した。教卓の前にいる男の先生を見る。
 「はぁい、グループが出来たわね!では、改めて自己紹介します!調理担当のスティーブ・ゲッテンバーです。皆よろしくね!」
 うふふと笑うゲッテンバー先生は、ボディビルダー並みのマッスルボディだった。
 短髪の赤毛で、この寒さにも関わらずピチピチのTシャツ。その上にはピンク色のフリル付きエプロンをつけている。

 「今年は男子生徒が多くて、先生とーっても嬉しいです!」
 そう言ってカイルにウィンクする。カイルはゾクリと肩を震わせた。
 どうやらカイルは気に入られたようだ。
 仕草や口調からして、心は乙女なのかもしれない。キャラ……濃いなぁ。

 「さて、今日は比較的簡単な焼き菓子を作りますよぉ。」
 黒板には焼き菓子のレシピが絵つきで書かれている。
 絵も可愛ければ、文字さえも可愛い。これ書いたのゲッテンバー先生なんだろうな……。
 レシピの材料と工程を見ると、この焼き菓子レシピはクッキーのようだ。確かにこれだったら混ぜて形作って焼くだけなのでわりと簡単だろう。
 グレスハートの町の子も、親子でお菓子を作ると言ったらクッキーが主流だった気がする。

 だが少数の生徒から、不安そうな声が聞こえた。
 不思議に思った俺に、ライラがそっと耳打ちする。
 「殆どの子はそこそこできるけど、上流階級の子は全くやった事ないって子もいるのよ。」
 なるほど。平民の子は母親の手伝いをしているが、コックのいる家はそもそも厨房にすら入った事ないか。

 「ライラはできるの?」
 ふと気になって聞いてみた。ライラだってもとお嬢様なのだ。今も私財はあるのだから、コックがいてもおかしくない。
 ライラは口を少し尖らす。
 「壊滅的な人と一緒にしないでよ。多少はできるわ。得意ではないけど。だから困ったらよろしく!」
 真面目な顔でお願いする様子に、頷きながら笑う。

 ゲッテンバー先生が再び手を叩いた。
 「初めてでも大丈夫よ。材料は用意してあるもの。バターを柔らかくなるまで練って、砂糖を入れて白くなるまで練って、玉子を入れて、粉を少しずつ入れながら優しく混ぜて下さい。」
 黒板のレシピを工程ごとに指しながら説明していく。掲げるとマッスルな腕の筋肉が際立った。
 すげーな……。筋肉は正義のヒューバートが見たら感動しそうだ。

 「生地を寝かせる時は半刻ほどかかるので、生地がまとまったらお茶でもして待ちましょ。」
 ゲッテンバー先生はそう言うと、口に手を当ててうふふと笑う。
 「ではグループごとに、ここに書かれた順番で仲良く進めてみてちょうだい。わからなくて困ったら先生を呼んで下さい。はじめ〜!」
 
 先生の言葉でざわめきと、調理器具の音がし始める。
 「作業は分担してやる?ボウルひとつだし。」
 アリスの言葉に俺は頷く。
 「そうだね。工程ごとに交代して、形作るのとかは皆でやろう。」
 そう言って、器具を並べながら順番を決める。
 
 カイルがバターをクリーム状になるまで練り終わったら、砂糖を混ぜる俺の番だ。
 だが砂糖を見つめて唸る。
 混ぜる砂糖は細かい方が馴染むんだよな。ここの砂糖はちょっと粗めだ。
 「先生すり鉢ってありますか?」
 先生の所まで行って質問すると、ゲッテンバー先生が頬に手を当てながら首を傾げた。
 「あらフィル君。あるけど、何に使うの?」
 「砂糖細かくします。バターと馴染みやすくなるので。」
 そう説明すると、ゲッテンバー先生は目を大きくした。
 「あら、初めて聞いたわ!それはフィル君のお家の技なのかしら?じゃあ、いいわ。出来たら食べさせてちょうだいね。」
 「はーい。」
 俺はすり鉢を借りると、砂糖を細かくし始めた。

 周りの生徒が不思議そうに見ている。ライラはそれを見ながら訝しげに聞いてきた。
 「何やってるの?そんな工程なかったけど……。」
 「バターとなじむんだよ。細かいと。」
 同じ班のオルガはそれを見ながら、へぇと感心する。

 「バター終わりました。」
 カイルの言葉に、ちょうど砂糖を細かくし終えた俺は元気に返事する。
 「はいはーい。」
 すり鉢の砂糖をサラサラと入れて、白くなるまで手早く混ぜた。
 「はい、次ライラ。」
 
 「ちょっとフィル君!早すぎるわよ!何その手早さっ!料理人なの?」
 ライラを見ると玉子をようやく割ったところだった。
 ……玉子割るのにどんくらいかかってるんだろうか。
 とりあえず分担は終わったので、生地が出来るまでライラたちを見守る側へと徹する。
 
 俺は暇になったため、同じ班のもう1人の男子ターブ・レストンに声をかけた。ターブの分担は寝かせた後の生地伸ばしだ。
 「ターブだっけ?ちゃんと話すの初めてだよね。」
 にっこりと笑うと、ターブはぎこちなく頷く。
 「あ、うん。」
 
 だがそのままターブは黙り込み、沈黙が落ちた。何故か俺の目を見ようとしない。俺は首を捻った。
 俺、ターブに何かしただろうか?
 …………ん?ターブ?
 「あれ、君もしかして……。」
 俺の言葉に少年の肩がギクリと揺れる。
 「知り合いですか?」
 カイルが首を傾げた。ターブの様子に何か後ろめたいことでもあるのかと様子をうかがっている。

 「いや僕の知り合いじゃなくて、レイの知り合いだよね?」
 思い出した。どっかで聞いた名前だと思ってたんだ。
 レイの元カノの弟。
 レイはシスコンと言ってたが……。レイの女の子好きが元で別れたことを、ターブが恨んでいたんだっけ。
 そんな彼がレイを推薦して、俺たちもマクベアー先輩と試合することになったんだよなぁ。
 思い出せてスッキリした。カイルも言われて思い出したのか、「ああ」と声を漏らす。

 するとターブは諦めたように息を吐き、ぺこりと頭を下げた。
 「あの時はすまなかった。正直レイには恨みがあったが、君たちを巻き込むことになるとは思わなかったんだ。」
 反省してか下を向いたままのターブを、俺は慌てて顔を上げさせる。
 「ま、まぁ、結果的に問題なかったし。」
 だから黙ってと言うように「シーッ」とやる。

 「あの時って……何かあったの?」
 アリスは粉を混ぜるという分担を終え、うかがうように聞いてきた。
 「何もないよ。」
 俺はへらっと笑う。アリスは俺をじっと見た後、苦笑して頷いた。
 「わかったわ。もう生地出来たからお茶にしよう。」
 明らかに俺の言葉を信じてないなー。
 
 「ごめん……。」
 しょんぼりするターブに、にこりと微笑んだ。
 「とりあえずお茶にしよう。同じ班の仲間としてね。」
 
 
 
※感想・お気に入り登録ありがとうございます。
面白いと言っていただけるとジタバタするほど嬉しいです。グッズ欲しいですねぇ……手触り良いのがいいなぁ。もふもふして癒されたい。

今回は投稿遅れましてすみません。どの授業からやろうかといろいろ考えてました。次回は早めに投稿したいです。
1回目の選択授業は調理にしました。物語の中の筋肉率が高い気がしますが、特別好きなわけではありません。ゲッテンバー先生は友人の希望です。

 
しおりを挟む