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第6章〜転生王子は学校で

コクヨウのおるすばん

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 ボールの跳ねる音が聞こえる。
 その音に起こされるように、コクヨウはパチリと目をあけた。
 フィルに撫でられているうちに眠ってしまったようだ。

 コクヨウはあくびを1つすると、ベッドに寝たままの状態で手足をのばした。その拍子に体からコハクが転げ落ちる。
 ヒヨコめ、上で寝ていたのか……。
 鼻息を吐くと、その息がかかってくすぐったのかコハクは小さくクシャミをした。一瞬目を開けるが、また閉じて寝てしまう。
 
 小さい生き物は普通我を恐るものだが、コハクは全く物怖じしない。変な奴だ。

 起こすのは諦めて、部屋の中を見渡す。
 窓辺では精霊のヒスイがふわふわと浮かんでおり、部屋の中央では袋鼠フクロネズミのテンガと毛玉猫のホタルがボールで遊んでいた。だが、先ほどまでコクヨウを撫でていたはずのフィルの姿が見えない。
 また何処かに行ってしまったのか?
 
 起き上がると、それに気が付いたテンガがボールを持ちながらやって来た。
 【アニキもボール蹴りやるっすか?】
 【楽しいです!ボール蹴り!】
 ホタルの楽しげな言葉に首をかしげる。

 ボール……蹴り?
 ホタルは足で蹴ると言うより自分の体を転がし、ボールに体当たりして前に転がしていた。
 変わったやり方をするものだと思っていたが、あれでも本人の中では蹴る認識なのか。

 【夢中になっちゃうっす!】
 【なるです!】
 夢中になるほどどれくらいやっていたのだろう。2匹ははふはふと息が上がっていた。
 飽きもせずよくやるものだ。ボールを転がして何が楽しいのか。
 
 【やらぬ。】
 ピシャリと言うと、テンガはショックを受けたようにボールを落とした。
 【何でっすかーっ!】
 意味がわからないと言うように叫ぶお前がわからぬわ。やるやらぬは自由だろう。
 コクヨウはベッドから降りて、テンガの前に立った。

 【それよりフィルはどうした。また学校とやらに出かけたのか?】
 先ほど学校から帰ってきたはずだったが……。夜も学校があるのだろうか。
 すると落ちていたボールをつついていたホタルが顔を上げる。
 【違うです。フィル様はおっきい人に呼ばれてお風呂のお話し合いに行ったです。】
 【マクベアーとか言いましたかしら?】
 ホタルとヒスイの言葉に、昨夜のフィルを思い出す。
 あぁ、早く岩風呂作るんだと楽しげに予定表や完成絵を書いていたな。
 
 【ボクもお風呂入りたいです〜。】
 ホタルがうっとりとつぶやく。
 転がって汚れやすいホタルは、向こうの城でもよく風呂に入れてもらっていた。
 毛玉猫は水に濡れるのを嫌うことも多いと聞くが、どうやらホタルは違うらしい。
 濡れたホタルはプルンとした饅頭のように美味そうで、かじりたくなる衝動にかられる。
 それを思い出してジッと見てると、何やら不穏な気配を感じたのだろうか。うっとりした表情から一転して、バッと警戒するようにコクヨウを見上げた。

 【まだ食うとは決めておらん。】
 そう言うとホタルは慌てて部屋の隅に転がって行く。
 【やっぱりボク食べられるです!】
 【決めておらんと言うのに……。】
 記憶にないのだが、前に我がかじった事があるらしい。未だにトラウマになっているようだ。

 しかしそんなこと言ってたら口寂しくなってきたな。
 【テンガ、今日のプリン出していないのではないか?早く出せ。】
 要求するようにテンガに足を出す。
 【あれぇ?そうだったっすか?】
 テンガは大きく首を傾げた。

 嘘である。
 今日の分はすでに食べていた。

 テンガが出したのだから、よく思い出せばわかるはずだ。だがコクヨウに言われるとそんな気になるらしい。
 【ぷ・ぷ・プリンはどこっすか〜。】
 歌を歌いながら、ごそごそとお腹の袋を探る。
 【あら、よろしいの?】
 ヒスイはコクヨウに向かって悪戯っぽく笑うが、止める気はないらしい。
 コクヨウはニヤリと笑う。

 【おまたせっす!】
 ヨイショと取り出すプリンに、おもむろに顔を突っ込んだ。
 口の中にプリンの甘さが広がる。
 やはりこのプリンと言うものは毎日食べても飽きぬな。まろやかな卵の味が、苦みのあるソースと絡まって何とも言えぬ。
 悠久の時を生きてきたが、こんな極上のものは出会ったことがなかった。
 ペロリと口の周りについたプリンを、舌で舐める。
 
 【アニキは何でプリン食べるっすか?】
 テンガは首を傾げたまま、じっとこちらを見ていた。
 【プリンは美味いからな。】

 本来召喚獣と言うものは獣でいる時と違い、食物摂取による生命維持を必要としない。代わりとして主人から発するオーラを摂取している。召喚獣が主人と長く離れないのはこのためだ。
 もちろん食してエネルギーを摂取することも可能だが、その理由は嗜好によるものが多かった。

 すると恐る恐る戻ってきたホタルが、テンガの後ろから聞いてきた。
 【でもフィルさまの近くにいるだけで、ボク幸せでお腹いっぱいになるです。】
 その言葉にテンガも頷く。
 【そーっすよね!フィル様の近くは、キラキラして、ふわ〜ってして、るんるんな気持ちになるっす。】
 身振り手振りしながら楽しそうに説明する。

 フィルの体から発するオーラは人の中でも極上だ。しかもかなり強い性質を持っている。1度摂取すれば何日かはいらないくらいに。
 普通その質は精神状態によって変化する事もあるが、フィルの場合全く変わらなかった。どんな危機的状況でもだ。
 そんな人間などフィル以外に今まで会ったことがない。

 【コクヨウさんは、そんな気持ちにならないです?】
 キョトンとして聞くホタルに、コクヨウは再度口元をペロリと舐めた。
 すでに足元にはプリンの容器が3個並んでいる。
 【確かにフィルのオーラは極上だ。だが我はお前らとは少し性質が異なる獣だからな。フィルのオーラだけで充分足りるのだが、抑制もまた必要なのだ。】

 フィルはコクヨウやヒスイを含め、これだけの召喚獣にオーラを摂取されても有り余るほど強いエネルギーを持っている。
 だが不老不死であるコクヨウは、他の獣と違い限界以上摂取し取り込むことも可能であった。必要以上に摂取しない為の抑止力が食物摂取なのだ。

 【それは……必要かもしれませんわね。】
 ヒスイは顔を曇らせ、視線を下げた。
 【ただでさえフィルは私を繭から羽化させる際、生命力を使っていますもの。】
 あの時の生命力はすぐ回復したが、一時でも幼い体に負荷がかかったのは確かだ。
 オーラは生命力とはまた異なり、摂取し過ぎても死ぬことはないが……。
 しかしフィルはまだ幼い。それが成長にどんな影響が出るかわからなかった。

 【?よくわからないです。】
 【俺もさっぱりっす!】
 コクヨウたちの言ったことが理解できないのか2匹は頭の上に疑問符を浮かべる。
 その様子を見て、コクヨウはため息を吐いた。

 【つまり、フィルを食べたくならんようにプリンで誤魔化しているのだ。】
 詳細は違うが、大まかには合っている。この2匹には分かりやすかろう。

 そう見当をつけたコクヨウの予想は当たった。言った途端2匹はあわわわと震えだす。
 【た、たた、大変っすっ!】
 【フィルさま食べられちゃうです!】
 【プリン食べるの大事っす!!】
 さあさあと残りのプリンをすすめる2匹に、コクヨウは笑いたくなるのを必死でこらえた。
 ヒスイは後ろを向いて震えながら笑っているようだ。

 その時、ガチャリと鍵の開く音がした。ドアが開くのと同時に、ひょこりとフィルが顔を出す。
 「ただいま〜。皆いい子にしてた……あ?」
 部屋を見渡したフィルの視線が、コクヨウの所で止まる。

 ……見つかった。
 口元についたプリンは舐めとったが、足元にあるプリンは隠せていない。
 「コクヨウ〜。」
 ため息を吐いて部屋の中に入ってくる。そしてコクヨウを持ち上げて、膨らんだお腹を円を描くように撫でた。
 「ポンポンじゃん!も〜プリン食べ過ぎたらダメって言ってるのに。」
 呆れたように言って苦笑する。

 するとそんなフィルの足にテンガとホタルが縋り付いた。
 【フィルさまっ!】
 「え!何どうしたの?」
 【アニキはプリン食べないとダメなんす!】
 【フィルさま食べられちゃうです!】
 「は?どゆこと?!」
 2匹の訴えに驚いて、目を瞬かせる。

 【フィル〜?】
 騒ぎで起きたのだろうか、コハクが寝ぼけまなこでベッドをちょこちょこ歩いてくる。
 それからフィルの姿を確認するや、いきなりベッドからフィルに飛びついた。
 【フィル〜!ポッケ〜!】
 「わっ!危なっ!」
 コクヨウを抱えたままの状態でコハクを受け止めに行き、かろうじて腕に引っかかる。

 ホッと息をつくフィルに、3匹はそれぞれの場所でグリグリと頭を擦り付けた。
 【アニキにプリンっす!】
 【食べられちゃやです〜!】
 【ポッケ〜!】
 3匹の必死な訴えに、フィルは困惑して叫んだ。
 「何なのこのカオスっっ!」  

 その様子を見て、ヒスイはくすくすと笑う。
 「平和ですわねぇ。」
 それに応えるように、フィルに抱かれたコクヨウは大きなあくびをひとつした。



※感想・お気に入り登録ありがとうございます!
 フィルの料理レベルは高めです。前世でお弁当作ったりスイーツ作ったりといろいろ勉強してます。
 実食感想は次に少し出す予定です。

 今回は学校行ってるとなかなか召喚獣たちの登場も少ないので、こんな形で出してみました。
 次回はまた授業に戻ります。
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