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第6章〜転生王子は学校で

調理2

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  生地を寝かせている間、俺たちはお茶をすることにした。授業中にまったりとお茶が飲めるのは何だか嬉しい。
 惜しいのは手早く終えたせいで、まだ終えていない他のグループの作業音やざわめきが聞こえることか。

 「カイル君とフィル君のおかげで早くできちゃったわ。手際いいのね。」
 オルガは感心したように言った。
 アッシュブラウンの髪を長い三つ編みにした彼女は、少し早口で喋るのが特徴だ。
 「好きなんだ、料理。」
 城でも前世の食べ物恋しさに、いろいろ作ったりしてたしなぁ。

 レシピがわかっててもこちらで再現するのって意外と難しい。
 何せこちらは、買えば全部食材が揃う日本ではないのだ。向こうにある食材がない場合がある。
 見た目も味も一緒の物があれば、味だけ同じものもあるし、全く違うけど代用になりそうなのもあった。

 「実家じゃカイルも巻き込んでやってたよ。」
 はじめは料理長と試行錯誤やってたんだけど、仕事もあるのでカイルとやるようになったんだ。
 俺が「ね。」と顔を見ると、カイルははにかむように頷いた。
 「そうですね。それで鍛えられた感じです。」
 その言葉に皆が「へぇ。」と驚く。

 カイルはもともと料理が出来たわけじゃない。
 御飯は食べられるものなら充分。魚や肉は焼いて塩を振れば充分。
 グルメに対して貪欲な俺に、初め理解出来ないって感じだったもんなぁ。
 こっちの世界の料理だって素朴で美味しいけどさ。色んな味を知っちゃってるとなぁ。無性に食べたくなるんだよね。
 俺は日本食に思いをはせながら、紅茶を飲んで喉を潤す。

 すると、フーフーと息を吹く音が聞こえてきた。
 ターブが紅茶のカップに一生懸命息を吹きかけているようだ。
 そんなに猫舌なのか……。
 強く吹くからか、その度にカールのかかった金髪がふわふわと持ち上がっていた。
 何だかコハクを思い出す。

 「そう言えばターブは何で調理選んだの?料理とか得意なの?」
 男子は選択する子少ないからちょっと気になる。
 冷めたお茶にようやく口をつけていたターブは、パッと顔を明るくして俺を見た。今までしょんぼりした顔ばかりだったので、初めて明るい表情を見たかもしれない。

 「得意ではないんだけど、姉さんが可愛いお菓子好きだからさ。」
 そう言ってにこにこと笑う。
 「お姉さんにあげるの?素敵ね。」
 アリスの優しい言葉に、大きく頷く。
 「ゲッテンバー先生に習うと、可愛いお菓子や料理作れるらしいんだ。」

 お姉さんにあげる為に得意でない調理を選択するとは……健気すぎるっ!
 俺はこみ上げるものをこらえるように、口を手で覆った。
 そんなにお姉さんのこと好きなんだなぁ。

 すると「あれ?」とライラが首を傾げた。
 「お姉さん確か1年上よね?2年にもゲッテンバー先生の授業があるじゃない。あげちゃったらいっぱい食べることにならない?」
 ライラの言葉にターブが顔を曇らす。
 「姉さん調理は受けてないんだ。才能が……壊滅的で。1年の時に受けて単位取れなかったから……。」

 お姉さんも壊滅的なのか……。
 つか調理で単位取れないって何やったんだろう。
 ゲッテンバー先生わりと単位甘いって聞くのに。しかし、それは追求してはならない気がした。
 「そ……そっか!じゃあ、そろそろ作業再開しよう。美味しくて可愛いクッキー作ってあげないとね?」
 俺が微笑むと、ターブはこっくりと頷いた。

 ターブが寝かせた生地を薄く伸ばす。それを6等分にして個別に成形することにした。
 ゲッテンバー先生の授業では、成形は型抜きを使うようだ。型抜きは幾つかあって、それを使って生地にスタンプしていく。
 動物や花、ハート型なんかもあった。ハートはこちらでも可愛い象徴なんだな。
 ゲッテンバー先生の案としては、型抜きした後、楊枝で可愛い顔を描いてあげるのもオススメとのことだった。
 これならターブのお姉さんも気にいる可愛いクッキーが焼けるだろう。

 「ゲッテンバー先生できました。」
 型抜きして天板に乗せたクッキーを、かまどの部屋に持っていく。
 「あら、早いわね。それに可愛くできたわ!じゃあ、表面が乾く前に焼きましょう。」
 かまどは煮炊きが出来るような形と、ピザ窯のような形が横並びに合わさっているタイプだった。今回はオーブンとして使いたいので、窯側を使用する。

 「先生が薪を燃やして熱くしておいたから、後は入れるだけよ。火傷しないように入れてね。」
 ゲッテンバー先生が窯の扉を開けると熱風が吹き出した。
 火はもう小さかったが、窯の中はだいぶ熱い。
 炭の燃える朱色しゅいろ煌々こうこうと窯内を照らして、魅入ってしまいそうだ。
 ん?あれは……。
 中では火の妖精2匹が手をつないで踊っていた。とても楽しそうで、思わず笑みがこぼれる。
 
 クッキーを並べた天板を差し入れると、火の妖精たちは端に寄りながら興味ありげに見ていた。
 【あ!何か入ってきた!】
 【きたね!】
 【燃やしていいかな?】
 【いいね!】
 妖精たちが話していると、だんだん小さい火が揺らめき出す。

 ちょ!ダメダメ!!
 「クッキー燃やしちゃ駄目だからね!…………あ。」
 思わず出てしまった声に、俺はゆっくり振り返る。
 やってしまった。これでは窯に話しかける不思議ちゃんだ……。
 皆、聞いてたりする……?

 そっと周りの反応をうかがう。
 オルガたちやゲッテンバー先生、それに近くに居た他の班の子達は、俺を見つめ目を瞬かせていた。 
 聞かれてるっ!聞き逃してくれたらと思ったのにっ!

 しかし、皆は急にそんな俺から目を逸らすと、堪えるように震えだした。
 ん……?どうした?笑ってんのか?
 笑うのだったらいっそのこと、もっと大げさに笑い飛ばして欲しい。
 皆の様子に首を傾げていると、ゲッテンバー先生がいきなり俺を持ち上げ抱きしめた。

 「うわっ!」
 「フィル君たらっ、何て可愛いのっっ!」
 はい?何言ってるの突然。
 そう思ったけれど、ゲッテンバー先生が締め上げるのでそれどころではなくなった。
 「先生……苦しい。胸板が厚い……。」
 俺がギブアップだとパシパシ腕を叩くと、先生は慌てて解放してくれた。
 「あら、ごめんなさい!愛しい衝動が抑えきれなくて!」
 おほほと笑いながら、そっと下に下ろしてくれる。
 抑えてよ先生……。

 「だってフィル君たら、燃やしちゃ駄目だからね!なんて可愛いこと言うんですもの。」
 ゲッテンバー先生の言葉に皆が頷く。
 「フィル君しっかりしてるけど、私たちより年下なんだもんねぇ。」
 ライラが腕を組みながらしみじみと頷く。また頭でも撫でそうな表情をしていた。

 つまり……幼い子の戯言と思ってくれたのか?
 不思議ちゃんと思われなかったのはいいけど……。可愛いお子ちゃま扱いにショックをうける。
 俺死んだ歳プラス現世の歳にしたらアラサーなのにっ!
 そんな気持ちで落ち込む俺の肩を、カイルがポンと叩いた。
 わかってるからと言う顔だ。
 「…………ありがと。」

 クッキーが焼けるまでは、それから15分ほどかかった。クッキーの焼けたいい香りに、俺のショックもやわらいでいく。相当俺も単純だ。
 火の妖精は窯から出てくると、えっへんと言うようにお腹を突き出した。
 【燃やしてないよ!】
 【ないね!】
 「ありがとね。」
 俺はこっそりとお礼を言う。にっこり笑うと、火の妖精はますますお腹を突き出した。

 ゲッテンバー先生に出してもらい、焼き上がりを見る。
 「美味しそうに出来たね。」
 アリスの言葉に俺は頷く。窯で焼いたのは初めてだが、火の妖精のおかげか焦げることもなくうまく焼けている。
 しかし、板を覗きこんだターブは情けない顔で叫んだ。
 「あぁぁっ!!」

 「ど、どうしたの?」
 ターブの視線の先を見る。その辺りは確かターブが成形した範囲だ。
 「あ……。」
 オルガが声を漏らす。
 一番大きなハートのクッキーに、少しだけ亀裂が入ってしまっていたのだ。
 大きくしたいと分厚めにしていたから、焼く時膨張して割れちゃったのか。
 「あらぁ、ひび入っちゃったわね。」
 ゲッテンバー先生の言葉に、ターブはしょんぼりと肩を落とす。

 「小さいのもあるじゃない。これお姉さんにあげればいいのよ。」
 ライラは明るい声でターブの背を叩く。
 「料理は愛情なんだからっ!見た目じゃないのよっ!」
 「はい……。」
 ゲッテンバー先生たちの言葉に頷くが、ターブの気持ちは落ちきってしまったようだ。
 随分と張り切ってたからなぁ。

 俺は腕を組みながら周りの班の進行具合を見た。
 俺たちは一番進みが早かったが、まだこれから焼くと言う班も多いみたいだ。
 「ゲッテンバー先生。まだ他の班ができるまで時間があるし、これ飾り付けちゃ駄目ですか?」
 俺が聞くと、先生はクネリと頬に手を当てて唸る。
 「んーいいけど。でも飾り付けるような材料ないわよ?」

 「ありがとうございます!大丈夫です。ある材料使うんで。ターブ、そのクッキー持ってきて!」
 俺はすぐさま調理室の作業台に向かう。
 すり鉢で砂糖を入れて再度すり始めた。先ほどよりさらに細かく。粉砂糖になったら卵白を入れる。
 余った卵黄は後でカスタードクリームにしよう。

 よし、アイシング完成!
 アイシングは砂糖でクッキーに絵や文字を書いたりしてデコレーションする方法だ。高校時代、女子達相手にスイーツ教習をやっていた時も人気だった。
 「何やってるの?」
 作業台に戻ってきた皆が、不思議そうに見つめている。
 「これでクッキーに絵を描くんだ。固まれば糊の役目するから。」
 クッキーが冷めたか確認して、見本として自分のクッキーにアイシングを施す。絞るのがないからスプーンや楊枝でチマチマやるしかないがなかなか上手くできた。
 丸いクッキーにクマを描く。

 「わぁ、可愛いー!」
 アリスの声がワントーン上がった。ライラやオルガ達も出来上がりを見て、感嘆の声をあげる。
 あとは乾燥するだけなんだが、何時間も待てないから鉱石を使おう。クッキーくらいなら漢字使わないでも重ねがけでいいかもしれない。

 火と風の鉱石がついた指輪を取り出して呟く。
 「かんそう。かんそう。かんそう。かんそう。かんそう。」
 様子を見ながら乾燥させる。なんか念仏みたいだな。
 ……よし、固まったかな?

 「ほら、こんなに硬くなった。これなら補修出来るよ。」
 ターブは俺のクッキーを確認すると、パァっと顔を明るくさせた。
 「ありがとう!!恩にきるよ!!」
 そう言って見よう見まねでアイシングを始める。
 良かった。これで可愛いクッキーをお姉さんにあげられそうだ。

 俺はホッと息を吐いた。するとそのやり取りを見ていた女子達がズイっと近寄ってくる。
 「え、何?どうし……。」
 「私たちもやりたいっ!」
 え…。
 「どうやってこれ作ったの?教えて!」
 ええ……。
 「乾かすのって鉱石使ってたよね?これやったら乾かしてもらえる?」
 えええ……。

 困った。いや、そりゃそうかぁ。皆もやりたくなるよね。
 やったっていいんだが鉱石を皆持ってないしなぁ。俺がやるしかないのか?
 ひらがなで念仏みたいに唱えるの面倒だなぁ。漢字使いたい……。気楽にやっちゃった俺の自業自得なんだけど……。
 
 俺がうーむと唸っていると、カイルがサッとかばうように立った。
 「やるとしたら1人1個だ。授業に支障があるため、今の時点で焼き上がっている者だけだ。希望者には作り方を今から説明する。」
 カイルの言葉に女子達はうんうんと頷く。
 「それから鉱石で乾燥させるのはフィル様にお願いすることになる。それは集中がいる作業だ。皆一定距離離れる事。俺が窓口となってフィル様に渡そう。では希望者は自分のクッキーを選んできてくれ。」
 取り囲んでいた女子達は、キャーっと声を上げながら散り散りになって戻って行った。

 「あの……カイル?」
 あんまりのテキパキ加減に、呆気にとられてポカンとする。カイルはやってしまったと言うような顔で、俺を振り返った。
 「あの……つい。収拾つかなくなると思って……。」
 俺はこっくりと頷く。
 いや、うん。ありがとう。念仏唱えないだけマシか……。

 「フィル君!お願いします!」
 キラキラした顔の女子達から、準備万端と声がかかる。
 「…………はい。」
 俺は諦めたように返事した。

 俺とカイルは最後の班が焼き上がるまでの間、アイシング講座と鉱石での乾燥に動くことになったのだった。
 


※感想・お気に入り登録ありがとうございます!
とりあえずクッキーできました。次何の授業にしようか考え中です。

次回はちょっと本編から外れます。お楽しみに。
 
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