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第6章〜転生王子は学校で

鉱石について

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 聞きたいこと?
 「何でしょうか?」
 俺は少しだけ眉を寄せて首を傾げる。
 「出身はどこだ?」
 「え……?」
 これは予想外。てっきり鉱石関係の質問かと思っていた。
 「えっと…デュアラント大陸のグレスハート王国です」
 何で出身なんか聞くんだろうか?
 俺が不思議に思いながらも答えると、シエナ先生は意外そうな顔をした。
 「デュアラント?」
 「そうです…けど」
 え、何だ?デュアラント大陸だとまずいのか?

 「では鉱石を2つ合わせて使用すると言う知識は、どうやって手に入れた?研究者なら知っている知識だが、あまり一般的ではないだろう?」
 窺うように質問されて、とっさに言葉が出なかった。
 うーん。…何の気なしにやっちゃったからな。とは言え、下手に研究者の名前出せないし。
 「なんて言うか…たまたま出来たと言うか…」
 額をポリポリとかきながら困ったように言う。
 あの時は……科学で仕組みがわかってるから、火と風の力を使えば乾燥できると解っていたし。アニメや漫画で培った想像力で、2つ合せたらイケるかもと思ったんだよなぁ。

 「たまたま?どういう状況でそうなったんだ?」
 研究者ゆえの探究心なのか。興味津々という様に、身を乗り出してきた。
 困ったな。あんまり追求しないでもらいたいのに……。
 何て答えようか少し考える。
 「性質で……とらえてみたんです。暖かい風はより乾燥をうながすだろうなって。だから合わせて使えないかと。そこに躊躇いがなかったのは、鉱石はひとつで使うものと知らなかったので」
 答えてからチラッとシエナ先生の様子を窺うと、嬉しそうに瞳をきらめかせていた。そして感嘆したように息をつく。

 「なるほど。その発想力、素晴らしいな。たまたまだと言ったが、それは違う。理論立てて考え、実行に移した結果だ。研究と言うものは時に常識や固定観念が邪魔をすることがあるものだが…。お前は実に研究者向きだと言えよう」
 「は…はぁ。ありがとうございます」
 今までにない熱量で褒められて、俺はぎこちなくお礼を言う。
 さっきまでの気だるげな様子はどこに行ったのだろうか。今彼女の瞳は俺を通して別の世界を見ているようだった。
 「それにしても…性質か。それは興味深い意見だ。確かに性質を抜きにして物事を考えることはできないな。理解はしていたが、重視はしていなかった。今まで失敗したものも、それを念頭に置いて実験し直すべきか……」
 顎に手をやってジッと俺を見つめ、ブツブツと呟いている。
 あ…何かこの感じ見たことある。

 「すごいね。シエナ先生集中してるね」
 トーマは驚いたようにそう言うと、面白そうにフフフと笑う。
 いやいや、トーマくん。トーマが召喚獣で夢中になってる時、これよくやってるからね。
 何かに夢中になってる人って、自分の世界に入り込みがちなのかな。あの集中力があるから、研究が成せるんだろうか。

 「あの、シエナ先生。聞いてもいいですか?」
 アリスは会話に引き戻すように、大きめの声で話しかけた。シエナ先生はふっと何度か瞬きをして、アリスの方に顔を向ける。
 ようやくこちらの世界に戻ってきたらしい。
 「何だ?」
 「フィルがデュアラント出身だって聞いたとき驚いていましたよね?どうしてですか?」
 あぁ、それは俺も不思議に思っていた。
 シエナ先生は薄く微笑む。
 「てっきりどこかの研究者の弟子かと思ったんだ。だが、デュアラントと言ったろう?私たち研究者は、籠ってはいるがお互いに情報を交換し合っている。デュアラント大陸には鉱石の研究者が殆どいないからな。国に研究書も少なかったのではないか?」
 そう言われて「確かに」と頷いた。
 先生いなくて留学したところがある。それにしても、引きこもりだけどコミュニティはあるんだな。それで誰かの弟子でもないのに鉱石使いこなしてるから驚いたわけか。

 「確かに少なくともグレスハートにはいませんでしたね」
 鉱石屋の親方は研究はしてるが、専門的な研究者と言うわけではない。それ以外で鉱石を研究している人も見当たらなかった。
 「うーん、クーベルにも聞いたことないなぁ」
 トーマは思い出すように天井を見上げ、ライラも少し考えるように唸る。
 「ルワインド大陸にはいたけど、どちらかと言うと装飾的価値を研究してる人が多かったなぁ」
 
 「グラント大陸はどうなんですか?やっぱり一番大きな大陸だから研究者多いんでしょうか?」
 アリスの質問に、シエナ先生はため息を吐きながら首をゆるく振った。
 「私を含め百人いないだろうな。召喚獣研究などに比べたら人口は圧倒的に少ない。それでも他の大陸よりは多いのだろうが」
 やっぱりグラント大陸でもそうなのか。予想はしていたが、もしかしたらと思っていたのでとても残念だ。

 前に鉱石屋の親方が言ってたけど、鉱石の研究は軽んじられる傾向にある。理由としては、使用時の力の弱さから実用向きとされないからだ。それゆえ召喚獣研究の方が有意義であると考える人が多い。

 漢字のやり方教えたら変わるんだろうけどなぁ。
 そうしたら力を強大に使えるし、世間の認識は改まるのだろう。しかしこれは諸刃もろはの剣だとも言えた。
 強大がゆえに使い方次第でとんでもない事になってしまう。習得さえしてしまえば、召喚獣と違って誰でも使えてしまうのも問題だった。
 俺の場合、鉱石はちょっとだけ便利に暮らすためのものだからな。今のところ漢字を広める気はないのだが……。

 「そう言えば、お前たちは鉱石を持っているか?」
 考え込んでいた俺は、不意に聞かれてハッとする。
 「今その鉱石はあるか?」
 俺とアリスとカイルは一度顔を見合わせて頷いた。ライラとレイとトーマは首を振っている。
 「何種類持っている?」
 カイルは立ち上がると、ポケットから鉱石を取り出した。シエナ先生の前に立ち、手のひらに乗せた鉱石を差し出す。
 「俺は…火と風と土を。加工しないでそのままですけど」
 「私は、火の鉱石のペンダントだけです。お守りとして持ってて」
 アリスも立ってペンダントを外すと、シエナ先生に手渡した。持っていない皆は興味津々なのか、あっと言う間にシエナ先生を取り囲む。

 はっ!出遅れたっ!
 俺も慌てて立ち上がり隙間から中の様子を窺う。  
 シエナ先生は白衣のポケットからルーペを取り出すと、カイルの鉱石とアリスのペンダントを鑑定し始めた。
 「どちらも性質は間違いないな。不純物もなく、いい色の鉱石だ」
 「やはり不純物がなかったり色の濃いものの方がいいんですか?」
 ライラの質問に未だルーペを覗きながらシエナ先生は口を開く。
 「一般的なものはな。不純物や濁りがない物の方が同じ言葉を使っても効力が異なる。例外もあるが…それはまた次回にしよう。フィルのはどうした?」

 「あ!はい。」
 レイとライラに避けてもらって中に入ると、シエナ先生のサイドテーブルに鉱石を出し始めた。
 鉱石の授業があるからと思って全部持ってきたんだ。
 火と風と土と氷と水と光と幻惑。アクセサリー加工してあるものと、鉱石のままなものをジャラリと置くと、鉱石持ってない組が口ぐちに叫んだ。
 「何だこれっ!」
 「尋常じゃないんだけど!」
 「こんなに持ってたの?」
 あんまりに驚いたのか、サイドテーブルを見つめながらポカンとしている。
 全部は見せたことないもんな。 
 
 シエナ先生は「ほう」と感嘆の声を漏らすと、ウキウキと鑑定し始めた。
 「火や風や土や氷はデュアラントによくあると聞いたが…とても質が良い。おお、これは希少な水の鉱石だな」
 シエナ先生は鉱石を見つめて、頬を微かに紅潮させながらうっとりと呟く。だが急に眉根を寄せ、考え込むように唸った。
 「……この紫の鉱石は性質がまだ解明されていないものだ。このオレンジの鉱石は初めて見る」

 唸っているので、俺は苦笑して口を開いた。
 「その紫のは霧の性質です。幻惑効果もあるみたいで……。オレンジは光です。紫はたまーに見かけることもありますが、オレンジはそれしかないです。見つけた時もその大きさだけだったので」
 俺の説明にシエナ先生が驚いたように顔を上げる。
 「霧と光っ?!解明しているのか?…あぁ、そうか。霧ではなかなか性質が判明できないわけだ。それにしても、これは光か。そんなに希少なのだな。ぜひ手に入れたいものだが………」
 チラリとねだるようにこちらを見られても困る。それしかないんだから、おいそれとあげられるわけがない。
 俺はブンブンと頭を振ると、シエナ先生は恨めしそうに俺を見た。
 なおもブンブンと頭を振ると、ため息を吐いて物欲しげに光の鉱石をルーペで覗く。

 ……むしろ何でもらえると思ったんだろうか。希少だってわかってるよね?
 
 「それにしても、鉱石ってこんなにあるのね。性質もいろいろあるし」
 ライラは鉱石を覗きながら感心したように呟いた。トーマもにっこり微笑んで頷く。
 「召喚獣も好きだけど。鉱石も面白いね。召喚獣は使える能力が限られたりするから、そう考えると鉱石の方が幅は広いよね」
 レイは腕を組みながらトーマの話を聞き、眉を寄せてうーんと唸った。
 「でも力が弱いしな。召喚獣くらいの力や持続力あれば、もっと実用向きになると思うんだけど」
 そんなレイに、カイルはゆるく首を振った。
 「力ばかりが全てではないだろう。力が弱くとも、もっと上手く生かせる方法を探すべきだ。そうしたら召喚獣を持たない人にも鉱石を活用できるのではと思うが」
 そう言って、カイルは自分の鉱石を握り締める。
 ……そうか。確かに召喚獣を持たない獣人には、鉱石は助かるかもしれない。
 「そうだね」
 俺とアリスはカイルに頷いてみせた。
 
 シエナ先生はそんな俺たちを見てにっこりと微笑む。
 「各自意見はあるだろうが、結論を出すのはまだ早いな。鉱石は未だ謎が多い。研究によって進化するものだと言っていい。実用向きにするか、活用方法を探るか、それはこれからの授業で考えていこう」
 謎を解き明かすことで見える未来かぁ。
 何だかそれはとても壮大だったが、ワクワクするような希望にも見えた。

 「はい!」
 返事をした俺たちの声には、そのワクワクの気持ちが溢れでていた。

 
 
 
 
 
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