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第7章〜転生王子と寮改革

お風呂を作ろう!

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 沐浴場もくよくばはテニスコート2面分くらいの広さがあった。天井は湿気をこもらせない為か、2階建てほどの高さがあり吹き抜けになっている。
 そんな広い沐浴場の奥にあるのは、横3メートル、縦1メートル、高さ50センチの四角い浴槽ひとつ。これは直接人が入るのものではなくて、体を清めるための湯を貯めるものだ。
 この浴槽にはかけいを使い、直接外から川の水がひかれている。 
 木製の筧の溝は20センチほど深さがあり、中にカンカン草と言う高さ5センチの草が水耕栽培されていた。
 これはステア王国に生息する植物で、水に反応して熱を発し、お湯に変える特徴を持っている。一株のカンカン草が発する熱量は決まっている為、お湯の温度はカンカン草の数で調節する。
 おかげで川の水は普通に使うととても冷たいが、浴槽の湯は常に適温だ。

 カンカン草欲しいなぁ。グレスハートじゃ育たないのかなぁ?
 グレスハートにて自作の樽風呂に入っていた時は、水の調達もお湯にするのも鉱石でやっていた。だが適温にするのに調節が必要だったし。他の人は鉱石を使えないから、大浴場みたいに常にお湯が必要な場所には不向きだった。

 水を湯に変える能力持った魚もいるらしいのだが……。ルワインド大陸のものなので、手軽に召喚獣にすることもできず。出来たからと言っても、ずっとお風呂に常駐させるのも可哀想な話だった。
 第一お風呂の中に魚って……。入ってる人も魚も落ち着かないよ。

 そう思って諦めていたのだが、寮を案内された時このカンカン草の存在を知った。
 いつかこれを活用して寮に大浴場を作れたらなぁ……とその時思ったものだ。 
 でもまさかこんなにすぐ取り掛ることができるなんてっ!俺めっちゃ嬉しい!

 その時の感動を思い返し感無量とばかりに打ち震えていると……、ふいに横のカイルがつついてきた。
 ん?なんだろう?
 見れば目線でカイルと反対側の横を見るように合図される。
 首を傾げて振り向き、ビクッとなった。
 生徒総長のデュラント先輩が、こちらをじっと見つめていたからだ。

 「随分嬉しそうだね。オフロ出来るの楽しみかい?」
 薄く微笑むデュラント先輩に、ぎこちなく笑い返す。
 「そ、そうですね。ずっと計画していましたし」
 「私も楽しみだよ。君がどんなものを作り出すのか。早くマクベアーたちが来るといいのだが」
 「で、ですね!」
 ………………気まずい。

 俺のこと不真面目とか思ったりしてないのかなぁ?
 入学式の時、レイと話しててデュラント先輩の生徒総長挨拶聞いてなかったから。
 さっき言葉を交わした時、何も言われなかったが……。やはり謝った方が良いのだろうか?
 レイに『気を付けろよ』って言われたしなぁ。俺だって学校設立している王国の王子に目をつけられるのは避けたい。
 だが、何話していたか聞かれたらどうしよう。『あなたの噂話です』なんて言えるか?
 ますます目を付けられそうだ。
 やはりここはとぼけたふりするしかないか…。

 そういや……俺がグレスハート王国の王子だってこと知ってるのかな?学校長や担任は知っているらしいが、関係者の中にデュラント先輩も入っているのだろうか。
 俺はチラっとデュラント先輩を見上げる。先輩はそれに気付き俺と目があうと、柔らかな微笑みを返してくれた。
 クールな印象を与えるグリーンの瞳は、微笑むと柔らかな印象に変わる。
 イケメンだわー。モテそう。
 美少年顔にはアルフォンス兄さんで大分免疫ついているのだが、デュラント先輩はまた違うタイプだ。クールな表情に銀縁眼鏡は一見神経質そうだが、表情が緩むとガラリと優しい印象に変わる。

 うーん。何故にこの人いきなり来たんだろうか?
 今回のお風呂製作に携わる生徒はマクベアー先輩と、14、15歳のガタイのいい3年生たち10人。1年は俺とカイル、レイ、トーマ。それから2年の寮長のルーク・ジャイロ先輩で行う予定だった。
 もちろん大まかな建築作業は10人の職人さんたちが行う。俺たち生徒は設計図をもとに職人さんに指示を出したり、マクベアー先輩のコンクリ作りを手伝ったりする予定だった。

 デュラント先輩には生徒総長と言うことで話は通したが、来るなんて言ってなかったのに……。
 大丈夫かなぁ……心配。
 確かに軽作業が大半だけど、ホコリも出る場所なので体の弱いデュラント先輩にとって快適な場所ではないだろう。
 しかも俺たちは安全面についての話し合いを何度もしているけれど、デュラント先輩は参加していないし……。

 それになぁ……。
 レイとトーマを見ると、明らかにデュラント先輩を意識して挙動不審になっている。待機している職人さんたちも、デュラント先輩がいることでソワソワしている様子だった。
 ステア王国のカリスマ王子だもんな。気持ちはわかるけどさ……。
 大丈夫か……これ。
 作業中の職人さんには近付かない位置で手伝うつもりだが、こんな浮ついた状態ではとても心配だ。
 職人さんや生徒に怪我はして欲しくない。ましてや王子に少しでも怪我させたら、いったいどうなるのか恐ろしい。
 
 俺は困ったように、寮長を振り返る。デュラント先輩を連れてきたのは寮長だったからだ。
 だが、寮長は申し訳ないと言うように視線を下げるだけで、どうにも出来ないみたいだった。小さな体を震わせながらキャンキャンと大きなマクベアー先輩に噛み付くのは見たことあるのに。さすがにデュラント先輩には強く出られないのか……。
 まぁ、初めに断れていたらまずここには連れてきてないよな。デュラント先輩のカリスマ性を一番感じているのは、近しい位置にいる寮長なんだから。

 そんな時、ドタドタと言う足音とともに沐浴場の扉が開かれた。
「フィル!待たせたなっ!!」
 マクベアー先輩は入るやいなや叫んで、こちらに向かって手を振る。その後ろから3年生たち10人がやってきた。
 初めはガヤガヤとしていたが、俺の隣にデュラント先輩がいるのがわかると、声がざわめきに変わる。
 マクベアー先輩も驚いた顔で、腕を上げたままになっていた。

 近くまでやってくると、目を瞬かせながら手を下す。
 「ライオネル。何やってんだこんなとこで。お前は風呂製作の詳細知らんだろう」
 「申請を学校側に通したのは私なんだから内容は理解している。ただ…興味深い内容だったから見学しようと思ってね。ルークにお願いしたんだ」
 2人はお互い遠慮もないと言う感じで会話をはじめた。
 歳も学年も違うのに随分仲がいいんだな。

 「しかしなぁ……。お前がいると浮き足立つ者がでるんじゃないか?怪我でもされたら大変だし。」
 頭を掻きながら困ったように眉を下げる。
 おお!さすがマクベアー先輩!!俺の懸念をよくぞ言ってくれた!
 心の中で拍手を送ってデュラント先輩を見ると、彼はフッと小さく笑う。
 「優れた職人たちだ。普段通りに働いてくれれば、素晴らしい仕事をしてくれるのに、彼らが何故気負う必要がある」
 ソワソワしていた職人たちは、それを聞いた途端ハッと目を輝やかせた。

 「生徒たちも私が来たくらいで動揺を見せる者などいないだろう。同じ学び舎の仲間なのだから。大丈夫。ウロウロせずに見学するだけだ。危ないことはない。なぁ、ルーク」
 そう言って寮長を振り返る。寮長は俺をチラリと見たが、デュラント先輩を見ながらゆっくりと頷いた。
 寮長ーーっ!

 だがしかし……デュラント先輩の言葉で先程までの浮わついた雰囲気が一掃されているのは確かだ。
 職人はやる気を出していたし、生徒もデュラント先輩の『仲間』と言う単語に誇りを感じたようだ。
 マクベアー先輩は息をついて、俺を見下ろす。
 「フィルはどうだ?ライオネルがいて大丈夫か?お前が発起人なんだから、邪魔なら追い出すが」
 
 この状態で断れるわけないよなぁ。
 俺は心の中でため息をついて、笑顔を見せた。
 「安全な所にいて下さるなら大丈夫です」
 それを聞いて、皆の表情が和むのがわかった。
 
 さすがカリスマ。すっかり皆を味方にしている。これ断ってたらとんでもないことになってたな。
 「じゃあ、安全第一で作業開始しましょうか?」
 俺はへらっと笑って言った。
 
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