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第7章〜転生王子と寮改革

進行状況

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 俺の言葉を開始合図にして、ガヤガヤと人々が動き出した。
 カイルとレイとトーマはカンカン草を移動させ、職人たちはかけいを撤去し始める。これらは後で再利用するつもりだ。
 3年生はコンクリの材料を一箇所に運び、準備を始めている。
 「うん。とりあえず混乱なく作業してるみたいかな」
 寮長から進行係に任命されている俺は、進行表を確認しながら辺りを見て回る。

 すると岩風呂担当の職人に声をかけられた。
 「そこの坊ちゃんが何かの係って聞いたんだが、この浴槽本当に使うのかい?」
 「はい」
 俺はこっくりと頷いた。
 この沐浴用の浴槽は岩をくり抜いて作られている。だから岩風呂の基礎の一部にするのにちょうどいいと思っていた。そのままで使うと小さい為、地面を掘り下げてこれを埋め、段差をつけるように周りを岩で組んで広げる。岩を組んだ間はコンクリで埋める予定だ。
 だが、職人は眉を寄せて渋るような顔をした。
 「だがなぁ、確認したらこの浴槽穴あいてるよ?これ使うのかい?」

 いや、むしろそれは俺が開けた穴なんだけど。
 「その穴は排水用なので、大丈夫です。使うとき栓をして、お風呂を洗う時抜くので」
 今まではお湯を貯めるだけのものだったので、排水口がなくかけ流しの状態だった。しかし人が入るようになるなら、やはり洗えるようにしなければならないだろう。
 絵に描いて説明してみせていると、岩風呂担当の職人がわらわらと集まって俺を取り囲んだ。一気に巨人たちに見下ろされる。
 圧迫感ハンパねぇな……。

 その中の1人が納得いったように手を叩いた。
 「あぁ、なるほど。だから浴槽の下に排水用の溝作れって言ったのか」
 職人たちは口々に「なるほど」と呟いて頷く。
 「じゃあ坊ちゃん質問なんだが、この木は本当に釘なしで大丈夫なのかい?」
 何だか密集率高くなったと思ったら、木風呂の職人たちも集まってきたのか。
 「さっき説明されたがどうも信じられねぇ」

 職人は訝しげな様子で、木材の方に目をやる。そこにはヒスイに運んでもらった木材が、使う種類によって選り分けられて置かれていた。
 「大丈夫です。握手するみたいに組む形になるので、強度は釘よりあります。隙間を同じ木の釘で埋めるので、錆びませんし。木に書いてある同じ模様を組み合わせはめ込むだけなので、作業は早いかと」
 再度絵に描いて説明すると、職人たちは再度感心するような声を出す。
 「はぁ〜変わったこと考えるもんだ」
 「でも設置するのに浴槽動かしたりタイル動かしたり、そういった作業しなきゃならないですけど」
 木風呂も排水の関係や水平をとる関係でタイルの上には直接置けない。結局沐浴場の3分の1はタイルを剥がさなきゃならなかった。
 浴槽もタイルも重いから大変だ。
 だが、職人たちは俺の心配をワッハッハと笑い飛ばす。
 「それについては心配ない。任せとけ!」
 グッと力こぶを見せて、ニッと職人たちが笑った。
 ……まさか自力で持たないよな。

 俺がそんな疑問を持った時、マクベアー先輩の方から手が上がった。
 「おーい!フィル!」
 「あ、はーい。ではよろしくお願いします!」
 職人たちに頭を下げると、すぐさまコンクリ班の方へ駆け寄る。
 コンクリは岩風呂の大事な部分だ。作業の説明はしてあるはずだが……何かあったのだろうか?

 「どうしました?」
 俺が声をかけると、マクベアー先輩は困ったように頭を掻いた。
 「フィル、こっちがセメントってやつであってるか?」
 そう言って木桶に入れられた砂を指差す。
 あれ?おかしいな。砂とセメント間違えないように、木桶に紙を挟んでおいたはずなんだけど……。
 俺が首を捻ると、マクベアー先輩はさらにガシガシと頭を掻く。
 「いやぁ、スコットが木桶の紙を、間違えて取ったらしい」

 見ると『せめんと』と『すな』と書いていた紙を握りしめて、顔を青くしているスコット・ベイル先輩が立っていた。
 「ご、ごご、ごめん!」
 ペコペコと頭を下げる。そのまま卒倒しそうな勢いだ。俺は苦笑して、首を振った。
 「大丈夫です。こっちの色が濃い方がセメントなんで」
 そう言ってセメントの木桶を指差すと、ベイル先輩は涙目で眉を下げる。
 「ほ、本当に?」
 体は大きいのに気は小さいんだなぁ。
 寮長と話していると、どちらが先輩なのかわからない時がある。
 「間違いないです」
 しっかりと頷いてみせると、ようやくホッと息を吐いた。
 
 「良かった。いやぁ、どうなるかと思った」
 マクベアー先輩は安心したのかハッハッハと笑う。
 「しかしこれがセメントねぇ……。三日月熊ミカヅキグマの砂がこんな使われ方をするとは思わなかったが……」
 セメントの木桶を興味深々で見つめる。
 三日月熊には鉄を含んだ砂を吸着する能力があって、その砂と石灰と粘土を混ぜ合わせたのがセメントだ。事前に貰ってセメントを作っていたので、あとはこれに水、砂、砂利の順に混ぜていくだけだった。

 「説明した通り、水は少ない方が丈夫なコンクリ出来ますけど、混ぜるの大変なんで頑張って下さい。あと放っておくと固まるんで、交代で混ぜといて下さい。」
 「おう、任せとけ!」
 マクベアー先輩は肩まで袖をまくって、見事な上腕二頭筋を出した。3年生の先輩方も、それにならって肩まで袖捲りをする。
 仕上がりは確認するとして、あとは混ぜるだけだから大丈夫かな。
 進行表にチェックを入れる。

 すると後ろからトーマの大きな声が聞こえてきた。
 「うわぁぁぁっ!アストラス大猿オオザルだぁっ!カッコイイッ!!」
 驚いて思わずそちらを振り返る。
 見ると先ほどの岩風呂担当職人たちが召喚獣を呼んだらしい。3匹のアストラス大猿が姿を現したところだった。
 そうか。アストラス大猿がいるから任せろってことだったのか。
 
 アストラス大猿は、ゴリラのような体躯をした大きな猿だ。二足歩行が可能でゴリラよりも真っ直ぐ立って歩くことが出来る。身長は2メートルくらいあるだろうか。
 腕ばかりではなく足にも強靭な筋肉を持っていて、力仕事を得意とする獣だ。
 一見恐ろしそうだが、性格はとても温厚で人懐っこいらしい。

 俺も書物じゃ知ってたけど、初めて見るなぁ。もう少し近くで見てみよう。
 作業に邪魔にならないギリギリの位置にトーマがいたので、俺もその横に立った。
 3匹もいるとさすがに凄いな。
 グラント大陸では建物に使う石が大きいので、アストラス大猿を召喚獣にしている職人が多いと聞いていたが…。

 トーマはいつものように興奮気味だ。
 「すごいよねぇ。かっこいいよねぇ。アストラス大猿はメスが大きくて、オスが小さいんだ。あれはメスなんだけど、重い岩も持ち上げて運んじゃうんだよ」
 確かにあの大きな浴槽を、2匹でヒョイと持ち上げ運んでいく。
 マジか。あれ下手したら1〜2トンあるだろう。
 俺たちが「おおぉ」と驚いて見ていると、アストラス大猿たちがこちらに気付いたようだ。
 
 【あんらぁ、何かこっち見てるわぁ】
 【私らがあんまり美猿だから見てるんじゃないかい】
 【わからんでもないけど、こんな小人でガリガリじゃあねぇ。全然魅力感じないね】
 【違いないわ!】
 アストラス大猿たちはそう言ってウホホッと笑いあう。
 え、今振られた?
 別にそんな気ないのに……ちょっと悲しいのは何故だ。あのアストラス大猿たちあきらかにおばさんぽいのに…。

 だが言われてみれば、彼女たちのご主人様はかなりの筋肉質だった。職人だから当然かもしれないが……。
 アストラス大猿を召喚獣にしたければ、あんな感じにならないとダメなのか。
 「あぁ、いいなぁ。僕もアストラス大猿を召喚獣にしたいなぁ」
 すでに俺たちが振られていることを知らないトーマは、アストラス大猿をうっとりと見つめ吐息を漏らす。
 トーマ……無理だよ。将来的に考えたって、トーマがあの職人みたいな体つきになるのが想像できない。
 いや、今から鍛えればどうにかなるのかな?

 「トーマは将来あの職人さんみたいな体になる自信ある?」
 俺が聞くと何でそんなことを聞くのかと不思議そうな顔をした。
 「無理」
 「だよね」
 わかってた。一応確認のため聞いてみただけだ。
 俺は深く頷く。そんな俺を見て、首を傾げた。
 「何でそんなこと……」
 トーマが聞こうとした時、寮長が後ろから来てコツンとトーマの頭を小突く。

 「こら、まだカンカン草の処理終えてないだろう。それにあんな大きな声出して、誰かが驚いて事故でも起こったらどうするんだ」
 そう言われてトーマはハッと目を見開くと、しゅんと萎れたように頭を下げた。
 「ごめんなさい」
 「次気を付ければいい。じゃあ、作業に戻って」
 「はい」
 トーマは頷いて、カイルとレイの元へ戻っていく。

 しまったなぁ。トーマの獣好きはいつものことだったから、注意するのを忘れてしまった。今は作業始めだったから大丈夫だったが、確かに急な大声は事故の元だよな。
 「僕も注意すべきでした。すみません」
 俺が頭を下げようとすると、寮長は手で制止するポーズを見せた。
 「叫んだ時は側にいなかっただろう?君が謝ることはない」
 そして少し近付いて屈むと、小声でそっと耳に話しかける
 「むしろ、悪かった」
 
 俺が少し首を傾げると、さらに小声で言う。
 「ライオネルさんのこと」
 「あぁ」
 俺が納得して頷く。寮長はため息をついて頭を抱えた。
 「俺あの人にだけは強く言えないんだよ。ジッと見られてるうちに、気付くと頷いている。あの人何か人自由にできる能力あるのか?」
 そう言って頭を抱えたまま唸る。俺は背中を優しく叩きながら声をかけた。
 「落ち着いて下さい。まぁ、マクベアー先輩が言ってくれたおかげか、ジッと動かず見物してるみたいですし。あれなら危なくないと思いますよ」

 そう言って、デュラント先輩の方を見た。
 誰か用意したのか扉横に椅子が設置され、優雅に腰掛けている。作業現場なはずなのに、あそこだけノーブルな雰囲気だ。
 「なんか……腹の上の方が痛くなってきた」
 寮長はため息をついて、お腹をさする。
 それは胃痛ですよ、多分。



 
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