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第7章〜転生王子と寮改革

岩風呂・木風呂

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 「あ〜っ。いい湯だなぁ」
 思わず声が漏れる。お湯は熱すぎずぬるすぎず、長湯が出来るくらいだ。カンカン草での温度調整はちょうど良い。
 「今まで体清めるだけだったが、こうして浸かるのはなかなかいいな」
 マクベアー先輩は深く息を吐いて、肩や胸に湯をかける。
 俺はそれをジッと見てから、自分の体に目をやる。

 上腕二頭筋と大胸筋かぁ……。前より筋肉ついてるんだけどな。古武術や剣術の基礎練はとりあえずやってるし。
 しかしマクベアー先輩と比べると盛り上がりが全然足りない。
 ヒューバート兄さんみたいに筋肉は正義とは言わないが……。もう少し筋肉つけた方がいいのかな。
 周りを見ればマクベアー先輩だけでなく、3年生たちもガタイいい人ばかりだし、職人たちも筋肉質。そんな人たちに囲まれて、ぺたりとした胸に手をあてた。
 頑張れ成長期……。

 「こうやって坊ちゃんに勧められて入ってみたが……。じんわりと疲れが取れていくようですなぁ」
 「あぁ、まったく。すっかり癖になっちまいそうだ」
 職人たちは体が温まってきたからか、脱力したような顔つきをしていた。
 完成の労をねぎらって、皆一緒のお風呂タイム。作業した生徒も職人も皆満足そうな顔をしている。

 だけどまさかこんなに早く終わるとは思っていなかったな。
 アストラス大猿と職人たちの手際が良かったからか、昨日の午後と今日の午前で大方の作業を終えることができたのだ。
 それもこれもアストラス大猿たちあってのことだろう。積み木みたいな手軽さで岩積んでたもんな。
 
 おかげで沐浴場は見違えるばかりに様変わりしている。
 沐浴場の右側奥に、パドルーの木材を使った木風呂があった。
 レーザー光線で木材を切断したため薄茶色の焼きが入っているが、それが小洒落た旅館の風呂のように見える。大きめに作ったので、20〜30人くらいは入れるだろう。

 左側奥には立派な岩を積んで出来た岩風呂があった。風情があってなかなかいい仕上がりだ。こちらも20人くらいは入れる広さになっている。
 岩風呂はコンクリがまだ乾いていないので、残念ながらまだ使うことができない。1週間くらいおけば入れるだろう。
 鉱石を使って乾燥させようかとも思ったが、感覚がわからないのでやめておいた。
 コンクリの作り方は建築番組で見たが、乾燥時間のあたりは飛ばされてたからなぁ。様子を見て、大丈夫そうならお湯をはってみよう。

 沐浴場の変わったところはまだある。
 沐浴場の両サイドに横7メートル、高さ50センチ奥行き30センチのスリムな木桶を設置した。風呂にお湯を入れるための筧とは別の筧がそれぞれかけられ、その長い木桶に湯が貯められていた。
 何かと言うと、これは洗い場だ。
 この木桶の前に木の椅子と手桶が等間隔に置いてある。椅子に座り、その手桶でお湯をすくって使うような感じだ。
 片側15組なので、両側で30組作っておいた。

 それから扉側の一角にスペースができたので、召喚獣用風呂を1つと、個室の小さいお風呂2つを設けてみた。
 個室は湿気の関係で上は抜けているが、周りは衝立で囲まれている。かんぬき型の鍵も取り付けていた。
 皆で入ることに抵抗がある人もいるから、沐浴場は狭くはなるが必要だ。

 大きな風呂2つと個室2つ。生徒数は約150人だけど、時間で区切ればどうにかなるだろう。
 素人設計にしちゃよく出来た方だよね。
 ふむふむと沐浴場の仕上がりに満足して頷いていると……。
 「そーら!どうだトーマ!」
 そんな声とともに横からバシャンとお風呂のお湯をかけられた。
 「うわっぷ!」
 顔にかかったお湯を拭う。見ればレイがトーマに向かってお湯をかけていた。
 「やめてよレイ〜」
 レイの攻撃を手でガードしながら、トーマは困ったような声を出す。だがレイは笑うばかりで止めようとしない。

 まったくしょうがないな。はじの方でやってるから俺以外被害はないけど、迷惑行為に他ならない。お風呂に入るのに注意書きを作らなきゃダメだなこりゃ。
 レイに注意するべく口を開く。だが、その前にレイの後ろに立った人物がいた。おもむろにレイのこめかみ辺りを、両側から拳でサンドする。
 「イタタタタタ!!」
 「遊ばないで……大人しく入れ……」
 拳をぐりぐりとさせながら、寮長が忌々しげにレイを見下ろす。
 「ごめんなさいごめんなさい!」
 レイが呻きながら謝ると、舌打ちして解放した。
 「この風呂は素晴らしいが、掟が必要なようだな」
 ため息を吐く寮長に、俺もこっくりと頷いてみせた。
 「僕もまさにそう思っていたところです」

 「随分と賑やかだ」
 笑いを含んだ声に目を向けると、デュラント先輩が湯船に入るところだった。
 肌の色シロっ!!
 それでも、いつもの青白い肌は、血流が良くなったおかげか血色が良い。病弱とは言っても、やはり薄く筋肉ついているんだな。

 俺が感心していると、職人たちがいきなり湯船から立ち上がった。勢いで湯船の湯がザバンと揺れる。
 「申し訳ありませんです!ライオネル殿下と一緒の湯船に浸かるなんて!」
 プチパニックを起こしたように、3年生たちも立ち上がった。
 「お、俺たちも出ます!!」
 皆が立つので、湯船の湯の水域が急激に下がる。
 
 「その必要はない」
 通るような声が沐浴場に反響した。
 「そんなことをされては、私が困る。ゆっくり一緒に浸かろう。そうしてくれなければ、私は今度からこの風呂を使うことができない」
 そう言われたら、出るわけにもいかない。
 職人や先輩たちは、ギクシャクと湯船に腰をおろし始めた。しかし、緊張のためか、一様に彫像のように固まっている。
 
 「気にするな気にするな。身分なきが我が校の特色だろう。裸の付き合いをすれば一層団結力がつくというものだ」
 マクベアー先輩がガッハッハと笑うと、寮長はため息をついて額に手をやる。
 「マクベアー先輩はもう少し気にして下さいよ」
 そこでようやく小さな笑いが起きた。デュラント先輩は少し安心したように息を吐く。

 「それにしても、オフロと言うものは芯から温まる気がするね」
 湯をすくいながら俺に顔を向ける。
 「寝る前に入ると安眠できますよ。それから今度は良い匂いの花袋浮かべましょう。心が落ち着いて疲れが取れます」
 俺がそう言うと、頷いて少し微笑む。
 「申請書に書いてあったものだね?さすが発起人だ。随分オフロに詳しい」
 それから少し考える仕草を見せ、寮長を振り返った。

 「ルーク」
 「はい、何です?」
 中腰の姿勢で寮長が近付く。
 「先ほどオフロには掟が必要とか言っていただろう?フィル君をオフロ指導官にしてみてはどうか」
 「は……えぇ?!」
 寮長は頷きかけて、驚いたように俺を見る。どういうことだ?と俺に目で語ってきても、俺だってわからない。小さく首を振る。
 「まだ入って間もない1年生ですよ?」
 戸惑うような寮長に、デュラント先輩は頷く。
 「それはそうだが、これほどオフロに詳しい子はいないだろう。それにその間もない子が、これほどまでの事業を成している。評価すべき点だ」

 いやいや、確かにオフロの掟やら何やらは必要だが、役職なんていらないって。面倒多そうだし。
 寮長に任せたら決まっちゃうな。デュラント先輩の前じゃイエスマンなんだから。
 仕方なく控えめながらも、しっかりと断ってみる。
 「僕は遠慮します。まだ学校にも慣れていませんし、先輩方を指導なんて出来ません」
 
 「そうか……では、マクベアーお前がオフロの指導官をやれ」
 急に話を振られて首を傾げる。
 「あ?何だ?指導官?俺はフロに関しちゃ何もわからないぞ」
 頭を掻くマクベアー先輩に、デュラント先輩はそうだろうなと頷く。
 「それは指導官を監督するフィル君がいるから平気だ」
 「えぇぇっ!?」
 俺と寮長の声が揃う。沐浴場に反響して、皆がこちらを見た。
 
 いやいや、なんか役職上がってない?
 「監督官は掟やらオフロの入り方を指導官に教えるだけでいい。それを定期的に問題ないか確認してくれ。これなら学業にさして影響もないだろう?」
 ニコリと微笑まれて、俺はあわあわとマクベアー先輩にすがりつく。
 「1年が監督官てマズイですよね?1年に教えられるなんて嫌でしょう?マクベアー先輩」
 だが、マクベアー先輩はキョトンとして俺を見下ろした。

 「何がマズイんだ?いやぁ、むしろフィルが監督してくれるなら安心だ。俺も頑張るから、よろしく頼むなっ!」
 快活に笑いながら頭をもしゃもしゃとされる。
 そうだった。この人、器がでかかったーっ!!
 「マクベアー相手なら、皆大人しく掟を守るだろう。フィル君これでもダメかな?」
 薄く微笑むようにジッと見つめる。周りの人も興味津々でこちらを見ていた。

 断れないって……わかってるくせに。
 
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