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第7章〜転生王子と寮改革

召喚獣と個室のお風呂

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 ……何でだ。何でこうなった。
 指導官断ったら、さらに上の監督官になってしまった。
 おかしい。こんなはずでは……。
 考えていたら頭がクラクラしてきたぞ。
 「そろそろ……上がります」
 マクベアー先輩たちにそう断りを入れ、ザパリと湯船から出た。
 だいぶ浸かっていたからな。もう上がった方がいい。
 「おう!頬が赤いな。大丈夫か?」
 「…大丈夫です」
 マクベアー先輩の言葉にコックリ頷く。
 どちらかというと精神的ショックの方が大きいのかもしれないけど。

 【フィルさまーっ!】
 息を吐いて扉の方へと歩いて行くと、毛玉猫のホタルがコロコロとこちらへ転がってきた。毛が濡れて一回り小さくなったホタルは、ぷるんとして可愛い。
 【召喚獣用のお風呂良かったですっ!】
 興奮が抑えきれないらしく、俺の足元に来てまりのようにてんてんと跳ねる。
 俺はそんなホタルを落ち着かせるように撫でた。

 ボールのように転がって移動することが多いホタルはとても汚れやすい。それもあってグレスハートではよくお風呂に入れていた。今ではすっかりお風呂が大好きだ。
 他の召喚獣は残念ながらあんまり好きじゃないみたいなんだよね。こないだ温泉連れて行った時も、木桶に乗ったり、ホタルに乗ったり……。
 なので、今回はホタルだけ入湯だ。

 「1匹で大丈夫って言ってたけど、平気だった?」
 【はいです!ナターシャさんがもう一回綺麗に洗ってくれたです!】
 「……ナターシャさん?」
 女性の名前が出てきて、はて?と首を傾げる。
 そういやさっき俺が洗った時より毛並みがツヤツヤしているな。

 洗い場にはグレスハート印の自然派石鹸を用意している。植物油とハーブを混ぜて作った環境に優しい石鹸だ。グレスハートでホタルを洗うのに開発した、肌に優しく汚れも落ちる。
 だが今日はそんなに汚れてもいなかったので、軽く洗っただけで召喚獣用の湯船に置いてきたのだが……。
 なんかめっちゃピカピカなんだけど。
 
 「ナターシャさんて誰?」
 ホタルを抱っこして聞くと、ホタルは元気に答えた。
 【アストラス大猿のナターシャさんです!】
 「…………え」
 アストラス大猿っ!え、お風呂入ってんの?!
 いや、お風呂作りの一番の功労者だけどさ。彼女らメスじゃん!
 ハッ!いやいや、召喚獣だから関係ないのか。
 若干動揺しながら、衝立で死角になった召喚獣用の湯船をおそるおそる覗く。

 そこには大きな泡の塊が3つあった。
 …………いや、違う。
 アストラス大猿のおばちゃんたち3匹が、石鹸で泡だらけになりながらキャッキャと楽しげに声を上げていた。
 【こりゃあ良いねぇ】
 【ますます美猿になっちゃうんじゃないかい?】
 【あんら、嫌だ!】
 そう言ってウホホホと笑いあう。

 「・・・・」
 俺は無言のままくるりときびすを返した。
 見ちゃならんもの見た気がする。
 知らなかった。ここいつの間にか混浴になってたのか……。
 
 「フィル様どうなさいました?」
 声をかけられて顔を上げると、薄手の紺色ガウンを着たカイルが立っていた。濡れた前髪を邪魔そうにかきあげ、水滴を払う。
 どっかのセクシーアイドルかっ!
 いや、羽根隠す為にはガウン着るしかないのだが…。
 「ご気分でも?」
 心配そうなカイルに首を振って、召喚獣用の湯船側を指差す。
 「アストラス大猿さんたちが入ってた」
 それだけで察したのか、カイルが静かに頷く。

 「あ!カイル!」
 そこへ手を振ってレイとトーマがやって来た。
 「すっかり長湯しちゃったよぉ」
 トーマがパタパタと手で顔を扇ぐ。2人は少しのぼせたように顔を赤くしていた。満喫したって感じだな。
 「カイルは個室のオフロ入ってたんだよな?どうだった?」
 興味深々なレイの質問にカイルは微笑んで頷く。
 「ああ、とても良かった。湯船に浸かること自体初めてだったが、区切られた空間だからかゆっくり出来る」
 その言葉を聞いて俺はそっと安心したように息を吐く。

 個室風呂の大きさは、足を伸ばせる広さの湯船と一畳ほどのスペースのみ。衝立で囲われ、かんぬき型の鍵も付いている。
 落ち着いた雰囲気を心がけたが、狭いんじゃないかと心配だった。
 喜んでくれたなら、個室作って良かったな。

 申請書出すとき『誰かと一緒に湯船に入るのは抵抗がある人もいるから、個室を設けてみてはどうか』と提案したんだよね。
 予約制にはなるが、王族や貴族もいるので、この提案はすぐ受け入れられた。
 だが、実はその人達のためだけに提案したものではない。

 カイルは背にある羽根の為に、沐浴場は使わない。こちらに来ても外で水浴びをしているようだった。
 慣れているとは言っているが、グラント大陸は雪が降ることもあるくらい寒い土地だ。万が一見られることだってあるかもしれない。
 だから沐浴場内に個室を作ってあげられないかと思ったのだ。

 よほど嬉しいのか、カイルにしては珍しくずっとにこにことしている。俺も嬉しくなっていると、ふとレイが顔の表情をムズムズとさせていることに気付いた。
 「どうしたの?レイ」
 「俺も個室入ってくるっ!」
 我慢できないという様子で叫んだ。
 「え、レイ。あんだけ入ったのにまだ入るの?」
 するとレイはチッチッチと舌打ちしてみせる。
 「個室だったらどんなに水しぶき立てようが、寮長に文句言われないだろ」

 個室だって騒いだら怒られると思うのだが……。第一ああ言うのって、何人かで騒ぐから楽しいんじゃないのか?1人でバシャバシャして楽しいのかな?
 「もう、個室で騒ぐなって掟も作るよー」
 俺がそう言って釘をさすと、レイはニヤリと笑った。
 「だけどまだその掟は出来てないだろう?」
 その言いように俺たちはため息を吐く。
 まったく悪知恵働くなぁ。
 それを了承と判断したのか、レイは鼻歌まじりで個室へと向かう。
 「よーし飛び込んでやるーっ!」
 
 「まったく、しょうがないね」
 「だねぇ」
 レイの背中を見ながら苦笑すると、トーマとカイルも笑う。
 「でも、個室が好評で安心したよ。狭いかなぁと思ったから」
 カイルは首を振ると、にこりと微笑む。
 「いいえ。それがまた居心地良いです。本当にいい水風呂でした」

 頷くカイルに、トーマが目をパチクリさせて固まった。一呼吸置いてひっくり返ったような声をあげる。
 「えっ!水風呂?!」
 「カイル……水風呂に入ったの?」
 俺の問いに当然とばかりにコックリ頷く。
 マジか。川から引いてきた水はそうとう冷たいだろう。

 「お湯より水の方がパリッとして好きなんで、筧の中のカンカン草抜きました。出るとき戻しましたが」
 そ、そうかー。
 俺はガクリと頭を下げる。
 忘れてた。お湯で羽根がふやけるのが嫌だって言ってたっけ。
 個室用の筧は他の筧とまた別になってるから、カンカン草を取れば冷たい川の水になるのだけど……。
 でもぬるま湯でも良いと思うんだがなぁ……。

 「じゃあ……レイは……」
 トーマの言葉を受けて個室に目をやる。
 ボチャンッ!という水音とともに聞こえてきたのは「ギャッ!冷たーっっ!!」というレイの慌てふためく声とバシャバシャとした水音だった。
 だよね。今更カンカン草戻したって、すぐに湯船熱くならないよね……。

 「こらーっ!レイ・クライス!またお前か!」
 木風呂から出てきた寮長が、プンスカしながらこちらにやってくるのが見えた。

 

 

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