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第8章〜転生王子は授業中

材料を買いに

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 ステア王立学校の敷地から出ると、すぐ隣は町の市場になっている。学校の塀沿いに長い道があって、いろいろな店や露店が並んでいた。
 「さすがにグレスハートより賑やかですね。フィル様は市場に来たことあるんですよね?」
 カイルの言葉に俺は頷く。
 「でも今日の方が露店が多いみたい」
 「そうなんですか?」
 「うん。前閉まってた店が開いてる。前は休息日だったからかな?」
 お風呂の為にパドルーの木の苗やら、コンクリの材料やらを買いに来たのだが、やってない店があって材料探すのに手間取ったんだよね。

 休息日にも店を出したり働いている人はいるのだろうが、休息日だからと休みにする人々も多いんだな。
 この間やけに店が閉まってて辟易していたが、休息日に店がやっていただけマシだったってことか。
 あぁ…日本が懐かしい。休日平日昼夜関係なく物が買えたもんな。この世界にも24時間営業のコンビニ欲しいよ。

 そっと俺が郷愁を感じていると、前方でレイとトーマの声が聞こえてきた。俺がゆっくり歩き過ぎたせいで少し差がついていたのだが、どうやら追いついたみたいだ。

 「この皮の鞄すっごいカッコイイだろう?買っちゃ駄目か?」
 「この獣の本すっごく珍しいんだ。どーしても駄目?」
 鞄屋と本屋の間で、2人はライラに鞄と本を見せている。
 「だーめ!自分たちの買い物に来てるんじゃないのよ」
 ライラは腰に手を当てて2人を睨んでいた。
 子供にお菓子買ってってせがまれてるお母さんみたいだな。
 
 「遅れちゃってごめん。どうしたの?」
 俺たちが3人の所に行くと、ライラは助かったとばかりにホッと息をついた。
 「フィル君たちが追いつくの待ってたんだけど。今授業中だって言うのに、関係ないものを買おうとしてるのよ」
 「えぇ?」

 実は今、商学の授業中だ。
 授業中に市場にいるのも珍しい話だけど、実技に使用する材料の買い出しに来ていた。
 来週はそれを使って試作を行い、その次の週から実技に入る予定になっている。
 今日生ものは買って帰れないが、材料が決まれば、店と契約して配達してもらう予定だ。

 「いーじゃないか、自分のお金で買うんだし」
 「やっぱり駄目?」
 鞄と本を持って訴える2人に、ライラは深いため息を吐いた。
 「ダメに決まってるでしょ。この子が見てるんだから」
 ライラは肩に乗せた小鳥を指さす。

 全身ライムグリーンの鳥はメイラーと言う種類の鳥だ。
 大昔より戦いの時の報告手段の1つとして使われていた。特殊な鳴き声により対象に軽度の眩暈を引き起こしたり、鳴き方や動きによって簡単な意思疎通ができる。

 この鳥はボスを中心として群れで行動する。その為ボスであるメイラー1匹を召喚獣にすると、もれなくその群れもくっついてきた。
 グレスハートの温室担当であるマルコが、土モグラのメイベルを召喚獣にしていたがあの土モグラも群れだ。メイベルの命令によって子分が動いていたっけ。

 ちなみにライラの肩にいるメイラーは子分で、商学の先生が召喚獣にしているメイラーがボスだ。
 そのボスの命令によって、子分たちは商学各班の見張り役をしている。そして生徒に何かあれば、この鳥特有の鳴き声によって生徒を守ったり、ボスを通じて先生に知らせることになっていた。
 音と言うより振動なのか、その声は数キロ先でも解るらしい。

 【そーですよ!授業に関係ないことしてたら報告しますからね!】
 メイラーはレイたちを嗜めるように、ピョロロと強めに鳴く。言ってる意味は解らずとも、その様子で何となく察したのだろう。レイとトーマはガッカリしたような顔をした。
 
 恨めしげに鞄と本を見つめる2人に、カイルはため息を吐く。
 「店主に取っておいてもらったらどうだ?授業が終わったら買いにきたらいいだろう」
 2人はパァっと顔を明るくすると、すぐさま鞄屋と古本屋の中に入って行った。
 「カイル君は優し過ぎる」
 【そーです!まったくです!】
 ライラはむぅと頬を膨らませ、メイラーも首を上下させながらプンプンしている。

 「買いたい物に気を取られて、材料探しに集中されないよりよっぽどいい」
 しれっと言われ、ライラはしばし考えたあと納得したように頷いた。
 「……確かにそうね。そうかぁ、初めからそうすれば良かった。無駄な労力使った!」
 言いながら悔しそうに握りこぶしを震わせる。
 よほど俺たちが追いつくまでの間、押し問答があったんだな。申し訳ない。お疲れ様。

 2人が戻ってくると、ライラはひとつ息をついて「さて…」と仕切り直した。
 「材料なんだけど……何から見ていく?クッキー生地の材料と、中に入れる材料が必要になるのよね?」
 首を傾げて俺に問いかける。
 こちらの世界のクッキーはナッツ系以外で何かを入れることはあまりない。だからそれ以外のものを入れようと前もって話していた。
 「そうだね。中に入れるものはせめて2種類は作りたいから、市場の中で探しながら行きたいな」

 「生地は粉や卵やバターや砂糖だっけ?それなんかは学校の店でも買えるだろ?」
 レイの言葉にライラはゆるく首を振る。
 「確かに買えるけど、市場の方が安いかもしれないし…」
 俺はそんなライラの言葉を、手を小さく挙げて遮った。
 「その辺りは大丈夫。さっき確認してきたから。学校の方が同額か安いくらい。生地の材料は学校内の店がいいね」
 生地の材料の一番安い店は、前に来た時町のおばちゃんにリサーチ済みだ。さっき歩きながらその店を確認したけど、粉と砂糖は変わらないが、バターと卵は値段が高かった。
 あれだったら学校側で仕入れた方がいい。

 「すごいね。ここに来るまでに確認したの?」
 トーマは感心し、ライラはショックを受けたようによろめいた。
 「フィル君ひどい……。価格比較で商人の娘の力発揮できるって張り切ってたのに……」
 そんなに張り切ってるとは知らなかった。そこが商人の娘の見せ所だったか。
 俺は苦笑して「ごめんごめん」と謝る。

 「じゃあ、あとは中に入れる材料か」
 レイの言葉に俺はコクリと頷く。
 クッキーの中に入れる材料……チョコとかカカオあれば使いたかったけど、この世界ではまだ見たことないからなぁ。
 何でも合いそうと言えば合いそうだし。ぶっちゃけ皆の好みだよね。どんなクッキー食べたいかって言う。
 「皆、どういったものがいいとか希望ある?」
 
 「僕はフィルの作ったものは何でも美味しそうだから、フィルに任せるよ」
 「あたしもー!」
 トーマの言葉にライラが元気に手を挙げる。レイが腕を組んで、ハッとしたように俺を見た。
 「干し芋は?」

 干し芋……?
 馬車でこっちに来る時グレスハートから持ってきた干し芋か。レイめっちゃ食べていたもんな。気に入ってくれてるんだろうとは思っていたけど……。
 干し芋……干し芋かぁ。あれグレスハート産だもんなぁ。
 俺が考えるように顎に手をやると、ライラがレイの肩をパシンと叩いた。

 「イテッ!」
 「壊滅君かいめつくんのくせに、フィル君悩ませるんじゃないわよ!今回の実技成功するかは、フィル君にかかってるんだからね!」
 「そりゃそうだけどさ」
 ……え?!そうなの?俺そんな重責担ってたの?!いや、確かに実技のクッキー製造班だけども。
 俺は驚いて思わず固まった。だが2人は気付かず言い合いをしている。

 「だからって叩くなよ。聞かれたから意見言っただけじゃないか」
 「軽くでしょ。と言うか、料理出来ないのに意見言えるのってむしろ凄いよね」
 「味覚は別もんだろ」
 あぁぁぁ、この2人はいつも何かと言うと争ってからに。
 ちょうど間にいたトーマは2人に挟まれ、両脇から言葉が発せられるたびに、右に左に顔を向けている。飼い主の喧嘩見て困っている小型犬みたいだ。

 「2人ともそこまで!話が進まない」
 カイルは2人の間に手を差し入れてチロリと睨む。2人はバツが悪そうに肩を落とした。
 カイルは息をついて俺に微笑む。
 「それで、フィル様どうなさいます?」
 「あー、干し芋は作るのは可能かもしれないけど、少しだけ使うには材料費かかり過ぎちゃうかなぁ。うちの家の使えばタダだけど。それはダメなんだよね?」
 ライラの肩にいるメイラーに聞くと、頭を縦に動かしピョロロと鳴いた。
 【材料は落ちている木や石を拾い活用するなどは良いですが、売ってる物を貰うのは駄目です。違反になります】

 やはりダメか。
 「買うとなると、地元価格でも高いかなぁ」
 「そっか、無理かぁ」
 レイは残念そうに眉を下げた。
 しかし干し芋か……斬新だな。味は美味しいかもだが、サクサクの中に粘着力ありそう。
 機会があったら作ってあげるから。

 「カイルは何がいい?」
 「果物とかって出来ます?」
 「果物……」
 俺は市場の店並みに視線をやり、果物屋のフルーツに目が止まった。
 そうか。定番と言えば定番だな。
 色とりどりの果物は、クッキーに混ぜ込んだらカラフルで見栄えが良くなりそうだった。

 「いいね」
 皆を見てニコリと笑った。
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