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第8章〜転生王子は授業中

フルーツを求めて

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 クッキーの中に入れるものを果物に決めた俺たちは、果物屋と加工品を売ってる店を何軒かのぞいてみることにした。

 「こんにちわ。商学の授業に使う材料探しているのですが、見せてもらってもいいですか?」
 俺たちが挨拶すると、果物屋のおじさんは目を瞬かせる。制服の形とネクタイの色を見て驚いたようだ。
 「王立学校の中等部1年かい?今年は随分小さい子達が入ったもんだ」
 明らかに俺とトーマ見てるなぁ。
 すでに何軒かの店で似たような反応されているので、もういちいち気にしない。
 前回市場に買い物来た時、別段驚かれなかったが……。あの時は私服だったから、親のお使いとでも思われてたのかもしれない。

 「果物を加工したものを見たいんですが……」
 俺たちは店の中をキョロリと見回す。
 「ステア産のジャムや干したのがあるよ。お値段もお手頃だ」
 そう言って棚から瓶詰めや袋を取り出す。ジャムはカルシュ林檎プルと柑橘系の果物か。
 干したのはネラール蜜柑ナーブ葡萄が何種類かだな。
 
 「少し味見してみるかい?」
 おじさんが試食を勧めてくれたので、ありがたく頂くことにした。
 ジャムをつけた木のヘラと、ドライフルーツのかけらを皿に用意してくれる。
 カイルが先に味見して、他の皆にふり分けてくれた。

 ペロリと木ベラのジャムを舐め。
 「…………」
 あむっとナーブの干したのを口に入れた。
 「…………」
 口をもごもごと動かしながら、瞳をくるりと動かす。
 ん。ん〜。
 「美味しいだろう?」
 自慢げに聞かれて、俺はぎこちなく頷いた。
 「あ、はい」
 試食しといて微妙とは言えない。

 不味くはない。美味しいんだけど、何か甘みが足りない。
 んージャムの色も鮮やかさに欠けるしなぁ。
 茶色っぽい色は、クッキーにするにはいささか地味かも。せっかく果物使うんだからカラフルな色がいいんだけど。

 ローブをちょいちょいと引かれ、引っ張ったらしきライラと目を合わせる。彼女の瞳は明らかに『移動しよう』と訴えていた。俺は店主ににっこりと微笑むと、ペコリとお辞儀をする。
 「味見ありがとうございます。とても美味しかったです!あのぉ、もうちょっと他を見て決めてもいいですか?」
 「おう!またおいで!」
 「はい」
 にこにこと手を振ってくれる店主に心が痛む。
 ……ごめん、来ないかもしれない。

 店が見えなくなってきた頃、道の端に移動して輪になる。
 「クッキーにするにはちょい微妙だったよね」
 あぁライラ、心の中で思っていたことをそのままズバリと……。
 商人の娘の目利きと意見はやはり厳しいのか。

 カイルもうーんと唸って俺を見る。
 「やはりグレスハートの干物やジャムとは違いますね」
 「グレスハートはもともと潮風で果物自体が甘く育つからね。グラント大陸は日照時間も短いしカラッとしてないから、干したものもあんなもんじゃないかな?」
 俺はそう言いながら、店の方向を振り返る。

 グレスハートだって昔は似たようなものだったんだよね。果物自体は美味しかったけど、ただ砂糖で煮るだけ、ただ干すだけみたいな。
 ジャムは火の加減とイルレモンの汁で色鮮やかさをキープしてるし。
 ドライフルーツも果物によってイルレモンの汁を使いつつ、薄く切ったり、皮付きにしたり、砂糖漬けにしてから干したりしてる。
 俺が監修してからだいぶ様変わりしたのだ。

 ま、おかげで日干し王子の異名ついたみたいだけど……。
 港町ハレスでの一件を思い出して、自嘲気味に笑う。

 「フィルのせいだ」
 「ん?」
 見ればレイとトーマはしょんぼりと肩を落としていた。俺は首を傾げる。
 「何が?」
 「フィルからもらったグレスハート産のやつ食べてたから、すっかりそれに慣れてる俺がいる」
 「僕も……もう満足出来ない」
 絶望だと言うように2人は頭を抱えた。

 「僕のせいじゃないんだけど」
 理不尽な理由に、ぷぅと頬を膨らませる。
 来る道中分けてあげたのに、それを責められたらたまったもんじゃない。俺が「止めたら?」って言ってるのに、「止まらない」と食べまくってたのはレイじゃないか。

 ライラも呆れたように、頭を抱える2人を笑う。
 「グレスハート産は高級品だからね。あれと比べちゃまずいでしょ」
 「え、高級品なの?」
 俺が聞くとライラは当たり前だとコックリ頷いた。
 「味良し見た目良しで、貴族がこぞって欲しがる最高級品よ。グラント大陸の玄関口であるカレニア国くらいなら安く買えるけど。内陸のステア王国じゃ市場に出回ることさえないわね」
 カレニア国のハレス港で売ってたやつも相当高いと思ったけど、あれでもまだマシだったのか。

 「グレスハートの日干し王子印は外れないもんね。あの石鹸も日干し王子が作らせたって言うし、本当尊敬するわ」
 感心したようにため息をつくライラに、俺はふるふると震えた。
 「その名前は言わないで……」
 「は?何で?」
 キョトンと首を傾げられ、俺はクッと下唇を噛む。
 恥ずかしいからとは言えない。
 「何でも……」
 「変なフィル君ねぇ」
 カラカラと笑うライラに、俺は心の中でワァっ!と顔を覆った。慰めるように肩に手を置くカイルの優しさが心にしみる。

 【皆さんもうそろそろ時間も半分過ぎましたよ。どうなさいますか?】
 メイラーにピョロロと鳴かれ、俺はうーんと考えるように天を見上げた。
 「生の果物買って自分でジャムか干したの作るか、そのまま使うか…」
 「干したの出来るの?間に合う?」
 トーマの心配そうな顔に俺は頷く。
 自分で作るのは面倒くさいけど。鉱石使えば時間短縮はできる。

 「どっちにしても加工品は手間がかかる分高いから、生のものを買う方がいいわね」
 ライラは材料を金額を計算したメモを眺める。
 「せっかくだからステア王国の特産がいいなぁ。さっき果物屋で売ってたシャクの実とか」
 シャクの実はクランベリーみたいに小さな実だ。味は甘酸っぱく、クランベリーよりは水分が多くない。どちらかと言うと断面はイチゴのようだった。
 甘酸っぱいのはクッキーに合いそうだ。
 その提案に俺もコックリと頷く。
 
 「でもシャクの実はこの時期あんまり取れないって言ってたぞ。定期的に配達できるか?」
 レイは腕を組んだまま、皆の顔を見渡した。それは他の皆もわかっていることだ。
 すると円陣を組んでいた俺たちの後ろからふいに声がかかった。
 「何、お前らシャクの実探してんの?」

 振り返ると果物かごを抱えた子供が、こちらを見ていた。
 ライトブラウンの無造作ショートヘア。瞳は黒く大きくて、首を傾げる様子は猫のようで可愛らしい。腕まくりしたシャツと、短パンからスラッと伸びた手足や顔は、健康的に日焼けしていた。
 歳は俺と同じくらいかな?

 「中等部の1年?何?配達?」
 人懐っこい笑顔で近付かれ、俺は気圧されたように頷く。
 「あ……えと、うん。授業に使うんで7日ごとに1回。少しだけでもいいから8回分は必要なんだけど。……君は?」
 「ユーリ・オルト。うちの家、果物作って市場の店に卸してるんだ。シャクの実も温室で育ててるよ。店に卸すには少ないけど、お前らに分けてやる分くらいなら売ってやるけど?」
 
 見れば確かに果物かごに入れられた品物は、色つやが良くとても美味しそうだ。これならシャクの実も期待出来そうだった。
 「え、本当に?!」
 思わず笑顔になった俺を、レイが腕を引いて小声で言う。
 「ちゃんとした店にしようぜ。金を前払いして配達されなかったらどうするんだよ」

 「……あんたにしてはまともなこと言うのね」
 ライラが驚いたように言って、レイは嫌そうに睨む。
 【そーですよ!私の目の前で詐欺に遭われたら困ります!この市場の店から買いましょう】
 ライラの肩にいたメイラーもピョロロと鳴いて、頭を上下に動かした。

 確かにこの市場の店は王国の承認を得て店を出しているので、王立学校の生徒に詐欺まがいのことなどできない。発覚すれば国の中で店を出すことが出来なくなるからだ。
 「でも市場の店に卸してるって言ってるなら、信頼性は同じじゃない?」
 「それも本当かわからないだろ」
 そうかなぁ。かごの果物とても美味しそうなんだけどなぁ。
 名残惜しげにかごの果物を見る。

 「あぁん?何だ何だコソコソと、疑ってんのか?」
 ユーリはかごを地面に置くと、腰に手をやり俺たちを睨む。
 「変なことするわけねーだろ。そんなことしたら退学になっちまうじゃねーか」
 「退学?」
 「ああ、ステア王立学校の初等部に通ってるからな」
 そう言ってポンと胸を叩く。

 「え、授業は?」
 「初等部はもう終わったよ」
 何言ってんだと、片眉を上げる。
 「へぇ、終わってから家の手伝いしてんだ?」
 初等部で家が近い生徒は自宅通学も可能とは聞いたが、学校終わってもう手伝いしてるのか。
 俺が感心したのがわかったのか、ユーリはヘヘっと照れたように笑う。
 「まぁな。だから変なことしねーよ。配達もアタシが責任もってやってやるさ」

 …………え。
 俺たちの動きが止まった。
  「え………………アタシ?」
  俺たちは口をぱかんと開けた。
  「ユーリ…………女の子ぉっ?!」
 レイが驚愕したように目を見開く。
  「はぁ?!見えないのかよ」
  ユーリは訝しげに眉を寄せ、俺たちを睨む。
 
  すいません……可愛い男の子と思ってました。
  
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