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第8章〜転生王子は授業中

エナ草

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 ルーバル先生は再度手を叩いてざわつく生徒の注目を集めた。
 「エナを調べるすべと言うのはこれだ」
 ルーバル先生はそう言いながら教務室へと続く扉に向かって歩いていく。扉の横には黒い布に覆われた木箱があった。
 布を外すと箱の中に、土の入った小さな植木鉢がたくさん並んでいるようだ。
 
 「今からこれを配る。皆、前に出てきてここに並びなさい」
 何だろうと眺めていた生徒達は、即座に立ち上がり小走りで列に並んだ。それから列から身をはみ出すように先頭を覗き込む。
 あれを使ってどうやってエナを調べるのだろうか?
 俺を含め生徒達は箱の中の鉢を早く受け取りたくて、どうしようもなくウズウズしていた。
 ルーバル先生は手袋をはめ、そんな生徒1人1人に小さな鉢を手渡していく。

 「説明するまで鉢の土には触らぬようにな」
 「はい」
 渡された小さな鉢は見た限り何の変哲もなく。ただ土を入れられているだけのように見える。
 うーん。土を触るなと言うのなら、何かが埋まっているのだろうか?
 俺が鉢を持って戻ってくると、先に戻っていたレイが話しかけてきた。
 「これ何なんだろ?」
 「さあ?トーマわかる?」
 トーマもちょうど席に腰を下ろすところで、俺の問いに首を振った。
 「わからない。鉢だから、植物か何かかな?」
 だよな。それが一番妥当な推理か。
 皆もこれが何なのかわからないのか、色々憶測をしながらざわめいている。

 「よし、皆の手元に渡っておるな。こちらに注目せよ。説明をしよう」
 ルーバル先生に言われて皆がそちらを見ると、教壇にも同じものがひとつ置かれているのがわかった。ルーバル先生は皆の反応を見ながら、勿体振るようにゆっくりと話す。
 「ここには、エナ草と言う植物の種が埋まっておる」
 エナ草の…種?

 「私の専門は召喚学であるが、これは私が獣を探索している最中に発見した植物だ。グラント大陸の中でも北の地。雪山に生息する植物でな。なかなか興味深い生態をしているため、これの研究も行なっている」
 コホンとひとつ咳払いをする。
 「名前は発見者である私が付けた。エナ草と言う名の通り、この植物によってエナを調べることができる」
 ルーバル先生は顎を上げて少し自慢げな様子だ。先生の言葉で生徒たちが「おお〜」と感心したものだから、より胸を張っているように見える。

 「まず手本を見せよう」
 ルーバル先生は手袋を外すと、素手で土に触れた。
 「エナ草の種は、エナに反応し成長する。普段は大気に含まれるエナで、少しずつ成長する草なのだが。今回は種に直接エナを感知させ成長を促す。こうして土に触れたら指先に集中して、10数える。そして手を戻すのだ」
 生徒全員の瞳が、先生の鉢を見つめる。
 しばらくするとぴょこんと芽が飛び出した。生徒の感嘆の声とともに芽はみるみる葉と茎を伸ばし、上へと育っていく。20センチ程に育つと、5枚花弁の花がいくつか咲いた。黄色と緑色2色の花である。

 「この葉の数はエナの推定量を表している。召喚獣を持たない人を100枚として、私の残りは……えー、長い茎には10枚の葉がつくから……34枚。私はすでに召喚獣が5匹いる。エナの残りはこんなものだろう。それからこの花の色は私の性質を表している。緑は風、黄色は土だ」
 花を指し示しながら説明を進める。
 「つまり私は風や土の能力を持った獣と相性がよい」
 そこへ「ハイ!」と言う声があがった。そちらを見れば、5列ほど後ろにいる生徒が手を上げている。
 「あの、俺召喚獣にしたい獣が何種類かいるんです。獣と性質合わなかったら、召喚獣にしても能力は発揮しないですか?」
 不安そうに聞くと、先生はゆるく首を振った。
 「いや、他の性質でも召喚獣の能力は使えるだろう。ただ主人の性質が土の場合、そのエナを摂取した土の召喚獣は能力がさらに上がる傾向にある。自分の性質を知ると言うことは、それを認識することだ」
 と言うことは、獣の個体差もあるだろうが、主人との相性によって同じ召喚獣でも差が現れるということか。

 その説明に自分なりに頷いて、俺もすかさず手を上げる。
 気になっていることがあるんだ。始める前に聞かないと。
 先生に促されて俺は口を開いた。
 「例えば5匹の召喚獣持っていたら、先生と同じ残りの葉の数なんでしょうか?」
 同じだったら6匹召喚獣がいる俺は、感覚的に残り20枚前後って可能性があるんだけど…。
 だがルーバル先生は首を振って息を吐いた。
 「それは所持している召喚獣の強さ、能力によって変わるだろうな」
 「そうですか…」
 俺は落胆を悟られないように、そっとため息を吐いた。
 ヤバイ。これってマジで俺の残量ないんじゃなかろうか?だって精霊と伝承の獣いるしっ!テンガだって何気にスペック高いから絶対エナ摂取多い気がする。どうしよう葉が1枚2枚だったら…、いやエナ草自体ちゃんと出るんだろうな。

 俺がそんな心配をしていると、隣で大きな声が上がった。 
 「わぁっ!」
 「え?」
 レイの方を見ると、彼のエナ草がみるみる育っていくところだった。
 …フライングしたな。
 慌てるレイに構うことなく、レイのエナ草はあっという間に葉が生い茂り、黄色と赤の花が咲く。

 「先生の説明終わるまで待てって言われてたでしょ?」
 ライラが呆れたように言うと、レイは怒られるだろうかと先生を上目使いしながら頭をかいた。
 「いや、説明終わったかなぁと思って」
 「あんたねぇ……」
 ライラは脱力したように睨む。しかしルーバル先生はフォホホと楽しげに笑った。
 「まぁ、良い良い。葉の生い茂り方も大変素晴らしい。花の色は火と土の性質だな」
 微笑みながら頷いた先生は、教室を見渡した。
 「他の者も我慢できんだろう。では、とりあえず各自やってみなさい。質問があったらその都度答えよう」
 生徒たちから歓声があがった。

 「助かったね。レイ」
 俺がこっそり耳打ちすると、レイはホッと息を吐いた。
 「まったくだよ。でも、土の性質あって良かったぁ!残量も結構ありそうじゃないか?」
 嬉しそうに葉を数えるレイに俺は頷く。
 レイの召喚獣は土属性だもんな。性質が合って嬉しいみたいだ。
 だがそんなレイとは裏腹に、彼の隣で残念そうな声を漏らすトーマがいた。
 「あぁぁぁ……そんなぁ」
 葉が茂ったエナ草は、花の色が青と水色だった。トーマの召喚獣は風属性なので、性質が一致していない。
 トーマ…自分の召喚獣にデレデレだしなぁ。相性が悪くてショックなのかもしれない。
 「残量があっただけでもいいじゃないか!ないよりましだろ!」
 トーマを慰めるようにアッハッハと大きく笑ってレイが言う。
 レイ、それ今の俺にすっごい突き刺さるんだけど……。なんかますますやるの怖くなったじゃないか。鉢貰う時はワクワクしてたのになぁ…。
 土の上で手を彷徨わせて、触るかどうしようかじっと土を見つめる。
  
 「あれ?フィル君まだやってないの?」
 ライラの方を見ると赤と緑と黄色の花が咲いている。
 「あ〜…僕召喚獣何匹もいるから、残量確認する勇気でなくて。それより3つも性質持ってるんだ?すごいね」
 なかなか3種類も咲いている人はいない。中には1種類の人だっているのだ。
 だがライラは首を振って自分のエナ草の鉢をずらした。
 「私よりアリスすごいのよ!」
 ライラは隣のアリスのエナ草をジャーンと見せる。

 「本当だすごい!」
 アリスのエナ草には白、青の花が咲いていた。
 他の生徒を見渡しても、白なんて見たことない。
 「ほぉ、白か。癒しの性質だな。なかなかない色だ」
 ルーバル先生も驚いたようにアリスのエナ草を観察する。他の生徒にざわめきながら注目され、アリスは恥ずかしそうに俺を見る。
 「でも癒しの召喚獣なんてそれこそ滅多にいないもの。性質があってもあまり嬉しくないわ。私よりもフィルの性質が気になるんだけど」
 「早くやれよ。残量なくても仕方ないじゃないか。お前いっぱい持ってるんだから諦めろ」
 レイにニヤリと笑われ、クッと唇を噛む。
 他人事だと思って……。

 俺はため息を大きく吐いて植木鉢の土に触れる。指先に集中させながらゆっくり10数えた。
 皆が注目する中、手を離して土をジッと見つめる。
 
 土はピクリとも動かない。
 「………」
 あれ…?変化……ない?
 ぶわっと冷や汗が吹き出す。
 俺やっぱ残量ギリギリなのか?嘘だろ。

 そう思った瞬間、キラキラと輝くものが土から飛び出した。
 「え……?」
 

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