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連載

エルフの村を後に

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これでしばらくの間は、エルフの領域に来る事はないかと。
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 技の伝授も終わった事で、ライナさんと共にエルフの村を後にする。ルイさんと、何故かやってきてくれたとらちゃんはエルフ村の入り口まで見送ってくれた。またそのうちここに来るようにしよう、そんな気持ちの良い旅立ちだったというのに。

「ねえ、気が付いてる?」

「もちろん、数は7って所か。まず自分が前に出ていなすから、その後はライナさんに任せる」

 エルフの村からサーズの街へ抜けるために歩かなくてはいけない森の中で、モンスターの反応が早速こちらにやってきたのだ。まったく、邪魔くさい。自分は腰にさしている刻月・惑を鞘から抜き、いつでもアーツが放てるようにして前に進む。こちらに向かってきているモンスターは、自分をターゲットしているのは間違いないようで、この先で待ち伏せする体勢に入ったようだ。

(待ち伏せは確かに基本だな、だが、その戦法が常に通じるかと言うと……)

 そう考えながら前に進み続ける。歩く速度は変えず、気が付いていませんよーと言う振りを続ける。後3歩、2、1、ここ。

「ガルルルウゥ!!」

 茂みの中から飛び出してきたのは狼タイプのモンスター。自分の腕や首を食いちぎろうと飛び出してくるが……。

「《惑わしの演陣》」

 『闇食い』さんからもらった魔スネーク・ソードの固有技、《惑わしの演陣》を発動する。即座に伸びるスネークソードが自分を護るようにぐるぐると自分を中心とした刃の渦を形成し、足元には闇で作られた魔法陣が出現する。飛び出してきた狼達は、その刃の前に自ら飛び込む事になった。

「ギャイン! ギャイン!」

 悲鳴を上げる狼達。だが、牙を向けたのはそちらが先なんだから覚悟していただこうか。数匹をまとめて迎撃した《惑わしの演陣》の締めに入る。延ばした刃を元に戻す動作を利用して、刃に触れている狼達を更に切り裂きダメージを蓄積。闇の魔法陣で捕らえられている狼達は、のこぎりの様に切り刻んでくる刃から逃げたくても逃げ出せない。

 惑の刃が剣に戻ったところで、トドメとばかりに地面に闇で作られていた魔方陣が爆発。闇属性のダメージを捕らえている狼達に与える。これで自分に飛び掛ってきた狼達は文字通りに消し飛んだ。

「ガウウ!?」

 飛び掛ってこなかった3匹の狼達は、手を出した相手がヤバイ相手だと理解したのか、逃げるそぶりを見せるが……時間切れだな。ほーら、ガントレットを構えたライナさんがきゅっ♪ と狼の顔面をがっちりと掴みましたよ?

「さて、売られた戦いは買わないとね。お代は貴方達の命よ♪」

 どんがんごんがんと、鈍い音が森の中に響く。もちろんガントレットに掴まれた狼達も必死に抵抗しているのは分かるのだが、足が地面についていないからな……むなしくばたばたと空をきるばかりだ。掴まれなかった幸運? な狼は、ライナさんのガントレットに掴まれた狼を何度も何度もぶつけられて消えていった。残ったのは既にぷらーんぷらーんと揺れる様にしか動かないライナさんに掴まれている狼2匹だけである。

「まったくもう、気持ちよく出発できたと思ったら、早速戦いになっちゃうなんてイヤになるわね」

 ぷんすかと言う表現が似合う感じで、ライナさんが怒っている……その表情はやや可愛らしくもあるが、両手の巨大化したガントレットにしっかりと握られていて、ピクリとも動かなくなった狼達のせいで何ともいえない威圧感と恐怖感が漂う。掴まれているのが人間だったら、完全なホラー映画の悪役である。

「街や村の外に出たら、もうそこは安全地帯ではないんだから仕方が無いだろう。とはいえ、その意見には同意するけどな」

 折角の見送りつきなんて贅沢な出発だったのに、その良い気分をぶち壊されたのは事実だ。狼達に同情するつもりは全くない。だが、この戦闘がサーズに向かうまでに行った唯一の戦闘だった。

 何度かモンスターの反応が近づいてきたのは《危険察知》で分かるために間違いないのだが、一定距離まで来ると一目散に逃げ去っていくのだ。恐らくライナさんのガントレットに捕まったままの狼を見て、ああなりたくないと考えたのかもしれない。

「やっと森を抜けたな。サーズの辺りに来るのは久々な気がするよ」

 森の中や谷底の岩場という場所で戦い続けてきたせいか、草原と言う開けた場所がやけに広く見える。視界をさえぎる物が少ないと言うのは良い物だな。

「さて、この子達にももう用はないわね」

 グシッと、ライナさんが捕まえていた狼達を握りつぶす。その直後に狼達は光の粒子となって退場。投げ捨てるんじゃなく握りつぶすって時点で、いらついていたんだな。

 まあいい、流石にサーズの街近辺までダークエルフの女性が馬鹿でっかいガントレットにモンスターを握ったまま歩いていたら異様な光景だものな。ここで処分してもらっておいた方が何かと都合が良い。

「ここからはまずモンスターは生息していないし、いても弱い奴ばかりだからな。さて、この道の先にある川に架かっている橋を渡ればサーズだな。今日はサーズやその近辺でのんびりして、ファストに行くのは休息後にしよう」

 そこからしばらく歩くと、人魚達に出会ったサーズ西にある川と架かっている橋が見えてきた。今日も釣り人が大勢釣り糸を垂らして釣りを楽しんでいるようだ。

「あー、釣りをやっている人多いわねー。アース君は釣りってやらないの?」

 ライナさんからの質問に苦笑しながら、今までの釣りの釣果を教える。もちろん人魚を吊り上げた事も含めてだ。

「魚を釣らずに人魚を釣るって、また変な事やってるわね……」

 自分の話を聞いたライナさんにも苦笑いは伝染した。とはいえ、しょうがないだろう……人魚なんて存在がいるなんてことは、公式にもプレイヤー間の話でもあの時はまったく情報がなかったんだから。

 それにいうまでもないが、魚か人魚を釣らないと釣りのスキルレベルが上がらない。更にはステータス画面にて、自分の釣りスキルは永久に失われている事が分かっている。原因はあのエルの時に行った変身だ。

「ね? 私も釣りをやってみたいんだけど、ここで寄り道をしてもいいかな?」

 ライナさんの言葉に自分は頷いた。急ぐ旅でもないし、ファストに戻ったら自分は新しい盾の製作に入るから、ライナさんには退屈しのぎをかねてサーズにて釣りをしてもらっていた方がいいかもしれないな。

「いいよ、えーっと、そうなると釣竿などの道具が必要になるだが、釣りギルドの人の露店は何処かなーっと」

 釣りをしたいのなら、釣竿とルアーがなければ始まるまい。ちなみに生餌 (みみずとかね)はない。幸い釣りギルドが出している露店はすぐに見つかった。

「いらっしゃい。おや、ダークエルフのお嬢さんとは珍しい。釣り道具をご所望で?」

 そんな言葉で露店の店主プレイヤーは出迎えてくれた。釣りの初心者用の道具一式をお願いすると、露店の店主はいくつかの釣竿を持ってきて、ライナさんに持たせる。どうやら一番手に馴染むものを選んで欲しいと言う事らしい。

「これ……が一番馴染むような気がします」

「それは一番竿の反応が精密な奴だよ。ちょいと難しいかもしれないが、馴染んだというのであれば使いこなせるかもしれないな。お値段は1200グロー、初回はサービスでルアー50個がただで付くよ」

 浮きや錘などは釣竿に一緒にくっついている。その辺りはゲームゆえに簡略しているんだろう。

「じゃ、これで。あれ? アース君は買わないの?」

 ライナさんの言葉に自分は頷く。

「どうにも、釣りはダメなんだよね。話もしただろう? 横で見ているほうが楽しいから」

 ということで、新しい釣竿を手に、うきうき気分で川に向かうライナさんに付き合って釣りの光景を見届ける事にした。ライナさんは大体3分から4分の間で1匹吊り上げると言うペースだった。30分以上一回もつれなかった自分はやっぱり異常だったんだな……。ライナさんの吊り上げた魚は、自分が焼いておいしく頂いた後に本日はログアウト。明日はファストに向かおうか。
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感想は全て読ませていただいています。いつもありがとうございます。
戦闘回数が少ないので、スキルは変動していません。
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