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連載

ダンジョン進行中、その6

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感想にいくつか言葉が足りないとありましたが、それは故意にです。
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(やーっぱりはずれを引いたか……妖精の時といい、今回といい、いらん時に良くハズレを引くなぁ)

 頭を左右に振りながら、自分は胡坐をかいて座り込む。残り5名がどういう選択を選ぶのかは分からないが、見捨てる選択をとっても問題はあまりない筈……だ。《危険察知》のよる察知能力を失わせてしまうのは申し訳ないが、自分が抜ければダンジョンの構造などがまた変化する筈だから、罠が多くて進めないと言う状態にはならない……と思う。

『残念じゃのう、腕がそれなりにあるというのにここ一番で悪い方を引くとはのう。じゃが、盗賊であるお主が抜けたらあやつらは困るのではないかの?』

 また、声が聞こえてきた。

「それは考えた。けど、変に揉めたり危険を一方的に押し付けると、この場を切り抜けられてもPTの空気がぎすぎすし始めるんですよね。誰だって必要以上に自分の身を危険にさらしたくは無い。盗賊役は大事だから、お前が身代わりになって死んで来いなんて言われた人が、そのPTのメンバーをその後信用出来ますかね?

 ましてや今回は昔からの仲間と言うわけでもなく、このダンジョンの中で出会ってこの場を乗り切ると言う目的だけの臨時PTでそこまでの信頼関係があるわけも無い……結果として、積極的に自分が動くのが一番揉めないと判断したんですよ」

 この場を乗り切っても、またいざと言う時は身代わりにされるんじゃないか? そんな疑いを持ち出してしまったら長年行動を共にしたPTすら空中分解しかねないというのに、それを臨時PTでやったらなおさらまずい事になる。盗賊一人が欠けるより、もっとひどい事になってしまうだろう。

 ──幸いこのダンジョンは、犠牲になった人も生きて帰れるダンジョンではあるが、裏切られた、危険を押し付けられたと言う負の感情は消えてくれるわけではない。そんな余計な感情を変に育てるぐらいならそれっぽい事を言っておいて、適度に納得させておいた方がいいのだ。嘘も方便という言葉もあるし。

『なるほどのう。このゲームを始めていくつかのPTを見てきておるが、大半が喧嘩になったのう。一人でいくつも開けることが可能なルールの時には、生贄を誰にするかで言い争う姿が実に滑稽じゃったのう。

 そしてそういう奴らは簡単にこの場所に隔離された人を見捨てていきおる。そしてお約束のように地上に戻って再会すればもう一度大喧嘩じゃ。見てて飽きんわい』

 性格悪いな! こんなゲームを強制するんだから性格が良い訳がないんだけど……それを考慮しても性格が悪すぎる!

「呆れた話だ……このゲームを強制した上に、その後まで見てるんですか」

 心底呆れた表情を浮かべていると思われる自分を見て、また声はふえふえと笑い声を上げる。

『そう言ってくれるな。わしの娯楽はそれぐらいしかないからの。それに一回誘った人物は二度とこのゲームに誘わぬ様にと言う決まりもこのダンジョンから課せられておる。──ほう、残りの5名は、お主を奪還する方を選んだようじゃな』

 そう動いたか……ならば、頑張らねばならないな。

「さて、奪還戦のルールは? 自分をこうやって拘束しなかった事からこちらでも何かしらの行動を取らないといけないと予想できますが」

 この自分の言葉と同じような質問を、外の5名も聞いていた様だ。突如壁の一部が外の5名の様子を視覚できるようにスクリーンみたいな物を生み出し、そこに外の様子を映し出す。恐らく向こうからは、自分の様子を映し出されているんだろうな。

『では、奪還戦のルールを教えようかの。勝利条件はわしを壁に叩きつける、膝をつかせるなどの一定ダメージを与えてワシの動きを止めれば達成じゃ』

 声がそう告げるなか、黒いもやが自分の前と映し出されている5人の前に漂い始める。どうやら声の主が姿を現すようだな。

『わしは手加減するが、あまりにも重い怪我を負わせてしまった場合は即座にリタイヤ扱いで強制帰還になることだけは覚えておくのじゃぞ』

 黒いもやが人型をかたち取り、そこから現れたのは1人の骸骨。その姿にぼろぼろの黒いローブをまとい、髑髏を象った杖をもつ姿は……

「リッチ、か」

 自分の声と、外に居る5人は同じ感想を持ったのだろう。骸骨は満足そうに頷く。

『うむ、わしはお主らの言うリッチと呼ばれる存在じゃな。ここの主からはマスターリッチなどと呼ばれておる。いうまでもないが特技は魔法による攻撃じゃな。今回は手加減するゆえ、直接攻撃でも魔法による攻撃でもわしの体にダメージを与えることが出来るようにしておくぞ』

 そういえばリッチには、耐性持ちが多いからな。今回はそれを無しにしてくれるって訳だ。

「ずいぶんと気前がいいね?」

 自分の言葉に、目の前のリッチは『おお、忘れておったわ』と言いながら骸骨の杖を再度軽く振る。すると突然、この部屋に居ない5人の声が急に聞こえるようになった。

「アースは無事なんだろうな?」

 お、これはライさんの声だ。

「怪我ひとつなく生きてるよ」

 こちらからの声が聞こえるかどうかを確かめるべく、ライさんに返答してみる。

「あ、これはアースさんの声ですね〜? 急になぜ聞こえるようになったのでしょうか〜?」

 どうやら聞こえるようだな。ミリーの返答に不自然さも無い。

『すまんのう、この場に居る時限定でお主ら同士の言葉を聞こえるようにするのを忘れておったわ。強制転移させたアースという男じゃが、あくまで他の小部屋に移動させただけじゃよ。かすり傷1つさせておらんわい。見てもらえば分かるじゃろうが、拘束もしておらんぞ』

 本当か? というPTメンバーの言葉に、本当だから今の時点では心配はいらないと返す。

『さて、とりあえず説明を続けるぞ? この戦いは囚われた方と、助け出す方が協力せねば勝てぬ。囚われた方に居るわしに対して、囚われた人物がダメージを与えると助け出す側の5人の前に居るわしの防御力が大きく下がる。その防御力が下がったワシに対して攻撃を当てれば有効なダメージを与える事が出来るという仕組みじゃな』

 なるほど、このルールでは罠に引っ掛けて隔離した人を問答無用で拘束してしまったら成り立たなくなってしまうな。だから拘束もされないし、この部屋には動きを制限するような罠が一切なかったのか。

『失敗条件は救援側が全員戦闘不能になるか、囚われた人物が戦闘不能になることじゃな。囚われた人物が戦闘不能になった場合は、救援失敗という扱いになるがの、次の階に下りることが出来る仕掛けは開放しようかの。救援側が全滅した場合は残念じゃが、囚われた人物も強制帰還とさせてもらうぞ』

 まあ、この小部屋から自力脱出する方法が無い以上、そうなってしまうよな。周りの壁が掘れればいいんだろうけど……それを許してはくれそうにないよな、ここの壁は。

『さて、わしの防御が落ちているのかどうかを視覚で分からんとそちらが不利過ぎるからの、こうしようかの』

 またもリッチが骸骨の杖を振ると、ライさんやミリーが居る5人の方に立っているリッチに、薄い青い幕が形成される。

『この膜があるときはわしの防御が普段どおりであり、なくなれば落ちているというわけじゃ。分かりやすくなったじゃろ? これは殺し合いではなく一種のゲームじゃからの、これぐらいはサービスをさせてもらうわい。そちらの準備ができたら始めるぞい、準備ができたらわしに攻撃を当ててくれれば、それが開始の合図じゃ。人の言い回しでいうならば、先手を譲るというやつじゃの』

 映し出されてる画面の向こうでは、武器を構え始めるPTメンバーが見える。さて、自分の一手目はどうしようか。自分の主力である弓で攻撃? それとも不意を付いて近接攻撃でラッシュを掛けようか?

 自分の役割は少しでもこちらの目の前にいるリッチにダメージを与え続けて、PTメンバーがいるほうのリッチが纏っている防御の膜を無力化することだ。 画面の向こうにいるPTメンバーが戦闘準備を終えた事を確認した自分は、近接戦を仕掛ける覚悟を決めてリッチに向かって走り出した。
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声の主登場。
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