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連載

マスターリッチ戦&予想外の乱入者

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「それでは遠慮なく! 《バランス・クエイカー》!」

 リッチの顎に何とか蹴りが届き、エルフ流蹴術のアーツ《バランス・クエイカー》をマスターリッチに叩き込む。2連撃目のかかと落しもゴズン! と派手な音を立ててめり込むのだが。

『ほうほう、なかなか効いたぞ。なかなかいい一撃じゃな』

 と、マスターリッチは自分がかかと落としを叩き込んだ場所である頭を軽くなでつつ言う。どうやら大して効いてないか……更に追撃の蹴り攻撃を自分は行うが、これはマスターリッチの生み出した不可視の壁に阻まれ、体ごと弾き飛ばされる。

『さて、次はわしの番じゃな。まずはこんな所かの?』

 そう言いながら、マスターリッチは自分に向けて杖を持っていない左手を向ける。両手の盾を構えて防御の構えを取った自分だが、その直後に部屋の壁まで吹き飛ばされて叩きつけられた。

「ぐ……何だ今の……」

 攻撃が全く見えなかった。分かったのは盾に特大ハンマーでぶん殴られたような衝撃が来た事だけだ。

『ふえふえ、意地悪をするつもりはないから種明かしをしてやろうかのう。今のは風の魔法の応用じゃな。風を圧縮して打ち出したのじゃよ。圧縮が手間じゃし、射程も大して長くは無いんじゃが。それでも不可視の攻撃は脅威じゃろう?』

 なるほど、空気その物を……エフェクトなども一切見えないとは厄介な。だが、種明かしには感謝する!

「来い!」

 妖精の記憶を取り出し、《妖精招来》を起動して妖精を召還する。ぱらぱらぱらとひとりでにページがめくられてゆき、本からは岩の形をした土の妖精が召還される。そして自力召還で鷹の姿をした風の妖精を召還。どちらの妖精にもMPを40%提供しているが、妖精の記憶が10%ほどMPを肩代わりしてくれたので土の妖精側の召還コストが安くなり、実質消費したMPは70%である。

(聞いていたね? 風の妖精さんはさっきのあいつがやった事と同じことを。土の妖精さんは壁にドリル状の杭を生成!)

 出し惜しみは無しだ。さっきの一発を貰って分かった、出し惜しみをしていたら何も出来ずに戦闘不能に追い込まれる。ガンガン攻めて、相手の攻めを少しでも封じなければならない。風の妖精が圧縮作業を開始し、土の妖精がマスターリッチの後ろの壁に回りこんで杭の生成を開始する。

「《ツインファングアロー》!」

 妖精たちが攻撃を始めるまでの時間稼ぎとして、弓によるアーツをマスターリッチに仕掛ける。矢は不可視の盾によって弾かれるが、とりあえずマスターリッチの攻撃の手を妨害することはできた。アンコモンMPヒーリングポーションを口に含み、ほぼ空っぽになってしまったMPを回復しておく。

『今の矢は時間稼ぎか……さて、何を見せてくれるのかのう?』

 マスターリッチはあえて受ける事を選択したようだ。なるほど、これは殺し合いではなくゲームだから遊ぶってことか……都合がいいから食らっていただこう。今後も使える攻撃になるかどうかのテストになるし。

「やっていいそうだ。遠慮せずに放て!!」

 自分の声に応じて、鷹の姿をした風の妖精がマスターリッチに肉薄。ゼロ距離で先ほどのマスターリッチが自分に向かって放った圧縮した風をぶつけて後方へと吹き飛ばす。マスターリッチが吹き飛ばされた先には、土妖精によって生成されたドリル型の杭が待ち受けていた。

『ゴグフゥッ!?』

 これには流石のマスターリッチも悲鳴? を上げる。そんなマスターリッチの体を容赦なく突き破る土妖精の生み出した杭。この連携は今後使えそうだな、この攻撃方法を妖精の記憶に記録できたのは僥倖と言うべきか。さて、これならば流石に全く効いていないということは無いだろう。ちらりと5人が映っているスクリーンを見てみるが、向こうに居るマスターリッチを覆っていた青い幕は消えている。

 こちらがアンコモンMPヒーリングポーションをもう一本口にしていると、マスターリッチが口を開く。

『ぐぬ……まさか見たことをすぐにやり返した上に、こんな発展攻撃を加えて返してくるとはの……わしが遊んだのは事実じゃが、流石に効いたのう。ではそろそろこちらも多少魔法のレベルを上げようかの』

 マスターリッチは突き刺さっていた杭から自らの体を解放しつつ、そんな宣言を行う。自分もポーションを飲み終えたので、弓を構えて再攻撃の準備を始めたその瞬間、突如マスターリッチの体が大爆発を起こし、黒煙が自分の視界を遮った。

「何事!?」
『なんじゃと!?』

 自分だけでなく、マスターリッチまで驚きの声を上げた。え? 今の爆発はマスターリッチの魔法じゃないの? そこに風が吹いて黒煙をふき飛ばすと、そこには……

「クィーン!? いや、幻影か!?」

 そこにはフェアリークィーンが立っていた。そういえばクィーンから貰った指輪にそんな効果があったっけな。久しく発動していなかったからすっかり忘れていた。だが、この状況で発動してくれたのはありがたい。マスターリッチに当ててくれたあの魔法は大ダメージだったろうし、ここから一気に押し続けよう! そう自分は考えていたのだが。

 なぜか3秒たったのにもかかわらず消えないフェアリークィーンの幻影。あれ? 確か指輪の効果によって呼び出されたフェアリークィーンの幻影は3秒で消えるんじゃなかったっけ? コツコツコツと、足音を立てながらマスターリッチに近寄るフェアリークィーンの幻影。

「遊びもゲームも結構ですけど。アース様に何してるんですか貴方は!!!!」

 言うが早いか、マスターリッチの首の骨を左手で掴み、持ち上げるフェアリークィーンの幻影。え? なに? これはどうなってんの? 誰か説明を! 説明を下さい!

「私の進化がぎりぎりで間に合って本当に良かった……最初のいけに、ゲフンゲフン。そうではなくて実験ざい……じゃない。最初の獲物は貴方ですね。さあ、覚悟してくださいね……うふふ」

 そんな事をフェアリークィーンの幻影は言ったかと思うと、ビッターン! ぶわっちーん! と言う音が響き渡り始めた。マスターリッチの首の骨を掴んで持ち上げたまま往復ビンタを始めたのである……この展開についていけない自分と、恐らくマスターリッチ。

『ぶわっ、までい! げぷっ! そもそもなんでお前のような者がここに! へぎっ!』

 そのうち往復ビンタの音に、ザシュッとか、ザグッとか言う音まで混じり始めた。フェアリークィーンの幻影をもう一度確認すると、往復ビンタと行っている右手の指一本一本に闇の刃が形成されていた。そういえばフェアリークィーンは闇属性の妖精だったなとかいまさらながらに思い出す。

 ここで、指輪を確認すれば何か分かるんじゃないかと思い、戦闘中に行うにはあまりにも不適切な行為であるのだが……マスターリッチはフェアリークィーンのお仕置きタイムからとてもじゃないが逃げ出せそうにないので、指輪を見て確認してみる。すると。

 第八十七代目フェアリークィーンリング・改

 指輪の所持者があまりにも不運や困難に直面する事を一番間近で見てきた為、主人を護るために進化と言うよりも変質してしまったフェアリークィーンリング。能力の一部が低下している分、出てくるフェアリークィーンの幻影に備わっている能力が大幅に向上している。

種類:魔法指輪 (カースユニーク)

効果:「妖精言語に連なるスキル強制習得」「強制装着」「装備解除不能」
「属性攻撃能力が5%UP(変質前より5%ダウン)」「属性防御力5%UP」「魔法使用によるMP消費カット能力消去」「MP自然回復力が5%UP(変質前より5%ダウン)」

「第八七代目フェアリークィーン専用魔法 (プリズムノヴァ)解禁」

「指輪の主人が窮地に陥った時にフェアリークィーンの幻影が呼び出され、窮地に陥った主人の敵を排除するか幻影の精神力が尽きるまで暴れ続ける、一度呼び出されると、2週間の休息時間が必要となる」

 oh……だから、今フェアリークィーンの幻影が現在進行形で大暴れしているのか……既にマスターリッチはずたぼろなのだが、フェアリークィーンの幻影が往復ビンタをやめる様子は見受けられない。今の自分に出来る事は、部屋の隅っこに行って大人しく体育座りをしている事だけか……

 そして数分間、マスターリッチが完全に折れて『わしの負けでいい、負けでいいからもう止めてくれ……』と息も絶え絶えに言うまで、フェアリークィーンの幻影による往復ビンタ&斬撃は続いたのであった……。いかん、見ている自分もトラウマになりそうだぞこれは。
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あまりに出番がなかった指輪が暴走を始めました。
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