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連載

やや番外編? ミリー視点から見た5人PTVSマスターリッチ戦

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製作中のBGM……風来のシレン 特殊モンスターハウス
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 えーっと、これはどういうことでしょうか? ほんの数分前は一種のカリスマ性まで漂わせて私達の前に立ちふさがっていたマスターリッチさんですが、今は地面に倒れこみ、時折びくんびくんと痙攣していますね……。骨しかないのに。

「誰か、状況が分かる人は……」

 普段作っているのんびり屋のミリーという顔すら剥がれ落ちてしまっている事に気が付き、慌てて深呼吸。経済界に居る海千山千の曲者ぞろいなオヤジやおじいちゃん達とのんびり屋の仮面をくっつけて戦ってきた私ですが、この予想外の展開に素が出てしまったようです。いけないいけない。

 気持ちが落ち着いたので、PTメンバーを眺めますが……アースさんと同行していたケンタウロスの兄妹も、私と同行していたお二人も首を横にふるふると振ります。ええっと、とにかく戦闘開始の直前から思い出すことにしましょうか。


 アースさんが宝箱のトラップに引っかかって消えた後、説明を受けてからマスターリッチが登場した、までは何もおかしくないですよね。そうしてアースさんが攻撃を仕掛けた映像を見て、青い膜が消えた直後に私達も戦闘を開始した……ええ、ここも問題はないですね。ケンタウロスの兄妹が大剣とランスを持ってマスターリッチさんへ突撃し、私とリリティちゃんが魔法で攻撃。シャウルさんがケンタウロスの兄妹の攻撃をサポートすると言う布陣だった筈。

 戦っているうちに一度青い膜が復活しましたが、それもすぐに消えたので私達は戦闘を続行したんですよね。この辺りで私は回復を重視して、リリティちゃんは攻撃を中心に。ケンタウロスのお兄さんが大剣をしまって片手剣と盾を持ってタンカーに。妹さんはランスを持ったまま戦闘を続行。シャウルさんも時々マスターリッチの不意を付いて横から攻撃を仕掛けていましたね。

 ですが、敵もマスターリッチと言うだけあって、光属性を除く攻撃魔法や妨害魔法を次々と笑い声を上げながらこちら側にポンポンと放って来る強敵でした。遊んでいるのかどうかまでは分かりませんでしたが、使ってきた攻撃魔法は初期の魔法……〈魔術〉級と今では呼ばれている最弱の魔法でした。ただし、最弱の魔法とはいえガトリングのように複数の属性弾を次々と打ち出してきましたし、威力は私達が使うよりもはるかに高く、私達は徐々に押されて防戦一方になりつつありました。

 そしてPTの中に嫌な空気が漂い始めました。これは勝てる相手ではなかったのではないか? 見捨てると言う選択肢はなかったにしても、これで遊んでいるとしたら本気で高レベルの魔法を使われ始めたら、何も出来ずに倒されるだけなのでは? と。ケンタウロスのお兄さんは盾での防御で精一杯になっていましたし、私は回復魔法で手一杯。攻撃はケンタウロスの妹さんの弓と、リリティちゃんの魔法だけになっていましたね。近接戦闘メインのシャウルさんは、私の前に戻ってきて盾代わりとして庇って下さっていました。

 その時です、マスターリッチが急に魔法を撃つ事を止めたのは。いよいよ大きな魔法を撃ってくるのではないかと考えた私達は、防御系の魔法を必死でかけて耐えられるように身を固めて目を閉じました……が、一向に魔法は飛んできません。一体何が起こったのでしょうか……と、PT全体の盾となるべく一番前に立ちはだかったケンタウロスのお兄さんの影から顔を出してみました。

 そうしてそこで見た物が……地面に膝をつくどころか、地面に倒れこんで、ビクンビクンと痙攣をしているマスターリッチの姿でした。時折『そこはダメだ……掴まないでくれ……おうっ、おうっ』と気味の悪い声を上げていました。それにしても掴まないでくれとはどういうことでしょうか? あっけにとられている私たちは、当然ながら誰もがマスターリッチさんの体に触れていません……そして冒頭に戻るわけですが。


「あ、あれを見てください! う、うわぁ……」

 急にリリティちゃんが指差しながら大きな声を上げました。その指の先には……アースさんとマスターリッチさんの戦闘光景が見れるはず……だったのですが。

「あの後姿は……フェアリークィーンさん? いえ、少し違いますね。ティアラを付けていませんし、フェアリークィーンさんがこんな場所に来るとは考えにくいですし、髪の毛の色が白髪です」

 私はそう発言していました。まだのんびり屋のミリーが私の中に戻ってこないのには困りましたが、幸い周りの人も映し出されている光景に引いているためか、気にする様子はないようです。無理も無いですね、マスターリッチさんを左手一本で持ち上げて、往復ビンタをしている状況が映し出されているのですから。掴まないでくれとは、あちらのフェアリークィーンさんのような方の行動に対しての発言のようです。

 しかし、あちらに飛ばされたのはアースさんだけのはず。なぜあのような方があそこに居るのでしょうか? そしてアースさんは何処へ? 以前アースさんが行った変身は金色の人型になった龍のような姿でしたから、あの方はアースさんではないはず。

「あの〜、映像さ〜ん。アースさんは何処ですか〜?」

 ようやくミリーとしてのキャラが戻ってきた私は、一応そう聞いてみます。開発者から上がってくる情報よりも、かなり変質している部分が多いこの世界ですから、もしかしたらそんな融通を利かせてくれるのではと思ったのです。そして、その私が言った質問に答えるように、映像さんがアースさんを映し出します……その姿は。

「──アース」「あら……」「なんだか、ちょっとかわいいですね」「だが、あんな座り方をしているアースの気持ちがなんとなく分かるような気がするぞ……」

 PTメンバーもアースさんを見て、少々いたたまれない気分になったのかもしれません。アースさんは部屋の隅っこでちょこんと体育座りと呼ばれる座り方をしながら、マスターリッチさんと、フェアリークィーンさん? の戦闘光景と言うよりは既にお仕置き状態になっている光景を大人しくぼんやりと眺めていました。無理も無いですね、私でもあの2人の間に割り込んで欲しいと言われても引きますし。

 やがてびったんびったんと叩き続けたフェアリークィーンさん? は、ぼろきれのようになったマスターリッチさんをゴミを投げ捨てるかの様にぽいっと部屋の隅になげすてました。映像に映し出されているぼろきれマスターリッチさんが地面に落ちた瞬間、こちら側でビクンビクンしていたマスターリッチさんが、一言『おうっ』と声を上げた後に動かなくなって消滅し、映像中継も終了した後に地下9階に下りるエレベーターが解放されました。

「えーっと、これは……一応目的は達成されたということになるのか……? ものすごく色々な意味で納得がいかないのだが」

 いまだに盾を構えたままのケンタウロスのお兄さんがそんな事を言うのも無理はないでしょう。私だってかなり混乱していますよ。こんな結末を予想しろと言う方が無理です。

「一応エレベーターは出たからな……後はアースがこちらに戻ってくれば目的達成だろうが……なんとも嫌な物を見てしまった」

 シャウルさんが頭を抱えています。無理もないですよ、私だってそうしたい気分です。そんな事を話し合っているうちに、アースさんが私達の前に転移してきました。どうやら脱出できたようです。ですが、アースさんもかなり疲れた顔をしていました。

「おかえりなさい……」

「あ、うん……その、色々と申し訳ない……」

 私の言葉に、脱力したような雰囲気を漂わせつつ返事をしてくれたアースさんですが……何とか合流できたので、私達は地下9階へと下りることにしました。今日は地下10階に到着したらさっさと脱出してログアウトですわね……。
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ミリー視点をお届けしました。明日はアース視点に戻ります。
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