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連載

ダンジョン攻略、やっと地下9階へ

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 ぼろぼろになって完全に無抵抗状態になったマスターリッチを、クィーンの幻影はぽいっと部屋の隅っこに投げ捨てる。まるでそこにゴミ箱があるかのように自然な動きでぽいっと投げ捨てた。敵であるとはいえ、あそこまでぼろぼろのぼっこぼっこにされたマスターリッチに対し、つい同情してしまう。唯一の救いは骨しかなかった事であろうか? もし普通の人間があの往復ビンタを食らっていたら、もう顔面がホラー状態になっていたはずである。

 そんな事をちょこんと体育座りしながら部屋の隅っこで考えていた自分に、クィーンの幻影はしずしずと歩み寄り、有名旅館の女将さんがお客様に対して行うような三つ指を付いて深く頭を下げるような形で頭を自分に下げてきた。

「アース様、今の今まで苦難を迎えられた時に対してお力になる事ができずに居た事、まことに申し訳ありませんでした」

 そして言い放った第一声がこれである。いや、あの、そんな風に頭を下げられるとこちらも恐縮してしまうんですがね。

「ですが、これからは積極的に貴方様の力となります。たとえ創造神がアース様の相手となった時でも、私は貴方様の味方でございます」

 一気に台詞が重くなりすぎだ! 何でこんな病的に……ヤンデレは要らんぞ!

「では、私は指輪へと戻ります。もし何かありましたらお呼び掛けくださいませ。再びこのように実体化するには貴方様の時間で二週間の時が過ぎるまで不可能ですが、会話は出来ますので」

 そういい残し、クィーンの幻影は指輪の中へと帰っていった。なんだか、この指輪はカースユニークどころかそれ以上にとんでもない呪物になってしまったんじゃなかろうか。これから色々と大丈夫なのか、不安でしょうがない……暴走だけはしてくれるなと、指輪を軽くなでてから立ち上がる。この部屋をとりあえず脱出しないとな。

「おーい、おーい。生きてるかー?」

 ずたボロになって転がっているマスターリッチをそっとゆする。下手に強くゆすると分解しそうなのでそっとである。マスターリッチはうーんうーんとうなり声を上げていたが、ようやく頭蓋骨を上げる。

『──わしは自分を化け物だと思っていたんじゃがな、本当の化け物はお主のほうじゃったな』

「その言葉は非常に心外です! 自分だってこんな結果を迎えるとかは全く予想していませんでしたよ!」

 何でアンデッドの中でも上位者であるリッチの中のリッチであるマスターリッチから、自分が化け物扱いされなきゃならんのよ。言いたい事は何となく理解は出来なくも無いがな……リッチの首を直接掴みあげて、闇の刃付きの手で往復ビンタして屈服させるとか、今の今まで聞いたことが無い。リッチの強さはゲームによってまちまちだが、それでも弱いリッチなど存在しない。

『掟などなくても、二度とおぬしとは会いたくないわい……無機物にすら明確な意思を与えて呪具とし、その呪具に愛されるという、〔呪具に愛される者〕となんぞ、二度と事を構えたくはないわい』

 そうマスターリッチに言われた直後、インフォメーションが聞こえてきた。『称号・呪具の恋人を入手しました!』と。

「何てこと言うんですか!! 変な称号がまた世界の手によって無理矢理増えちゃったじゃないですか!!」

 自分は反射的にマスターリッチの顔面を蹴り飛ばしてしまった。それでもマスターリッチを少しのけぞらせる程度に留まる。そんなマスターリッチを持ち上げていたクィーンの幻影は、どれだけ筋力を持っているんだか……もしくは魔法でのブーストで筋力を補強していたのかもしれないけど。

『あんな形で負けたわしの身にもなってみい! これぐらいの意趣返しはさせてもらわねば気が済まぬわ! それとも、お主も食らってみるかの? あんな風に首を掴まれて持ち上げられてからの往復ビンタはとっても痛いぞ! ダメージよりも精神的に何かがゴリゴリと削り取られてゆくのじゃぞ!? ましてやわしはリッチじゃ、精神力が削られるのはお主よりきついのじゃ!』

 怒鳴ると言うよりも、泣き叫ぶかのようにマスターリッチはそんな事を言ってきた。そして、自分の中にあった怒気が一気にしぼんでしまったことを実感する。

「あー、うん、その、なんだ。正直スマンかった……」

 自分がそう言うと、マスターリッチも急に大人しくなった。

『分かってくれれば良い……まあ、その、おぬしも狙ってやったわけではないようじゃしな』

 お互いを見据えた後に、はぁ〜と同時にため息を吐き出す。幸せが逃げるとか言われる行為だが、そんな事はどうでもよかった。ため息の1つでもつかないと、気持ちの整理が付かなかったのだ。目の前に居るのが骨じゃなかったら、お互いの肩をぽんぽんと叩きあっていたかもしれない。

「それで、この後自分はどうすれば?」

 ため息を付いた後に気分を切り替え、この後どうすれば良いのかを目の前にマスターリッチに聞く。どのみちこの部屋からの脱出は自力では出来そうにないしな。

『方法が予想外にもほどがあるがの、とにかくわしを打ち負かしたのじゃから合格じゃ。お主のPTメンバーの前にはすでに地下に下りるための装置が解放されているぞ。後はお主を送り届ければ完了じゃな。まあ、その、なんじゃ。これから先もおぬしは苦労する事になりそうじゃが、何とか元気でやってくれい』

 アンデッドであるマスターリッチにまでこういわれる自分は一体何なのだろう。犬も歩けば棒にあたるなんて言葉もあるが、自分の場合はそれ以上にトラブルが続くな……退屈はしないが、いろいろとしんどいな。この世界をさまよい続ける限り、こんな運命に翻弄され続けることはもう確定事項なのだろうか?

『では、お主のPTメンバーの元へと送るぞ。あくまでこの部屋に来てしまったのはペナルティ扱いじゃから、これといった特別な報酬などはないことは理解してもらうぞ。では、達者でな』

 そんな言葉を最後に、自分は今居る部屋から転移させられた。転移が終わると、前には妙に疲れきった顔をしたミリーと、頭を抱えているシャウルさん、盾を構えてはいるがどこか呆然とした表情を浮かべているライさんが目に入った。

「おかえりなさい……」

 ミリーの声で察した。恐らく彼女達も、マスターリッチを往復ビンタするフェアリークィーンの姿を映像を通してみていたのだと。それゆえに頭を抱え、呆然とし、疲れきっているのだと。

「あ、うん……その、色々と申し訳ない……」

 と、返答する事が精一杯だった。何とも脱力仕切った雰囲気が漂っていたが、まだダンジョンは終わっていない。せめて次が地下10階であれば良かったものを……とにかく今は進むしかない。誰も一言も喋らず、地下9階に降りるエレベーターへと乗り込む。結局、マスターリッチ戦で突如現れたフェアリークィーンの幻影についての質問は一切なかった……厳密には関わりたくない、知ったら面倒な事になりそうだと5人は察したんだろうけどな。

 ともかく、一番ダンジョンの形としては単純な形だったのに、一番疲れた地下8階をようやく突破して自分達は地下9階へと到着した。

「普通のダンジョンが、こんなに綺麗に見えるってのは色々危ないよな……」

 シャウルさんがボソリとこぼした言葉に、なんて言葉を掛ければいいのか……自分には分からなかった。
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脱力シーンが多かった地下8階がようやくお終いです。
クィーンを絡めるとどうしてこうも脱力するんでしょう。
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