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連載

ダンジョンの歌姫

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(よし、今日も行くか)

 初めて潜った日から3日後。自分はライナさんと妖精国のダンジョンにこの日も挑んでいた。2回目と3回目は中で協力し合える人とあまり出会えず、戦闘をひたすら回避して進む方法を取ったおかげで何とか10階に到達する事には成功。ただ、戦闘を回避している影響でスキルのレベルは全くあがらず、《危険察知》を多用している〈義賊頭〉ですら変動無しである。

「今日こそは中で会えるといいわね。PTをきちんと組んでいるのに不思議と出会わないわよね、私達って」

 ライナさんの言うとおり、なぜかこのダンジョンに挑み始めてから一回も中でライナさんと合流できていない。何度も確認しているのだが、きちんとPTは結成されている。いるのだが、ダンジョンの中で一回も合流できないのだ。

「確かにいい加減、中で合流したいですよねぇ」

 ライナさんの言葉に、自分も相槌を打つ。ライナさんと合流できれば、かなり楽になるんだけどな……。ライナさんに無双してもらって、自分がサポートをすればいいんだから。女性を前に出すのはうんぬんかんうんとか言う意見は聞かない。適所適材と言う奴だ。女性の戦士なんて珍しくも何とも無いだろう?

「かなりこのダンジョンの感じもつかめてきたし、そろそろ地下11階に下りることも考えたいし、ね」

 ライナさんの意見に、自分も頷く。地下10階はまだ序盤だ。だが、お互い一度もやられる事なく地下10階まで降りることが出来ている以上、そろそろ次のステップに進むのも悪くない。

「今日の結果次第で考えましょう、今日はお先に」

 ライナさんにそういい残し、自分はライナさんより先にダンジョンの中へと降りる。今日こそは合流できるといいなと思いつつ。


 そう思っていたのだが……地下1階と2階ではモンスターしか居なかった。罠の数も少なかったのでこれと言った問題が起こるはずもなく……さっさと次の階へと進んだ。

(この辺りで時間を食うのももったいないですから、さっさと進まれた方がよろしいでしょう)

 指輪からもそんな声がする。うかつに指輪に向かって声で返答すると、独り言を大きな声で話す危ない人になってしまうので指輪にそっと触れることで返答とさせてもらう。そんな感じでさっさと降りてきた地下3階。降りてきた直後、《危険察知》に早速モンスターの反応とそれ以外の反応が引っかかった。

(あれ、モンスターの反応が8もあるのに、それ以外の……恐らくこの世界の人の反応が1つしかないと言うのはまずいんじゃ……急いで援軍に向かわないと!)

 走りたい方向に罠がないことを確認した後、全力で反応があった場所へと急行する。絡まれている人がどれぐらいの戦闘能力を持っているのか分からないが、数の暴力に押されるとさすがに低階層のモンスターと言えど苦しい筈だ。そう考えて駆けつけた自分が見た物は……弓のような形をしたハープを持つ1人の女性が音楽を奏で、その女性の前でゴブリンとハイ・ラビットが同士討ちをしている光景だった。

「これは……一体?」

 弓みたいなハープを使って音楽を奏でている女性は、青白い肌を持っている所から魔族の女性だと思われる。この世界の人としては非常にめずらしく、肘から肩の間の肌を露出するような服を着ている。頭には帽子をかぶっているが、腕の肌を直接さらすのはかなり危険なのではないだろうか? それともその危険性を理解した上でそうせざるをえない理由があるのだろうか。

 自分が先ほどもらした声は恐らく魔族の女性にも聞こえているのだろうが、魔族の女性は演奏を止めない。モンスター同士の同士討ちも止まらない。ここまでくれば簡単に予想できるが、魔族の女性の奏でる音楽が目の前に居る同士討ちをしているモンスターに何らかのステータス異常を与えているのは間違いないな。ならばモンスターが居なくなるまで演奏の邪魔をせず、大人しく待つ方がいいだろう。

 やがて魔族の女性は演奏する手を止める。演奏が終わった後には、ぼろぼろになったハイ・ラビットが一匹残っているだけであり……魔族の女性は《ファイア・ニードル》を唱えてハイ・ラビットに放つ。性も根も尽き果てたハイ・ラビットは避けるそぶりすら見せずに魔法の弾を受けて消滅した。

「──お待たせしてしまってごめんなさいね」

 自分に向かって振り返った魔族の女性は、そういうとにこやかに笑った。青白い肌ではあるが、かなりの美人さんだ。場所が場所なら、十分歌姫としてやっていけるのではないだろうか? と自分は感想を抱く。

「いえ、お気になさらず。それにしても、見事な演奏でした……モンスターが同士討ちを起こすとは」

 音と言う物は、催眠にかけやすいものであるらしい。恐らく彼女が使っていた技術もそれに準じる物なんだろうが……流石に詳しい情報は教えてもらえないだろうな。

「これでもまだまだ修行中の身ですの。モンスターを前にしても引かずに演奏できる胆力、これが私にはまだまだ備わっておりませんので、このダンジョンで心を鍛えておりますの」

 チラッと彼女の腰元を見るが、彼女は剣も短剣も持っていないようだ。文字通り、音楽技術? と魔法で戦っているのだろうか? 自分の視線の先に気が付いた魔族の女性は、更に口を開いて説明を続けてくれた。

「一応この楽器、ハープボウというのですが……これで特殊な矢を放つ事も出来ます。それらを組み合わせて私は魔物と戦いますの。魔族の中でもかなり変わり者扱いはされておりますけど……私は魔力はあるのですが、肝心の魔法の扱いが下手でして……」

 それはまた……基本的に魔族の皆さんは魔法が得意なはずだ。以前のゲヘナクロス戦でもさまざまな魔法で支援してくれたからそれは覚えている。そんな魔族に生まれながら、魔法の扱いが下手と自虐するほどだとは。

「それはまた、大変ですね……ですが、初対面の人間に向かってそんな事を簡単に話してもよろしいのですか?」

 自分がそう問いかけると、魔族の女性はそっと微笑む。

「私は魔法の扱いが下手な分、色々な力を得ております。私を鍛えてくれた先生が言うには、あまり使われない魔力が変異を起こしてそんな力を身につけさせたのだろうと仰っていましたが。その1つに人の善悪を間違いなく見抜ける直観力があるのです。その直感は一度もはずれた事はございません……そしてその直感が、貴方は悪い人では無いと告げております」

 直感、ね。とはいえ現実にも直感が鋭い人が居るのは事実だし、一方的にそれは思い込みだと断じることは出来ないな。

「そして、PTを組んでいただくには、その辺りの事情をしっかりとお伝えしておかねばならないでしょう。魔族の女性に求められる事は、大半が一流の魔法使いとしての力です。その力が無いということを前もってお伝えせずにいるのは危険すぎますから」

 なるほど、そういうきちんとした理由もあるのか。確かに自分も『魔族の人=魔法が得意な人』と考えていた節がある。

「なるほど、きちんとした理由があったのですね。そしてその理由を話したと言う事は……自分とPTを組みたいと言う事でよろしいのでしょうか?」

 まあ間違いないんだろうが、一応勘違いを防ぐためにも念を押しておかないとな。

「はい、こんな私ではありますが、どうかお願いできませんか?」

 笑顔が陰り、不安そうな表情を浮かべる魔族の女性。魔法が大して使えないとのことだが、彼女の演奏……一種の呪歌になっていると思われる技術は十分に強力だろう。音楽を奏で、モンスターの同士討ちを誘える能力は反則級だ。格下相手にしか通用しないのかもしれないが、歌の引き出しは1つだけではないだろうし……音楽が通用しない相手が来ても、ハープボウで弓攻撃が出来るなら非力と言うわけでもないだろうし。

「分かりました、よろしくお願いします。自分はアースと申します」

 右手を差し出しながら、自分は歓迎の意思を示す。

「ありがとうございます……私はエミューと言います。ダンジョンを出るまでの間、よろしくお願いします」

 そういって魔族の女性であるエミューさんは手を差し出し、自分の右手と握手を交わす。これまた面白い技術を持つ人がいたもんだ。
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本日、活動報告に新しい情報の発表を掲載させていただきました。よろしければそちらもご確認ください。
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