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連載

同行できないタイプ

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 キッドの大声が原因でこちらにやってきたモンスター集団の内容はウォーゴブリンにハイ・ラビットの混合編成だった。向こうがこっちに気が付いているので、エミューさんの魔曲は効果を発揮できない。つまり直接戦って、目の前までやってきたモンスターの集団……ウォーゴブリン8匹にハイ・ラビット5羽を倒さなければならない。

「私が前に出るわ!」

「姐さん、俺もお供します!」

 ライナさんとキッドが前に出てモンスターの前進を止める。

「エミューさん、自分達は後方から弓矢による攻撃で数を減らしましょう!」

「分かっています、前衛のお二人の負担を少しでも減らさないといけませんからね」

 自分は双咆で、エミューさんはハープボウでモンスターに攻撃を開始する。とりあえず鎧などを着込んでいないハイ・ラビットから減らす事にした。ウォーゴブリンには魔法使い系が居なかったので、ライナさんに任せておけば大丈夫だろう。早速ガントレットを巨大化させて、先陣を切って突っ込んできたウォーゴブリン2匹をキャッチして武器にしている様だからな。

 役割分担がはっきりしていた事もあり、モンスターの集団は2分ほどで綺麗に片付いた。数こそ多かったが、前衛が2枚居るのだから比較的楽に倒せた。キッドも戦士としては相当の使い手だということも分かった。といっても、搦め手が得意なモンスターが今回は居なかったからこそ楽だった訳だが……ここにウォーゴブリンの魔法使いや、弓使いなどが居たらもっと面倒だった筈だ。

「ハッ、俺と姐さんがいりゃ、こんな雑魚はいくらもごもご」

 キッドが再び大声で何かをのたまいだしたので、自分は反射的にキッドの口を物理的に押さえることで無理矢理黙らせた。こいつ、ダンジョンに今までもぐった事がなかったのか? 自分自身が出す大声がアラーム代わりになってしまっていることを自覚している様子が全く無い。

「何しやがる!」

 前衛の大剣使いゆえに高いSTRを持つキッドの手によって、自分の手はあっさりキッドに払いのけられる。そして更に大声でキッドは突然口をふさいだ自分をにらみつけながら文句を言って来たのだ。

「口を無理矢理手でふさいだ事は申し訳ないと思うが、その馬鹿でっかい大声を出すのをやめてくれ! 周辺のモンスターに気が付かれてしまうんだ!」

 自分の反論に、きょとんとした表情を向けるキッド。なんだ?

「は? それの何がいけないんだ? モンスターをかき集めて一気に狩る方がおいしいだろうが? それに今は姐さんだって居るし、お前や向こうのおねーさんだって居るだろ? さっきだって簡単にモンスターの集団を殲滅できただろ? このダンジョンの浅い階層には雑魚しかいねえんだから、かき集めて一気に狩る方が効率いいってのは常識だろうが? そんなことも理解できないのか?」

 ──なるほど、そういう考えあっての行動だったと言う事か。ならば自分はここで失礼させて貰う事にしよう。ダンジョンを慎重に進みたい自分と、かき集めて一気に狩る方がいいと言うスタイルのキッドとは、まさに水と油の関係だ。1つのPTの中では絶対に同居できない。どちらかが間違っていると言う問題でもないしな。

「なるほど、そういう考え方もあるな……失礼した、申し訳ない。だが、その考えに自分個人としては申し訳ないが同意ができない。なので、自分はここで失礼させてもらいたい。〈盗賊〉系の技能もちとしては付いていく事ができない」

 このまま一緒にPTプレイをしていても不毛なだけだろう。いくら臨時と言えど、譲れない一線というものは存在する。石橋を叩いて渡るとまでは行かなくても、ある程度慎重に歩を進めたい自分にとっては、キッドの考えに同意できないのだ。ただでさえこちらの称号の中に『人災の相』なんて物があるんだからな。

「ああ、なるほど。〈盗賊〉となんてめったに組む事がねーから、その辺は分からなかったな。んじゃ、ここからはお互いのために別行動ってことで。姐さん、そこのおねーさん、行きましょう」

 キッドはそう言いながら、前方に歩き始める……1人で。

「はあ、もう綺麗さっぱりと忘れたのかしら。私はアース君のPTメンバーだってきちんと言ったのにね」

 呆れ声を全く隠さずに自分に向かってそう小声でこぼすライナさん。

「私の戦い方とも全く噛み合いませんから、彼と一緒にダンジョンの探索を行う理由が無いですね……」

 こちらの意見はエミューさん。彼女の魔曲は、曲を奏で始めるまでの間は出来るだけモンスターに気が付かれない様に接近しなければならないからな。大声を出すことで自分自身をアラーム代わりにし、集まってきたモンスターを一気にドカンと殲滅すると言うキッドの戦闘スタイルとはかみ合う所が全く無い。キッドに同行する理由は、エミューさんにも無いのだ。

「まあ、彼の言うやり方も1つの戦闘方法である事は間違いないんだが……自分の意見を言わせて貰えるのであれば、ダンジョンでやるべき方法ではないなぁ」

 自分がそんな事を言っている間、キッドはライナさんもエミューさんも付いて行かない事に気が付かないのか、足を止めることが無い。よほど自分の考えに自信があるんだろうか? やがて角を曲がり、キッドの姿は見えなくなった。

「とりあえず、こちらはこちらでダンジョン探索を続けましょうか」

 自分の言葉に、ライナさんとエミューさんが頷く。そこからは慎重にモンスターの位置を《危険察知》で把握したり、罠の回避や解除などを行う普段通りのダンジョン探索に戻った。モンスターに対する戦闘方法はエミューさんの魔曲で大半を始末してもらい、程よく数が減ったところでライナさんに暴れてもらうと言う形になった。

『姐さーん! おねーさーん! 何処いったんですかー!!!』

 時々、キッドの大声がどこからか聞こえてくる。そしてその大声がした方向にモンスターが反応して動く。その影響でエミューさんが魔曲を仕掛け損なってしまい、直接戦闘をせざるをえない状況に持ち込まれる状況が数回発生している。

 それにしても、いくらなんでもキッドの出している声が大きすぎる。これは何らかのスキルを使っているのだろうな。欲しいとは思わないスキルだけど。

「早くこの階層を抜けたいわね」

 ライナさんの意見は良く分かる。あの大声によるアラーム効果のせいでモンスターの動きが変わってしまうため、動きを予想しずらくなり、モンスターも大声により戦闘態勢に入ってしまうのでエミューさんの魔曲の発動するチャンスが潰されてしまうのだ。やりにくいことこの上ない。

「あ、あそこの部屋に地下6階に下りるためのエレベーターがありますよ!」

 エミューさんがひとつ前にある部屋を指差す。その部屋には確かに下の階に下りるためのエレベーターがある。部屋に入ってエレベーターを調べるが、フェイクではなさそうだ。

「じゃ、さっさと降りますか?」

 自分の確認に、ライナさんとエミューさんが同意したのでさっさとエレベーターに全員で乗り込み、起動させて下に降り始める。

「やっとこれで、あの大声から解放されるわね。善意で助けたのはいいけど、その後が大変だったわ……」

 そんなライナさんの言葉と共に、エレベーターは地下6階を目指して動き続ける……。
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ということで、キッド君は同行しません。アースとの相性が最悪すぎますので……。
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