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連載

地下14階へ

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本日の作業BGM『ニコニコ生放送の生主絶叫』
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 食事休憩も終えた後にしばらく歩き回った事で地下13階の探索も終わり、地下14階に降りるエレベーターを発見して乗り込み降りている最中……ライナさんがエミューさんに質問を投げかけていた。

「ねえ、エミューさん……いや、他人行儀過ぎるし、PTメンバーなんだからこれから私はエミューって呼ぶことにするわ。エミューはいつもあんな食事なの?」

 そこは自分も気になるところだ。ワンモア序盤で料理スキルが受け入れられたのも、スキルのレベルが上がってアーツを使う事が増えた前線組が、満腹度の減少が激しくなりすぎて店売りパンでは手間になりすぎたことがきっかけだからな。今となっては店売りのパンは更に上の料理に仕上げるための材料となっているし。

「では、私もこれからはライナと呼ばせていただきますね。そして私の食事内容ですが……その、お恥ずかしい事ですが、いつもあんな感じです……私も料理の勉強は花嫁修行の一環と言う事で両親から仕込まれたのですが……私が料理をすると、変なアレンジなどを一切行っていなのに、妙にまずい料理しか出来上がらないんです。両親もさじを投げるほどでして」

 ──あらまあ。料理が上手くいかない人の特徴の1つとして、料理の基礎もおぼつかないのに『こうすりゃ美味しい料理になるじゃない』と思い込んでアレンジに突っ走ると言う事が上げられる。だからそれで失敗しているのかなーと予想していたのだが、エミューさんはそういうパターンではなかったらしい。

「きちんと塩や砂糖、香辛料の量もちゃんと測って、食材も丁寧に処理しているんですが……出来上がった料理はとってもまずいとしか表現できない味になるんです……両親も『ある意味お前の才能だな』と言う評価を出す状況でして。ですから先ほどアースさんが投入する調味料を全く計らずに調理をしたにも拘らず、短時間で美味しい料理を作るので驚いてしまって……」

 こっちとしては計っていないようでも、ちゃんと考えた分量でやっているだけなんだけどね。感覚的に調理に必要な適量が大体分かっていると言うだけで。

「まさか、それも魔曲使いの宿命とか言わないですよね?」

 冗談半分で自分がそう聞いてみると、エミューさんはとたんに真剣な顔になった。

「いえ、それはあながちありえない話ではないのです。魔曲使いはたいてい、魔曲に関する事以外はあまり出来ないと言うのが通説となっている部分がありますから」

 え? そうなの? と首を傾げた自分に、ライナさんが口を開く。

「あ、私も谷で聞いたことがあるわ。過去にいたダークエルフの魔曲使いはその見事な音楽で聴衆を虜にし、魔物と対峙すれば多大な混乱をもたらす非情の使者と呼ばれていたけど……」

 ふむ。なんか、そこから先はひどいオチが待っていそうなんだが話を続けて聞こう。

「その代わり、家事なんかは一切なーーんにも出来なかったらしいわ。旦那さんがご飯作って洗濯して掃除してとやってたって話が残ってるし……その旦那さん曰く『お前は家事をしなくていい。大惨事になるから』なんて言われていたと言う、冗談なのか真実なのかわからない話もオマケとして残ってるわね」

 あれま。そうなると……プレイヤーのスキル的に考えると、魔曲を使うための音楽関連+魔法関連でスキル枠を10枠全て食っちゃうみたいな物か。だから料理とかの家事が全く出来ない、そう考えれば納得もいく……のか? プレイヤーはスキル枠の移動などがあるからある程度融通が利くが、こちらの世界の人はそういうわけにも行かないだろう。

 そんな話をしているうちに地下14階に到着する。モンスターは近くには居ない……な。それにしても話を聞いた限りでは、魔曲使いの人も相応に泣き所を抱えているな。

 プレイヤーもそうだが、こちらの世界に住んでいる人達も何でもできる万能人間なんて居ないんだな。もしくは自分のようにある程度なんでも出来るが、ある程度のレベルまでしか行けないという感じかね。

「なるほど。逆に言えばそれだけあれこれと犠牲にしているからこそあれだけの力を持つとも言えるのか……とはいえ、金銭的収入はそこそこあるんでしょう? だったら料理が出来る人にお金を渡して、持ち運びをしやすい料理を売ってもらえばいいでしょうに……お金ってそういう事の為にあるんですから」

 一番簡単に渡せる対価としてお金は存在している。エミューさんが料理が苦手なことは分かったから、その料理を手に入れるために料理を得意とする人にお金を払って料理を譲ってもらうことは何にも恥ずかしい事ではない筈だ。

「そ、それはそうなんですけど……出来てからしばらく時間が経過してしまった料理って、どうにも苦手でして」

 おいおい、それはちょっと贅沢じゃないかなぁ? 

「それはさすがにちょっと贅沢じゃないかしら……仮にもこうやって冒険や探索をするとなると、その辺はある程度妥協するしかないわよ?」

 自分と同じことを思ったと思われるライナさんもエミューさんに苦言を呈したようだ。全く持ってその通りだろう。常にできたての料理を食べたいと言うのなら、冒険をすることは出来ないだろう。エミューさんも苦笑しながらそんなライナさんの意見に返答を返す。

「ええ、それは分かっているんですけどね……ですので、普段冒険中の食事はそういった私の感覚に左右されないパンと水になってしまうんです。たまに干し肉を食べるぐらいはしますが、先ほどのような料理はまず口に出来ないですね」

 これまた難儀だなぁ。つまり妥協をした結果があのパンと水だけの食事か。

「エミューさんは早いうちに、料理が得意な人とPTを組まないと栄養バランス的にぶっ倒れるんじゃないのか?」

 そう言いながら自分はハンドサインでモンスターの接近を二人に伝える。数は6匹か。

「そうですねえ、それを否定できないのが厳しい所です。アースさん、1人魔曲使いを雇うつもりはございませんか?」

 そんな事を冗談めかして言いながら、エミューさんはハープボウを構えてすぐに演奏が出来るように準備を整える。

「このダンジョン攻略中ならばお願いしたい所……来るぞ」

 自分の声の直後に空腹を癒したエミューさんが魔曲を奏で始める。接近していたモンスターは音楽に魅了されて、もう見慣れた光景である同士討ちを始める。

 今回のお客さんはオーク6匹のPTだった。ゴブリンも徐々にモンスターのPTから外されてきたのかな? それでもエミューさんの魔曲が通じればゴブリンだろうとオークだろうと大差はない。

「さて、私も武器が減っちゃったりぼろぼろになっちゃったからここで補充しておかないとね。行って来るわ」

 ライナさんにとっては、あのオークが武器に見えるらしいな。いやまあ、彼女にとっては振り回す為の道具になるわけだから間違いはないのかな……いや、その前提自体が色々とオカシイ。自分にもかなり毒が回っているな。

「いってらっしゃい……」

 今の自分に出来る事は見送る事だけだ。同士討ちして消耗したオークたちに嬉々として飛び掛るライナさん。今まで引きずってきたオークをぶん投げてオークを2匹ほど纏めて吹き飛ばし、左右で新しくいけに……新しい武器となるオークをガントレットで掴み取り、振り回し始める。

 ──こんな光景を見ることに慣れてきているって時点で、一般常識というものが遠ざかってきているよな。それもいまさらだけど。
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ダンジョン編がまだまだ続きそう。獣人連合編スタートが遅れてるけど……まあいいか。
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