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連載

地下14〜16階

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本日の作業用BGM 『冬もマシンガン』
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 罠も厄介な物が増えたし、出てくるモンスターも確実に強くなってきてはいるが……対処法さえ確立すればどうとでもなるものである。ただ、食料的な問題が解決した(つまり、自分が料理を現場で行う事ができるから)エミューさんが、魔曲の自重を投げ捨て始めた。

 今までは空腹を遅らせるために抑え気味で曲を弾いてきたらしいが、今はガンガン曲を奏でている。例えるなら琴の演奏からメタルロックの演奏に変わったという感じで。

 もちろん使う楽器はハープボウだから音色とかが変わったわけではないし、曲そのものが荒々しくなったわけではない。だが、モンスターの同士討ちのレベルがえげつない事になった。

 モンスターも最初は手に持った武器で殴りあう程度だったのだが、今目の前で同士討ちをしているゴブリン&オークの混合PTの同士討ちではアーツやら魔法やらが飛び交いまくるようになっている。オマケに完全に回避を考えていないノーガード状態で。

 それだけでは済まず、同士討ちしているモンスターが減った時に近くに別のモンスターの集団が居た場合は、音色で更に呼び寄せ同士討ちさせる。かつてここまでモンスターを安全に、そしてえげつなく倒す方法があっただろうか。

 武器も攻撃魔法も一切使わずに音楽でモンスターを混乱させ、一方的に蹂躙する。──そして更に、まだ効果には続きがあるのだ。

「完全に入っています。アースさん、ライナ、攻め時ですよ」

 そう、自重を取っ払ったために魔曲の催眠効果、混乱効果の強度が跳ね上がったので、自分やライナさんが魔曲によって催眠状態や混乱状態のモンスターに殴りかかっても、魔曲の効果が切れないのだ。

「了解、ではぼちぼちと」
「エミュー、行って来るわね」

 なので、自分が弓、ライナさんが両手に掴んだオークでモンスターの集団に攻撃を加える。今はモンスター同士の同士討ちが起きている範囲が広いので、自分も弓矢による攻撃を加える余地がある。数が少なくなってくれば、ライナさんにお任せしてしまうが。

 地下14階や地下15階もそんな感じで一方的にモンスターを処理してきたおかげでダンジョン進行スピードはかなり速い。モンスターを集めていると言う点では浅い階層で出会ったキッドと変わらないが、こっちの場合は無差別に集めているわけではないからな……。

「はい、これでお終いですね」

 エミューさんが演奏を終える。残っているモンスターはオークが一匹でもう瀕死であった。そのオークもライナさんのガントレットに捕まっている別のオークの体でぺったんと叩き潰されて消滅した。

「お疲れ様〜。だけどエミュー、張り切りすぎよ。美味しい食べ物の補給が出来るようになったとはいえ、魔曲の効果が高すぎて魔物たちがある意味哀れになってくるわ……」

 自分とエミューさんの所に戻ってきたライナさんはそう言うが、自分はそこに突っ込みを入れる。

「それをライナさんが言いますか。そのガントレットの理屈は良く分からないけど、半死半生で武器にされ続けるモンスター達もある意味哀れだぞ……」

 自分はそういいながら、引きずられているオークを指差す。そりゃあモンスターとは戦いあう関係だけど、ここまでされるとちょっとな……そんな自分に、今度はエミューさんから突っ込みが入る。

「アースさんもあまり人の事は言えないと思いますよ。そうやってライナさんが引っ張ってきた魔物を、罠の解除に容赦なく使っているじゃないですか……」

 ここに来るまでにトランポリン仕掛け部屋はあれから2つ、吊り天井トラップ部屋は1つあった。解除方法としてオークを部屋に投げ入れてもらった事は事実だけどね……。

 罠の解除方法がわざと発動させるか、解除に2分以上かかる上にミスったら罠が発動するかのどちらかしかないのであれば、わざと発動させた方が確実で早いし楽なんだよね。その起動役にモンスターを使っている時点で自分もかなり黒いのは確かだな。

「──この話はお互いにやめようか。お互い最大限の効果を出すために努力しているだけだし、使える物を使っているだけだしな」

 自分がそういうと、ライナさんとエミューさんもあっさりと同意する。そうしてこの話は永久に封印される事になった。


 そんな黒い会話もあったが、現在地下16階を進行中。その16階の探索途中にて、単独で座り込んでいるケンタウロスさんを見つけた。なんだろうと思って近寄ってみると、そのケンタウロスには見覚えがあった。

「あれ? ライさんじゃないですか!? 何でこんな階層で単独行動を?」

 近寄って確認してみたら、座り込んでいたケンタウロスさんは前にPTを組んだ兄妹の兄であるライさんだった。実力の高さは理解しているが、この階層でソロはきついだろうに……何かあったと見るべきだろうな。

「おお、アースじゃないか! こんな状況で出会えるとは! いや、実はな……落とし穴の罠にかかって協力していたメンバーと強制的にはぐれさせられてしまったのだ」

 ああ、やっぱりそういうことか。落とし穴の罠は引っかかってしまうと下に落とされてダメージを受けるが、一番恐ろしいのはこのPTから強制的に分断させられてしまうという罠の効果だ。

「そうなると、ライさんと一緒に行動していたPTの皆さんとライさんが再び合流するというのは難しいか」

「ああ、そうなる。それに落とされたときにかなり強く体を地面に打ち付けてしまってな……ポーションは口にしたが、座り込んで休息を取っていた所だ。そこにアースがやって来たって訳だな」

 いつこの地下16階に降りてくるか分からないPTを単独で待ち続けるというのはかなり厳しいだろう。モンスターも居るし、そもそもこの階層に下りてくるライさんが落とされる前にいたPTが乗っているエレベーターが何処から下りてくるのかが分からない。つまり、再合流はよほどの運がなければ叶わない事なのだ。

「そういうことなら、私達と一緒に行動しましょうよ。アース君の知り合いならば問題はなさそうだし」

 ライナさんの意見はもっともだな。それに積極的に前衛に立てるライさんは、戦力としても申し分ないしな。ライさんも再合流は始めから考えに入れていなかったようで、よろしく頼むと頭を下げてきた。これで4人PTになったな。

「そして、PTに入ったばっかりで失礼だとは思うのだが質問をさせて欲しい。何でアンタはそんな馬鹿でかいガントレットでオークの頭を掴んで左右の手に持っているんだ? オークをそんな風につかめると言う事は、重量級武器だって扱えるはずだろう? なのにわざわざ扱いにくそうなオークを、そんな風に掴んで捕まえておく事も無いだろうに……」

 ライさんは、ライナさんを見ながらそう質問を飛ばしていた。その質問にライナさんは

「ああ、これ? このガントレットは剣とか斧とかの武器を何故か嫌うのよ。だけどこうやってモンスターを捕まえて振り回すととっても喜ぶの。だから私の闘い方は自然とこうなったのよね……愛用しているこの子に嫌われたくないし」

 そう返答しながら、ニッと笑うライナさん。そうか、あのガントレットにもある程度の意思があるのか。しかし、モンスターを掴んで振り回すのが好きと言うガントレットも、またすごい性格してるな。

(私はマスターの全てが好きですから、行動の制限なんてかけませんよ。安心してくださいね)

 ガントレットの事を考えていたら、指輪がそんな事を不意打ちで自分に話しかけてくる。いや、聞いて無いから。コイツもフリーダムだなぁ。ともかくメンバーも1人増えた事だし、先に進む事にしようかね。
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はい、自重と言う文字が一気にかすれてまいりました。女性は怖いですね(え?)。
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