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連載

地下19階

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これは予約投稿で行っています。
筆者は都合のため朝から家を出ています。
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 地下19階へと無事に降り立ち、すぐさま《危険察知》による周囲の状況を確認する。後1階下に下りればやっと宝物庫に入れる。自分を含めたPTメンバーはだれもが疲労も蓄積しているはずだから、出来るだけ戦闘は回避したいな。幸い近くにはモンスターは居ない様だ。

「この階層を抜ければ地下20階にある宝物庫に入れる。最後まで頑張ろう」

 半ば自分に言い聞かせるようにそんなことをPTメンバーに伝える。ダンジョンアタックにかかっている時間は2時間も満たないのだが、自分は罠の回避で、ライナさんは大暴れしすぎて、エミューさんは魔曲を弾いて、ライさんは一回はぐれた事とサンドゴーレムとの戦いで全員がそれなりに疲れが見えてくるのは仕方が無いだろう。ここに到着するまでの間に何度も休憩は取ったが、そろそろきちんとした睡眠をとらないと厳しい状態になりつつある。だからこそ、ここで士気を上げて頑張らねばならない。

「そうよね、ここまで来たんだし……つまらないミスで全てを台無しにしてしまうわけには行かないわよね」

 ライナさんも、自分自身を振るい立たせたようだ。彼女の言うとおり、ここまで来たんだ。この階層でつまらないミスでやられてしまったら、一からやり直すになってしまう。そうなるとPTの空気が最悪になってしまうのはいうまでもないし……なんとしてでもこの階を突破する。

「それを踏まえて、相談がある。ここまで戦い続けてきた分、全員に疲労が溜まってきている筈だ。だから、この階層は出来るだけモンスターとの戦闘を回避したい。戦闘はどうしても回避できない場合にのみとどめて、探索速度を速めて出来るだけ早く突破しようと思うのだが……どうだろうか?」

 自分の申し出を聞いて、ライさんが手を上げる。

「それはいいが、ちょっと気になるから言わせて貰うぜ? ここに来るまでにかなり楽をさせてもらった俺はまだしも、アースや女性陣はかなり疲れてきているのは分かる。だから1つ提案だ。特に疲労の色が濃いエミューさんを俺の背に乗せよう。俺達は単なる馬扱いされることは好まないが、ここまで共に戦ってきた戦友を乗せるというのであれば問題はないからな」

 ふむ、良いかも知れない。エミューさんを乗せる事で機動力はやや落ちるかも知れないが、全体的な移動速度は上がるだろう……だが。

「サンドゴーレムが出てきた場合はどうする? 流石にエミューさんを乗せたままでは厳しいだろう?」

 自分の反論に、ライさんはこう返した。

「アースの探知能力があるからこその提案だ。アースが回避できそうに無いサンドゴーレムが近寄ってきた時に教えてくれれば、一旦エミューさんには降りてもらうさ。アースはどんなモンスターが近寄ってくるのか、一度戦えば把握出てきているのだろう?」

 なるほど、こっちをあてにしてるって事か。少々自分は悩んだが、確かにライさんが言うとおりエミューさんがこのPTの中では一番消耗しているのは間違いないな。魔曲が無双状態だった時はテンションも高く、疲労なんて感じなかったのだろうが、通じにくくなってきてからは上がっていたテンションが通常状態に戻り、疲労している自分の体を自覚するようになってしまったんだろう。

 そんな状態の彼女にモンスターとの戦闘を回避するべく走ることが増えそうだと予想できる以上、ライさんの背に乗っていてもらう方がデメリットを考慮してもメリットの方が大きいかもしれないな……。

「エミューさんはどうだ? もしエミューさんが同意するなら、ライさんの提案を採用し、背中に乗ってもらおうと思うのだが」

 エミューさんは申し訳ないような表情を浮かべて考えていたが、やがてゆっくりと頷いた。

「そうですね、ここは申し訳ないですがお言葉に甘えさせてもらいますね。自らのペース配分を怠ってしまったのは失敗でした。ついついモンスターを同士討ちさせて貢献できる事に酔ってしまって……」

 そんなエミューさんの言葉に、ライさんが『いやいや』と首を振る。

「そのおかげで俺がここに来るまで体力を温存できているんだ。だから、ここからは俺に頼ってくれ。合流してからの序盤に貢献できなかった分、ここで取り返すチャンスをくれ」

 と、エミューさんに向けて少しおどけたように話しかけた。その口調でエミューさんも少しほっとした様子だ。

「そういっていただけるなら……すみません、この階層だけお背中をお借りしますね」

 そうしてエミューさんはライさんの背中に乗る。ライさんはケンタウロス用のプレートアーマーを装着しているので、掴むことが出来る部分がいくつかある。そこにエミューさんは掴まってバランスを取る。エミューさんを乗せたライさんはゆっくりと立ち上がる。

「このぐらいなら、移動に関しても戦闘に関しても問題ない。じゃ、アース……魔物の探知は任せたぞ」

 ライさんの言葉に無言で頷き、自分は進み始める。どうかモンスターの集団が出来る限りこちらに気が付くことが無いようにと祈りながら。そしてこの祈りは、非常に珍しい事に今までのところは叶っている。この階層に罠がかなり少なかったので解除を行う必要もなく、モンスターとの戦闘もかなり回避することに成功したのだ。

 どうしても回避できずに戦ったのは現時点でオークの集団が3、マッドゴーレムが4匹だ。オークの集団はライナさんが前に出て、自分とライさんが後方支援。マッドゴーレムは自分ひとりで全て処理した。倒せるのはいうまでもなく魔剣である惑のおかげだ。

「今のところはツキがあるわね。このツキが階層を抜けるまで持ってくれる事を祈るしかないわ……正直私もかなりへとへとよ。目の前にベッドがあったら、絶対に我慢できずに飛び乗って寝ちゃうと思う……」

 ライナさんもついにそんなことを言い始めた。彼女の戦い方は豪快だから、疲れてくると苦しいだろうな……ともかく、このまま戦闘回数を最小限に抑えてこの地下19階を突破したい所だ。《危険察知》にはモンスターの反応が複数浮かび上がっているが、幸い移動したい方向には反応がない。自分はモンスターの反応とにらめっこをしながら、必死でPTを導く。そしてそれから更に歩き回る事数分後……

「あ、あれはエレベーターではないでしょうか」

 エミューさんが目の前に見えてきたエレベータを見てうれしそうな声を上げる。すぐに乗りたい心を押さえつけてエレベーターに罠などが無いかどうかを自分は丁寧に調べ……

「罠は無い、違和感も無い。みんな、乗り込むんだ!」

 実はかなり自分は焦っていた。《危険察知》にサンドゴーレム2匹、マッドゴーレム1匹のモンスターPTらしき反応がゆっくりとではあるが、こちらに向かってきていたからだ。まだこちらには気が付いていないと思うが、モタモタしていたらまずい。自分の声に焦りが混ざっている事に気が付いたのか……全員が素早く宝物庫に降りるためのエレベーターに乗り込んだ。自分は最後に乗り込み、エレベーターを起動させたと同時にへたっと地面に座り込んでしまった。

「よかった、何とかこの階層を乗り切ったな……」

 この言葉はみんなの心を代弁していたようで、ライさんもライナさんもほぼ同時に地面に座り込んだ。

「ほんと、到着できてよかったわ……宝物庫で宝箱を開けて帰りましょうね……」

 そんな感じで、エレベーターが地下20階の宝物庫に到着するまでの間、PTメンバーは誰もが地面に座り込んでいた。エミューさんだけはライさんの背中に座っているのだが。
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19階は回避プレイになりました。
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