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連載

試練のダンジョンに挑戦

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本日も予約投稿です。
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 翌日ログインした後に、自分の借りている宿屋の個室にライナさんとエミューさんを呼び出した。話したい内容からして、PTチャットよりも、直接顔を突き合わせ、現物を見せながら話し合った方が良いと思ったからである。

「呼び出してすまないね、体の方はもう大丈夫かい?」

 自分はライナさんとエミューさんに向かって、一番気になっていたことを切り出す。体の具合が悪いのであれば、話をするのはまた今度でもいいし。顔色は悪くないので、調子が悪いような雰囲気は感じられないが……そんな素人判断だけではまずいからね。

「あ、大丈夫。あの日から十分に休んだから、今日はいつでも行けるよ?」
「私も大丈夫です、それにあれ位の苦労をした方が体も鍛えられますから」

 とのお返事。どうやら、2人共に疲労は抜けたようだな。これなら話を始めてもいいだろうと自分は考え、早速昨日宝箱から手に入れた鈴と手紙を取り出して二人に見せる。いまさらだが、鈴には宝箱を模した模様が掘り込まれている。ミミックからもらった物ならおかしいことではない、のかな?

「前回のダンジョンで宝箱を開けたときに、入っていたのは地下11階まで一気に降りられる札とお金、そして今二人に見せている鈴と手紙だった。そこで、二人にちょっと聞きたい。宝箱の中身にこんな鈴と手紙は入っていなかったかな?」

 自分の問いかけに、ライナさんとエミューさんは、2人とも顔を横に振った。

「私の空けた宝箱には、札とお金と……このすね当てね」

 ライナさんは少し足を上に上げながら、真新しい銀色に鈍く輝くすね当てを装備していた。

「このすね当てには弱い魔法がかかっていて、かなり軽いの。行動の邪魔にもならないしって事で、今こうして装備しているの」

 ライナさんの宝箱の中身は、そんな感じだったのか。ではエミューさんはどうなんだろうか? 自分の視線を感じたエミューさんが、懐から何かを取り出した。

「私の空けた箱には、お札とお金、そしてこのネックレスです。このネックレスにも弱い魔法がかかっていまして魔法に対する抵抗力をやや上げてくれるのですが……代償として自分が使う魔法も弱くなってしまうようです。弱くなる魔法の中に魔曲まで含まれている感じでしたので、装備せずに懐に仕舞っていました」

 あれま、エミューさんにとってはありがたくない装備だな。弱い魔法ってことで、メリットが少ない分デメリットがないか、メリットがある分でメリットもあるかって感じかね? それでも戦士の人なら使い道はあるだろうから、機会があったら売れば良いだけだな。無駄にはなるまい。

「そうなると、この試練に挑むのは自分だけか……」

 ポツリと自分がつぶやくと、手紙の内容を確認したライナさんとエミューさんがゆっくりと自分に近づいてきて、肩に手をポンと置いてから2人がボソッと一言……

「がんばってね」
「がんばってくださいませ」

 と、すばらしい笑顔で仰ってくれましたよ、はい。


「私達は地下11階から20階までを繰り返して体をダンジョンに慣らしているからー」

 ライナさんはそういい残し、エミューさんを連れて先にダンジョンに向かっていった。自分は先に食材を調理してすぐ食べられる食糧を生産。強化オイルも普段より増量してからダンジョンに挑むことにした。とにかく1つの階にいられる時間が5分しかないのだから、のんびりと料理をしているわけにはいかない。モンスターも一気に焼き払ってしまいたいので、強化オイルもしっかりと数を用意する。

 下準備に30分ほどかかったが、ようやく自分も本日のダンジョン攻略に乗りだす。さて、どんな感じなんですかねえ? ダンジョンに通じるゲートの前で、小さく「挑戦するよ」とつぶやいた。

 すると、ドラゴンスケイルメイルの中に入れておいた鈴がリーン、リリーーン……と音を出し始める。周りの人たちにも聞こえていたようで、「風鈴?」「いや鈴の音じゃないか?」「なにこの音?」などの会話が自分の耳に入ってくる。

(まずい、さっさと入ってしまおう)

 そうして自分は、鈴の音を周囲に響かせながらゲートをくぐった。中に入ったが、ダンジョンの壁の絵などには特に違いはないようだ。ひとまずエレベーターを探そうか。時間がないのだから。

 《危険察知》を発動しつつ、小走りで地下11階を動き回る。モンスターの反応はちらほらと見えるが、どれも単体行動をしているようだ。この辺は単独行動前提ならではのバランス調整といった所か。

(そういえば、罠が一切ないな)

 既にこの階の小部屋を6つほど通過しているが、罠がひとつも無い。これも制限時間ありという状況下での設定なのだろうか? それとも前半だけの手加減なのか? 油断はしてはいけないだろうが……今はありがたい。

(そして、なるほど。残り制限時間をダンジョンの壁が教えてくれるって形になっているのか)

 しばらく行動をしているうちにそこに気が付いた。スタート直後は綺麗な絵が描かれているダンジョンの壁が、上から徐々に灰色一色に染まってきているのだ。壁が完全に灰色一色に染まったら、ダンジョンフロアの崩壊が始まるのだろう。そうと分かれば急がないと……もうダンジョンの壁は70%ほどが灰色に染まっている。残り時間は少ない。

 だが、どうしても回避できずに戦うしかなかったウォーゴブリンやらオークを相手にしているうちに、壁が灰色一色に染まってしまった。その途端、ゴゴゴゴ……と地響きのような音が聞こえ始め、自分の背後の床がゆっくりと崩れ始めた。

(制限時間兆候か! ま、前に全力で走るしかない!!)

 ガラガラガラガラと容赦なく崩れ落ちていく地下11階層。追い立てられるようにひたすら前に向かって走り続ける自分。いくつかの部屋を通過し、既に崩れてなくなっている通路を避けて、まだ崩れずに残っている通路をひた走る。時々後ろを振り返って確認をしているが、崩壊速度が徐々に速くなってきている。このままでは床の崩壊に追いつかれてしまう!

(早くこの階にあるはずのエレベーターを見つけないと! どこだ、どこにあ……あったあー!!)

 崩壊していく地下11階において、エレベーターだけは全く揺らがずに存在していた。後はエレベーターに飛び乗れば崩壊していくこの階層から脱出して下の階層に下りられる……そんなことを考えてしまったからなのか、揺れが一層激しくなっている床に足を取られて、自分は転倒してしまった。

(しまっ……!? うわああああああ!!)

 転んだ自分をあざ笑うかのように地下11階の崩壊は自分の体を遠慮なく飲み込み……自分の体は闇の中へと落ちてゆく……そして気が付くと、自分はダンジョン内で力尽きた人の復活してくるエリアに倒れこんでいたのである。

(崩壊に飲み込まれて落下したから、容赦なく失敗……か。これはまた厳しいな……)

 この特殊ダンジョン、突破には時間がかかりそうである。運がよければあっさりクリアできるという側面もありそうだが……そんな運が自分にあるのだろうか? 考えない方がよさそうである。
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VR物でやってみたかったことの1つ、崩壊する世界からの脱出ネタ。
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