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攻略難航

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今回も予約投稿になります。
誤字指摘してくださる方に感謝です。
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 この日は数回ほど試練のダンジョンに挑み、全て失敗した。だが失敗を重ねた事で更なる仕組みの内容が分かってきた。

 まず、ダンジョンの制限時間超過による床の崩落は無差別ではなかった。エレベーターのある方向への道は長く残り、ない方向の道は早く崩れる。つまり、床が崩壊していく状況になった場合はエレベーターへの道が分かる様になっているのだ。だからといってスタート地点から全く動かず5分経過を待って床が崩れだしてから移動してエレベーターを探すという方法は使えない。崩壊速度は時間が経つほどに加速してゆくからだ。

 《ウィンドブースター》や《フライ》、《大跳躍》などの移動系の魔法やアーツがあっても、崩壊が始まってからエレベーターに到着できるような速度は維持できない。崩壊直後ならば、走れば崩壊する速度を余裕で上回れるが、少し時間が経つと崩壊速度が速まるので《ウィンドブースター》で崩壊している床を引き離しても結局ある程度経つと崩壊部分に追いつかれる。緊急的に無理矢理崩壊から逃れるために《ウィンドブースター》を使う方がまだ有効的な使い方になるだろう。

 それと、最大で地下14階まで降りることに成功したが、そこまでにPTを組んでいるモンスターと壁や地面の罠は存在していない。モンスターとの戦い方も、射線が通っている時は双咆で遠くからぶち抜く事で、角などにいるために射線が取れない時は近寄って惑で切り裂くか強化オイルを投げて焼き殺すかで時間を短縮できるようになってきた。特にオイルは制限時間が迫ってきた時の切り札になっている。強化オイルの火柱で焼いてしまえば、ウォーゴブリンもオークも一撃必殺となるからだ。

 徐々に感覚を掴めてきたので、少しずつ安定感は出始めてきたが……最大の問題は自分の心の焦りである。そして焦る事により、弓矢による攻撃の命中率が著しく落ちる。制限時間が残り少ない時には普段絶対に外さない距離で矢を外すことも多いし、それによってモンスターに気がつかれてしまって強化オイルを無駄に消費するような状況もかなりある。地下20階を目指すために最大限に改善しなければいけない部分はここだろうな。

(ふー……きっついな。強化オイルの残りも乏しいし、今日は一旦材料を買い揃えて宿屋に戻って強化オイルの補充をしようか)

 制限時間に追い立てられる事による焦りと、ダンジョンでの立ち回りの悪い部分の反省などで結構疲れが出てきた事もあって、しばらくダンジョン入り口周辺に複数設置されたベンチの1つに休憩の為に自分は座っていたのだが、強化オイルの補充を行うべく立ち上がろうとした時に声をかけられた。

「ずいぶんと短時間に何度もやられて戻ってきているようだが、大丈夫か? ここのダンジョンでは死者は出ないとはいえ、無理に実力以上の階層に挑むのは得策とはいえんぞ?」

 かけられた声の方向を向くと、そこには顔が虎の獣人が立っていた。明らかに武人! という感じのオーラを纏い、顔や腕にはいくつもの古傷があることも確認できた。どうやらこの虎の獣人さんは、自分が何度も帰還されられた姿を見ていたらしい。

「ああいえ、力尽きて戻されているわけではないんですよ。お気になさらず」

 自分がこういうと、ほう? と虎の獣人さんはやや目つきを変えながら顎に手を当てた。

「ふむ、俺以外にもやはり居たのか……特別なダンジョンへと足を踏み入れている者が。時間はあるか? 少し話を聞きたい。無論こちらの情報も出す。どうだ?」

 どうしようか……そうだな。他の人はどうやって進んでいるのか興味がある。話しているうちに新しい考えが自分の中で生まれるかもしれない。そう考えた自分は、この虎の獣人さんの申し出を受けることにした。他人にあまり聞かせたくない話をするので、場所を変えて獣人さんが取っている宿屋の個室へと案内された。

「まあ、適当に座ってくれ。あのダンジョンでは死者こそ出ないが、仕掛けなどは今までのダンジョンよりもはるかに癖が強いからな。恐らくお前や俺といったごく一部の存在が進入を許されているさらに変わったダンジョンも、他では見ることが出来ないだろう」

 出されたお茶を自分は飲みつつ、まずは獣人さんの話を聞く。

「さて、俺は地下30階に到達したことが何度もある。そこでもっと歯ごたえがあるダンジョンは無いのか? と宝物庫で呟いた事がきっかけで、俺は特殊なダンジョンにいけるようにしてもらったらしい。そのダンジョンは、【自分1人だけで】【武器や防具、あらゆる道具の持込を許されず】攻略しなければならないという内容だ。武器や防具、道具などはダンジョンの中で拾い集めて戦い抜くことになる。運も大事だが、手持ちの限られた道具で危機をどう切り抜けるのかが楽しいぞ」

 どこぞの最終ダンジョン形式か。確かにそれならば歯ごたえが無い戦いという物にはならないだろう。

「ではこちらも。自分の方は【自分1人で】【1つの階層に留まれる時間は5分間】【制限時間を超過すると床が崩壊して行き、落ちると失格】というルールで、地下11階から20階まで降りなければならないんです】

 獣人さんが情報を出してくれたので、こちらも情報を出す。自分のダンジョン情報を聞いた虎の獣人さんは、「ふーむ、そんなダンジョンもあるのか」と思案しているようだ。

「では、やたらと頻繁に帰還してきていた理由は、魔物によって叩き潰されたというわけではないのだな?」

 この虎の獣人さんの質問に、自分は頷くことで肯定の意を返す。モンスターにやられていないとはいえ、何も無い真っ暗な世界に落とされるというのは良い気分がしないけどなぁ。

「5分という時間がものすごく短く感じるダンジョンですよ。出来るだけモンスターとの戦闘を避け、エレベーターを探し回らないとあっという間に時間切れです。当然帰還理由は床の崩壊から逃げ切れずに落とされて失格になっていたからです」

 補足も兼ねて、獣人さんにそう伝える。死に戻り前提の特攻プレイなんて、VRではやりたくない。まあそれは、ほとんどのプレイヤーが思っていることなんだけど。こっちの世界の人はなおさら死亡=全ての終わりだから、そんな無謀なマネはしないだろう。

「そうか、それなら良いのだ。今日はたまたま訓練の為に弟子達のみで編成したPTで地下に送り込み、俺は休憩をしていたのだが……そこでお前がやたらと強制帰還させられているのを見たからな。死なないことをいいことに無茶をしているのではないかと心配になったから、今回は声をかけさせてもらった」

 ふむ、確かに頻繁に強制帰還エリアに帰ってきていたら気になるのも無理はないよな。それにこの獣人さんは素直に心配してくれたからこそこうやって声をかけてくれたわけだ。それを鬱陶しいと思ってはいけないだろう。

「こちらこそ、心配をさせてしまい申し訳ないです。ところで、お弟子さんたちの方はいいのですか?」

 自分が問いかけると、獣人さんはチラッと時計を見る。

「あいつらは……そろそろ戻ってくるころか。迎えにいってやらねばならんな。お前はどうする?」

 この部屋の借主が出るならおいとまするべきだな。それに強化オイルの補充も行わねばならないから、道具屋に行かないといけない。

「こちらもここでお暇しますよ。ダンジョン攻略のために道具を補充しないといけませんし。」

 そういって自分は、座っていた椅子から立ち上がり、部屋を出て行く。だが部屋のドアを開ける前に、獣人さんには口止めをしておかなければならないだろう。

「今日、ここで話し合ったことは他言無用でお願いします。そちらの話も外には漏らしませんので」

 自分の申し出を、獣人さんは快諾してくれた。

「ああ、分かったぞ。だが、お前が頻繁に強制帰還をしていることを誰かが見咎めた時、お前は試練を受けていると説明するのはいいか?」

 最後の質問には、試練を受けていることは言っていいが、詳しい内容を話さないで欲しいとお願いしておいた。どうやればいけるようになるんだ? なんて質問攻めは面倒だから……ピカーシャの時のようなことになるのは回避したい。

「では、自分はこれにて。お互い頑張りましょう」
「ああ、今日は呼び止めて済まなかったな」

 獣人さんが宿泊している宿屋を後にして、自分は道具屋で強化オイルの材料を買い込んでオイルを生産。次回の挑戦に備えることにしたのである。
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獣人連合のプロットは、このダンジョン編のおかげで時間が取れているので、何とか纏まりそうです。絶対書きますので、もうしばらくお待ちくださいね。
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