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連載

そしてダンジョンから帰還

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「はぁ〜……満足です」

 お腹をさすりながら、ミーツさんが満足そうに吐息を漏らす。それだけを見ればほのかな色気がある様に見えるのかもしれない、が。

「お粗末さまです……が、よく食ったな……何処に入ったんだ」

 作った料理の7割強が、ミーツさんの胃袋に消えた。最初は自分も一緒に食べていたのだが、どんどんと早くなるミーツさんの食事スピードについていくことが出来ずに、途中からはあっけに取られながら見ていただけだった。

「エネルギー補給という意味では、効率がちょっと落ちるけど……味という物の感覚、お腹が膨れていく満足感は食事をしないと味わえないものなのね。ああ、幸せ〜」

 少しばかり、ミーツさんの顔がへたれてきているような気がするぞ。まあ、満足はしてもらえたようだし料理を作った人間としては悪い気はしない。やっぱり作った料理は食べてもらってこそ何ぼだからね。よっぽどまずい料理で無い限りは。

 ──ふと思ったんだが、この世界にも料理オンチが居たら食べた人間がひっくり返って帰ってこれなくなるような料理を作れてしまうんだろうか? 評価もマイナス10とかの即死魔法の名前がついたカレーとか。

「さて、満足してもらえたようだし、そろそろ失礼するよ」

 チラッと時計を確認すると、そろそろログアウトすべき時間が近づいている。帰るときはテレポートで一瞬なんだろうから心配は要らないだろうが。

「えー、もう帰っちゃうの?」

 へたれ気味の顔を元に戻して、ミーツさんがそんなことを言う。

「用事は終わったし、料理も振舞った。もう自分がここにいる理由は無いし、ミーツさんはミーツさんの仕事だってあるんじゃないのかい?」

 ククさんのような宝箱の中身を補充する仕事とか。

「うーん、それはそうなんだけど。でもそうなると、料理を口に出来るのはいつになるのか……後数回は食べてみたいし」

 腕組みをしながらうーんと唸るミーツさん。だが、そのリクエストには応えられん。こちらにもこちらの都合があるからな。

「ダンジョンの外に出るという訳にはいかないのか? それだけ人に限りなく近い姿をしていれば、そうそう貴女をミミックだと見破る人は居ないだろう?」

 代案として1つの方法を提案してみるが、ミーツさんは首を左右に振る。

「それはダメね。ダンジョンの外に出ると体を支えるエネルギーが供給されなくなっちゃうから、すぐに動けなくなっちゃう。それにエネルギーの問題が解決したとしても、私を魔物だと見破る人は絶対いる。そしてそういう人は大半が問答無用で私を倒すでしょうからね」

 うーん、ユニーク・モンスターの一種となっている可能性が高い彼女を倒す選択を取る人は居るだろうな。プレイヤーの中にも、こちらの世界の中の人にも。アイテム目的というだけでなく、モンスターが街中をうろついているというのは、一般の人からしてみれば恐怖でしかない。

 リアルで例えるのなら、襲ってこないとしても街中にライオンとかトラがうろついていたら誰だってそこから逃げるだろう? 何か気が変わって突然襲ってくるんじゃないか? という疑惑から抜け出せないはずだし。ライオン娘やトラ娘等の擬人化済みだったら話はまた変わってくるかもしれないけど。

「なるほど、確かにそうだなぁ……まさか出前を頼むわけにはいかないし」

 ここでミーツさんが「出前ってなに?」と質問してきたので、出来上がった料理を住んでいる所まで配達してもらう事と教える。

「流石にここはダンジョンの中だもんね……食事をしたいから配達する人専用一本道の特殊な短縮ルートを作りたいって姉さんにお願いしても、絶対通るわけは無いわね。姉さんのダンジョン美学の1つ、『口ではなく自らの命を対価としてダンジョンに挑む者だけに、ダンジョンの奥地に到達する事が出来る資格がある』に反するからね」

 ダンジョン美学と来たか。簡略して言い換えると『100の言葉より1の行動』という事になるんだろうが。口で言うのは簡単だが、その言った事を実行することは難しいというのは古今東西変わらない事実だな。

 ちなみに、ここでは挑戦者が成功しようが失敗しようが関係は無い。失敗したとしても、それは行動を起こしたから失敗したわけであり、口だけの人にはそんな失敗という結果すらたどり着けないんだから。

「料理を姉さんに作ってもらうとかはどうだ? 貴女のお姉さんはダンジョンマスターなんだろう? という事は何かしらの条件はあるんだろうが、宝物とかモンスターを生み出せるんだろ? そこに料理を加えてもらえばいいんじゃないか?」

 自分の次なる提案にも、ミーツさんは首を振る。

「無理。確かにダンジョンマスターである姉さんは、ダンジョンのエネルギーを使ってある程度の宝物やモンスターを生み出せるけど、さっき作ってもらったような料理とかの繊細なものは作り出せないの。せいぜいがパンだとか、お肉の丸焼きとか止まりだから、ダンジョン内のドロップアイテムには美味しい料理はないのよ」

 あー、そんな裏事情が。というか、カンで言ってみたんだが、ダンジョン内のモンスターは外に居るモンスターとは完全に別の存在なんだな。だからこそ完全に枯渇することがないんだろう。こんな所でダンジョンの仕組みの1つを知ることになったな。

「じゃ、最後。諦めるって事で」

 提案でもなんでも無いんだが、一番簡単だろう。一回料理を食べることが出来た今回を特例として、すっぱり諦めれば簡単だろう……自分はこの世界が終わるまでこのダンジョンに永住する気は無いし。

「ううー……この幸せが今回限りなんてイヤ! 頻繁じゃなくてもいいから、たまには味わいたいよ〜」

 そんな期待する目を向けられてもなぁ。出来ないものは出来ないと言うしかない。自分はスーパーマンじゃないんだから。

「とりあえず、ここのダンジョンを報告する時にそっちの人と交渉はしてみよう。ただ、その場合はダンジョンの入り口に宝箱を配置して受け取り場を作ってもらうことになるだろうけど。それ以上の事は出来ないぞ?」

 ミーツさんはうー……と唸っているが、他の案も出せないようでしぶしぶながらもそれでいいと同意した。

「じゃ、帰りたいから地上までお願い」

 自分が帰りたいことを告げるとミーツさんは立ち上がり、「ついてきて、送るから」と先導し……やって来たところは、最初ミーツさんが腰掛けていた宝箱がある部屋だった。

「この宝箱が外へのゲートになっているの。中に入ればすぐに外の復帰場所に設定されている場所に行けるわ。折角ここまで話が出来る人に出会えたのに、もうお別れしないといけないのは残念だけど……貴方は冒険者だもんね。ひとつの場所に長居はしない生き方をしているんだもんね……さ、行って」

 そんなことをミーツさんは言いつつ、宝箱の蓋を開ける。開かれた宝箱の中は白く輝いている……その中に自分は身を躍らせて……気が付いたらダンジョンの地上にある復帰場所に立っていた。

(ミミックにも色々あるんだな。さて、残すはミークさんだけか……とりあえずの目標まで後一歩か)

 ログアウトする前にライナさんやエミューさんに連絡を取りたかったが、2人はダンジョンの中に居るようでPTチャットが効かない。仕方が無いので宿屋の主人に言伝を頼んでからこの日はログアウトした。
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これで地下20階はお終い、次回からはようやく終盤の地下21階〜ですね。
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