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連載

状況説明

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「なるほど、そっちもなんとか一段落したって訳ね」

 翌日ログイン後、ライナさんとエミューさんを呼び出して状況を説明した。一通りの話が終わった所で、先ほどのライナさんの発言が出た。

「やっと、だけどな。ソロ行動自体は経験がそれなりにあったんだが、制限時間やら崩れ落ちるフロアを焦らずに突破する事やらでかなり苦戦したよ。オマケに戦闘方法も限られてしまって、修行にはなったが技術的な経験にはあまりならなかったかな」

 修行はプレイヤーとしてのスキル、経験はスキルのレベルの事だ。所持しているスキルのレベルはほっとんど上がらなかった。

 まあ、強化オイルで焼くとかの大雑把な方法が最終的には多かったから仕方がないのかもしれないが、スネーク・ソード系のスキルが上がらなかったのは少し納得がいかない。あと少しで次が見えるはずなんだが。

「そして後は地下30階を目指すだけですか。あの、実は申し訳ないのですが……私とライナさんは、既に地下30階までダンジョンを踏破してしまいました」

 話を聞いていたエミューさんから、そんな報告が飛び出した。おずおずとエミューさんが出してきた手の中には、地下21階からスタートできる札が握られていた。このダンジョンの踏破した階層を他者に証明するには、これ以上無い証拠品だろう。

「あれま、そうなのか。まあ別に構わないよ。それなら、地下30階を目指すときは二人の経験を頼りにさせてもらうことにしよう。もちろんダンジョンの中で出会うことに成功すれば、だけどね」

 こちらが苦戦しているうちに先を越されてしまっていたわけだが、それは別にいいだろう。何も一緒に到達しなければいけないとか、約束をしていたとかの決まりごとをPTの中で定めていたわけじゃない。調子よく物事が進んだ時には、いけるところまで進めておいてもらう方が良い。

「最初は一緒に、ってつもりだったんだけどね。でもかなりアース君は苦戦しているようだし、私もダークエルフの谷に帰らなきゃいけない時間が近づいてきていたしね。だから先行させてもらっちゃったの。事前情報は仕入れてきたから、それで許して欲しいな」

 許すも許さないもない、むしろ感謝したい。それに、ライナさん自身の制限時間が迫っているのなら、なおさらのんびりしているわけにもいかない。忘れかかっていたが、ライナさんはダークエルフ長老の娘さんだものな。こうやって外の世界を歩き回れる時間は限られていて当然だった。うかつである。

「いや、むしろ先行してくれて助かったよ。自分の目的はミミック3姉妹の話を聞くことだからね。お二人の事前情報を教えてもらってから行動すれば、地下30階到達までの時間はかなり短縮できる筈だ。ライナさんが帰らなくてはいけない時間を迎える前に、なんとか踏破してしまいたい所だ」

 自分達には自分達の都合があるように、この世界に生きている人はこの世界の人なりの都合があるからな。彼女達はモノじゃない。自らの考えを持ち、生きているといっていい存在だ。

 だからこそこっちの都合を一方的に吹っかけて拘束してはいけない。ライナさんは、折角の自由時間を使ってまで自分に付き合ってくれているような物なのだから。

「そういってもらえるとこちらとしても助かるわね。じゃ、早速アース君に情報を流さないとね」

 そして、ライナさんとエミューさんから情報を聞く。地下21階以降のモンスターはオークが主体となり、ゴブリンはもう登場しない。そしてオーガが出現モンスターに追加されているらしい。だが、オーガはエミューさんから見ればタダのカモらしい。

 その理由だが、筋力は強いがいまいち魔法関連に対しての防御が低いらしいオーガは魔曲の効果が非常に通りやすいらしく、簡単に同士討ちを発生させられるらしい。オーク達からしたら、たまったものではないだろうな。

 ついでに、地下18階から見かけるようになった面倒な相手であるサンドゴーレムとマッドゴーレムは、数こそ少ないが引き続き出てくるようだ。

 そのオークだが、地下19階まで出てきていたゴブリン達の様に、役割を持ったやつらがうろついているとのこと。ウォーゴブリンズならぬウォーオークといった所か。ただ、オークの性質上なのか近接攻撃を得意とする役割……つまり前衛の戦士系に偏りがみられるとはライナさんの弁。

 トラップの内容は大差なし。ライナさん達と組んだ〈盗賊〉スキル持ちの人の様子を観察していたらしいが、特に目新しい罠はなかったらしい。ただ、部屋そのものがトラップであるという部屋は存在していたらしく、犠牲者が出そうになった事もあったとエミューさんがダンジョン内での出来事を教えてくれた。

「なるほどな、感謝するよ。所でこちらから質問なのだが、二人とも戦闘方法はどうしたんだ? こう言っちゃ何だが、かなり2人とも独特の戦闘方法だろう? ダンジョン内臨時PTを組んだ人から、誘いとか来たんじゃないのかな?」

 相性が悪い相手が居るとはいえ、ライナさんもエミューさんも魅力的な攻撃能力を持っている。スカウトされてもおかしくは無いだろう。まあライナさんは、かえらなければならない時間が迫ってきているからスカウトには乗らないだろうけど。

「あーうん、そこはアース君の予想通りかな。結構しつこい勧誘も数回あったわ」
「ライナもそうだったの? 私も勧誘を受けたわ。このダンジョンを離れた後もPTを組みたいって。でも、なんか私の顔とか胸をやたらとじろじろ見てくるから即座に断ったけど」

 ああ、やっぱり2人共に勧誘は来てたか。モンスターを捕まえてぶん殴るライナさんの戦闘力は魅力的だし、魔曲で敵の集団を同士討ちさせてしまうことで無力化するエミューさんも、喉から手が出るほどに欲しいPTはいくらでも居る筈だな。

 そして、エミューさんが言っている発言から『男のチラ見は女のガン見』と言う言葉は正しいんだな、なんて余計な事も考えてしまった。

「とりあえず、地下21階以降の状況はある程度分かった。じゃあ早速ダンジョンに向かおうか。 お2人とも準備はすぐに出来るのかな?」

 自分の確認に、ライナさんもエミューさんもすぐに頷く。一旦解散して、15分後にダンジョン前に集合と言う話になったのでライナさんとエミューさんは自分の借りている個室にいったん帰った。

 自分はダンジョンに向かう前に各種食材を買い込んでおいた。エミューさんの空腹対策をしておかないとね。──そういえば、エミューさんの話に空腹が出てこなかったな。やっぱりパンを大量に買い込んで凌いだのだろうか。

 そうして準備を整え、ダンジョンに向かっている時にウィスパーチャットが飛んできた。相手は……ツヴァイか。

【あー、もしもし。どうしたんだツヴァイ?】

 歩きながらウィスパーに出て、話しかけてみる。

【どうしたと言うより、しばらく声を聞いていなかったから何かあったのかと思ったぜ……今アースは新しいダンジョンの外に居るんだよな?】

 そういえば、ミリーがツヴァイ達もこのダンジョンに挑んでいるって言っていたな。ブルーカラーのメンバーはミリーと出会った一回だけで、その後自分がソロ限定ダンジョンに挑んでいたから出会えなかったな。その辺の事情はツヴァイに伝えておくか……。

【──と言うわけだ。このダンジョンは中に入るとチャット関連が直接対話以外全滅だからなあ。そういうわけで、大きな問題があったわけじゃないぞ】

 自分の説明を聞き終わったツヴァイは【それならいいけどよ】と返してくる。

【そのうちまた一緒にPTを組んで狩に行こうぜ? ウィスパーでもメールでもいいから連絡くれよな!】

 ツヴァイの言葉に【わかった、今はこのダンジョンを何とかしたいからまた今度な】と伝えてウィスパーを切る。さて、ちょうどダンジョン前に到着できた。あとはライナさんとエミューさんが来るまで待ちますか。
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明日の金曜日が怖い。
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