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連載

ダンジョン再進行中

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チュイーンチュイーン……

両手に一本ずつ音を立てて動くチェーンソーを持ち、こちらへと歩いてくる褐色肌の女がひとり。彼女の顔には白いマスクが装着され、表情を見ることが出来ない。

足がすくんで歩く事すら忘れてしまい、逃げ出せない自分の目の前にまで音を立てて動き続けるチェーンソーをゆっくりと近づけつつ、彼女はこうつぶやいてきた。

「悪い子はいねがー??」

カットカットカーット!! ライナさん、何でそんな台詞が出てくるの!?

「え? こうやって脅かす日なんでしょ? 違った?」

ライナさんにこんな情報吹き込んだのは誰だーっ!?

(13日にちなんだネタです、元ネタ好きな人にはごめんなさい)
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 再びダンジョンに入り、今度は地下30階を目指す為に先を急ぐ。だが、今回はとうとうリアルラックの神が降臨した様だ。地下12階で早々にライナさんと合流、地下13階でエミューさんとも合流できたのだ。この時点でかなり運がいいのだが……今回の幸運はここで終わらなかった。地下15階でツヴァイが、地下17階でなんと単独行動をしていたグラッドと合流し、協力してもらえる事になった。

 ツヴァイとグラッドという前衛のトップランクに位置するプレイヤー2人がPTに加入したことで攻略速度は大幅に向上。魔曲も出番を抑える事ができたので、エミューさんの疲労も以前と比べれば大きく抑えられている。自分はその進行速度を維持すべく、罠の早期発見と解除、モンスターの接近などの情報を提供する役割をしっかりとこなした。

 戦闘ではライナさん&ツヴァイ&グラッドの前衛3枚が大暴れし、速攻で片をつけている。自分とエミューさんはたまに混ざっている魔法使い系のモンスターを弓矢で射殺するぐらいだ。数が多い場合はエミューさんが魔曲を弾き、同士討ちさせてから戦う事でPTの損害をほぼゼロにまで抑えることが出来ている。

「それにしても、アースと再会するとは思わなかった。こうしてPTを組むのは、街がモンスターの集団に襲われたイベントの時以来か……かなり前だな」

 地下18階に降りる前に取った休憩時間中に、グラッドがそう自分に話しかけてきた。

「そういえばそうだな。他のメンバーは元気かい?」

 自分の質問に答えてくれたグラッドの話では、グラッドのPTメンバーもこのダンジョンで積極的に腕を磨いているらしい。一般的なモンスターの強さはグラッド達から見れば歯牙にもかけないレベルだが、地下21階以降に居るボスモンスターはなかなか歯ごたえがあって戦うと楽しい相手らしい。なのでボスと戦うために普段は地下21階からスタートしているらしい。

「なるほど。じゃあ何で今回はこんな階層に? こちらとしては協力してもらえているので非常にありがたいが」

 ここは地下17階だ。

「たまには大勢の敵と戦うという事もやっておかないとな、カンが鈍る。多数を相手取って戦うという感覚も大事なんでな」

 そういうものか。トッププレイヤーならではの修練方法というやつなのだろう。出来るだけ気が付かれない様にとか考える自分とは真逆だな。それでもグラッドは以前出会ったプレイヤーのようにやたらめったらとモンスターをかき集めるような真似はしないから、特に問題はない。

「ふらっとしばらく居なくなったかと思うと、いっつも意外な所で再会するよな、アースとは」

 こっちの発言はツヴァイだ。休憩時間を利用して、軽く自分の愛剣となった魔剣を手入れしている様だ。

「おまけに、いっつも仲間にしているメンバーが違うよな。前回組んだ時はエルフを仲間にしていたのに、今はダークエルフに魔族さんとか……本当に変な人脈を持っているよな〜、唯一の共通点は、『プレイヤーでは無い』って所か?」

 あーうん、それは言われても仕方がないかな……固定PTを組んでいないから、ころころとその場や状況に応じて面子が変わるんだよね、自分の場合。他の人から見ればかなり奇妙に見えてしまうのかもしれない。プレイヤーの中にはワンモア世界の住人とPTを組むと言う人は増えつつあるが、まだまだ少数派なのは間違いない。

「かなり前の話だが、お前が倒したフェアリークィーンとのパイプもしっかりとあるはずだしな。アースの人脈という引き出しは全く読めんな……俺達プレイヤーの中では、ワンモアの世界で一番顔が広い存在になってるのは間違いないな」

 ツヴァイの話を聞いたグラッドも、そんな事を言ってくる。やれやれ、確かに自分のワンモア世界の中で展開している人脈は変な形に伸びているから反論がし辛い所だ。

「エルフやダークエルフの中でも、アース君の存在なら知ってる人は結構居るわね。そちらのお2人さんはちょっと分からないけど」

 そんな話を聞いていたライナさんがそんなことを言い出す。そのためツヴァイとグラッドが『やっぱりか』というような表情になる。まあ、エルフの森でもダークエルフの谷でも狙ったわけではないのだが、色々やらかしてしまった。エルフの森では特にな……もう帰らぬ存在になってしまったあの子は、無事女神の元へと行けただろうか?

「こちらとしても特に狙っているわけではないんだけどね、不思議とそんなめぐり合うような行動をしてしまっているのは認めざるを得ないな。いや、本当に狙っているわけではないって」

 狙っているわけではない、の部分でチラリとツヴァイが普段とは違う視線を送ってきたので、念のためにもう一度言っておく。そもそも、こうなった最大の原因はフェアリークィーンだろうな。あそこでクィーンとの勝負に勝ったことで、色々おかしくなり始めたような気がする。


 ──アースがそんなことを考えていた頃、妖精城にて政務中のフェアリークィーンはくしゅんくしゅんと可愛らしいクシャミをしていた。

「陛下、風邪ですか?」

 フェアリークィーン直属の部下の1人がクシャミをしたフェアリークィーンを気遣って、声をかける。

「いえ、違いますね。この感じは誰かが私のうわさでもしたのでしょう。そして噂の出所は妖精の中からではないですね……もしかするとアース様かもしれません」

 遠くを見るような様子を見せたフェアリークィーンに、部下が再び声をかける。

「そういえば、アース様は突然変貌を起こしたダンジョンの調査に行っておりましたな。そこで少し陛下のことを話したのかもしれませんね」

 アースが妖精国に居る時の行動内容は、クィーンにほぼ全て知られていたりする。この事を当然アースは知らない。

「悪い感じはしませんでしたし、問題はないでしょう。さて、後今日中に見なければいけない案件を確認しましょうか」


 ──そして場所は再びアース達が休憩しているダンジョンの地下17階へと戻る。

「そろそろ行きましょうか。体力も魔力も回復しましたから」

 エミューさんの発言をきっかけにして、全員が立ち上がる。休憩は終わりだ、ここからは地下20階の宝物庫までノンストップで行く事になっている。サンドゴーレムとマッドゴーレムがちょっと厄介だが、この面子ならば問題なく突破できるだろう。本番は地下21階からだ。地下18階と19階で、長い時間を掛けてしまう様な事になってはいけない。

「じゃ、予定通り地下20階の宝物庫までノンストップで」

 自分がそういうと、おう、とか分かってるぜ! とかの反応が返ってくる。さて、PTメンバーだけでなくツヴァイやグラッドという頼もしすぎる助っ人が来てくれているんだ、一発で決めたいところだな。

 そしてその願いはあっさりとかなう。厄介な罠もなく、モンスターの大きすぎる集団にも出くわさず、あっさりと地下20階の宝物庫に到着。宝物庫の中で軽く呼吸を整えた自分達は、いよいよ本番となる地下21階に足を踏み入れることになった。
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さーて、11〜20階までは巻き巻きで。いい加減ダンジョン編も終幕しないとね。
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