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連載

ボス戦中

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 お互いのアーツが発動し、ぶつかり合う。その結果は……

「まだ、こんな手段をっ!? おのれっ!!」

 闇の魔法陣に捕えられた事で、動きを封じられた女性が苦悶の声をあげた。手札を戦いながら少しづつ切っていくのは戦いの基本だし、容赦はしない。技の成立に伴って、惑がその凶悪な刃を動けない女性に向けた。

 その結果、ガリガリガリガリ! と削るような音を立てながら容赦なく刃を食いこませながらずたずたに切り裂きつつ、惑はその刀身を一本の剣に戻してゆく。

「炸裂!」

 そして最後の仕上げに、闇の魔法陣が爆発を起こして捕えられた女性を焼く。これでいきなり波に乗り切れず一方的に押されて負けるという展開は回避できた……が、またこちらの手札をまた1枚切らされたのも事実。もう一度目の前の女性を《惑わしの演陣》に引っ掛けることはかなり難しいだろう。

「成程、相手を力でねじ伏せるタイプではないと思っていたが、ここまでの手札を持っていたとはな。よかろう、こちらもそろそろ速度を上げてみよう」

 大太刀を構えなおした女性は、体からうっすらと青いオーラを漂わせ始める。うわあ、ここからが本番とか勘弁してほしい。先ほどの《一閃》の迎撃も、モーションを見て先読みしたから何とか間に合った訳であり……目の前にいるボスである女性の速さに反応できているわけではない。もう少し動きを見て眼だけでも馴らしておきたかったのに……そうそううまくはいかないようだ。

「さあ、行くぞ?」

 自分は目を女性から一瞬も外していない。にも関わらず、認識できた瞬間大太刀が大上段から振り下ろされてきていた。とっさに両手に装着している盾を自分の前に出し、盾のアーツである《シールドガード》を発動した。回避できるタイミングではなかったからだ。ガキィン! という音が盾から聞こえた瞬間、自分は押しつぶされる重圧感を味わっていた。

「ぐぬ、っ……くっ」

 《シールドガード》のアーツで盾の防御力を高めてから受け止めたというのに、その一太刀は非常に重かった。ダメージも完全無効化はできず、こちらのHPをアーツを発動した上に、さらに両手の盾を使って防御しても数%削られていた。しかも、上から押しつぶされるよう形になっているので動くことができない。

「そら、もう一太刀行くぞ?」

 そう言うのとほぼ同時に、女性は大太刀を今度は左側から横薙ぎに振るって攻撃してきた。自分は先程の一太刀を受けたことが原因で体を硬直させられており、この横薙ぎの攻撃を回避することは非常に厳しい状態にあった。

「《シールドパリィ》!」

 なので、この攻撃に対してはもう一回盾のアーツである《シールドパリィ》を発動して受け流すしかなかった。タイミング的にはすでにギリギリなので即座に発動して、左手に着けている盾で胴体に迫りくる大太刀の切っ先を自分の体の上を通過するように逸らす。

 その甲斐あって何とか直撃は回避。体勢を大きく崩してしまったのでわざと転がるようにして倒れ、距離をいったん開ける。

 このやり取りだけで、自分は大きく息を乱していた。大太刀の攻撃を何とか逸らしたとはいえ左手には軽いしびれがはっきりと残っているし、綱渡り状態だったために心臓の音がやけに大きく聞こえるような錯覚も覚えている。

「ほう、凌いだか。だが、すでに崖っぷちのようだな? 息の乱れがひどいぞ。そして言うまでもないことだが、そちらの息が整うのを私は待たぬ」

 ここからは自分側が防戦一方になり始めた。攻撃を仕掛けたくとも、速度を上げた女性に大太刀がそれを許さない。速度差が残酷なまでに戦闘における明暗を分け始める。その上ボスというだけあって、攻撃も軽くない。

 自分は不格好なダンスを踊るように回避し、所々では詰められてやむなく盾を使ったガードを強いられる。強化オイルは懐に手を伸ばす余裕がないので投げること自体が封じられていたので出番がない。

 自分も、接近された時には蹴りで反撃を仕掛けているのだが……ほとんど回避される。そして蹴りのアーツを打つチャンスはあまりない。外したら隙だらけになるし、目の前の女性の速度からくる回避率の高さから発動時に特殊なモーションをするアーツはまず当たらないだろうと予想していた。

 実際、こちらの蹴り攻撃を体感で80%以上を回避されているので、バクチを打ちに行くのにはあまりにも分が悪すぎる。もしあてることに成功しても、今の流れを変えるのには威力的に不十分だ。

「そろそろ限界か? この程度の者ではわが主の前に通すわけにはいかぬな。負けを認めるというのであれば、地上へと送り返してやるぞ?」

 大太刀を振るうことをやめて、こちらにそんな提案を行ってくる女性。だが、その提案には乗れない。ここまで来るのに協力してもらったメンバーに申し訳が立たないからだ。失敗するにしても、せめて前のめりに倒れてこそだろう。

「お心使いはありがたいが、それは飲めない。ここに来るまで世話になった人たちに顔向けができなくなりそうなのでね」

 自分の返答を聞いた女性は、一瞬ではあるが微笑みを浮かべていた。

「その心意気は買おう。そういうことを言える者は私の好みでもある。だが、もう防戦一方なお前にはもう打つ手があるまい? 嫐るのは趣味ではないが、それもお前が望んだ結末。決着をつけるまで容赦はせぬ」

 大太刀を自分に対して向けなおす女性。悔しいが、真っ向勝負ではやはり勝負にもならない……ならばこうするか。妖精の記憶を取り出して火の妖精を召還、そして自力で土の妖精を召還。どちらにもMPを全体の30%づつ分け与えた後に、指示を出して即座に実行してもらう。これで残っているMPは6%ぐらいだ。

「召喚か、まだお前には切れる手札があったのだな。だが、果たしてそれが私に通じるかな?」

 自分が召喚した妖精が姿を消したので、こちら側がなにかしらの攻撃を仕掛けた事がわかったのだろう。やってくる攻撃に対処すべく身構える女性。その直後に女性の足元から細い土でできた針が襲い掛かり始める。切り伏せる価値も無いと女性は軽く回避するが……その回避した場所に土の妖精が土でできた手で女性の足をとらえる。

「なにっ!?」

 驚いたような声を上げた女性に対し、自分は残しておいたMPを使ってスネーク・ソードのアーツ《ブラッドカット》で攻撃を仕掛ける。足を取られている女性は当然回避することができないので、大太刀でアーツ効果を乗せて襲い掛かった惑を弾き返す事で対処した……が、この攻撃は囮に過ぎないのでこれでいい。本命は……

「今だ、仕掛けろ!」

 火と土の妖精の合作で、エクスプロージョンのような大爆発を起こす火の魔法を土の殻で無理やり包んだ……つまりは一種のミサイルを、女性の背後から女性に向かって打ち出させたのだ。

 女性も自分が後方を見ていることからこの攻撃に気が付いたようだが、足を土で作られた手で抑えられていたので回避が遅れた。それを確認した自分は盾で自分の顔をかばい、できるだけ小さくしゃがみ込んで爆発の衝撃に備える。

「これもお前の策かっ! やってくれたな!」

 そんな女性の声が聞こえた直後、大爆発による熱と音がこの場を支配した。爆風に吹き飛ばされそうになりつつも盾を構えた状態を維持して何とか耐える。予想以上の大爆発になったが、これが効かなかったら最終手段の変身しかない。出来ればこの疑似ミサイル攻撃で引かせることができれば……その願いは届かなかった。

 なぜなら、爆風などが収まり盾から顔を出した自分は、着ていた着物はボロボロになりつつもしっかりと両の足で立っている女性の姿を見ることになったからだ……。
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というわけで、変身フラグ立ちました。ボスは切り札を温存できるほど甘くはないってことですね。
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