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連載

最後の切り札

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「成程、そちらのとっておきだっただけあって大した威力だったな。お蔭でお気に入りの服がボロボロになった上にかなり痛かったぞ」

 女性の着ていた服の一部が焼け落ちたり、ススがついたりしてはいるが……それでも状況を覆すまでには至らなかった。ダメージは間違いなくかなり入ったはずなのだが、言葉に乱れがないし、足元もしっかりしている様子から……虚勢を張っているという感じでもない。

 女性の服はボロボロになったとはいえ、それは腕の部分や足元の一部に限られる。一時期格闘ゲームに合った脱衣K.O.の様なやらしい事にはなっていない。

「が、さすがにもう策も潰えただろう? あれだけの威力を出すには持っている魔力のほとんどをつぎ込まねば発動できまい? そして今までお前と私は戦い続けてきたことから、もう魔力は尽きている。違うか?」

 その通りだよ畜生! と心の中だけで認める。口に出して肯定する必要はない。だが、とっさに反論できないという事自体が肯定している事とほぼ変わりないか……そして、そんなことを見破れない相手ではない。賢すぎる相手は本当にやりにくいよ。

「さて、お前に降伏を勧めても首を縦に振らぬことはもうわかっているからな……切り捨てさせてもらうぞ。覚悟は良いな?」

 そう宣言した後に、再び大太刀を振るい始める女性。MPが尽きかけている自分は、盾のアーツすら満足に発動できなくなっている状態に陥っているために、女性の大太刀をいなす事ができない。大太刀の攻撃を回避し損ねて盾でやむなく受けるたびにHPを削り取られてゆく。

 時間経過で僅かにMPが回復しても、すぐさま盾のアーツを使って耐えるのが精一杯。反撃すらままならない。

「お前はよく戦った、もう楽になってもいいのだぞ? 負けた事実を納得できるように我が奥義の《紅散華くれないさんか》にて地に伏せよ」

 ──聞いたことがないアーツだ。そしてそれ以上に目の前にいる女性から発せられる威圧感が非常に危険である事を自分に伝えてくる。

(それでも耐えるしかない!!)

 左右の盾を構えて、女性のアーツが発動する前に少しでもしっかりとした防御態勢を取れるように自分は身構えた。あとは出たとこ勝負しかない!

「もしこの技を受けた後でも心が折れぬのであれば、再び私に挑んでくるがよい。さらばだ、《紅散華》!」

 そう女性が宣言した直後、自分の目の前には5枚の花弁をもつ花の幻影が見えた。その直後に、花弁の一枚一枚が刃と化して自分に襲い掛かってきた。1枚目は防いだが、2枚目でバランスを崩された。3枚目で防御態勢が完全に崩壊し、4枚目で左手が、5枚目で右手を弾き飛ばされてしまい万歳状態にされる。だめだ、手がしびれて動かせない! 胴体ががら空きになっているのに何もできない!

「終いだ」

 そう言い放った女性の大太刀の突き攻撃が花の真ん中から現れて、がら空きの自分の体に突き刺さる。グサッと貫かれた様な感触を味わった後にやってきた衝撃により吹き飛ばされる。

 何度か地面に叩きつけられた後に体が転がってようやく止まった。終わったか、ここまでなのか……と思ったのだが少しおかしい。死亡したのなら、死亡した時に出るアナウンスなどがあるはずなのにそれが未だに出てこない。

(──なぜだ? あれだけの技の直撃を受けて自分の体力では死亡しないはずが……まさか!?)

 ここで、自分が着込んでいるドラゴンスケイルライトアーマーフルセットの性能を慌てて確認してみる。そこには……

特殊能力 NEW! 装着者が多大なダメージを一気に受けた場合、一度だけ僅かにHPを残した状態で即死を回避する。ただし即死回避が発動した場合は一定期間フルセット全体の防御力が半分に落ち、この防御力が元に戻るまでこの能力は再発動しない。罠や自爆行為には無効、毒などにも無効。

 と、新しい一文が追加されていた。今まで極端に大きなダメージを受けて即死するという事がなかったために発現しなかったのか。そして罠による即死級ダメージは回避できない、と。あくまで戦闘によるダメージ限定というわけか。

(だが、十分すぎるな。鎧まで自分にこの戦いに勝てと言っている。最後まで足掻けと言っている。なら、それに応えなくては……漢じゃないよな!)

 HPが残り僅かしかない影響で体の動きが鈍っているが……それでも自分は両の足でふらつきながらももう一度立ち上がった。そうして前を見ると、完全に奥義を叩き込んで決着がついたと思っていたのか、驚きの表情を隠さない女性がいた。

「ば、馬鹿な!? 完全に私の奥義はお前の体を確実に捕え、完全に貫き通したはず! なのになぜ立てる!? ならば、次こそ確実に止めを……」

 再び背中の鞘に納めた大太刀を構える女性。だが、こちらも最後の切り札を切る。体の中に何か熱いものを感じる。ああそうだ、これぐらい心が燃え上っていた方が完全な全力を出せるはずだ!

「悪いが、ここからはこちらの番だ! うぅおおおおおおおおおおっっ!! 変っ身っっ!!」

 ガチン! と自分の中のリミッターを解除するような感覚で《黄龍変化》を起動する。自分の体は金色の光に包まれ、外套などは強制解除されてゆく。髪は伸び、手などに金色の鱗が現れる。そうして数秒後、自分の体は金色の光を放つ龍の人型のような姿に変わっていた。変身を完了したことでHPがかなりの速度で回復してゆく事で体を持ち直す。

「な!? その姿は黄龍様のお姿では!? いや、黄龍様が引退して跡継ぎに託したという話は主からも聞いたことがない! お前は何者なのだ!?」

 ──む、このダンジョンマスターであるミミックの長女は黄龍様のことを知っているのか。だが、それをいちいち教える必要はないか。面倒くさいし、そもそもこの変身は二分しか持たない短期決戦仕様なんだからな。

「あいにくだが、その質問には答えられん。行くぞ!」

 一気に走り寄って距離を詰め、右の拳を女性に向かって突き出す。一瞬呆けた表情を見せた女性だったが、すかさず自分が突き出した右手を狙って太太刀を振りかざして来た。ここに、正拳突きと大太刀のつばぜり合いの様なものが発生した。

 だが、ボス相手と言えど黄龍の力はそれを上回る。何せ以前にはでかいワームの様なボスをアッパーで僅かながら宙に浮かせたこともあるのだから。

 力で押し勝った自分の右手は、遠慮なく女性の顔面をとらえた。普通に殴るよりも力の比べ合い状態になっていた状態から繰り出された一撃なので、かなりのパワーが蓄積されていたようだ。

 自分の一撃を受けた女性は、先ほど女性の奥義を受けた自分のように吹き飛ばされた後にバウンドし、転がってようやく止まる。手応えは十分すぎるほどに感じていた。

「そんな……た、たった一発の攻撃でこれ程までに……!? 先程までの攻撃とは質が違い過ぎる……!!」

 女性はすぐに立ち上がったが、少しよろけた。効いている、効いているという事を隠し切れないぐらい大きく効いている。《黄龍変化》では特殊な技が使えるようになるが、一回使うごとに変身時間を3秒ずつ削られる。できる限り頼らずに決めてしまいたいので、最初の正拳突きがここまで効いてくれたことはかなりありがたい。

「呆けている時間はないぞ!」

 女性にそう叫びつつ、自分は再び拳を振るう。この呆けている時間がないのは自分も一緒だ。いい攻撃が入ったからといって、もたもたしている時間はない。一気に攻めて一気に倒す、それしかできない変身なのだから。

 右、左、右、左と交互にパンチを振るう自分。今はビッグパンチのような大きな一発はいらない、素早い目の前にいる女性を捕えるには細かいパンチで少しずつ確実にとらえる方がいい。なにせ女性は回避に専念しており、黄龍状態の自分でもなかなかとらえることができないからだ。チッ、チッと攻撃が女性の体を時々かすってはいるが。

「何て事だ……直撃を受けたらひとたまりもないぞ……」

 女性は女性でかなり焦りが出てきているようだ。だからといってここで大振りな一撃は打たないがな。この焦りがブラフの可能性もある。調子に乗って大振りの一撃を出したら、そこからスッと持ち前の素早さを生かして逃げていくかもしれない。変身時間に余裕はないが、ここはコツコツと細かいパンチで刻んでプレッシャーを与えてゆく。

 この戦いに勝つためには、変身が切れる前に決め手となる大きな一撃をいつかは打たねばならないだろうが、それにはまだ早い。

(その時は必ず来るはずだ。焦るな!)

 拳を振るいながら、自分自身に言い聞かせる。勝つためには心は熱く、しかし頭は冷たくないといけないからな。残り1分26秒で決めなくてはいけないが、勝負どころを見誤らぬように頭脳は冷静な状態を保たねば。
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スキル

風迅狩弓Lv29 剛蹴(エルフ流・一人前)Lv37 百里眼Lv28 技量の指Lv31 小盾Lv28 隠蔽・改Lv1 武術身体能力強化Lv64 スネークソードLv49 義賊頭Lv26 妖精招来Lv12 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身Lv1.68 ↑UP

控えスキル

木工の経験者Lv1 上級薬剤Lv23  釣り LOST!  料理の経験者Lv16 鍛冶の経験者LV28 人魚泳法Lv9 

ExP 17

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人
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