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連載

ボス戦終了

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 砂時計の落ちる砂のように、変身時間が一秒一秒とすり減っていく。だが、それでも自分はコツコツと細かいパンチを積み重ね、時々不意打ち気味にローキックを繰り出す。

 さすがにこれだけ多くのパンチを繰り出せば、数発ほど女性の顔や体を捉えている。もちろん細かいパンチだからダメージはそれほどでもないだろうが、確実に相手の回避能力に対してこちらが追い付いてきていることの方が重要だ。

(変身可能な時間も残り一分を切ったか、こっちもあまり余裕がないが……)

 自分にとっての最大の誤算は、妖精の連携による大爆発で女性が自分の力を認めてくれなかったことにある。今回の試験は『倒す』ことが目的ではなく『認めさせる』ことが試験の内容のはず。だからああいう手段も取れる能力もあるというものを見せれば、それなりにやるんだなという事で認めて貰えると踏んだのだが……残念ながらそうはならなかった。

(結局認めさせるってのは、この女性を倒すという事になるのか?)

 5発中1発の割合で女性の体を捉えるようになったパンチを繰り出しつつ、考えをめぐらす。目の前の女性に、ここを通してもらうためにはどのように認められれば良いのかと。時間は残り少ないが、だからといってただがむしゃらに戦えばいいという訳でもない。

「ぐぅ、避けきれん! ならばここからは相打ち覚悟に転じるのみ!」

 そう女性は宣言し、言葉通りにクロスカウンター(双方パンチを食らうバージョン)を行ってきた。だが、黄龍と化している自分にとっては大した打撃力にはなっておらず、逆に女性にとってはこちらのパンチがクリーンヒットしたためにダメージはそれなりに受けたようだ。だが、楽観はできない。窮地に陥った相手が特攻の精神を見せ始めると思いもよらぬ結果をはじき出すことがある。

「ならばこちらも、ここからは全力の拳で応える!」

 今までの細かい手数重視のパンチから、一発重視のパンチに切り替える。もちろんただ打っても当らないので、フェイントを混ぜ込みつつであるが。そして再び相打ち。双方のパンチが双方の顔に突き刺さる。

 自分はややのけぞった程度だが、女性側は吹き飛ばされた。黄龍変化によるパワーの差が出た形だ。再びバウンドしながら転がっていく女性。だが……妙に手ごたえがなかったぞ?

「これで間合いは作れた。もう一度私の奥義を受けてみよ!」

 成程、わざとぶっ飛ばされたのか。通りで手ごたえがないわけだ。こちらが向こうのスピードに慣れると同時に、向こうもこちらのパンチスピードに目を慣らしていたんだな。

 そして相打ち覚悟を宣言してこちらの意識を操作し、まず最初は宣言通りの行動をとる。その次に相手のパワーを利用してわざとぶっ飛ばされることで間合いを作り、奥義を撃つ、か。だが、もう一回あれを食らうつもりはない。こちらにとってもチャンスがやってきた。

「受けよ、《紅散華》!」
「《虎龍脚》!」

 女性の奥義が発動する前に、黄龍変化時のみ使えるアーツの一つである高速接近技の《虎龍脚》を使用。一気に女性の右斜め後ろまで移動する。おそらくここが最初で最後の大技を叩き込めるチャンスだ。

 全力の手刀攻撃を女性の右肩に遠慮することなく叩き込む。ここで女性も自分の右斜め後ろに自分がいると気が付いたようだが、もう遅い。手刀攻撃によって女性は大太刀を手放してしまった様で、ガシャンと音を立てて大太刀が地面に転がる。アーツも不発となり、花の幻影も消失した。

「これにて幕とさせてもらおう。《雀龍炎》!」

 動きを完全に止めた女性の首を右手でつかみ取り、黄龍変化時のみ打てるアーツである《雀龍炎》を発動する。自分の手からあふれ出る龍の炎は掴まれて逃げられない女性を容赦なく丸焼きにする。そして《雀龍炎》が収まると、さすがにボスである女性も満身創痍となっていた。もう十分なはずだ。

「まだ、足りないか? まだ自分を認めるには値しないと言うのか? さすがにもう十分だと思うが」

 ボロボロの女性の首を掴んでそう尋ねる自分は、完全に他の人から見たら悪党の姿だろう。でも、この女性が強いのだから仕方がない状況と割り切っておく。とにかくこの女性の口から『認める』の一言を宣言されない限り、今は戦うしかないのだから。

 変身の残り時間はあと17秒しかない。ここまでやっても認めて貰えないのであれば、こちらとしてもそれなりの行動をしなければならない。そんな考えをまとめているところに、第三者の声がどこからか聞こえてきた。

「はいはい、そこまで。この子の首を放してあげて。このダンジョンのマスターであるミークの名において、アース様と対話を行う事を約束します」

 声の質は大体20代後半の女性だろうか? とりあえず自分は認められたようなので、女性の首から手を放して解放して変身を急いで解く。直後に変身可能までの時間を確認すると、6日に加えて10時間となっていた。

 これは、完全に変身時間を使い切ったわけではなかったので、僅かに再変身が出来るようになるまでの必要な時間が軽減されたのだろう。

 炎で燃やされた女性はしゃがみ込んで荒い息を吐いている。そんな女性に向けて、ダンジョンマスターであるミークさんからの叱責が飛んできていた。

「貴女ね、自分の仕事を忘れてたでしょ? アースさんが私に悪意を持っているかどうかは妹二人への対応でほぼ無い事は解っていたはずでしょ? そして強さを図るにしても、妖精を召還してあの大爆発を起こして大ダメージを与えてきた時点で認めるという意味では十分でしょうに。ダンジョンの管理のために少し席を外していたのが不味かったわね……貴女にはお仕置きをするから、覚悟しなさい」

 そのミークさんの宣言が行われた直後に、女性は突如現れた穴の中に重力に従って落ちていった。その後に再びミークさんの声が聞こえてきた。

「今回は試験を試験官が正しく行わなかったことに対し、深く謝罪いたします。エレベーターはもう起動しておりますので、どうぞお乗りください。話の続きは私の個室にて、妹たちを交えて行いたいと思いますので」

 なんだかなぁ。変なところまで人間臭いな。あの女性も戦っているうちに楽しくなってきてしまって、試験のことをすぽーんと忘れてしまっていたとかいう落ちじゃないだろうな? それはゲーム的にはダメだろ……ワンモアの世界の住人という考えならまだ理解しなくもないが。仕方ない、時計の針を巻き戻すことはできないのだから、あの女性に対するお仕置きの内容で妥協するしかないな。

 今回の戦いで一番痛いのは黄龍を使ってしまったことだ。厄介ごとが待っている獣人連合の開放が一週間以内に迫ってきているというのに、黄龍が使えない状態というのはな。

 とはいえ、あそこで黄龍変化を発動しなかったらここまでの道のりをやり直すことになっていたし、今回の様な強力な助っ人と一緒になれるかどうかも左右される。今回のようにMPを温存してここまでくることができる可能性はかなり低いと見た方が良い。

 とりあえず、今は目の前のことを片づけよう。このダンジョンに潜り続けた最大の目的である『このダンジョンが大きく変貌した理由』を聞き出し、妖精国のダンジョン担当者に報告することが漸くできるのだから。

 動き出したエレベーターの中で、今回の戦いを振り返る。相手の事前情報を全く得てなかったという事を考慮しても、戦略、戦術どちらの面においても自分の負けだろうな。

 一番のメインウェポンである弓を使えないというだけでここまで追い込まれ、まだ未識別だったドラゴンスケイルの特殊能力の1つに助けられるという幸運に恵まれなければ、今頃は死亡による強制帰還を受けていた。戦っているときはテンションの高さで変身して押し切れたが、ふり帰ってみれば良い戦いとは言えないな。

 今後は今回の様なゼロに近いレンジでも弓を使えるように訓練しておいた方がいいか。獣人連合への門が開くまでの間、近距離戦闘でも弓矢を扱えるように猛特訓すべきだな。惑や蹴りという攻撃手段はあるが、やっぱり自分にとってのメインウェポンは弓だ。弓が使えないだけで戦力の低下がひどすぎる。

 それに加えて道具の方も問題だな。もっと簡単に取り出せてけん制や時間稼ぎができるような手段を考えなければいけない。窒息草の入手が安定しないからデスポーションの方は考えないにしても、強化オイルのバリエーションは考えなければいけないだろう。今回のように懐に手を突っ込む時間すらないほどに追い込まれても、問題なく扱えるような新しい手段を生み出さないと。

 改善すべき点はいくつも上がってきたが、そのどれにもすぐさま行えそうな対策がない。とりあえず弓の扱いだけはそれなりのモンスターを相手に近距離戦闘で少しずつ馴らすようにするぐらいか。固定PTを組んでいないのだから、どのような状況になっても対応しないといけないし、その幅を広げることは間違いなく強くなれるはずだ。

 とにかく後ろ向きに考えていても仕方がない、今回のことを教訓の一つとして、これからしっかりと前に進むことを考えよう。その方がはるかに建設的なのだから。
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スキル

風迅狩弓Lv29 剛蹴(エルフ流・一人前)Lv37 百里眼Lv28 技量の指Lv31 小盾Lv28 隠蔽・改Lv1 武術身体能力強化Lv64 スネークソードLv49 義賊頭Lv26 妖精招来Lv12 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身Lv1.76 ↑UP

控えスキル

木工の経験者Lv1 上級薬剤Lv23  釣り LOST!  料理の経験者Lv16 鍛冶の経験者LV28 人魚泳法Lv9 

ExP 17

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人
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