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連載

対話

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「では、質問と言うにはちょっと微妙かも知れませんが数点。まず一つ目ですが、今後このダンジョンはより拡張していくのでしょうか?」

 この質問は、今後も拡張していくのだからダンジョンマスターには手を出すなと言う事を言えるようになるからだ。こうやって話し合えるのであれば、モンスターとかなんとかは関係なく付き合いを持ちたいからな。

 それにこのダンジョンはこの世界には非常に珍しい『人が死なないダンジョン』だ。訓練場としての価値も非常に高いから、潰すつもりは妖精国にもない、と思う。

「もちろん拡張しますよ。むしろ地下30階までは練習区域だと思っていただきたいです。一部の人には開放していますが、武具やアイテムを一切持ち込めず中で手に入るものでやりくりを強いるダンジョンや、アース様が体験した時間制限付きダンジョンも、いつかは誰でも挑めるようにします。また、地下30階以降のダンジョンも制作していく予定です」

 なるほど。これはきちんと報告しておかないといけないな。それに、このダンジョンがあれば妖精国に来る人は多いだろう。外貨獲得というわけじゃなくても、人が来れば活気が生まれてお金が落ちる。それだけでも妖精国にとっては美味しい施設となるな。ダンジョンの外見も悪くないし。

「では二つ目。と言うかこれはあなたの妹さんの要請なんですが、このダンジョンに食べ物を捧げるとかの場所を作ることはしないのですか?」

 この質問に、ミークさんは苦笑した。

「あの子は……あなたに作っていただいた食事がよほど気に入ったようですね。私のダンジョンマスターとしての能力は、特に食料という面ではあまり発揮できず、水とか肉をただ焼いたものとかのレベルですからね……そもそも私たちは食事を必要としませんし、嗜好品という意味でも料理には興味がなかったのですが……ダンジョン管理を手伝ってもらっている妹にへそを曲げられると困りますし、入り口に食べ物を捧げた人には相応の対価が出てくる宝箱でも設置しようと思っています」

 自分の理想だけを追い求めて、ダンジョン管理が回らなくなったら元も子もありませんから、とミークさん。良かったな、ミーツさん。これであなたも料理を口にできるよ。

「あとは聞いておきたい事は何かあったかな……」

 とりあえず最低限聞いておくべきことは確認が取れたので、ここからはせっかくなので滅多に聞けないことを聞き出そうと考えたのだが……ポンと浮かんでこないのだ。いくつか聞こうかなと思っていたことの大半が、地下29階の戦闘で頭の中から綺麗に吹っ飛んでいったらしい。

「それにしても、アースさんは変わっていますね。一応ですけど、私はこんな姿をしていますがミミックですよ? そしてダンジョンのボスでもあるダンジョンマスターなんですよ? そんな私の前にいるのに、完全に武器を解除しているとは……」

 ミークさんからの問いかけに、自分は今までの経験から来る答えを返す。

「そうは言いますけど、貴女は全く殺気をぶつけてこないじゃないですか。第一人を殺すのをためらうモンスターなんてそうそう居るもんじゃない。そしてさらにはこうやって対話に応じてくれる。だったら話をした方がいいし、殺意がない相手をむやみやたらと傷つけて殺意を生み出す方がよっぽど無意味な行動ですし」

 フィールドにいるモンスター達は殺気の様なものこちらに向けてくるし、こちらを見つけたら一目散に殺しに来るから戦うのにためらいはないが。そして言葉が通じたとしても「こんにちは、ご機嫌いかがですか? じゃあ死んで」とか言ってくる相手ならもちろん戦うに決まっている。

「そういった考えも広まっているんでしょうか? 私達の時代では魔物を見つけたら問答無用で殺せ! という雰囲気だったのですが」

 ──あー、そう言われれば。昔のゲームって大半がそんな感じだよね……今もか。だが、そのモンスターの中にも個性や自分の意思を持ち始め、人側と仲良くしたいとか一緒に生活するとかの形が生まれ始めてきた。

 さらには目の前にいるミークさんのようなモンスターとしての能力や外見の一部を持ちつつも、人型の姿を取るようになる存在もかなり多く現れて来ているからなぁ。そうなるともう倒す存在と言うより可愛い隣人? のような感じになってくる。

「広まっているかどうかは解りませんが、少なくとも話し合いができるのであれば話そうという人は結構多いと思います」

 ワンモアだと、人魚とかサハギン村がそれに該当しているかな。まあ、人魚は美人ぞろいだし、サハギンの村にいるサハギン達も好戦的ではなかったのが大きいのかも知れないけど。

「そうなのですか。ではそのうちに、もっと話し合えるような場を設けられるような日が来ると嬉しいですね」

 正体がミミックってことを言わなきゃ、普通に美人なお姫様にしか見えないミークさんなんだが。あ、そういえば。

「ミークさんって、専用の宝箱をもっているんですか? ミミックですし」

 自分の追加質問に、ミークさんは初めて妖艶な笑みを浮かべてこう言った。

「あら? お気づきになりませんでしたか? アース様が入ってきたこの家を中心とした世界自体が私の箱の中なんですよ? うふふ」

 ──それはまた、スケールのおっきい宝箱ですね。つまりミークさんは始めから宝箱の中にいて、自分はそこにホイホイ入り込んだだけか。そしてあの笑み……こちらがおかしな行動を取ったら、私の領域なのですからどうにでもできますよと言う脅し? も兼ねているのかもしれない。まあ、それは自分が変な行動をしなければ別に問題はないだろうけど。

「ちなみに、昔の私が入っていた宝箱も保存してあるのですが、ご覧になりますか?」

 このミークさんから申し出に対して是非と答えた処、ミークさんは古ぼけたクラシックな宝箱をだしてきた。箱の大半が木でできており、金属で部分部分が補強されているだけの簡素な宝箱。

「過去の私を忘れないように保管しているんです。今はダンジョンマスターになりましたが、驕り高ぶらないように、と」

 そういう人はリアルでもいるな。小学校の時に習いに行っていた書道の先生が初めて使った筆を保管しており、初心忘れるべからずと言い聞かせているなんて話を聞いたこともあったし。

「ぜひそうしてください。このダンジョンが潰れるような事になるなんて結末にならないように」

 調査が終われば、もっと多くの駆け出し冒険者などがこのダンジョンを訪れるはず。ミークさんが今の心構えのままでいてくれれば、やってきた冒険者たちにとっての血肉となるだろう。そうすれば、冒険者側とダンジョン側の共存共栄が図れるはずだ。もちろん本当に冒険者が入らなければダンジョンが潰れてしまうという話はちょっと信じられないが、もしそれが本当ならば極端に敵対するような行動はとらない、か?

「とりあえず、お話は大体わかりました。ここの調査を依頼してきている妖精国のお偉いさんには、ここで聞いた話を踏まえて報告させていただきます」

 目標達成、だな。あとは報告をしたらこのダンジョンを立ち去ろう。残りの時間は獣人連合が解放されるまで特訓に充てることにするか。今回の反省点を踏まえて戦闘スタイルを改善しないといけない。

「その様にして頂けると幸いでございます。それから……来なさい!」

 ミークさんの呼び出しを受けて、メイド服を着た浪人風女性が再び部屋にやってくる。なんだろ?

「この子、欲しいですか? もし欲しいのであれば、外で活動できるように能力を大幅に落とさねばなりませんが、同行させることも可能です。如何いたしましょうか?」

 それは却下だ。連れて行ったら絶対トラブルを運んでくる。それに、こちらが今回の一件を報告をする時に嘘を言うかどうかの見張り役ような気もしてくるから断っておこう。

「いきなり大太刀を振り下ろされても困りますので、辞退いたします。先ほどおっしゃった料理を捧げる宝箱の案内役にしてみてはいかがでしょうか?」

 この提案にミークさんは「それが良いかもしれませんね」と頷く。どうやらこっちが少し勘ぐった事に気が付かなかったか、もしくは見て見ぬふりをしたか、って感じかな?

「ま、待ってくださいご主人様! こ、この服を着用したままですか!?」

 女性の悲鳴に近い言葉での確認だが、当然そうだろうなーと自分は予想。そして当然ながら……ミークさんは自分の予想通りの言葉を発した。

「当たり前ですよ。そうでなければあなたへの罰になりませんから。いい加減今回をきっかけにして戦いだけの脳筋状態から抜け出しなさい」

 と、ミークさんから飛ぶ一刀両断にするようなお言葉。こちらに向かって子犬の様な目を向けてくる女性だが、当然自分はスルー。そんな女性の罰要素が追加されたところで話し合いは終わり、しばらくたわいない雑談で盛り上がった。途中から、ミーツさんにククさんまでやってきたので少々やかましかったが。

 今回の話はしくじったら色々と危険な事態を引き起こす可能性があったわけだが、幸いにしてその事態は回避されたようだ。それなりに生きてきたために積み重なっていた経験が悪さをして、あれこれと最悪なケースを頭の中で予想していたが、そうはならずに済んだことに内心でほっとしていた。
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今日は1時間半しか時間がなかったので、かなり慌てて書きました。
誤字修正は夜になると思います。
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