トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
91 / 389
連載

報告会

しおりを挟む

【アース、やっと地上に戻ってきたな。こっちは打ち上げを先に始めさせてもらってるぜ。場所はこの宿屋の一回の酒場だ。話も聞きたいから来てくれよ!】

 そんな感じでツヴァイに教えてもらった宿屋に到着すると、PTメンバーの4人は雑談で盛り上がっていた。自分がやってきた事にあちらも気が付いたようで、こっちだこっちとツヴァイが手招きしてくれる。手招きされたテーブル席に着くと、飲み物と食べ物が前に置かれた。前もって注文をしておいてくれたらしい。

「まずはお疲れだぜ、アース。そっちも上手く行ったようだな」

 ツヴァイからの労いに、ああ、協力してくれてありがとうとお礼を言っておく。

「裏ボスを一人でよく粘りきったな。アース、アレは使ったのか?」

 グラッドの質問の"アレ"とは、黄龍変化の事だろうな。一回グラッドの前でも使っているから覚えているのだろう。この質問に対して自分は頷いた。これは知られている事からくる当然の予想だし、グラッドは他人にあれこれ言いふらすようなタイプではないから認めても問題ない。

 逆にぺらぺらと話すタイプだったら絶対認めないけどな。初めての妖精国の中に入った時のように、質問のウィスパーやメールがわんさかやってきてこっちの世界の旅を満喫できなくなったら困るし。

「あとは報告するだけ〜って言ってたよね?」

 ライナさんの質問にも頷いてから返答する。あとは妖精のダンジョン管理者に会わせて貰って、あのダンジョンの細かい報告をすれば完了だ。もうダンジョンの中に入る必要はない。

「質問していいですか? ダンジョンマスターってどんな感じの存在だったんですか? あの妹さんみたいな感じ?」

 エミューさんからの質問に少し頭を悩ます。余りぺらぺらとこんなに人の大勢いるところで話すと、いろいろ面倒なことになりそうだ。それに、せっかく苦労して得てきた情報を聞かれてしまい、報告による貢献を横取りされてはたまらない。

【その話はPTチャットでしていいかな? 周りに人がいて、だれが聞き耳立てているかわからないからな。せっかくここにいるメンバーに手伝ってもらって到達したというのに、聞き耳立てられて情報を盗み聞きされた上に報告までされたらたまったものじゃないし】

 自分の要請に、メンバー全員が了承してくれた。さすがに盗み聞きされて、苦労をしていない人が貴重な情報を持っていくというのは誰もが嫌がった。つい興味から口走ってしまったエミューさんは申し訳なさそうにしている。

【で、どうだったよ? 美人だったのか? ここで話をしているときにもライナさんやエミューさんから人型のミミックがいるって話が出て、興味津々だったんだが】

 ツヴァイ、またハーレム拡張するのか? とか言われてしまうぞ? お前の周りには十分すぎるほど綺麗な女性がいるだろうに。

【そうだな、どこぞのお姫様と言っていいぐらいドレスが似合う美人だったな。だが、ちょっと怖い部分もちらほらとあったけど】

 ちょっと怖い部分もあった、と言う自分の言葉に他のメンバー4人が頭に?マークを浮かべた。

【なに? 何か問題があったの?】

 いぶかしむライナさん。このメンバーなら情報の持ち逃げはしないかと自分は考え、話の内容を大雑把に伝える。そしてその話から自分が少々あれこれと最悪のパターンをいくつか考えていたことも付け加えておいた。

【アース、さすがにそれは考え過ぎだろう。 万が一アースの予想が当たっていたとしても、人に悪意を持っている相手ならこんな人が死なないダンジョンなんて物を作るとは思えんぞ】

 とはグラッドの意見。まあ、こちらとしても自分の考え過ぎで笑われるだけで済む、そうであって欲しいんだが。

【とはいえ、その万が一の可能性をきれいさっぱり捨てることは出来なかった。クィーンと戦闘をした時なんかは、巻き込まれても被害は自分だけだったからまあ良いとしても……さすがに他の不特定多数の人を巻き込んでしまう可能性が頭に浮かんできてしまったからなぁ。結果的にはこっちの考え過ぎで済んだが】

 この世界はもうりっぱな一つの世界だ。その世界でほかの人を巻き込む可能性があるのなら、巻き込まずに済むように立ち回らないと。最悪あそこの話し合いで下手を打って、ダンジョンに挑んでいるこちらの世界で生きている人達を死亡させてしまったら詫びようがない。

 そう、エルの時のように、こちらの世界で生きている人たちの命はリアルと一緒で取り返しがつかないのだから。

【さすがにそれはアースさんの考え過ぎだとは思いますが、万が一を考えておくという所は私個人の意見では賛成ですね。ましてや相手がダンジョンマスターなのですから、何が起こっても不思議ではありませんし。実際私達4人は、何の抵抗もできずに宝物庫に送られてしまったじゃないですか。相手のテリトリーなんですから、アースさんがあれこれ考えてしまうのも仕方ないと思います】

 エミューさんが自分のフォローをしてくれた。まあそうだな、どちらのテリトリーでもない場所なら、余計な事を考えずに話ができたかもしれない。

 もしくは、しくじっても被害に遭うのが自分ひとりだけで済むとかだったら、もっと気軽になれたかもな。ダンジョンマスターが悪いとかいう問題ではなく、そう自分が一方的に勘ぐってしまっただけなんだが。

【まあまあ、それぐらいでいいだろ? アース、話し合い自体は上手く行ったんだろ?】

 ツヴァイからの言葉に自分は頷きつつ、話し合いは無事に終わった事を念押しするためにもう一度伝える。

【ならそれでいいんじゃないか? 結果よければすべてよしって言葉もあるしな。ギルドの揉め事だって話し合ったり仕方ないときはPvPしたりとか解決するための方法はいろいろあるけどよ、結果として纏まればそれで良いんだしな】

 ああ、なるほど。ギルドマスターならではの考えだな。ハーレムギルドなんて言われているツヴァイのブルーカラーだが、人数もかなり増えてきている以上、内部の揉め事も大なり小なりあるはずだ。

 それでもギルドが崩壊せずにきちんと纏まっているのはツヴァイの手腕がそれなりにあるからだろう。どんな世界だって、嫌な奴についていく人はまずいない。止む無くついて行くとすれば、会社とかの団体の所属しているとか金などの収入が良いからだとかになってくる。

【そうね、無事に終わったんだし打ち上げを続けましょうか。そろそろこの話し方をやめて普通に話しましょ】

 ダンジョンの話が終われば、PTチャットを続ける理由もないからな。ライナさんの呼びかけに応じてPTチャットは全員が終了させた。

「さて、私がここにいられる日数は残り少なかったけど、心残りがなくなったことも確認できたから安心してダークエルフの谷に帰れるわ」

 ああ、そうだったな。ライナさんはそろそろ帰らなきゃいけないって言っていたもんな。

「私もここのダンジョン内で良い経験を積めたので、いったん魔族領の方に帰ろうと思います。加えて私に手紙が届きまして、そろそろ今までの成果を見せろと魔曲の師匠も言ってきましたから」

 エミューさんも魔族の人達の領域に帰るのか。もうこうして直接会うことは無いかもしれないな。

「なので、帰る前に軽く歌でも歌っていこうと思うの。エミュー、協力お願いね」

 ライナさんはそう言いながら小さなハープを取り出す。エミューさんもハープボウを構え、2人は曲を奏で始めた。その曲にのせて、ライナさんが歌いだす。


 今日で貴方と別れるけれど この出会いは嬉しかった

 共に歩き 共に笑い 共に戦い 私達は友となった

 時が流れて岩が砂になり 見分けがつかなくなるほどの長い時が流れたとしても

 この日まで共に歩んだ日々が消えることは決して無い

 明日からはまた一人となるけれど 心まで一人になることは無い

 だからいつか来る再会の日を楽しみにして 今は笑顔で「またね」と言葉を交わしましょう

 そこに涙はいらない これが永久の別れではないのだから

 そこには笑顔だけがあればいい どれだけ離れようと友の絆は揺るがないと 私は信じているから


 私は今日の事を幾度となく思い出すでしょう 友と呼べる人はそう多くないから

 上辺だけの付き合いじゃない 嫌な事にも向き合って 一緒に歩んできたのだから

 だから貴方も忘れないで 今日という日の事を

 笑い 怒って いろんなことに巻き込まれて それでも一緒に歩いてきた日々を

 そしていつか また会えた時にたくさんのお話をしましょう

 それは近い未来か 遠い未来なのか 今は分からないけれど

 そして再び出会う日が来たときに 貴方の笑顔を私にください

 その友の笑顔に見合うだけのお話と 私の笑顔を用意しておくから


「──っと、お粗末さまでした」

 歌い終えたライナさんがぺこりと頭を下げる。こうしてダンジョン攻略を終えたことで、ライナさんとエミューさんで組んでいたPTは解散。自分は再びソロ活動に戻ったのである。
************************************************
曲は直感で適当です。歌いにくいとかは無視してください(汗)。
しおりを挟む