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報告し、ダンジョンを後にする

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 翌日仕事を終えてワンモアへログインすると、宿屋の主人からお連れさんは帰ったよと教えられた。連れとはライナさんの事だろうから、特に問題はない。昨日のうちに帰ると教えてもらっていたからな。

 とはいえ最後のあいさつができない代わりに、宿屋の主人に一言残していった処は好感が持てる。その一言は、『いつかまた会いましょう』と言うシンプルなものだった。

 自分も宿屋を引き払って部屋を開ける。部屋の代金を宿屋の主人に渡してしばらく世話になった宿を後にして、ダンジョン管理を行っている妖精の元へと向かう。この報告をすれば、ここに居続ける理由はもうない。

 受付に到着し、ダンジョンに関連する報告を行いたいと伝えた所、すぐさま奥の部屋へと通された。そして数分待つことしばし、クィーンの側近の一人で光属性の妖精が、数人の補佐をすると思われる妖精達を率いて部屋にやってきた。

「報告があると聞いて急いでやってきましたが、まさかアース様だとは」

 驚いた様子の光属性の妖精だが(そういえば、名前を教えてもらっていないな)、とりあえず話を伺いましょうと切り出してきた。

「では、報告を行わせていただきます。ですがどうしてもある程度の主観が入ります事をご了承ください。ではまず……」

 ダンジョンの中の様子に始まり、戦ったモンスター、罠の内容などは軽く報告する程度にする。この辺の情報はすでに何度も報告されているという事だったので、確認程度の考えだろう。

「そして、次が肝心なのですが、ここのダンジョンのダンジョンマスターに関する話で……」

 ミミック3姉妹の存在、ダンジョンが変貌を遂げた理由、ダンジョンマスターと話し合った内容、今後のダンジョンにおけるダンジョンマスターの予定などをできるだけ詳しく報告する。また、ダンジョンマスターの言葉だけは覚えている限り忠実に、自分の考えを一切加えずに報告した。

「──そうですか。ダンジョンに人が来なくなると崩壊するというのは、こちらの研究者からの発表でも仮説としてはありましたが……」

 何度も確認を重ねたうえで慎重に報告を吟味していく妖精側。記録係もかなり大変そうだが、そこは頑張ってもらいたい。妖精側からもいくつかの質問が出て、それに自分がダンジョンで経験したことをもとに返答していく。

 それとは別に、ミーツさんのために料理を提供するための入れる専用の宝箱の件は、忘れずにしっかりと妖精側に報告しておいた。

「しかし、やはり一番気になることは……人が死なないこのダンジョンを、魔物が何かしらの実験場にしているのではないか? という疑惑がまだ晴れないことですね……これからはこちらから何度か使者を送って、何とかダンジョンマスターと接触し、より多くの対話を行う必要がありますね」

 クィーンの側近を始めたとした妖精の質問で一番多いのはこの質問だった。何かしらの実験場はなかったのか? とか、何かを企んでいる雰囲気がわずかでもあったか? と繰り返し質問を受けた。

 今更ではあるが、本来のダンジョンはモンスターと財宝が存在し、一攫千金と命のやり取りが行われることが本来の姿である。一攫千金や修行の場などを求めて人はダンジョンに入り、宝箱の中にある財宝や、モンスターとの死闘を繰り広げるのである。そしてもちろん、ダンジョン内で負ければ死を迎える事が当然であり、自分の命を対価として大きな物を得る可能性に賭けているのである。

 だからこそこのダンジョンは異様なのだ。ダンジョンの形が一定しないというのはまだ分かる。そういったダンジョンが今までに無かったわけではない。だが、モンスターと戦って力尽きたり、罠にかかって致命傷を受けたのに死なずに帰還できるダンジョンなんてものは聞いたことがない。

 地上だってモンスターとの戦いに敗れれば死ぬというのに、もっと危険な場所であるはずのダンジョンで死なないというのは不気味だ。というのが自分の報告を聞いている妖精の皆さんからの意見だ。

「まあ、そのお言葉は自分も十分理解できます。ダンジョンに挑んで戦って、負けても何のリスクも無しに地上へと帰ってこれるというのは普通じゃありえませんからね。とはいえ、ここのダンジョンマスターと諍いを起こすのはあまり得策ではないかと。敵意はありませんでしたし、自分を少し脅すような言動を取ったのは、あちら側としても変な嘘をつく人をメッセンジャーにしたくはないと言う意味も込めていたのでしょう」

 ダンジョン内では警戒していたが、こうやって報告するときになれば向こう側も必死な面があったという事は理解できる。せっかくダンジョンに人がやってくるようになったのに、ここで変な事を地上にいる人に吹き込まれて人がやってこなくなれば、ダンジョンマスターにとって死活問題だ。あの時の自分はあまり余裕がなかったが、それはダンジョンマスターの方も大差なかったのかも知れない。

「うーむ、とにかく今回だけではなく、今後も対話を重ねて共にやっていく道を探っていくしかなさそうですね。とはいえ、ダンジョンマスターが生まれた理由や、その姉妹に関する情報はとても有益でした。彼女達とは戦わぬように指示を出していくことにしましょう。名前の確認ですが、長女でダンジョンマスターのミーク、次女のミーツ、三女のククで間違いはありませんね?」

 クィーンの側近からの最終確認に、自分も間違いありませんとうなずいた。特に次女と三女の2人はこちらに怯えている部分がかなりあった。体こそ人型となったようだが、力の方は強くなった訳ではないと言っていた。

 でもまあ、幸い人型で愛くるしい姿に変わっている以上、一方的な戦意を持たれる可能性は下がっているだろう。そのかわいらしさにお持ち帰りしたいとか考えるやつがいなければ、だが。

「今回はご協力いただき、ありがとうございました。また何か新しい情報を手に入れられたときはよろしくお願いします。また今回の情報提供報酬に関しては、後ほど支払われる形になります」

 そういわれて妖精の皆さんに頭を下げられるが、しばらくこのダンジョンに自分が入ることは無いんだけどな。と心の中だけで返答する。とりあえず妖精の方も一定の情報は手に入れる事ができたんだし、ある程度の事が事前に分かっていれば、次の人はもっと対話がやりやすくなるだろう。自分の時の様な変な疑いの思考を持って挑まなければならない部分もある程度は減るだろうし。

「はい、報告すべきことがあれば、また」

 妖精の皆さんに返答を返しつつ、これでひとまずここでやるべき事は終わったなーと安堵の息を吐く自分。頭を下げて部屋を後にする。得た情報から今後どうしていくのかは妖精さん達の仕事だ。出来れば、このダンジョンのマスターとは仲良くやってほしい。いろいろ考えたせいで自分にはあまり仲良くは出来なかったが。

 ダンジョンを中心とした街に別れを告げて、北の砦街へと進路を向ける自分。今日で妖精国を後にして、獣人連合が実装された時には素早くそちらに出発できるようにサーズの街に入っておかなければいけない。

 獣人連合のある場所はサーズの北西、つまりエルフ達の森の北側になるらしいからな。今後の予定を考えつつ、弓、蹴り、スネーク・ソードからなる自己流のバトルスタイルを練り直す必要もある。そうなると、やっぱり一人では辛いな……協力してくれる人が欲しい。

(んー……こういう時は素直に他の人を頼る事にしようか。今あいつは話が出来るかな……?)

 ウィスパーチャットを起動し、目的の人物に向けてコールする。目的の人物はすぐに呼び出しに応じてくれた。

【アース、どうした? そっちからウィスパーを送ってくるなんて珍しいな! 明日は槍でも降るんじゃないだろうな?】

 ウィスパーを送った相手であるツヴァイは、そんなことを言ってくる。まあ確かにこちらからこうやってウィスパーチャットで呼びかけること自体まれだったからなあ、そう言われても仕方がないな。

【あー、まあそうだなぁ。それはいったん置いといて、ちょっとそちらのメンバーに力を借りたいんだが良いだろうか? 獣人連合が実装される前までの期間になるんだが】

 自分の申し出に、ツヴァイは【遠慮せずに言ってくれ、何があったんだ?】と返答を返してくる。

【うん、実はな。ツヴァイの知っての通り、昨日ダンジョンの地下29階でボスと戦っただろう? その時に戦闘における自分の動きが色々とダメな部分が浮かび上がってきてな。で、新しい戦闘スタイルを確立するために、ブルーカラーのメンバーとPvPを行いながら組み立てたいんだ。だから、メンバーを一人か二人、自分のところに貸してほしい】

 常に左手に弓を持ち、右手は状況によって惑を持つか矢を番えるか道具を持つか。その立ち回りを練るには一般的なモンスターと戦うよりも、厳しいPvPの方が身に付く可能性が高い。PvPでもある程度使えるようになれば、それなりのモノになるはずだからだ。

【ああ、そういう事ならいいぜ。所で、アースはどこで獣人連合実装を待つつもりなんだ?】

 このツヴァイの言葉には一番近いサーズの街の予定だと告げ、今サーズに向かう途中だという事も教える。

【なら話が早いな。俺を含めたこっちのメンバーもサーズに向かっている途中だ。アースがサーズに着いたら連絡をくれないか? こっちが着いたらこっちからも連絡を入れるからよ】

 確かに、そうやって連絡を取り合った方がより確実だな。目的地は一緒だからすれ違いはないけど。

【分かった、じゃあサーズの街に入ったらまた連絡を入れるよ】
【OK、んじゃまた後でな】

 ツヴァイとのウィスパーチャットを終わらせる。さて、さっさとサーズの街へ向かわないとな。
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かゆ うま うめ ほろ
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