トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
54 / 366
連載

部下と合流

しおりを挟む

 軽快に走る馬の上で、自分は流れる景色を楽しんでいた。さすがにスピードはピカーシャと比べてしまうと大幅に落ちるが、それでも十分に早いと言っていい速度だろう。馬自身がしっかりと南街に向けて走っているので、自分は馬の手綱を軽く持っているだけに留まっている。自分が変に指示を与えずとも、しっかりと道を走ってくれているから、変な指示を出せばかえって馬が混乱してしまって邪魔になるだけだ。

 バッファロー系のモンスターにも何度か遭遇したが、その時は馬が速力を普段より上げて一気に引き離して逃げ切った。弓矢でバッファローをけん制しようかとも考えたが、ピカーシャの時とは感じが違う(そもそも、ピカーシャの時は自分が矢を放ちやすいようにバランスコントロールなどを行ってくれていた)ので、無理をせず馬の走る事の邪魔をしないようにしておいた。

 また、南街に向かう道の途中には、いくつもの分かれ道があった。おそらくダンジョンとか、集落とかに向かうための道なのだろう。この辺は今はまだ考えなくていいか。とりあえず南街に起こっているという問題を何とかしてから、のんびりと歩き回るようにすればいい。

 馬は速度を緩めてスタミナの回復を図るときはあったものの、止まることは一切なく南街の入り口まで自分を運んでくれた。入り口前まで到着すると、オオカミのお兄さんがこっちにやってくる。

「ようこそ、獣人連合の南街へ! その馬はレンタルですね? 私が預かります」

 馬も足を止めたので、自分はゆっくりと馬から降りる。降りた後に、馬の背中をなでてありがとうと感謝を伝えておいた。

「それでは、お願いします」

 馬をオオカミのお兄さんにお返しして、南街に入る。──ふむ、街の中に入った第一印象はすごい穏やか。表現として正しいのかどうかは分からないが、全体的にのんびりしているというかまったりしているというか……街を歩けば、牛の獣人さん、キツネの獣人さん、犬の獣人さん、ウサギの獣人さんがのんびりと話をしているところをよく見かける。ちょっと聞き耳を立ててみたたが、今夜の晩御飯の献立とかの世間話ばかりで、剣呑な雰囲気は無い。

(だが、部下の義賊はこの街に問題があると言ってきたんだよな)

 ふにゅふにゃほわーん……擬音で無理やり表現するとこんな感じの空気がここにはあるが、その空気を隠れ蓑に何かよからぬことを考える奴がいてもおかしくはないか。とりあえず宿屋を見つけて部屋を取り、部下から話を聞かないとな。あの時から時間もたっているし、新しい情報を手に入れているだろう。

(時間的にも、今日はログアウトしてもいい頃合いだしな。宿屋はどこかなっと……ってか、周りの人に聞けばいいか)

 案内板みたいなものがない、もしくは自分が見落としていたのか……とにかく宿屋がちょっと見つからなかったので、世間話に興じていた獣人の皆さんに宿屋までの道を教えてもらった。あと、全く関係ない事なのだが……この街の女性は胸が非常におっきい人ばっかりです。女性が来たら発狂するんじゃないだろうか? あとは、それが影響して肩こりがひどそうだな、ここの街に住んでいる女性は。って、こういう事を少し考えるだけでもセクハラになるかな? とはいえ、胸の大きい人は、水入りペットボトルを常時肩から下げているようなものでかなりつらいという話を聞いたこともあるしなぁ。

 なんてこと考えながら教えてもらった道を進んで見つけた宿屋は、牛の獣人さんが店番をしていた。こちらの方もまたおっきい。目のやり場になんとも困るな……。

「いらっしゃいませ、牧草のまどろみへようこそ。お食事ですか? お泊りですか?」

 どうやら一階が妖精国と同じで食事ができる様になっているようだ。試しに後で食べに来てみようか……何が出て来るのかちょっと楽しみ。

「一人なんですが、しばらく泊まれるように部屋を一つお願いします」

 自分の言葉に、店番さんは台帳を取り出して記帳を要請してきた。こちらが書き込むと、部屋の鍵を渡される。

「お客様の部屋は、201号室になります。また、お泊りの方は食事を無料とさせて頂いておりますのでお気軽にご注文ください。それでは、ごゆっくりしていってください」

 食事は無料か。とりあえず10日分の宿泊代金として8000グローを支払い、201号室に入るために階段を上る。獣人の人が使うためか、全体的に宿屋の中はがっしりとした作りで頼もしい雰囲気があるな。人間なら10人ぐらいが一か所に集まってもびくともしなさそうだ。201号室に到着し、これまた大きな扉を開けて部屋の中に入る。

「個室だってのに、ずいぶんと大きいな……他の宿屋の2人用部屋みたいだ」

 ベッドもテーブルもデカくてがっしりとしたものが使われている。リアルの自分が住んでいるアパートが小さく思えて来るよ……そんな変な部分で少しダメージを受けつつも、馬に乗り続けた疲労もあるので武装を解除して背伸びをする。

(さて、あとはあいつらからの連絡待ちだな。大抵なんかあった時にはすぐに自分の泊まっていた宿屋を見つけ出しているし……こっちは待つだけで良いはずだ。それにしてもこんなのんびりとした街で、悪党は何を企んでいるんだ……?)

 軽く体を精神的にほぐしながら待つこと数分、やっぱりと言うか予想通りと言うか、天井裏からトントンと何かが叩くような音が聞こえてきた。

「いいぞ、入れ」

 自分の精神を〈義賊頭〉に切り替えて天井裏にいると思われる部下に告げる。さて、今回はどんな話なのやら。前回の妖精国の時のように何とかできればいいのだが。スッ、と着地する音を立てずに部下のリーダーを初めとして、自分の〈義賊頭〉としての部下が勢ぞろいして降りてきた。

 どうやってこんな大勢が潜めていたんだ? と一瞬だけ考えた。考える時間が一瞬だったのは、部下たちの大半が包帯を巻き、負傷している姿を見てしまったからだ。無傷なのはリーダーを初めとした4人だけの様だな。

「いったい何があった? 諜報、潜入の手練れであるお前たちがそこまでの手傷を負うとは……話せ」

 すると部下たちは一斉に頭を下げた後に、リーダーだけが前に進み出てきた。

「申し訳ありやせん、お頭の前に無様な姿を晒しているあっしらをどうかお許し下せえ。今回のヤマは……それだけやべえんです。お頭にはいい話と悪い話の両方がありやす。どちらから聞きやすか?」

 結局どちらも聞かなきゃいけないのだから、悪い方から聞こうかな。

「悪い方から話せ。できるだけ詳しくだ」

 自分の言葉を受けて、義賊のリーダーは口を開いた。

「では、報告いたしやす。今回の相手は……この国の代表である議員でありやす」

 !? それはどういうことだ?

「この南の街の議員一人であるラウガという年を取ったキツネの獣人がおりやす。話の発端は今からさかのぼること30年ほど前までさかのぼるんですがね、30年前にこの南街を襲った『血華病』と言う獣人のみに伝染する死亡率が高い病気が猛威を振るいやした。ラウガの妻や二人の娘も血華病にかかったらしいんですがね……結果から言っちまいますと、ラウガの妻と二人の娘は助からなかったようでしてね」

 伝染病か。リアルでも猛威を振るって大勢の人が死んだ話は歴史にも出て来るな。

「もちろん死んだのはラウガの妻や娘たちだけではありやせん、当時の獣人が大勢命を落としやした。それはラウガもわかっちゃいるんでしょうがね、ここで問題がありやして、当時そんな混乱に乗じて詐欺行為を働いていた連中がかなりいたらしいんで。お頭も詐欺と聞いて予想できやしたとは思いやすが、効きもしないでたらめな物を『血華病』の特効薬として売っていた連中がいたらしいんでやす」

 なるほど、そういう連中が病気にかかって助かりたい一心でいる人達に付け込んで金をむしり取った、か。だが、それではラウガ? とやらが今現在脅威になる理由とはつながらないような気がするぞ。

「さらにたちが悪いことに、この『血華病』の治療薬、予防薬が当時非常に高額かつ少数ながら存在していたことが詐欺師たちの言葉に重みを与えちまったらしく、大勢の人が購入したと記録にありやす。当然ラウガも妻や娘のために買ったんでやしょう。が、当然偽物が効くはずもなく……この真相を知ったラウガは詐欺師たちに復讐を誓った……のがすべての始まりとなりやす」

 今回は、非常に面倒話になりそうだ……とにかく、今は話を聞くしかないようだな。
************************************************
という事で、今回の相手はかなり大物です。部下の大半もけがのためしばらく満足には働けない状況となっています。
しおりを挟む