トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
100 / 391
連載

影の職業

しおりを挟む
作業用BGM LIVE A LIVE ARMAGEDDON

──え? 暗すぎる? 気のせい気のせい。
********************************************

「それは本当か? むろんお前の報告を疑っている訳ではないが、我々は義を名乗ってはいるとは言え賊の一部であることに違いはない。そんな我々に国の直属部隊であるだろう集団が協力してくれる、と?」

 今回の話はかなり大きくなってきてしまっているからこそ、ここで援軍を得られるというのであれば心強いが。自分の確認に、リーダーは頷いてから返答を始める。

「へい、間違いなく約定は取り付けてありやす。向こうにとってもこの一件は何としてでもそしせにゃならん事でさ。これが証拠となりやす……どうか直接検めて下せえ」

 そうしてリーダーが自分に向けてさし出してきたものは一通の手紙。自分がその手紙の内容を確認すると、こう書かれていた。

〔今回の騒動、我々よりもより詳しく証拠をそろえた上での情報提供を行ってくれた義賊の一団にまずは感謝を。ぎりぎりの情勢ではあるが、南街全体に血華病が広がり住人が死滅するような事態はまだ回避できる可能性がある。我ら北街隠蔽兵も、はっきりとした証拠が掴めた為に行動を開始することができた。一度こちらと合流し、こちらが得た援軍とともに話し合いを行いたい。よろしく頼む。 ──北町隠蔽兵代表 カリーネ〕

(──この手紙の名前の下にある拇印はインクとかではないな、もしかすると血判か。どのみち部下に多数の負傷者がいる以上、こちらだけではどうしようもない。会いに行くしかないだろうな……それに、北街から来る? 隠蔽兵とやらも、個別に援軍を連れてきているようだし……)

 手紙を元通りにしてからアイテムボックスの中にしまい、本日の最終確認を取る。

「この手紙の主に会いに行くことにしよう。行くのは自分とリーダーだけで良いだろう。他の物は養生し、傷の程度が軽い者は実戦までに回復を間に合わせろ。深手を負っている物は養生に専念しろ、同行は認めない」

 ログアウトする前に話し合いの時間を確認すると、大体翌日の午後9時20分ごろであると判明。明日は幸い残業は無いから問題はないな……明日また来るようにとリーダーに申し付けて、この日はログアウトした。


 そして翌日の夜。再びワンモアにログインすると、ワンモアの世界も夜中だった。自分がベッドから抜け出して装備を整えていると、義賊リーダーが自分の前に天井裏から降りてきた。

「親分、準備はよろしいですかい? 今から向かえばちょうどいい頃合いでさ。召し物は用意させていただきやした」

 今回は鼠色の外套か。早速普段使っている外套を外してリーダーが持ってきた外套を装備する。

(では向かいやす)

 自分とリーダーは気配を出来る限り消して、夜の街を駆ける。もっとも、お店が多いエリア以外は静かなものだったが……しばらくして、リーダーが無言である一軒家を指さす。どうやらそこが話し合いの場となるらしい。《危険察知》などで自分達の周りに妙な人がいないことを確認してからその家の中に音を立てずに入り込む。

 建物の中には、狐の女性獣人や覆面をした忍者っぽい男性と、頭と目を隠すマスクを装着している男性などがいた。キツネの獣人はワンモア世界の住人で間違いないが、忍者やマスクをつけている人は……プレイヤーか? ワンモアの世界の人ではないっぽい雰囲気を感じる。

「おお、義賊の頭もやってきたか。結局全員が予定時刻より早く集まるとはすばらしい。義賊の頭よ、私が手紙を出させてもらったカリーネだ。ここにやってきてくれたことに感謝をしよう」

 北街隠蔽兵とやらの代表者はこの狐の女性か。──美人ではあるが、深くお付き合いしたいとは思えないタイプだな。まるで触れただけで猛毒に侵され、死に至るような美しい花のような感じがする。とりあえず自分は、狐の女性であるカリーネに軽く会釈をする。その直後、マスクをしている男が自分に近寄って耳打ちをしてきた。

(カリーネに惚れない方が良いぜ、あいつはとんでもない毒を持っているからよ)

 その耳打ちに自分はつい頷きそうになるが、ぐっとこらえた。カリーネから殺気が突き付けられたからだ。厳密には自分では無く耳打ちをしたマスクの男性に向けてだったが……

「ほほう、怪盗よ。あとでその件については後でじっくりと話し合おうではないか。──だが今は、目の前の事に集中させてもらうぞ。やってきた義賊の頭にも理解しやすいようにもう一度繰り返す。この南街にて、議員でありながら大量殺戮を行う疑いが事実と判断された男をできるだけ早くに捕縛、最悪は始末して毒がばら撒かれることを阻止するのが今回の目的だ。怪盗の情報、忍者の指令でもある程度の情報は得られていたが、確実な情報を得て我々にもたらしてくれたのは、この義賊の一団による手柄だ」

 ずっと後で知ったことだが、〈義賊〉も色々なスキルに派生する方法があるらしい。自分のようにワンモアの世界と関わりが深いと〈義賊頭〉に。隠蔽能力を高く鍛えた上で盗みの成功率が高く、その力を使って人々に悪事を働いていなければ〈怪盗〉に。体術(つまり素手や蹴り)や剣術、投擲技術が高いと忍者にそれぞれ派生する選択が出る……と知ることになる。

「なるほど、そのちんまい体を侮ってはならぬ、という事でござるな」

 覆面に忍び装束と、いかにも『忍者ロールプレイ』をやっていますと一目でわかる男性がそう口を開く。もちろん口元は覆面なので表情は分からないが。

「ちっ、もっと情報屋にしっかりしろと蹴りを入れとかなきゃいけねえな」

 こっちはマスクをかぶった男性。こちらが怪盗か。そして忍者や怪盗は自分の名前を名乗らない。となれば、お互いの詮索をしないようにしようという暗黙の了解があるとみていいな。忍者にしろ怪盗にしろ、普段は全く違う姿でいるんだろうし。木を隠すには森のなかの言葉通り、人に紛れるには普段着が一番いい。忍者ルックや怪盗マスクなんて人前でつけていたら目立つ。

「さて、情報を知った上でどのような行動を起こすかだが……言うまでもなく最終目的は対象者の一刻も早い捕縛、毒薬を回収して安全に廃棄の2点だ。我々北街隠蔽兵は精鋭50人を今回の作戦に投入する。隠蔽に係わる事だけでなく、戦闘能力も高い者を抜擢した。だが、それでも不安要素が多い点は否めない。そこで、怪盗、忍者、義賊の頭、汝ら3名に協力をここで正式に要請したい」

 この言葉に最初に頷いたのは自分だ。もとよりラウガの行為を止めるつもりでここに来たのだから断る理由がない。

「感謝する、義賊の頭よ。他の2人はどうだ?」

 ややあって、忍者に怪盗も肯定の意思を示すように頷いた。

「拙者の上に確認を取ったところ、この一件には解決するまで協力すべしとのことでござる。また、さらに援軍として数人こちらに寄こしてくれるそうでござる」

「さすがに今回の話は放っておけねえよな。怪盗としての仕事をさせてもらうぜ」

 忍者や怪盗の返答を聞いたカリーネは、ホッとした表情を一瞬ではあったが浮かべる。

「協力に感謝する。作戦は大まかに分けて陽動班、捕縛班、回収班に分かれる予定だ。作戦実行日に強襲をかけて注意をひく陽動班。対象の男……ラウガを捕える、もしくは抹消する捕縛班。今回の猛毒を回収し、ばら撒かれる悪夢を回避する回収班と言う感じだな。私の計画では、協力してもらえた場合は義賊を陽動に、忍者を捕縛に、怪盗に回収に加わって貰おうと考えていたが……どうだろうか? 不満があれば言ってもらいたい」

 カリーネの話を聞いてしばし考えたが……義賊のメンバーは極端な戦闘能力は持っていない。盗みの能力はそれなりだが、それは怪盗よりもランクが落ちるだろう。そうなると消去法で陽動班しか居場所がないか……リーダーにも目で確認を取るが、考えていたことは大差ないようだ。リーダーは頷いて口を開く。

「お頭は、陽動班で良いと言っとりやす」

 その後忍者や怪盗側からもこれと言った反対意見は出ず、詳しい計画の話し合いがログアウトする時間まで続いた。決行はリアル時間の10時半ごろと決定した……ラウガの凶行を止めるために失敗はできないな。
************************************************
今回の事件には、さらにほかのプレイヤーも参戦してきました。それぞれの立場もあるようですが……

忍者側のスキル正式名称〈忍びの一団〉……忍者の一団に属する者となる。上からの任務などが言い渡されることもあり、その任務をこなすことで序列順位が上がり、部下を得ることも可能になる。

怪盗側のスキル正式名称〈怪盗一家〉……盗みは働くが、あくまで悪党やモンスターなどに限定している『盗む』と言う行為におけるスペシャリスト集団。子飼いの情報屋からお宝の情報を得ることも可能。また、盗めるのは物に限らず、生命力や魔力を盗むことすら可能。
しおりを挟む