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連載

化物、登場

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(親分、これからどうしやすか? さすがにこんな展開は予想外でさ……どういたしやしょう?)

 あんまりにも突然かつ極端な状況変化に、困惑の声を小声で自分に伝えてくる手下のリーダー。状況が呑み込み切れていないのは自分も同じだが、手下の手前情けない対応や姿を晒す訳にもいかない。

(怪盗チームが毒薬を奪う事に成功してくれれば最悪の事態だけは防げるだろうが……ラウガ自体は老い先短い体で、そんな大幅な変化を起こす薬を服用した時点で時間がたてば自滅することはほぼ間違いない。それはおそらく本人も解っている、分かった上で行動に移ったはずだ。ならば行うべき行動は二つ。ラウガが自壊するまでこの周辺で足止めすることと、怪盗チームがおそらく奪ってくれたはずの毒薬を割られない事だ)

 小声でリーダーに方針を告げる。影に生きる集団の親分を務める以上、こういう時こそ冷静にならねばならない。そういう仮面を被るとも言うだろうが……〈義賊頭〉と言う名前にふさわしいと思われる言動や行動を取らなくては部下を不安にしてしまう。

(そうなりやすと、やはり護衛者連中を説得するしかなさそうですかい? 協力は得られなくても妨害されないようにしないと不味いですぜ?)

 そうだな、護衛者と戦いを継続しつつ変貌を遂げてしまったラウガとの戦いをするのはあまりにもきつい。くノ一の証言だけでは弱いかもしれないが、護衛者達にもかなりの動揺が走っている事から戦闘を中止できるかもしれない。

 自分の代わりに手下のリーダーがカリーネさんを探すために離れ、しばらくして見つけたらしく小声で話している様子を見せる。さて、カリーネさんはどういう判断を下すか……やがてカリーネさんが、剣を鞘に収めたままで混乱している護衛者に話しかけた。

「こちらから仕掛けておいてなんだが……しばし停戦しないか? 状況が明らかにおかしい事はそちらも解っているだろう?」

 カリーネさんの言葉に、護衛者達からは当然「賊のくせに!」とか「仕掛けてきたのはそちら側だ、虫の良いことを言うな!」と言った言葉が次々と飛んでくる。だが、その声を一人の護衛者が抑えた。おそらくは向こうの隊長格なのだろう。

「確かにそちらが言う通り状況が分からぬ。それに、そちらがここに攻め入った理由がラウガ様の変貌と密接に関係しているとすれば……確かめねばならんか。おい! 邸宅の中を数人で組を作って確かめて来い!」

 護衛者達は隊長の言いつけならば仕方ないとばかりに渋々ながらも組が作られ、ゆっくりと邸宅の中に入っていく。襲撃した陽動チームのメンバーは、全員が邸宅の外に出て戦意がない事を示す。そして数分後、邸宅の中に入っていった護衛者達が慌てた様子で戻ってきた。

「邸宅の中はもうめちゃくちゃです。部屋の仕切りなどが破壊されており、ひどいものです。ラウガ様がよくお使いになられていた寝室周辺は特に破壊されていました。そして、邸宅が破壊されている場所を調べた結果、我々に知らされている邸宅の見取り図には存在しない通路がありまして……」

 と、ここまで邸宅に入った護衛者からの報告が進んだところで再びドガアァン! と言う音が響き渡った。

「何事だ!?」

 護衛者の隊長格がそう叫ぶ。と、その時に潜入していた怪盗チームが邸宅の中から飛び出してきた。

「なんなんだよあの筋肉の塊のような気持ち悪い化けモンは! あんなのがここにいるなんて聞いてねえぞ!!」

 怪盗がそんな悪態をつきながらもひらりと空に飛びあがり、邸宅を囲っている塀を乗り越える。その直後、邸宅の壁をドガァァン!! と派手な音とともにぶち壊しながら現れたのは……野生の狐が巨大化した上で二足歩行をし、体中じゅうに筋肉を無理やりくっつけたような……どう見ても生物学的にありえない異様な物体だった。人によっては、見ただけで気味の悪さから目を背けたくなるかもしれない。

「我が薬を盗み出したコソ泥め、どこへ行きおった! 我が正当なる復讐を遂げる為に必要な大事な薬を……!!」

 どうやらこの筋肉の塊の物体というか、不気味なモンスターと言うか……これがラウガ本人らしい。怪盗チームは幸いにもこのラウガから何とか逃げ切り、毒薬を邸宅の中から持ち出すことに成功したんだな。

 ちなみに怪盗チームはもうこの場にいない。戦闘能力は今回集まったメンバーの中で一番低いので、毒薬を確保した時点で撤退することが最初から決まっていた。それに毒薬を持ったまま戦闘に参加して、何かの拍子で毒薬が割れる可能性をなくすためでもある。

「な、何だあの化物は……」

 そんな声が、陽動チーム、護衛者の両方から漏れる。少なくともこの時点では、ラウガと思われる筋肉が異様についた化物を人と見る人物はいなかったようだ。そんな声を聴いたラウガらしい化物は、こちらを狐特有の細い目でギョロリと睨みつけてくる。それだけに何とも言い難い圧迫感を感じる。

「なんじゃ貴様ら、護衛すべき対象に化物などとぬかすか。もっとも、この場にまんまと引き付けられてワシの事も薬も守れん役立たずになど用は無いわ。さっさと失せるが良い。──どうせ、お前ら全員ワシの薬から広がる『血華病』にて死ぬのじゃからな。我妻や娘が死んだのに、のうのうと生き残ってしまったワシ自身を含めて、綺麗に清算してくれるわ」

 わあ、もうめちゃくちゃすぎる。死にたいなら自分一人で静かに消えてくれればいいのに、何でここまで他を巻き込むかな。しかもその方法は、報告にあった特定の人物に向けての復讐と言う形ではなく、すべてを恨んですべてを消す思考になってしまっている。そんな話を聞いた護衛者達には当然ながら動揺が広がる。

「薬から広がる『血華病』……だと!? あの病気は獣人の歴史における最悪の伝染病だ! それを意図的に広げるというのか!?」

 護衛者の隊長格がそう叫ぶ。自分はあくまで報告を聞いただけだから詳しくは分からないが、それでもとんでもない病気であるという事は理解している。リアルでいうならペストの様な物なのだろうし。だからこそ、当然ながらそんな病気を故意に広げるとなれば黙ってはいられないのは当然だ。自分の命だけでは無く、この街にいる大勢の命が失われるのだから。

「フン、過去に『血華病』が蔓延した時、苦しんでいる我が家族を食い物にする詐欺師なんぞが大手を振ってでかい店を開いているような街には、存在する価値なぞ無いわい。ならば全てを消し去って、後から来た他の者に栄えてもらう方がまだましじゃろう」

 ラウガらしき化物はそんな事を言い出した。もう完全に色々と大事なものを見失ってしまっているようだ。

「さて、貴様ら。こっちにやってきたはずのコソ泥はどっちに行ったか見ていたはずだ。さっさと教えろ、いい加減追わねば気配が消えてしまう。役立たずな貴様らでも、それぐらいは「ふざけるな!!」」

 ラウガらしき化物の言葉が終わる前に、護衛者の隊長が吠える。

「貴様は良き政策を打ち出して民を導いてきたラウガ様ではない! 大勢の人を殺すだけの悪党だ! そんな悪党を放置するわけにはいかん! 全員武器を構えろ、このラウガ様を騙る化物をここで討つぞ!」

 この護衛者の隊長が発した声に従い、一気に武器をラウガと思われる化物に向ける護衛者一団。

「我らもここであの化物を止める! この街を護る事こそが我らの目的、歯を食いしばれ!」

 カリーネさんの声も響き渡り、陽動チームメンバーもラウガらしき化物に武器を向ける。

「──おのれ、飼い犬に手を噛まれる上にコソ泥の相手までせねばならんか。口惜しいが、素早さでは貴様等よりもワシの方が下だろうから相手をせねばならぬか。貴様ら、生きて明日の日を浴びる事が出来るなどとは思うなよ?」

 ドシン、ドシンと足を踏みならしてから構えを取る怪物。気持ち悪く膨れ上がった化物の腕をちらっと見てみるが、石積みで作られていた頑丈な邸宅の壁をベニヤ板のようにぶち壊すことができる腕だ。あの腕から繰り出される攻撃を食らったら、タダでは済みそうにない。

 それでもラウガの凶行を阻止、そして毒薬を獣人の住む南街にばら撒かれて大量の死者を出す大惨事を食い止めるために……ラウガらしき化物を倒す為の戦いが、ここに始まった。
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この話の決着はあと少しですかね。終わればノンビリモードに入ります。
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