トップ>小説>とあるおっさんのVRMMO活動記
60 / 366
連載

不利と分かっていても、引けぬ戦い

しおりを挟む

 さて、先程まで自分達陽動チームは護衛者達と戦闘をしていた。護衛者側から見ても突如現れた不審者を迎撃するために、必死に戦闘をしていたという見方で間違いないだろう。

 そんな両者の間に、レイドボス……基本的にたくさんの人が綿密な準備をした上で、協力して立ち向かわなければ勝てない強大なボスの事を言う──が突如登場して襲い掛かってきたような状態から今回の戦闘が始まった。

 その結果は……あっという間にこちらの戦闘可能なメンバーは数を減らしていく。何せ直前までお互いがしのぎを削り合うぎりぎりな戦いをしていたのだ。当然消耗品……ポーションなどの回復薬は当然目減りしているし、動き回っていたことによる疲労もある。

 そんな状況下で無傷のボスが突如襲い掛かってきたのだから、耐える事だけでも一苦労だ。盾を持ち、重装備に身を包んでいる護衛者の中でもタンクタイプの人達ですら膝をつき、吹き飛ばされる光景が目の前で何度も繰り返される。

「ぐっ、何としてでもこらえろ! ここで我々が屈すれば、南の街に住む多くの人々が屍となってしまうぞ!!」

 護衛者の隊長が、盾を構えてラウガと思われる化物と真正面からやりあっている。と言っても隊長は全員の盾になることを最優先しており、剣も盾もほぼ防御に使う事に専念している。攻撃1、防御9の割合と言っていいだろう。そんな粘る隊長に、自分は後方からレアポーションを投げつけて回復したり、矢でラウガの行動を阻害して隊長が防御しやすくなるように支援をしている。

 化け物の攻撃方法は、左右の手で殴りつける。口から息を吐き出し、衝撃波として撃ちだす。一気に前方にダッシュして間合いを詰めて掴んで地面に叩き付けてくるパターンだ。攻撃手段は少ないが、一発一発が直撃したら戦闘不能がほぼ確定する上に、運が悪ければ即死する。現に護衛者、陽動チームの両方に死者が出ている。即死の可能性が一番高いのは、掴まれた後に地面に叩き付けられる攻撃だ。

 もし前衛にいる誰かが化物に掴みあげられてしまったら、自分や護衛者の弓使いが必死に化物の腕に矢を集中砲火させる事で妨害し、助け出している。それでも必ず妨害が成功するわけではなく、化物が痛みを堪えきって地面に叩き付けられてしまい、そのまま死亡するか立ち上がれなくなってしまう事も少なからず起こっている。

 そのために化物の周辺には、そうして動けなくなってしまった獣人の皆さんが倒れている。助けに行きたいのはやまやまなのだが、それは難しい状況だ。

「くそっ、忍者チームは戦いに戻れないのか!?」

 戦いの合間、カリーナさんが護衛者と一緒に吹き飛ばされてきたくノ一にそう問いかけたようだが、くノ一の口からは……

「無理……こちらも死亡者2名、重傷者3名。離脱者1名。なんとか動ける人は私だけ……」

 くノ一も完全に復帰できたわけではないようで、後方から手裏剣の様な物を投げつけたり、負傷して下がった人達の応急処置をしている。おそらく忍者のプレイヤーは離脱者扱いなんだろう。プレイヤーには完全な死亡と言う物がないからな。いったん戦場から遠く離れた場所に離脱したという扱いになっていると予想できる。

 そうなると怪盗プレイヤーはすでにこの場にいないので、プレイヤーとしてこの場に残っているのは自分だけか。忍者プレイヤーはデスペナルティを無視できないだろうから、この戦闘に復帰してくれる可能性は捨てるしかない。

「このままでは押し負けるぞ! だれか、何かしらの手を打てる者はいないのか!?」

 護衛者隊長が前衛でそう叫ぶ。だが、それはすでに誰もが感じている事だった。準備万端で迎え撃てたのならともかく、消耗した状態でこんな戦いになだれ込んだのだから余裕は誰にもない。そうなると意外性のある一発でこの状況を変えないと、このまま化物に押し込まれてこちら側が全滅し、敗北するという未来は火を見るよりも明らかである。

(だが、黄龍はまだ駄目だ。今の自分が取れる手段は、もう一つの方法しかないか……プリズムノヴァや落星は範囲で視界を塞ぐから影響がないと言っても混乱を誘うし、指輪の妖精女王はまだ出せる状態ではないからな……)

 獣人の皆さんを見捨てるという選択肢はもちろんない。だが、黄龍はまだ出せない。ならばもう一つの逆転できるかもしれない方法を取るしかないだろう。左手に持つ双咆をぎゅっと握りしめる。

(──今まで世話になった。お前の命を、この街に住む人々のために使わせてくれ……)

 自分の手下リーダーを呼び出し、カリーナさんや護衛者の隊長を始めとした全員に大技を使うと伝言を、そして発動まで何とか自分を護ってほしいと伝える。自分の言葉に質問などなに一つせずに、リーダーはカリーナさんの元に向かう。そしてリーダーが隊長の方にも伝言を伝えたと思われるタイミングで、自分は一本の矢を番えつつあの呪文の詠唱を始めた。

 ──さだめは今ここに巡る

 ──苦楽くらくを共にした我が分身の命を

 ──を捨て、己の命と共に捨て

 ──ふさがりつつある明日をこじ開ける為に

 ──明日あすを後の者達に残すために

 ──意思いしの全てをこの一矢に乗せて

 ──すべてはこの最後の一矢を放つために生きてきた

 〈サクリファイス・ボウ……〉この一手に賭ける。

 前衛の頑張りで、何の妨害も入らずに〈サクリファイス・ボウ〉の詠唱は完了した。以前と違って、サクリファイス・ボウを唱えたことにより光り輝く弓矢の色は、赤、青、緑、黒の四色が入り混じっていた。

(赤はドラゴンか? 青はサハギン族かもしれない。そうなると緑はエルフ、黒はダークエルフと出会って交流をした影響か?)

「な、なんだその弓矢は……」

 少し考え事していた時に、誰かの声が横から聞こえた様な気がした。だが、声の主は分からない。今の自分にとって大切なことは、この一矢を確実に化物の体に当てる事だけ。それだけに集中しないといけない。外したらやり直しが効かない&この技を使った後は自分も役立たず状態に転落するのだから。

 この双咆が放つ輝きに魅かれたのか、化物が隊長を無視してこちらに向かってくる。ドシンドシンと足音がしているのだろうが、今の自分には全く聞こえない。今の自分に見えている物はたった一つだけ。化物と化した狐の形をした頭部のみ。ゆらゆらと揺れてはいるものの、狙いは徐々に定まってくる。あと少し上、もう少しだけ右……ここだ。

「──頼む、相棒」

 そうつぶやいた事だけは覚えている。気がついたら、すでに自分は双咆の最後となる一矢を化物に向けて限りなく無意識のままに放っていた。飛んできた矢を手で防ごうとする化物だが……そんなものではこの一矢は防げない。あっさりと化物の手を貫き、矢は自分から見て化物の左側の目に命中した。独自の意思があるかのように矢はそこで貫通せずに止まり、四色の光を不気味なほどに大きく膨らませていく。

「全員地面に伏せろーー!! そして耳を塞げーー!」

 これはやばいと直感で理解した自分は、大声で叫んだ後に地面に伏せる。その後にバタバタバタッと音が聞こえたことから、この場にいる戦っていた人達は全員が自分の声に従ったのだろう。義賊頭として行動しているときは手下の前以外では声を出さないようにしていたのだが、今回ばかりは仕方がないだろう。そして数秒後、轟音が周辺に響き渡った。耳を塞いでいてもものすごい爆発音が聞こえてきたので、耳を塞いでいなかったらどうなっていた事やら。

 〈サクリファイス・ボウ〉を発動したことにより双咆はその武器としての生を終えて消滅し、自分は発動ペナルティとして大幅に弱体化した。この時点で自分もほぼリタイアである。体に力が入らないので、立ち上がる事すら難しい。

 そんな犠牲を払った事による見返りは……化物の頭部が半分吹き飛び、膝をつかせていた。息は荒く、立ち上がれないようだが、死んではいない。ドラゴンすら貫くサクリファイス・ボウの一撃で倒れないとは……だが、これはチャンスだ。

「立て! 今の一撃で化物は大いに弱っている! ここで押しきれ!!」

 どんな技かはわからなかったのだろうが、いま大切なのは南街を危機に追い込む化物が大いに弱ったという一点だろう。次々と立ち上がった護衛者と陽動チームは、ここで押し切る覚悟を決めたことを表すかのように猛攻を化物に仕掛け始めた。そんな姿を、立ち上がれなくなるほどに疲弊した自分は見ている事しかできなかった──
************************************************
長い間活躍した弓である双咆ですが、ここでお別れです。

スキル

風迅狩弓Lv32 ↑1UP 剛蹴(エルフ流・一人前)Lv38 百里眼Lv28 技量の指Lv34 小盾Lv28 隠蔽・改Lv1 武術身体能力強化Lv67 スネークソードLv49 義賊頭Lv26 妖精招来Lv12 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身Lv1.76

控えスキル

木工の経験者Lv1 上級薬剤Lv26  釣り LOST!  料理の経験者Lv16 鍛冶の経験者LV28 人魚泳法Lv9 

ExP 19

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

〈虚弱〉〈移動速度90%ダウン〉〈パッシブスキル無効化〉
しおりを挟む